『リトルガーデン』でのサバイバル生活を始めて数日。
毎日やっているレオナとの組手の中で、気づいたことがいくつかある。
まず、レオナはやはりというか、悪魔の実の能力を使いこなせていない。
てっきりあの暴走、寝てる間に悪夢か何かを見てうなされたからだと思ってたんだけど、どうも違うっぽくて……そもそも能力を使うと暴走状態になってしまうらしい。
自分で発動した時も、理性すぐに飛んで襲い掛かってきたから。
ただ、使うと問答無用で即暴走、ってわけでもなくて……どうやらどの程度獣に近づいたかによって、暴走までの時間とか程度が変わってくるみたい。
最初にやってみた時は、いきなり『獣型』に変身した結果、即暴走した。
しかしその次に、『人獣型』に変身してみると、ある程度理性を保ったままだった。そしてそのまま、普通に戦闘訓練に移って、意識をきちんと保って戦うことができた。
が、それもいつまでもは続かず……数分もするとだんだんレオナの目から理性の色が消えて来て……しまいにはやっぱり暴走して、牙をむき出しにして殺す気で襲ってきた。『人獣型』のまま。
どれだけ『獣』に近いかで暴走のリスクが高まるみたいだ。
そういや設定で、『肉食の『
レオナはまだ子供な上に、能力の訓練が不十分で……力を制御できてないからこうなるのかも。
あと恐らくは、能力そのものが強力過ぎるからってのもあるかもしれない。
それについては、別な『気づいたこと』が関係してると思う。
気付いたこと2つ目だが、レオナの能力……というか、変身してる動物について。
見た目はライオンだから『ネコネコの実 モデル:ライオン』とかだと思ったんだけど……色が灰色というか『鋼色』ってところが気になってた。
それに、戦ってみた時にわかったんだけど……このライオンの体、やたら硬いんだよね。
まるで、鋼そのものって感じの感触。金属の塊を殴ってるみたいで……多分コレ、生半可な刃物なら刺さらないんじゃないかな。
少なくとも、覇気なしの普通の刃物じゃ、文字通り歯が立たないと思う。それどころか、この感じだと……砲弾すら防げそうな強度だ。
暴走状態か否かに関わらず、軽く殴った程度じゃ全然効いてないみたいで、怯みもせずに立ち向かってきたからな、レオナ。
昨日も一昨日も、暴走した時は初手『覇王色』で気絶させちゃってたから気づかなかったな。
レオナ自身の体がそれだけ頑丈だから、それが反映されてる……ってわけじゃない。
彼女の体は、年齢にしてはすごく鍛えられてるとは思うけど、そこまでの肉体強度になるレベルの鍛えられ方じゃなかった。
実際に見て、そして触って確認してみたからこれは確かだ。
こないだ言った添い寝の時に加えて……ここに来てからは、訓練の後に汗を流すために水浴びを一緒にしてる。その時、怪我してないかを確認するために、すっぽんぽんのレオナの体をくまなくきちんと見てるので。
……その際、10代前半のぷにぷにスベスベのもち肌に戦慄したりしたけど、それはさておき。
……私だって、私だって年齢を考えれば全然まだ綺麗なはず、負けてないはず……(必死)。
……さてそうなると、この異常な頑丈さは、能力によるものだと思う。
けど、確かにライオンってかなり体は頑丈だとは思うけど、それでも普通のライオン……というか、普通の動物の能力でこうなるとは考えにくい。
しかし幸い、私の知識の中に『異常に体が頑丈なライオン』っていう存在に関する知識があったので、もしかしてと思って調べてみた。
結果は、当たり。常に体の中にしまっておいて持ち運んでいる本のうちの1つである、『悪魔の実図鑑』に、それが載っていた。たぶん、これだ。
ネコネコの実 モデル:ネメアの獅子
『ネメアの獅子』というのは、ギリシャ神話に登場するやばい怪物だ。
名前の通りライオンの姿をしているのだが、その最も大きな特徴として、どんな武器で攻撃しても全く傷つけることができない、鋼の肉体を持っている、というものがある。
その神話の中で英雄として出てくる『ヘラクレス』がこの獅子を討伐しようとしたものの、剣や弓矢、こん棒といった様々な武器を使っても全然効果がなかった。
そんで最終的にどうしたかっていうと、武器で傷をつけること自体を諦めて素手での取っ組み合いに持ち込み、首を締め上げて殺したんだとか。しかも、三日三晩かけてようやく。
……この場合、それだけ締め上げなければ窒息ですら死ななかったライオンが化け物なのか、それとも素手でそんだけのことをやってのけたヘラクレスが化け物なのか……まあいいか。
あ、ちなみにもう1つ豆知識だけど、12星座の1つである『獅子座』はこのライオンです。
で、どうやらレオナの能力はこれのようだ。『自然系』以上にレアな『幻獣種』とは……いったいどこでそんなものを食べる機会があったんだか。
素性も含めて、ますます気になるな、この子。
あと、何で現実世界の『ギリシャ神話』の怪物が、『ギリシャ』自体が存在しないこのワンピース世界に語られてるのかも気にはなるが……まあ別にこれは今更だろう。
けどまあ、そんだけ強力な獣の能力だってんだから、制御するのもそりゃ難しいんだろう。
今のレオナでは、能力そのものに振り回されてしまい、身体能力はともかくとして、理性が飛んでしまう……ということのようだ。これは要特訓だね。
それからさっきもちらっと触れたけど、やっぱりレオナは……元々ある程度ではあるけど体を鍛えてたようだ。
そしてそれだけじゃなく、割ときちんとした戦闘訓練を積んでいたっぽい。
戦ってみて分かったんだけど、レオナの動きは明らかに、そういう訓練を積んで、戦うための体の動かし方、使い方を多少なり理解している動きだったんだよね。
記憶喪失だから、おそらく『体が覚えていた』って感じの奴だと思う。実際、レオナに聞いてみたけど、『なんとなくこうすればいいと思ったので、その通りに動いた』だそうだ。
つまり、体に染みつくほどには一生懸命訓練してたってことになる。『思った通りに体を動かす』って、それ自体が普通の人には結構難しいレベルのことだしね、そもそも。
数日間の共同生活の中で、わかったのはそのくらいか。
依然としてレオナの記憶は戻らないし、暴走も治らない。状況としては、あんまり変わってないな。
けど、全く何も変化がないかっていうとそうでもなく……この島に来てから、レオナは寝てる間に飛び起きて暴れ出す、っていうアレに陥らなくなった。
ただしコレは、こないだと同じで私が一緒に寝てあげてる時限定で……一回試しに1人で寝かせた時は、しばらくしてやっぱりうなされだした。
その時はまた一緒に寝てあげたらすぐに収まって静かな寝息に戻ったんだけど、あのまま放置してたら、やっぱり暴走してたんだろうな、と思う。
私がいないと暴走するわけだから、実質何も変わってないじゃないか、とも思うんだけど……それでも、ぐっすり寝られているからか、前よりレオナの顔色はよくなってきてる気がする。
まだまだ記憶喪失やら何やらに関する不安とかはあるみたいだけど、それでも最初の頃よりは余裕も出てきたのか、元気も出てよく笑うようにもなった。
ご飯を食べる時に見せる、思わずといった感じの、ふにゃりとした無邪気な笑顔は、見ているこっちも思わず笑ってしまうくらいに……年相応で、かわいい。
それに、いっぱい動いていっぱい食べて、しっかりゆっくり寝て……っていう健康的な生活を続けていたせいか、肉付きもよくなってきたと思う。もちろん、健康的な意味で。
前までの方がちょっと痩せてたくらいの感じだったもんな。むしろ、今が本来の、正常な体格に戻りつつあるんじゃないか、って感じだ。私の見た感じだと。
というかむしろ、何でレオナは最初あんな風に痩せてたのか……そっちの方が気になるな……。
あと、まだたまに私のこと『母ちゃん』って呼ぶ。
そしてそのたびにあわあわして言い直す。かわいい。
……なんか私、レオナの中で記憶喪失中の『母親』認定されちゃってんのかな?
記憶喪失になって最初に見たのが私だから? ……いや、そんな鳥の雛の刷り込みじゃあるまいし……。
まあ、別に何か不都合があるわけでもないし、別にいいけどさ。
☆☆☆
そんな生活がさらに数日続いた頃、電伝虫でシュライヤ君から連絡が入った。
一応、テゾーロに事情を話してもらって、施設の受け入れについてはOKはもらえたって。事前に『いつ行く』って連絡入れてくれれば、レオナのことも引き受けてくれるそうだ。
もちろん、例の『暴走』についての危険を理解した上で、その対処も込みで。
それはもちろんレオナにも話したけど……やはりというか彼女、まだ『施設』に入りたいって感じじゃない。
このことを話した時に、不安そうな、嫌そうな表情になって……その後『まあ別に急ぐことでもないし、しばらくこのまま一緒に居よっか』って言ったら、今度は一瞬ですごく嬉しそうな顔に変わったから。わかりやすくていいなー。
それに、今施設に入っちゃうのは……正直ちょっともったいないしね。
「ぜー……ぜー……ま、まだだめかぁ……」
「あっはっは、まーだまだ私には勝てないよ、そんなんじゃ」
大の字になって地面に倒れこみ、息を荒くしているレオナ。汗だく。
それを見下ろしてけらけら笑っている私は、汗一つかいていない。
あ、いや、気温が高めだからその分の汗はちょっとしっとりかいてるけど、戦闘そのものでは汗も疲れも発生してません。
「勝てないどころか、ろくすっぽダメージすら与えられてないし……ほとんど開始位置から動いてすらいないじゃん。能力なしでも全部防がれて受け流されて……母ちゃん、強すぎ……」
「まあ、伊達に30年も海賊の世界で生きてないってことよ。でも、前より割とよくなってきたと思うよ? この短期間でかなり洗練されてきた感じあるし、才能はあるっぽいね」
「くぅっ、上から目線……。でも実際手も足も出てないから何も言えねー……ちくしょう」
毎日やってるレオナとの戦闘訓練。
その中で、徐々にレオナの動きがよくなってきているのだ。
まだまだ粗削りではあるけど、攻撃の鋭さや動きの正確さ、相手の攻撃を見極める早さ……その他、色々な部分が成長している。
言った通り、強さ自体はまだまだではあるけど……まだほんの2週間足らずの修行だってことを考えたら、かなり破格と言っていいくらいの成長スピードだ。
多分、気合入れて訓練してる、ってだけじゃなく……さっきも言ったように、体に適度に肉がついてきたのがいいんだろうな。やっぱ前は痩せすぎだったんだ。
となれば、むしろ今、いやこれから先、彼女が本来の肉体スペックをきちんと取り戻した後……そこからが彼女の成長の本番なのかもしれない。
そう考えると、ちょっとそれ……どう成長するのか気になるというか、見てみたいというか……
あと、将来有望な子を指導して育てるのって、結構楽しいし……修行以外で一緒にいて、何気ない雑談して笑い合ったり、一緒に寝起きしたりとか、そういうのも結構私、楽しんでる。
だから、このままレオナと一緒に過ごすことに、私としては何も不満も問題もない。
というわけで、まだしばらく私がレオナと一緒にいることにします。
……おーそうかそうか、嬉しいかレオナ、よしよし。
……子供ってかわいいなー。
「そういえば、さっきさらっと言ってたけど……え、母ちゃんって海賊なのか?」
「ん? あー……まあ、私個人的には別にそのつもりないんだけど、もう今更っていうかね……。あ、手配書あるけど、見る?」
「テハイショ?」
体に収納してある私の手配書を取り出して見せてみる。
これのおかげで、私は世間様から犯罪者として扱われ、そして主に海を渡って活動しているので『海賊』と見なされています。
人呼んで『海賊文豪』こと、ベネルディ・トート・スゥです。よろしく(不本意)。
……まあ、今となってはもう慣れちゃったから気にしてない。
それにそもそも『パパ』のことも考えれば、むしろ否定するのすら違う気がしてきてるから……ぶっちゃけ既に受け入れてすらいるんだよね。海賊扱い。
受け取ったレオナは、私の顔写真が載っている手配書をまじまじと見て……なぜか私と、手配書の写真を見比べている。
……そういえば、その手配写真……手配当時の奴から更新されてないんだよな。あの時私、確かまだ19歳だったし……10年以上前か……。
「……やっぱ老けたかなあ?」
「そーか? そんなに違わない……むしろ母ちゃん、今の方がキレーだと思うけど」
「……ほ、ほほぉ?」
あっやべ、無邪気な子供の率直な感想で褒められるの嬉しい。顔がにやける。
ま、まあ実のところ自分でも割とそう思ってたんだけど、さすがにフィルタかかってるかなとか自画自賛とか思ってたんだよね……。
それをこう、なんかそのぉ、こう言ってもらえるとぉ……
「……レオナ、今日の晩御飯好きなもの何でも作ったげる、何食べたい?」
「え、いいの? やった! じゃあ……一昨日食べたあれ! トリケラトプスのステーキ丼! 超大盛で!」
「よし任せろ。おかわりも自由にしていいよ、いっぱい食べな」
「わーい!」
我ながらちょろいなと自分でも思いつつ、嬉しいことを言ってくれたこのかわいい娘を、今日はたっぷり甘やかしてやることに決めた私。
えーと、トリケラトプスの肉はちょうどあるから、狩って調達して来る必要はないな。
体内に能力で『収納』している、米とか調味料、その他色々を取り出しつつ……
(……なんかいつの間にか、違和感も何もなく母親役してるな、私の方も……。レオナなんて、だんだん『母ちゃん』呼びも、恥ずかしがりもしなくなってきたし……)
そんな風に思った。
けど、別に嫌じゃないし、レオナも楽しそうだし嬉しそうなので……何も問題ないな、と思って料理の準備に戻った。