お時間ありましたら、できれば見ていってください。
これは、私が……『4つの海』漫遊の旅こそ終えたものの、まだ気ままに海を回っていた頃。
『偉大なる航路』のとある島で起こった、ちょっとした出来事のお話。
「……ここもすっかり、ボロボロになっちゃったなあ……」
私は、とある島の、とある町を訪れていた。
いや、正確には……町があった場所、だけどね。もう今は、1人の人も住んでいなくて……ただの廃墟群になっちゃってるから。
前後左右、どこを見ても……人が住まなくなって朽ちていくばかりの家が並んでいる。
振り返って港の部分を見てみれば……そこに併設されている、ドックやら何やらの造船設備も。
こうしてその有様を前にすると……もう何年も経ってるってのに、やっぱり寂しいもんだ。
私にとっても、思い入れのある町だったからなあ。
……何せ、私が初めてオーダーメイドの船を作ってもらった町……だった場所だ。
数年前まで、ここには造船の町『エレナ』があった。
しかしある時、海賊の襲撃によって大打撃を受けた町は……その後、存続していくことが難しくなってしまった。
その結果、町は……そして、町の人達は……
―――ガチャリ
「動くな」
「!」
その時、私のすぐ後ろで……重苦しい音が聞こえた。
何の音かはすぐに分かった。銃の撃鉄を起こす音だ。
そんで、銃口は私の頭に突き付けられている。
何もせず、黙って手を挙げる私。
「こんなところに何の用だい、あんたみたいな海賊がよ……」
「……ちょっと、思い入れのある町だったもんでね。そういうあなたはどちらさん? 賞金稼ぎか何かかな?」
「いかにもそうだ。あんたの首にかかってる7600万、ありがたくいただくぜ。死にたくなきゃ抵抗しないこったな。そうすりゃ手荒な真似はしねえよ」
「……嘘つき、そんなつもりないくせに」
「……あ?」
「どうせあんたアレでしょ。私のこと縛り上げて抵抗できないようにして、思う存分欲望を満たそうってんでしょ! あーんなことやこーんなことしてじっくりねっぷり好きなようにして!」
「あ!? いや、おい、ちょっと待……」
「海軍に引き渡す前に好き放題楽しむつもりなんでしょう!? 嫌がる私を力ずくで押さえつけて服を切り裂いてはぎとって肌をあらわにして、その欲望を隠そうともせずにそのピ―――を私に……」
「いや待て、落ち着け、一旦口を止めろ。ヤメロそのろくでもねえ言葉の羅列を。女がそんなこと言うもんじゃ……」
「男なんてみんなそう! 海賊だろうが奴隷だろうが知り合いだろうが肉親だろうが、それこそ妹だろうがみんなみんなピ―――としか見てないのよ! どうせピ―――をピ―――できればそれで何でもいいなんて思ってるに決まってるわ! 私だけじゃなく何人もその毒牙にきっと……」
「だから待てって言ってんだろホントに! つか何でそんなスムーズにあれこれ口からスムーズに出てくんだよ!? 作家のスキルそんなろくでもねえことに使ってんなって……あと最後の妹云々はマジでシャレになってないからやめてくれ!? あいつが見て……」
「挙句ピ―――してピ―――とかピ―――ピ―――でピ―――ピ―――ピ―――なんかしちゃったりして! ピ―――ピ―――ピ―――でピ―――ピ―――ピ―――でピ―――ピ―――!! ピ―――になった私はピ―――を抱えてなすすべもなくそのまま泣きながらピ―――……」
「待て! ホントに待ってくれマジでやめろ! わかった、俺が悪かったから、謝るから、ほんの冗談だったんだよスゥさん! 俺だよ、わかるか!? わかるだろ!? ほら―――」
「―――シュライヤだよ!」
「うん、知ってる」
「いやそれはそれでふざけんなァ!」
悪ふざけで私の後ろを取って銃を突きつけてきていたシュライヤ君を、それを上回る悪意満載のお返しでタジタジにしつつ。
あははは、と笑いながら振り返ると……ちょうど懐に銃を仕舞うところだった、1人の青年が。
あの頃の面影がきちんとある、くすんだ薄桃色の髪のくせっ毛が特徴的な彼……シュライヤ君が、疲れたような、ばつの悪そうな顔で苦笑していた。
そしてもう1人、そのすぐ後ろから……まだ小さな女の子がひょこっと顔を出した。
もっとも、髪を束ねて上げて、作業員がかぶるような武骨な帽子を目深にかぶってるから、ぱっと見じゃあ女の子だってわからないかもしれないけどね。
それでも、はみ出て見えるくすんだ桃色の髪の毛が……シュライヤ君との血縁を感じさせる。
「そんじゃあらためて……久しぶりだね、シュライヤ君、アデルちゃん」
「へへへ、久しぶり、スゥ姉ちゃん! 兄貴が悪ふざけしてごめんなー?」
こちらはいかにも子供らしい、明るく元気な笑み。
うんうん、順調に、元気に育ってるようで何よりだよ。口調は相変わらずだけど。
「……あと、さっき言ってたピ―――とかピ―――とかピ―――って何?」
「待て、忘れろアデル、それは知らなくていいことだ。お前それ他の奴の前で絶対言うなよ? ほら見ろよスゥさん!? あんたがろくでもねえ悪ふざけするから変な言葉覚えちまったじゃねえか! ただでさえ言葉遣いがこんな感じで苦労してるってのに……」
「(むかっ)何だよ、言葉遣いは関係ないだろバカ兄貴! 好きでこういう風に話してんだから! そんなこと言うと、兄貴はピ―――でピ―――ピ―――でピ―――ピ―――だって『グラン・テゾーロ』で言いふらしてやるぞ!(意味は分かってない)」
「やめろバカ! ガチで俺あの船に居場所なくなるわ!!」
☆☆☆
さて、最初から説明しなおそっか。
数年前の話になるんだけど、造船の町『エレナ』は、海賊に襲われた。
あ、ガスパーデじゃないよ? あの時の襲撃未遂は私が未然にぶっ潰したし、その後すぐにアイツはパパの傘下に入ったからね。
事件が起こったのは、そのさらに数年後。それとは別な海賊団によってだ。
ガスパーデほど強力じゃないにしても、そこそこの強さの賞金首に率いられた一味に、エレナの町は襲われた。
幸いにも、その時もちょうど私が近くにいたから、急行して助けることはできたけど……町そのものが結構なダメージを受けてしまった。
シュライヤ君をはじめとした、自警団その他の面々が食い止めていたから、人的被害は最小限にとどめることはできたけど、それでもゼロじゃなかったし……何より痛かったのは、造船所の設備がやられてしまったこと。
今更ではあるけど、この世界では、町1つか海賊の被害にあって傾いたりしたからって、国やら海軍、まして世界政府がいちいち助けてくれる、立て直しに力を貸してくれるなんてことはない。
それが、政府にとってよっぽど重要な都市だったとか、そういう事情でもあれば別かもだけど……残念ながら、エレナの町についてはそういうことはなかった。
そのまま見捨てられ、立て直すこともできずに滅びるか……どうにか持ち直したとしても、かつての賑わいを取り戻すことはできそうにない、そんな、割と絶望的な状態だった。
町の皆も、人こそ無事ではあるけど、『造船の町』としてはもうおしまいだ、と嘆いていた。
そこで私は、エレナの皆に提案をしてみたのである。
知り合いが受け入れ先を用意できそうだから、いっそ町ごとそっちに引っ越さないか、って。
ちょうどこれと同時期になるんだけど……テゾーロとステラが、巨艦『グラン・テゾーロ』を完成させたばかりだったんだよね。
黄金に彩られたその艦は、全長は実におよそ10㎞。へたな町よりも大きくて広い。
カジノにホテル、コンサートホールにレーシングコース、その他さまざまな娯楽施設が揃った、『新世界』にその名をとどろかせる、エンターテイメントの殿堂。
稼働し始めたばかりのその艦だけど、早くも大盛況だったそれの事業規模をさらに拡大させるために、テゾーロ達はまだまだ有為な人材を欲し、集めている状況だった。
それがちょうどいいというか、言っちゃなんだが渡りに船じゃないか、と思ったんだよね。
早い話が、もう町としては立て直しができないであろう『エレナ』の全てを、住人もろとも全部『グラン・テゾーロ』に移しちゃえばどうかな、と思ったのだ。
ここの職人さん達の腕がいいのは私もよく知ってる。造船会社としての事業規模こそ『ガレーラカンパニー』には劣れど、技術力自体は決して負けてないし、『
『グラン・テゾーロ』の整備やら何やらのためには、大人数の船大工チームの常駐が必要だと、テゾーロとステラも言ってた。なら、ちょうどいいんじゃないかと。
エレナの皆は、住む場所が手に入って生活も保障される。しかも、引っ越す先は世界政府公認の『非武装地帯』だし、新世界レベルの海賊達が相手でも撃退できるくらいの防衛力があるから、普通の町とかに暮らすよりも安全面では、間違いなく充実してると言える。
一方テゾーロ達は、腕のいい船大工達が来てくれて、そのまま船に乗って一年中整備やら何やらを任せられる。乗せるからには何らかの仕事についてもらうわけだけど、それにもってこいのスキルを皆が持っている。
もちろん、全員が全員そうしなきゃいけないってことはない。そういうのを望まない人に対しては、無理にとは言えないだろう。仮にも、海賊(として扱われている人)の船に乗れ、って言ってるわけだからね。抵抗ある人もいるだろう。
……もっとも、そういう人たちに対しては……その後の面倒を見るにも限界はあるから、せいぜい暮らせそうな町を紹介するくらいしかできない。あとは自分で何とかしてもらうしかないな。
当時、私のそんな提案を、町長さん達はじっくりと話し合って……結論を出した。
結果、町のほとんどの人達が、『グラン・テゾーロ』への移住を決めた。
だいたい、三分の二くらいかな。
残る人達は、まあ色々な理由で―――『あくまで陸で船大工をやりたい』とか『安全だとしても海賊の船に乗るのは……』とか『もう老後だし派手な船に乗らなくてもゆっくり過ごしたい』とか――『グラン・テゾーロ』には乗らずに、私が紹介させてもらった別な街で暮らすことにした。
そこでの生活は自力で立て直してもらうことになるけど……エレナには私も随分お世話になったから、町の人達に『この人達のことよろしくね』ってこと付けしつつ、こっそり援助しておくくらいのことはさせてもらった。このくらいはいいでしょ。
そして残る人たちは、移住者兼造船技師として『グラン・テゾーロ』に乗った。
就職先はもちろん、船の管理・整備部門である。自分達が暮らす家そのものだからね。
空調管理用のボイラーや、海水をくみ上げて飲み水や生活用水を作るためのポンプなど、元々あったノウハウを活かして活躍してくれている。
テゾーロ達も、『優秀な人材が一気に来てくれて助かった』って大喜びしてたよ。ちゃんとホワイトな労働環境で勤めてもらってるってさ。
そんで、シュライヤ君とアデルちゃんもその時に一緒に移住した組だ。
シュライヤ君は、昔にあったあの一件――まだ私が賞金稼ぎだった頃で、アデルちゃんが生まれる少し前の時にあった襲撃事件――をきっかけに、町に何かあっても守れるようにって、修行を初めて、今に至るまで鍛え続けていた。
その結果、『グラン・テゾーロ』への移籍時点で、数千万レベルの賞金首が相手でも、楽勝ではないとはいえ、戦って勝てるくらいの実力はすでに身に着けていた。
悪魔の実も食べてないし、覇気すらまだ使えないのに、普通にすごいと思った。
例の海賊の襲撃の時も、私に次いで戦果上げてたしね。
『グラン・テゾーロ』に移籍後は、警備部門に就職。つまりはタナカさんの部下である。
教育の一環として本格的な戦闘訓練を積み……覇気も身に着けた。
こないだ、カジノで暴れたどっかのバカな海賊……それでも億越えの奴を、手下ともども一方的に叩きのめして見せたって話だ。強くなったんだなー。
なお、何で技師としてじゃなくて警備部門なのかというと……そっちの仕事もできないわけじゃないんだけど、あんまり得意じゃないから、らしい。
基礎的な知識やスキルはあるんだけど、専門的な仕事もそつなくこなせるかっていうと……元々あんまり向いてなかったのかも、ってばつが悪そうに言ってた。
だとしても、他の部分できちんと役に立ってくれてるし、その力で町の人達を守って見せたんだから、何も悪く思うことなんてないと思うがね。
そしてもう1人……アデルちゃんの方は、こっちはシュライヤ君とは対照的に、技師としての仕事にめっちゃ適性があり、彼女自身もそういう仕事が大好きだったとのこと。
そのため、小さな頃から造船所に入り浸っていて、かなり早くから見習いとして大人の人達と一緒に働いて、助手みたいなことをやっていた。
いまでは、大人に混じって現場で立派に技師をやるほどのスキルを身に着けてるが……男の職場でずっと働いていたせいか、気が付けば口調が男そのものになってしまってて、シュライヤ君が頭を抱えていた。
別にいいと思うけどなあ、私は。こういうのも個性だよ。
とまあ、そんな感じで2人とも、『グラン・テゾーロ』で普段は仲良く楽しく暮らしているはずなんだが……たまに外出する時もある。
アデルちゃんが、新しい船の素材とかが欲しくて、それを自分の目で見極めたくて外出して……その護衛としてシュライヤ君も休暇取って一緒にいく、みたいな感じで。
ただし今回に関しては、私と同じで……この旧エレナの跡地に立ち寄って、墓参りとかをするために2人とも来たらしいが。
どうりでアデルちゃん、花束なんか持ってきてるわけだ。
「そんな時に変な悪ふざけなんかするんじゃないよ、全く……」
「その言葉そっくりそのまま返すわ。ったく教育に悪ィ……」
「悪ぅござんしたね。ま、子供向けの小説とかも色々書いてるから、なんならそっち読んでよ」
「スゥ姉ちゃんの本ならいっぱい持ってるから大丈夫だ! 新しく出た分は、テゾーロの兄ちゃん達が全部艦の書店に入荷してくれるから、いつも買ってる!」
「そっか、ありがと」
嬉しいことを言ってくれる愛読者のお嬢ちゃんの頭をなでてあげつつ、私もシュライヤ君も、町の共同墓地に、持ってきた花束を供える。
ここも年々荒れていくなあ……まあ、管理なんかする人もいないから仕方ないけど。
そんなことを思いつつ、『パサパサの実』の能力で紙吹雪を飛ばし、その辺に生えてる雑草を刈り取って隅に寄せておく。シュライヤ君は除草剤を撒いて、これ以上は生えないようにしてた。
アデルちゃんはたわしで墓石を洗っていた。結構大変な作業のはずだけど、船の整備に比べたら全然へっちゃらだって笑っていた。
途中からは私達も手伝って、きれいになったところで、持ってきておいた飲み物で一服。
「せっかくだし、何か食べて帰ろっか? おねーさんがおごったげるよ?」
「いや、どこで食ってくんだよ? この島にもう飯食わせてくれるとこなんてないぜ?」
「ここからなら、そんなに遠くない場所にいくつか行楽地があるからさ。ほら、私の船で飛んでいけばすぐだよ」
「ああ、なるほどな……じゃあお言葉に甘えてそうすっか、アデル?」
「やった! じゃあ…………あれ?」
するとふいに、アデルちゃんが何かに気づいたように上を向いて……一瞬後、さらにハッとして、
「兄貴! スゥ姉ちゃん! 大変だ、空から女の子が!」
「「……は?」」
唐突に某天空の城みたいなことを言い出したアデルちゃんに、私とシュライヤ君がきょとんとして聞き返した……次の瞬間。
―――ド ッ ゴ ォ ン!!
「「「……!?」」」
そんなすごい音と共に、空から何かが落ちてきた。
……え、何今の……向こうにでっかいクレーター出来てるんだが。
何が落ちてきたんだ、こんなところに? 隕石? 四皇? ……どっちでもあってほしくない。
というかやっぱりアデルちゃん、これのことを言って……? でも、『見聞色』を使える私やシュライヤ君より早く気付いたのはどういうわけだ?
というか、その『見聞色』で気づいたんだけど、爆心地に誰かいるな……気配からして、気を失ってるみたいだけど……
気を失ってるんなら某最強生物とかじゃないとは思うけど……油断はせずに、武器を出して様子をうかがう。
シュライヤ君は素早くアデルちゃんの前に出て、彼女をかばうように立った。
徐々に土埃が晴れていく中、クレーターの中心に横たわっていたのは……小さな……子供?
アデルちゃんと同じくらいの体格で、何というかこう……アマゾネス風なワイルドなデザインの服……民族衣装?に身を包んでいる。
『九蛇』の子たちが着るそれに近いような……でも微妙に違う。しかも、ボロボロであちこち破けたり壊れたりしてる。落下の衝撃のせいかと思ったけど……
アデルちゃんが言ってた通り、女の子、だな。
そして、こんな結構な大きさのクレーターができる威力で地面に激突したっぽいにもかかわらず、しっかり生きてる。
この子、一体何者だ? どこから落ちて、あるいは飛んできた?
空を見上げても、雲以外は何も浮いてない。……わけわからん。
わからん、けど……とりあえずこのままにしとくのもアレだし……助けるか。
今回で本章は最後になります。
例によってプロット等の整理のため、次の更新までちょっとだけお時間いただくかもです。
それと次章なのですが、ちょっと今後のことを考えてではあるのですが……オリキャラが多めに出て来て、なおかつ展開もオリジナルのものになる予定です。
……内、1人は今回もう出て来てますが。
楽しんでいただけるように書いていくつもりですが、そういうの苦手な方がいましたらすいません。
今後とも拙作をよろしくお願いいたします。