大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第81話 スゥとレオナ(2)

 

 

 目を覚ましたレオナは、昨日のことを何も覚えていなかった。

 

 説明しないわけにはいかなかったので、昨日の夜、寝ぼけて(?)レオナがライオンに変身して暴れたことをそれとなーく話して聞いてみたんだけど、ライオンに変身、のあたりから『…………???』って意味が分かってない感じのリアクションだった。

 やっぱり……予想はしてたけど、自分が『能力者』だってことも覚えてなかったか。

 

 しかし、実際に能力者である以上は、

 

「え、うそ……何コレ!? これが、あたし……!?」

 

 使おうと思えば、『能力』は使える。

 そして大体この手の能力は、頭だけでなく体が使い方を覚えてる。

 

 大体のイメージを伝えて『使ってみ?』と促したら、半信半疑でやってみたレオナ。

 すると、その手にわさわざと獣の毛が生えて……鋼色のライオンの手になったのを見て、愕然と…………鋼色?

 

(え、何この色……こんな色のライオンいる?)

 

 そしてそのまま、全身が同じように鋼色のライオンに変わる。

 昨日は部屋自体が暗かったからよくわかんなかったけど、こんな色してたのか……銀というには暗く、灰色というには明るい、ちょっと不思議で重厚な色だ。

 

 ホワイトライオンみたいに、ただ珍しい色違いってだけか、あるいは……

 

「悪魔の実の能力……これが……」

 

「やっぱりそれ自体覚えてなかったか。まあ、自分の素性すら覚えてないみたいだから、無理ないといえばそうなんだが……」

 

「海とかに落ちる前に気づけてよかったな。カナヅチだってことも忘れてたんだろ?」

 

 シュライヤ君とアデルちゃんの指摘。なるほど、それはもっともだ。

 

 けど、気付けたまでの経緯がなあ……昨日のあれ、ただ寝ぼけてただけ、には見えなかったんだよなあ……うなされてたし。

 ちょっと、嫌な予感がする。

 

 レオナは得体のしれない力が知らない間に自分に宿っていたことに戸惑っていたようだけど、害のあるものじゃないってこともわかったようなので、そこまで不安には思わなかったみたいだ。

 

 元の人間の姿に戻ってみて……いやでもやっぱり戸惑いは継続中だな。

 

 それと、ライオンの能力が実際にあったのを確認したことで、昨日の夜、自分が寝ぼけて(仮定)暴れたのも本当だってわかったみたい。

 素直に『迷惑かけてごめんなさい……』って謝ってきた。いいのいいの気にしなくて。

 

 怪我人が出たわけでもないし、家は壊れたけど、即直したからね。私が。

 

「……あっ! もしかして、スゥのアレも……」

 

「そだよ、私も能力者。『パサパサの実』って言ってね、紙を操る『紙人間』」

 

 言いながら、手を紙にかえてばらけさせてみせると……驚きつつも、レオナはどこかほっとしたような表情になった。

 ああ、超人的な能力の持ち主が自分だけじゃなかったって知って安心したのかな?

 

 まあ、何にせよ少しでも落ち着けたんならよかった。

 

 ひとまずその後、昨日と同じ感じで、私が保存していた食料で朝食を食べ……食べながら、今後のことを話し合うことに。

 

 レオナは記憶喪失な上、どうしてかわからないがいきなりこの島に、身一つで落ちてきた。

 当然、行くあて何てあるはずもなく……彼女をこの島に置き去りにする、なんていう選択肢は、いくらなんでも私達にはないわな。

 

 そうなると、誰がどこに連れて行く、って話になるが……選択肢としてはいくつも挙げられる。

 これでも私は、程度に差はあれど多方面に色々顔が利く立場なので、『行き場のない子供』を預けられそうな……孤児院とか施設っぽいところもいくつか知ってる。

 

 ごく普通の、無名な民間の施設とかから……『グラン・テゾーロ』の内部に設置されている特級の設備を持つ孤児院まで、様々だ。行く当てがないなら、そういう場所に預ければいい。

 孤児院じゃなくても、似たような設備で、一時的に行く当てのない子供を預かる、託児施設みたいなところもいくつも知ってるし。

 

 ただ、仮にそういう施設にレオナを、一時的にでも預けるとしたところで……実際にそうできるかと考えると、そこには大きな問題がある。

 

 言うまでもない。昨日のあれだ。

 

 あの暴走……ただ単に寝ぼけてああなったのか、はたまた他に理由があったのかはわかんないけど……アレが毎晩、いや毎晩じゃなくても時たま起こるようなら、そんな普通の孤児院なんかに入れておけるわけもない。

 夜遅く、子供達が寝静まった後にあんな怪物が暴れ出したりしたら、えらいことになる。

 

 となると、孤児院以外で、そういうのに対応できる場所に預けるか……それとも、そういうのにも対応できる孤児院に預けるか。

 何、そんな孤児院あるのかって? ……一応知ってるよ、私。

 

「グラン・テゾーロの施設なら対応できるとは思うけど……」

 

「ああ、まあ、あそこは設備はもちろん、職員の戦闘能力も粒ぞろいだしな……いざとなりゃ、例の金粉のトラップを使ってテゾーロさんが止めてくれるだろうし」

 

 そう。グラン・テゾーロにある孤児院系の施設には、問題児というか、わけあり系の子供を引き受けるための施設もあって……そこであれば、レオナも引き受けることができるだろう。

 シュライヤ君のいう通り、あそこは職員もほぼ全員、無駄に戦闘力が高い面々ばっかりなのだ。はねっ返りの悪ガキ達と日夜バトってるって話だし。

 

 そしていざとなれば、テゾーロの『ゴルゴルの実』の能力で、強制的に動きを止めることだってできる。強硬手段だから、あんまり使いたくはない手ではあるけどもね。

 

 あそこなら、私から頼めば受け入れてくれると思う。

 流石にすぐには無理かもしれないが、少しの間準備とか手続きのための期間を挟めば。

 

 ……でも。

 

「…………」

 

 その当のレオナだが……さっきから、不安そうな顔でちらちらとこっちを見てきて……しかし何も言わずに、黙って食事だけしている。

 けれど、何か言いたい、けれど言えなくて我慢している……みたいな様子なのは丸わかりだ。

 

 まあ、大体の予想はつく。

 

 孤児院だの託児所だの、そういう施設に自分を預けるだのって話が出てるのが……どことも知れない場所の、誰ともわからない相手に預けられるのが不安なんだろう。

 しかもそれが、自分の意思を確認しないままに話を進められてると来たもんだ。

 

 けど、彼女自身、そもそも自分がどこの誰かもわからず、どうしたらいいのかももちろんわからない立場である。漠然と『それは嫌だ』と言っても、『じゃあどうしたい?』と聞かれて、それに答えるすべを彼女は持っていない。

 だから、黙って話を聞いていた。そんなところか。

 

 結構聡い、というか賢い子だな。そして……人に迷惑をかないために我慢できる、いい子だ。

 

 ……それが理解できてしまうと、このまま彼女の我慢に甘んじて『託児所へGO』の判断を降すのは……ちょっとこっちも、何だか心苦しい気分にならなくもない。

 いや、事実私達としては、彼女がどこの誰なのかもわからないし、そもそも……言い方はアレだけど、関わりのない他人なわけだから、そういう専門の施設に投げることは、決して間違った対応ではないんだけど……

 

 ……それでもなあ。

 

(子供の不安そうな表情って、結構くるなあ……)

 

 もちろん口に出してはいないし、そもそも本人にそう言うつもりがあるのかすらわからないが……今こうして、レオナが見せている、不安そうな……『見捨てないで』とでも言いたげな表情が、なんというか……クるものがある。

 

 ……小さい子のこういう仕草に、こんな風に保護欲を掻き立てられるのって……私も年を取ったってことなんだろうか? 若い頃はもっと私、ドライだった気がするんだけど。

 まあ、気付けばいつの間にか三十路だからな……。

 

 いやでもそんな、こういうのは年齢とか関係ない、人としてまっとうなだけの感情だと信じたい。

 

 不安を懸命に押し殺して、何も言わず……食べ終わっても『ごちそうさま』とだけ言って、私達が何かを決めるのをじっと待ってるレオナ。

 そんな彼女を、このまま丸投げで施設に入れるのか、と私は改めて考えて……

 

「……レオナ。あなたはどうしたい?」

 

「……えっ?」

 

 考えてもわからないんで、いっそ直接聞くことにした。

 

「一応私達、あなたみたいな……身寄りのないというか、行く当てのない子をお世話してくれる場所に心当たりはあるんだけど……あなたが望むなら、そこに連れて行ってあげる。でも、もしそこが嫌で、他に何か『こうしたい』っていう希望があれば、そっちも可能な限り考えてあげるけど?」

 

「……それは、でも……」

 

 『施設』に行かずに済むと知って少し嬉しそうにしたのがわかりやすかった。

 けど、具体的にどうしたいのかはやっぱり考えてなかった様子。黙っちゃった。

 

 いや、あるいは……それで『無関係な』私達に迷惑とかをかけるのを遠慮してる、って可能性もあるか。

 

 ……ちょっと聞き方が意地悪だったかな。

 

 というか、こうして二択にすると意地悪な質問になっちゃうんだな。なら……

 

「施設に行くのはなんとなくいやならそれでもいいよ、無理に『ここに入りなさい』なんて、私達は言うつもりはないから。けど、だったらどうしたいのか……っていうのも特にないんであれば、まあそれも仕方ないね。今はまだ、全然何もわかってない上に、色々あって頭がいっぱいでしょ?」

 

「…………」

 

 図星と見た。

 言い当てられて驚いて、ちょっと困って……けど、何かを期待するような感情も混じってる。

 

「だから、そうだな……いっそ、私と一緒に来る?」

 

「!」

 

「え!? スゥさん、何言ってんだ!?」

 

 そう聞いてみたら、びっくりしたらしいシュライヤ君の方からそう聞いてきた。

 

「いやホラ、いきなりそんなとこに押し込まれても不安というか、気がめいっちゃうかもしれないし……どの道準備とかする時間必要でしょ? だったらそれを待つ間に、ちょっと気分転換がてら連れ回してみるのもありかなって思ってさ。その間に記憶戻るかもしれないし……どうせ私、今ちょうど暇だし」

 

「いやでもそれは……あーまあ、あんたがいいなら俺が何を言うことでもねえけどよ……」

 

「まあでも結局は、どうするか決めるのはレオナ自身ではあるけどね」

 

 そう言って、レオナの方に向き直る。

 同じように『どうする?』と聞いてみると、レオナは少しの間、目を伏せるようにして考えて……

 

 しかし、葛藤しつつも『どうしたいか』は半ば既に決まっていたようなものだったらしい。

 思い切って口に出す決意をした、という感じの表情になって……レオナは顔を上げ、まっすぐ私の顔を、いや目を見て、はっきり言った。

 

「あ、あたしはっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 数時間後。

 私の船の上にて。

 

「こ、これから、よ……よろしくお願いしますっ!」

 

「はい、お願いされました。んじゃ、出発しよっか」

 

 こうして、(多分)短い間ではあるけど、私と、見ず知らずの女の子の、ノープランもいいところな、気ままな2人旅が始まったのだった。

 

 

 

 

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