主人公スゥの髪色
赤紫→白
今話以前の該当箇所は修正済みです。
後からすいませんが、脳内イメージの変更をお願いします。
目覚めは最悪だった。
いつも寝ているベッドとは全然違う、硬くて冷たい感触。寝ていたらそれだけで体が痛くなってしまいそうなそこに、私は横になっていた。
そうでなくでも体のあちこちが痛い。筋肉痛みたいな痛みもあれば、打ち身のような痛みもあって……それらをこらえながら、ゆっくりと体を起こす。
じゃらり、と音が鳴った。
見ると、両腕が手錠で拘束されていた。工具を使っても切断できないんじゃないかってくらいに太くて頑丈そうな鎖が、身動きするたびにジャラジャラ音を立てる。普通に重い。
その直後さらに、目の前のというか視界いっぱいが鉄格子で塞がれてしまっているのに気づいて……いや、塞がれているというか、牢屋の中に入っているんだと理解した。
一瞬わけが分からなかったけど……すぐに思い出した。
(そうだ、私、海賊と戦って……でも勝てなくて、それで……)
現れた海賊の『船長』……動物系の能力者だったそいつに一撃でノックアウトされて、気を失ったところまで思い出した。うっすらとだけど、その時の海賊達の会話の内容も。
つまり私は、あの後、意識がないうちに海賊に拉致されて、ここに入れられたわけだ。『戦利品』ないし『略奪品』として。
気絶している間に、服も着替えさせられていたらしい。貫頭衣みたいな粗末な、ごく簡単なつくりの……服と言っていいのか微妙なくらいのもの。
下着とかはなく、これ1枚だけだ。薄いし、寒いし、肌触りも悪い。
拉致られて監禁されてるのにやけに冷静だなって?
……うん、まあ、正直自分でもそう思う。なんていうか、妙に落ち着いてるな私……まだ頭が追いついてないというか、実感わいてないのかな?
いや、もちろん不安に思ってるし、怖いと思ってるんだよ? こんなことになって、これからどうなっちゃうんだろうって。
海賊にさらわれて、こんな風に檻に入れられて運ばれて……これこの後絶対ろくなことにならないよね、間違いなく。
殺されずにさらわれたってことは、私を使って何かするつもりだってことだ。お決まりの人身売買か、あるいは……もっと直接的に、自分達で色々なことに『使う』つもりなのか。うう、どっちにしろ想像したくない……
それに……私が捕まったのは置いといても、こうして海賊船が出港してるということは(揺れてる感覚で船が動いてるのはわかる)、もうすでに略奪も何もかも終わったってことだろう。
私の第二の故郷になった町は……また、海賊に滅ぼされてしまったわけだ。
戦いの中で、自警団の人達は何人も、何十人も殺されただろう。……私が見ていた範囲だけでも、見知った人が何人も海賊の手にかかるのを見た。
逃げた人たちの中にも、逃げきれずに殺されてしまった人、あるいは、私みたいに捕まってしまった人もいたかもしれない。……この牢屋には、なぜか私一人しか入れられてないみたいだけど。
悲しいし、悔しいけど、今の私にはどうすることも……というか、確認するすべもない。
せめて、1人でも多く生き残って、逃げ延びてくれたことを祈るばかりだ。
色々考えていたら、ふいに牢屋の鉄格子の向こうに、海賊と思しき1人の男が姿を見せた。
「よぉガキ、気分はどうだ?」
「……正直言わせてもらえれば、最悪ですね」
「はははっ、だろうなぁ。まあでも、逃げられたり暴れられたりすると困るんでな、窮屈なのは我慢してもらうぜ。小さいのに町でも随分暴れたって聞いてるからな」
「……私、これからどうなるんですか」
「おう、それを説明しに来たんだ。まあ、楽にして聞きな」
いや、無理でしょこんな状況で。
……まあでも、抵抗とか考えても無駄みたいだし、ひとまず力を抜いて聞かせてもらおうかな。
特に手荒な真似とかはされることなく、その海賊は淡々と私に『説明』だけしていった。
私は、あの町を襲撃した際の『略奪品』としてさらわれたこと。
このまま私は、監禁されてある場所まで運ばれ、そして、奴隷として売られるのだということ。
それまで大人しくしていれば、痛いことも怖いこともしないということ。
しかし、逃げ出そうとしたり反抗的な意思が見られれば、『お仕置き』されるということ。
食事は、これもいい子にしていれば、1日3回きちんと出ること。
ただし、お風呂には入れない。手錠で拘束されたままだし、そもそも牢屋からは出れないので。
代わりに、濡らした布で体をふくくらいはさせてくれるとのこと。
海賊が去って1人になった牢屋で、ひとまず色々と考える。……他にやることもないし。
まず、こうなってしまった以上……私はここから逃げることは難しいと思う。
鉄製の手錠に、私の指より太い鉄格子の牢屋……どちらも私には破ることなんてできやしない。ちょっと鍛えてるくらいでどうにかなるもんじゃない。
ワンピース世界なら、素手で捻じ曲げたり引きちぎったりすることができる猛者もそこらへんにゴロゴロいそうではあるけど、少なくとも今の私にはできない。
食事を差し入れられる時に隙を見て逃げる? ……それも難しそうだ。牢屋の扉に、いかにも『食事差し入れ口』みたいな感じの大きさのちっちゃい扉があって、アレ使いそうだから。
仮に牢屋から出られたとしても、この船の構造とか知らないから、その先をどう逃げればいいのかわからない。
海賊はわんさか乗っているだろうし、私は今、丸腰どころかこの粗末な服1枚しかない状態。大の男相手に素手で戦える自信なんてない。見つかれば即座に捕まるだろう。
そして、脱走に失敗したら……いや、それ以前にそういう素振りを見せた時点で『お仕置き』されるかもしれないのか。
『お仕置き』の内容が何なのかはわかんないけど、まあ愉快なことではないのは確かだ。痛いのか、エロいのか……あんまり想像したくもないな。
脱走が無理となると、もう諦める? このまま大人しく売られるのを待つ?
さっきの男の言う通りなら、それなら一応、怖い目には遭わずに安全そうではある。
今のこの状況がすでに怖いって言われたらその通りだし……売られる時、あるいは売られた後に怖いことになりそうではあるけど。
はっきり明言されちゃったけど、『奴隷』なんてろくな扱いじゃないだろうし。
ワンピース世界でいう『奴隷』っていうと……いの一番に思い浮かぶのは、悪名高き『天竜人』だろう。パッと思い出せる分だけでも、見事に人を人として扱ってなかったし、気まぐれ1つで暴力を振るわれたり殺されたりするし。
かならずしも『天竜人』に買われるわけじゃないだろうけど、それ以外でも、なんかデカい橋を作ってたり、他にもすごい過酷な重労働させられてたりと……まあ、いずれにせよろくなことにはならないよね。
とはいえ、話がぐるぐる廻っちゃうけど、そもそも逃げ出すのは無理……なんだよね。
どうすればいいか、パッとは思い浮かばない……ひとまずはこのまま待つしかないか。逃げるにしても何にしても、何かしらのチャンスがない限りは望みはない。
なら、そういう『チャンス』が来た時、それを逃さないように……気力体力だけ、どうにか維持しておこう。
最悪の場合、長期戦も覚悟しておかないといけないか。このまま売られてしまったとして、その後、売られた先でさらに耐えてチャンスをうかがう、くらいに。
この世界、この海は、弱者にはどこまでも厳しい。想像もできないくらいつらいことが待ってるかもしれない。そんな目に遭ってるキャラクターは、原作の中に何人もいたし、なんなら国単位でそういうことになってたりもした。
けれど、諦めることだけはしない。少なくとも、私の気力が持つ限りは……どれだけ長く耐えることになったとしても、自由になれるその時を待つつもりだ。
まだまだ人生経験の浅い小娘とはいえ、海賊に故郷を滅ぼされるのは2度目だし、奇妙な縁で海賊船に乗っていたこともある。そこらの小娘よりは、粘り強さも諦めの悪さもあるつもりだ。
だから、まずは耐えよう。耐えて、機会をうかがいつつ……できるなら、怪しまれない、警戒されない範囲で情報も集めたいな。
☆☆☆
その後しばらくして、さっきとは別な男の海賊が入ってきて、食事を持ってきた。やはりというか、牢屋の扉そのものは開けずに、差し入れ口からだけど。
量は多くも少なくもなく、美味しくもまずくもない普通の食事だった。匂いも変じゃないし、何か妙なものが入っている様子もない。
我慢しても何もいいことないので、普通にいただいた。
毎回この量で1日3回なら、お腹が減ることはなさそうだ。それはありがたい。
食べ終わって食器を返すと、黙って去っていった。
その後しばらくして、今度はたらいに入った水と、ぼろ布を持ってきた。
ああ、お風呂の代わりね。これで体を拭いて清潔にしろと。
これも我慢しても仕方ないので、遠慮なく使わせてもらう。
服は……着たままでもできそうではあったけど、やりづらい。服が濡れたら気持ち悪いし、風邪でも引いたら笑えないので、脱ぐことにした。
手錠があるからその辺に置くことはできず、そこに引っかかるけど、まあいい。
服が濡れないようにだけ注意して、たった1枚だけの囚人服っぽいそれを脱ぎ捨てて素っ裸になり、体の隅々まで拭いた。
その間中ずっと、海賊はニヤニヤしながらこっちを見ていた。全裸の私の体をじろじろと。
見張りって理由だけじゃなさそうだ……別な意味で気持ち悪い。
こっちはまだ小学生か中学生の年齢の子供だっていうのに、そういう目で見てくるんだな、って思った。……嫌悪感はあるけど、これもまあ気にしても仕方ない。
開き直って、隠すこともせず堂々と拭いてやった。減るもんじゃないし、こんなちんちくりんでよければ好きなだけ見なよ。
無事に体を拭き終わると、たらいと布を海賊に帰す。また、差し入れ口越しにそれを回収して、帰っていった。
その日はそれで終わり。
牢屋の向こうの船室に窓があるから、時間はわかる。
明かりは、船室にあるランプ1つだけ。暗いけど、手元くらいなら見える。
基本そのまま放置されてるけど、たまに船室の扉が開いて、見回りと思しき海賊が顔を出すことがある。一応明かりが用意されてるのはそのためか。
私的には何もやることないので、そのまま寝ることにする。
寝る前に、毛布が一枚差し入れられた。体を冷やさないようにってことらしい。ありがたい。
毛布にくるまって、捕虜生活1日目は終了。
横になって、暗くて静かな部屋で、ついネガティブなことを考えてしまいそうになるのを必死で我慢しながら、目を閉じて……どうにか寝ることができた。