大文豪に私はなる!   作:破戒僧

87 / 306
第87話 スゥとレオナとスズ(1)

 

 

 結構なスピードで坂を駆け下りて村に入ってくるその少女を、遠目からだけどよく見てみる。

 

 さっき言った通り、年齢は多分……レオナと同じくらい。10歳かそこら、くらいに見える。

 整った顔つきに、ちょっとツリ目気味で気の強そうな目。黒い髪を頭の後ろで結い上げていて……けっこうな美少女だ。

 

 特に印象的なのは、その身にまとっている服が……粗末ではあるが着物というか、和装であるということと、その腰に差している2本の刀。

 そして、その背に背負っているすごくでっかい荷物だ。背負子に、すごい量の……食べ物?

 

 何十キロあるんだってくらいのそれを背負って勢いよく坂を駆け下りて来て、村に入ってきて……そのあたりで、何かを見つけたのか『む?』って気づいたような表情になる。

 

 というか、ばっちり私と目が合ったので、私達に気づいたんだろうな。

 ……まだ結構距離あるのに、目、いいな。

 

 ほら、そのままこっちまで走ってきて……足も速いな。

 

「何じゃおぬしら、この島の者ではないな? ここで何をしておる」

 

「おやスズちゃん、お勤めご苦労様。今日もいっぱい背負って来たねえ……大変だっただろ?」

 

「ああ、うん、ばあ様。何、このくらい何でもないわ、わしは体が丈夫なのが取り柄じゃからの。後で分けるゆえ、ちょっと待っていてくれ……で、誰じゃお主ら?」

 

 ちょっと警戒心交じりの態度でこっちを見てくる少女……『スズ』と呼ばれていたその子は、さりげなくおばあさんをかばうように私達の前に立って言った。

 ふむ。動きや立ち姿を見るに……そこそこ戦えるっぽいな。腰の刀は飾りじゃないか。

 

「あー、えっとね……」

 

 かくかくしかじか。

 

「なるほど、たまたまここに通りがかって嵐を避けるために、か……嘘を言っている様子はなさそうじゃの。まあ、それなら何も目くじら立てることではないか」

 

 一応納得してくれたのか、うなずきながらそういうスズちゃん。

 

「じゃが、もうばあ様達から聞いたと思うが、この島には長く滞在せん方がいい。ここでとれる肉も魚も、水すらも山の草木の毒に汚されていて、人には毒でしかないからの。それでも気にせんと言うのなら止めはせんが、口にはせん方がいい」

 

「それは確かに聞いたけど……それは? すごいいい匂いがするぞ? 新鮮で澄んだ匂いだ……それ、毒じゃないだろ?」

 

 と、レオナが、スズちゃんが背負っている大量の食糧……野菜や山菜、果物なんかを指さして言う。……心なしか、視線に食欲が乗っているように見える。

 が、スズちゃんはそれを隠すようにして……いや隠せてはいないので、レオナから遠ざけるようにして、

 

「コレはダメじゃ」

 

「えー、なんで!? すごく美味そうなのに」

 

「ダメじゃ。これはこの村のじい様ばあ様達の分じゃ、悪いがお主らに分けてやる分はない」

 

「何でだよー、そんなにあるんだからちょっとくらい……」

 

「ダメじゃと言っとろーに! ええい、離れ……っと、こんなことしとる場合じゃなかったわ。雨が降ってくる前に分けてしまわんと」

 

 そう言うとスズちゃんは、村の中央にある広場に行って、開けた場所でその荷をほどき、てきぱきと細かく分けていく。

 そして、それを、家々に手早く届けていった。大量の野菜や果物を、少しずつ。

 

「ああしてスズちゃんは、皆に食べ物を分けてくれるんだよ。毎日ね」

 

「この島の食べ物は、どれも毒なのでは?」

 

「毒に侵されているのは、山の中やそれよりも下の地域でとれるものばかりなんだよ、あれらは山の上にある農園で採れたものだから、毒はないんだ」

 

 なるほど……土も水も、汚れてるのは山と、それより下にあるものだけなのか。雨水とか地下水が流れていった結果だって言ってたからな……それよりも標高が高い部分は無事なのか。

 山の上の農園とやらでとれたものなら、毒はなくて普通に安全で美味しい食材なわけだ。

 

「……って、毎日って言いました? え、じゃああの子、あの量の食料を……」

 

「ああ……農園から毎日運んでくれるんだよ。それも、日によっては、1度じゃなく2度、3度と登り降りして……その農園の世話から何から、全部1人でやってね」

 

 えぇ……あの山、そんなに大きくはなさそうだけど、それでも登って降りるだけで結構つかれそうなくらいには高いぞ。少なくとも、一般人には、かなりいい運動になるはずだ。

 それをあんな大荷物を背負って、しかも山の上で農作業までやって毎日……ちょっと考えただけでもとんでもない労力だってわかる。

 

 しかも……

 

「あれ? あの子、持ってきた食料、全部配っちゃったぞ?」

 

「ああ、スズちゃん自身はあれを食べることはなくてね……この村にいるじじいやばばあに全部渡してしまうんだ。『自分は山を下りる前に食べたからいいんだ』っていつも言っているけど……果たして本当なんだかねえ」

 

 おばあさんは、一仕事終えて『ふぃー』って額の汗を拭いているスズちゃんを遠目に見ながら、嬉しさと悲しさが一緒くたになったような微妙な表情をしていた。

 

「スズちゃんがああして、安全な食べ物を取ってきて分けてくれるおかげで、私らはこうして生きていられるんだよ……私達だけだったら、毒魚や毒草だけしか採れず、食べられず、とっくの昔にお迎えが来てる頃だったろうに……こうして長生きさせてもらってるんだ」

 

「そんな……あの子、一体……? この島のどなたかのお孫さんか何かですか?」

 

「いや、あの子は……」

 

 と、おばあさんが話を続けようとしたところで……しかし、とうとう、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。これ以上は外にいるのはまずいな。

 外にいたご老人の皆さんも続々と家の中に入っていく。

 

 私達も、適当な場所を探して雨宿りすることにした。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 で、その『適当な場所』……誰も住んでいない、石造りの廃屋っぽいところにひとまず逃げ込んだ私達だったが……そこには、既に先客がいた。

 

「うん? 何じゃ……お主らもここに逃げ込んできたのか?」

 

 空になった背負子を傍らに置いて、腰を下ろして休んでいるスズちゃんがそこにいた。

 木の枝やら何やらを集めて焚火を作り、それにあたっている。

 

 その焚火で焼いたらしい魚を、今まさに『あーん』と食べるところで……って、ちょっと待て!?

 

「ちょっ……スズちゃん!? それ、魚……え、どこで採れた奴? 毒ある奴じゃないよね?」

 

 見た目は、じゅうじゅうと音を立てて油が弾けている、美味しそうな焼き魚だけど……隣にいるレオナが微妙な顔になっているところを見ると、怪しい。

 この子、私にはわからない匂いとかも感じ取れるはずだから、多分……

 

「うん? ああ、大丈夫じゃ。毒と言っても大した強さではないからの、食いすぎなければ、少し腹がゴロゴロするくらいで済む」

 

「いやダメだって! まず食べちゃダメでしょ毒なんか!」

 

 そう言っても聞く様子はなく、スズちゃんはそのまま魚をぱくりと食べてしまった。毒のことを気にした様子もなく、あっという間にぺろり。

 小ぶりの魚だったとはいえ、あんなにためらいもなく……コレ、やっぱり普段からそうなのか? おばあさんが言ってたように……山の上で野菜を食べてたなら、こんな風に毒魚なんか食べる必要もないだろうし。

 

 何かの空き瓶瓶に入れていた水でごくごくと飲み下し……あの、その水も毒では?

 

「ああ、これは心配ないぞ。そのへんではなく、山の上で汲んできた水じゃ。……やらんぞ?」

 

「いや、欲しいわけじゃないけど……ホントに大丈夫なの?」

 

「大丈夫じゃ、もう慣れとる」

 

 慣れるくらい続けてんのかよ……この生活。

 さすがにレオナも、毒を食べてけろっとしているその姿には唖然としている様子だった。

 

「あんなに食べ物あるんだから、普通に食べればいいのに……」

 

「そうしたらじい様達が食べる分が減るじゃろ。食べても平気なんじゃから、わしはこっちでいい」

 

 綺麗に食べた後の魚の骨を指さして言うスズちゃん。

 そのまま横になって休み始める。……少しだけ苦しそうというか、お腹が痛いのを我慢してるような感じに見えるのは気のせいだろうか? 眉間にわずかにしわが寄ってる気が……

 

 というか、それ以前に……あんな小さめの魚1匹で足りるのかな?

 育ち盛りだろうし、聞いた通りの重労働してるなら……あれじゃ全然に足りないんじゃない?

 

 ……あ、毒だからあんまり量を食べるわけにはいかないのか。今『食いすぎなければ』って言ってたもんな……あえて少なくしてるのかも。

 

 

 ―――くぅ~……

 

 

「「…………」」

 

「……っ……」

 

 ……答え合わせをどうも。

 

 かわいく鳴ったお腹の音を恥ずかしく思ったのか、スズちゃんはわずかに顔を赤くしてそっぽを向いて言う。

 

「あ、雨が止んだらさっさと島を出るがよい! お主らには、山の上の農園の食べ物はやれん、金を積まれても同じじゃ。毒水や毒魚を食べるつもりがないのなら、この島にいても何も意味などないからな! さっさと行ってしまえ。……というかできれば今もうどっか行け」

 

「……そうだね、そうするよ。でも、その前に……」

 

 精一杯強がりながらそう言うスズちゃんに、思わずため息をつきつつ……私は、体の中から何枚かの紙を取り出した。

 もちろん、ただの紙ではない。

 

 ……そろそろ、私達もお腹が空いてきたところだったしね。

 

 

 

 そして、数分後。

 

「「うま――――っ!!」」

 

 いやあ、やっぱご飯を美味しそうに食べる子供の笑顔っていいね。

 

 作り置きしておいた料理の中からいくつか選んで出して、レオナと私、そしてスズちゃんも誘って一緒になって食べています。

 

 スズちゃんは最初、何もない所から食べ物が出てきたことに仰天してたけど、割とすぐに『能力者か……』って納得してた。子供にしては理解が早いな、って感心した。

 

 一緒に食べよう、って誘うと、最初のうちは強がるように遠慮してたんだけど、ちらちら視線が料理の方に言ってたのはまるわかりだったし、その途中でまた『くぅぅ~……』と、お腹が正直に空腹を主張したので、少し恥ずかしそうにしつつも、私の手から料理を受け取った。

 それで、恐る恐るって感じで口に運んで……そこからはもう夢中で。

 

 同じようにおなかをすかせていたレオナともども、見ているこっちがうれしくなるような食べっぷりで、お皿の上の料理をかきこんでいく。

 

 いやあ、たくさん食べる子供の、満足げで幸せそうな笑顔っていいね。

 

 

 

 結局、出した料理を、ご飯粒1つ残さずぺろりと平らげたところで、はっとしたようにスズちゃんは我に返った。

 

「うぅ、わしとしたことが、腹いっぱい食べてしまった……すごく美味しかったですごちそうさまでした」

 

「はい、お粗末様でした。やれやれ……スズちゃん、いつもあんな感じの食生活なの?」

 

 空になった皿をひとまとめにして、再度『紙』にしてしまいながらそう尋ねる。洗うのは後で。

 

 あ、食後のジュース要る? はい、どうぞ。

 

「そうじゃが……んぐ、これも美味っ…………まあ、何度も言うようにここにはまともな食べ物なんぞないからの」

 

「いや、だからって飯が毒でいいわけないだろ……その農園の食べ物から少しくらいもらってもいいじゃんか。ここのお年寄り皆に配るくらいの量はあるんだろ?」

 

「毎日の量を考えるとそんなに余裕があるわけでもないんじゃ。何かあった時の備蓄も必要じゃしな……何、わしは体が頑丈なのが取りえじゃから、毒くらい平気じゃよ」

 

 何でもないことのように言うスズちゃんだが……レオナはそれを聞いても、全然理解できない、といった感じの表情のままである。

 もちろん、私も……あまり顔には出てないと思うが、同じようなことを思っている。

 

 こんなまだ小さな子が、毒が入っているとわかっている食材を。

 それも、毒が入っている前提だから、おなかを壊さないように、量を抑えて食べなきゃいけないような状況なんて……それを、毎日続けてるなんて。

 考えると、こっちの気が滅入ってくるようだ。

 

「スズちゃん……ここには1人で住んでるの? ご両親とかは?」

 

「死んだ。もう何年も前にな」

 

 かなり重いはずの事実を、しかしこれもあっさりと言ってしまうスズちゃん。

 

 その後しばらく、雨が止むのを待つ間に……暇つぶし代わりに、スズちゃんが簡単に身の上話を聞かせてくれた。

 

「というか、わしが覚えている限りでは、両親……と呼べる者はおらんかったな。わしは元々この国の生まれでもなくて……じい様とばあ様に連れられて、遠い国から海を渡ってここにやってきたというか、流れ着いたというか……まあ、わしも実は『余所者』なんじゃよ、元々な」

 

「へぇ……どこの国から来たの?」

 

 私も知ってる国かな?

 

「うむ。実のところ、わしも小さい頃の記憶だけじゃから、あまりその故郷のことなども覚えてはおらんのじゃが、たしか、そう―――

 

 

 

 

 

 ―――『ワノ国』とかいう名前だったかの」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。