大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第88話 スゥとレオナとスズ(2)

 

 

 スズちゃんがこの島に来たのは、もう8年も前のことであるらしい。

 

 さっき言ってた通り、彼女自身はよく覚えていないそうだが……もともと彼女はこの島、この国の生まれではなく、『ワノ国』という国の生まれであるらしい。

 

 私も、名前だけなら知ってる。ワンピース原作で読んでた記憶があるところで、ギリギリ出てきたから憶えてる名前だ。

 確か、『侍』という戦士達が国を守っていて……彼らが強すぎるせいで、世界政府もうかつに手が出せない国だとか何とかいわれてた気がする。

 

 名前や『侍』って単語からして、多分、日本テイストな国なんじゃないかと予想はつくけど……それ以上は知らないな。

 

 話を戻そう。

 スズちゃんはそんな国の生まれだそうだが、理由はわからないけど、8年以上前にその国を出て……おじいさんとおばあさんと一緒に、海をさまよっていたらしい。

 

 その果てに行きついたのが、この『毒島』こと『ウーバステン島』だった。

 

 偶然たどり着いた島が、そんな特殊すぎる環境だったことは、まあ、不運としか言いようがないけど……それでも、乗ってきた船は壊れてなくなってしまったし、他に行く当てがあるわけでもないので、スズちゃんとそのおじいさん、おばあさんは、ここで暮らし始めた。

 

 しかし、ほどなくしておじいさんとおばあさんは、島の食べ物を食べ続けたことで毒に体を蝕まれ、命を落としてしまう。

 残されたスズちゃんは、まだ幼く、自分のことも自分でできない年齢だった。そんな状態でこの島に1人残されてしまい、絶望的かと思われたが……そんな彼女に手を差し伸べたのは、この島の老人たちだった。

 

 島の老人たちからすれば、スズちゃんはちょうど、自分の孫とかそのくらいの年齢であり……その姿を見て、本国に残してきた子供や孫のことを思い出す人も少なくなかった。

 そんな小さな子を飢えさせたり、毒を食べさせるのは忍びないと、皆が思った。

 

 そこで、まだ比較的元気で体も動く老人が交代で山の上から、毒に犯されていない安全な山菜や魚を取ってきて、スズちゃんに食べさせた。

 身の回りの世話は、他の老人達がしてあげた。

 

 彼らの愛情を受けて、スズちゃんはすくすく育った。

 

 しかし、もともと高齢で力もない老人達である。そのがんばりも長くは続かず……やがて、加齢と毒の両方による体力の衰えで、山登りはもちろん、日々の家事やら仕事も満足にこなせなくなってしまった。

 

 その頃には立派に1人で色々なことができるまでに育っていたスズちゃんは……そこから、島に暮らす老人達への『恩返し』を始めることになる。

 

 自分のことを自分で、1人でやるのはもちろんのこと……島の老人達に少しでも多く、毒ではない安全な食料を食べてもらうために、山のてっぺんの土地を開墾して農場を作り、そこで様々な作物を育て始めた。

 

 その世話も毎日1人だけでやり、収穫して野菜や果物、穀物が手に入ると、それを持って山を下りて……さっきみたいに皆に配る。

 作物だけじゃなく、水も汲んで持ってくるし、取れれば魚とか生鮮食品もとる。それらも同じように、老人たちに配って回り……自分の口にはほとんど入れない。

 食べるとしてもせいぜい、傷んでしまって老人達にはちょっと厳しそうなものくらいだそうだ。

 

 そんな生活をもう何年も続けているそうだ。

 

「……恥ずかしい話、わしはまだ小さかったころ、この島がどんな島で、じい様ばあ様達がどれだけの苦労をして、どれだけ苦しい思いをしているかもわからずに暮らしておった……その苦労によってわしの生活を支えてくれていたのだということもな。何もわからないまま。他人が何もかもやってくれる生活を当然のものと考えて、わがまま放題、自堕落に生きておった」

 

「いや、でもそれは仕方ないんじゃ……スズちゃんがまだ、ほんの小さな子供だった頃の話なんでしょ?」

 

 今……あ、12歳なの? 今でもまだ全然子供じゃん。むしろまだまだ甘えてていい頃だよ……。

 しかも、そのさらに数年前ってんなら、余裕で年齢一桁じゃん。

 

 普通の都市部とかならともかく、こんな過酷な環境で、10歳とかそこらの子供が、ある程度とはいえ自立するのなんて無理だろう……できるとすれば、ほんの一握りの怪物候補生くらいだって。

 具体的には、この世界の主人公とかその兄達くらい?

 

「だとしても、世話になったことには変わりない。少なくともわしは、じい様ばあ様達が守ってくれねば、まともに生きることすらできんかった。この命はまぎれもなく、あの人らにもらったものじゃ。であるならば、その大きすぎる恩を返すために身を粉にするのに、何を迷うことがある」

 

 ……いや、もしかしたらこのスズちゃんも、多少なりそういう『怪物』側の素質を持ってるのかもしれないな……。

 今のセリフなんて、12歳とかそこらの子供が思いついて言うようなセリフじゃないでしょ。どれだけ覚悟決まっちゃってるんだよ……。

 

 と、そんなことを話している間に、雨が上がったみたいだ。

 

「雨はやんだか。風も収まったみたいじゃな……ほら2人とも、今のうちに島を出るがよい。ここにいても食べるものがなくて、備蓄が減るか腹が減るだけじゃ。……料理は美味かった、本当に、その……ありがとう」

 

 そう言って、スズちゃんは小走りで山の方へ駆けていった。

 ……山の方に? あれ、家に帰るんじゃなくて?

 

 ひょっとして……例の『農園』に行ったのかな? 今の雨……結構土砂降りだったから、何か影響がなかったかどうか確かめるため……とか?

 

「なあ、お前さん達」

 

 すると今度は、背後から声をかけられて……振り向くとそこには、港でも話したおばあさんが立っていた。

 おばあさんは、今しがたスズちゃんが走っていった道――スズちゃんの姿はもう見えない――と、私達2人のことを交互に見て、

 

「随分スズちゃんと楽しく話してたみたいだね。隣の私の家にまで声が聞こえて来たよ」

 

「! あー、すいません……うるさかったですか?」

 

「いやいや、そんなことはないさ。若い子の楽しそうな声ってのは、聞いててこっちも楽しくなってくるもんだしね。……それよりもあんた達、スズちゃんと友達になったのかい?」

 

「んー……どうだろ? ただ普通にっていうか、暇つぶしに話しただけって感じだったぞ」

 

 首をひねりながらレオナがそう言う。

 まあ確かに、最初よりは距離は縮まった感じがしなくもないが……友達、ってほどじゃないと思うな。今のところ。

 

 そう答えると、おばあさんは『そうかい……』と、ちょっと残念そうな顔になった。

 

「……お前さん達、もうこの島を出るのかい? 今なら少し天気は穏やかになったようだけど……」

 

「ん~……どうしようかな。今は天気は……確かに穏やかだけど、完全に収まったわけじゃなくて、少しの間だけって感じなんだよね」

 

 これは本当だ。空気とか風の感じから、一時的に風や雨が収まっただけ、って感じがしている。

 今すぐに海に出ても、そんなに時間はたたずにまた荒れ始めると思う。そう考えると……まだしばらく、この島に滞在させてもらうことになるかもしれない。

 

 迷惑でなければ、そうさせてもらいたい、かな。

 

「迷惑なんてことはないよ。……むしろ、お願いしたいと思ってたくらいさ」

 

「お願い? なんで?」

 

 きょとんとして聞き返すレオナに、おばあさんはにっこり笑って答える。

 

「見ての通りこの島は、じじいとばばあしかいないだろ? スズちゃん以外はね……だから、スズちゃんには、同い年や年の近い友達ってものが1人もいないのさ。……まあ、そりゃいてもらっても困るんだけどね、この島に子供なんて」

 

 けど、と続ける。

 

「まだまだ遊びたい盛りの女の子が、あんな風に身を粉にして私達のために働いて、自分は毒入りの魚や山菜を食べて……気持ちはもちろんうれしいけれど、老い先短いばばあ達からすれば、見ていてつらくてねえ……せめて友達の1人もいれば、なんて思ったものだよ」

 

 ……なるほど。

 さっきからレオナのことを、なんだかうれしそうな目で見ながら話してるのは……そういう理由だったか。

 

 普段この島にはまず訪れない、スズちゃんと同じくらいの年の頃の子だから。

 そんでさらに、さっきまで楽し気に、騒がしく話してたから……そういう、同い年くらいの子しかなれないような、楽しい、近しい関係になったんじゃないかって。

 今そうでなくても、そうなれるんじゃないかって……そう思ったんだろうな。

 

「この島にいたいのなら、まあ、何も見るところなんてない島だけど、好きなだけいればいいよ。空き家も多いから、好きな家に住めばいい。けれど、もしあんた達さえよければ、1つ、頼まれてくれないかねえ」

 

「……何を?」

 

 まあ、予想はつくけど……

 

 

 

「あの子の……スズちゃんの、友達になってあげとくれ」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「で。何でお主らこんなところにおるんじゃ!? 雨が上がったから出ていくのではなかったのか!?」

 

 場所を移しまして、山の上。

 スズちゃんが作ったという『農園』を私達は訪れていた。

 

「すごいね、広い……これ全部1人でやったの!? いやホントに普通にすごくね?」

 

「え、そ、そうかの? いや、それほどでも……ってそうじゃなくて! なんでお主らここに……今いちど言っておくが、ここにあるものは全部、村のじい様ばあ様達の食料じゃ。盗み食いなど許さんぞ!」

 

「そんなつもりないってば……ただちょっと興味あったから来てみただけだよ。どんな農園なのかってね……見るだけ、何もしないって」

 

「……本当じゃろうな? そっちの子供の方が、何やら危ない目つきであちこち見とるが」

 

 見ると……確かにレオナ、あちこちに実っている野菜や果物を見て、なんかこう……すごく期待するような目になっていた。

 ……顔に『食べたい』って書いてあるな、この食いしん坊め。

 

「ダメだよ、レオナ」

 

「え~……ちょっとくらい……あ、そうだ! 私手伝うから! 農作業手伝うから、そのお駄賃でちょっと分けてもらうのとかは……」

 

「ダ・メ・じゃ! 労働力ならわし1人で足りとる。……眺めてるくらいなら構わんから、そこでじっとしとれ。盗もうとしたらぶっ飛ばすからな」

 

 ジト目でそう、ぴしゃりと言い切ったスズちゃんは、踵を返して畑の方に向かっていく。

 しかし、その手に農具のようなものを何も持っていないのが気になった。手ぶらで何をする気なんだろう……種蒔きとか? でも、時期的に……

 

 なんてことを考えていると、スズちゃんは両手を地面について……次の瞬間、

 

 その手が、どろりと解けて『泥』になり……地面にめり込み、沈み込んでいった。

 

「「……え!?」」

 

 私達が驚く前で、スズちゃんの手からあふれ出していく泥は、地面の下に潜り込んで、内側から地面をかき回していく。かなり広い面積がある畑の全面を、一気にだ。

 普通なら、クワとかを使って地道に少しずつやっていくのであろう、耕す作業を……あれよあれよという間に終わらせてしまった。

 

 後に残ったのは、全面ほどよく耕され、かき混ぜられた上に、湿り気もこれまたほどよく含んで柔らかくなった土だった。

 しかも、ご丁寧に畝の形がきちんとできていて……そのまま種とか植えられそうである。

 

 それを確認すると、スズちゃんは地面に突き刺していた手を抜き取って……そのまま元の、普通の手の形に戻した。

 

「今の、もしかして……悪魔の実!?」

 

「しかも多分、『自然(ロギア)系』……!」

 

「『ドロドロの実』じゃ。わしは体を自在に泥に変化させる『泥人間』。地面に混ぜ込んで耕すことなんぞ朝飯前じゃし……栄養をたっぷりと含んだ泥はそのまま、作物を育てる肥沃な土になる。畑作業にはうってつけというわけじゃよ」

 

「その能力があるから、1人でこれだけの農園を切り盛りできるのか……」

 

「そういうことじゃ。今までずっと1人でやってきた。じゃから、手など借りんでも大丈夫じゃ。何も頼まんから、そこでゆっくりしておれ」

 

 そのままスズちゃんは、また別な畑に移って、同じように能力で土を耕し始めた。

 耕しながら、邪魔な石とかゴミ、雑草や、作物の残骸なんかもきちんとどけている。……かなり使いこなしてるな。熟練度高そうだ。

 

(『自然系』の能力は、まともに制御できるようになるってだけでも、かなりの修行が必要なはずなのに……)

 

 ……それだけの長い期間、それだけ多い回数、この能力を使ってたわけだ。

 

 それには感心させられるけど……同時に、おばあさんたちが心配になってしまう気持ちも、よくわかった気がした。

 

 あの子……スズちゃんは、本当に、普通の小さい子なら、何も考えず、子供らしく、友達なんかと楽しく遊んでいたであろう時間を……おじいさん、おばあさん達のために使ってきたんだろう。もしかしたら、友達と遊ぶ……ってことすら、考えもせず、想像もつかないような日々を送ってきたのかもしれない。

 彼女にとっては、これが当然の日常で……しかしまぎれもなく、彼女が自分で選んで送っている日常の在り方なんだ。

 

 

 

 …………もっとも……

 

「おい! 何をしとるんじゃお前!?」

 

「見て分かるだろ! どけた石とか運ぶの手伝ってるんだよ! あと農具とか使うものあれば運ぶから教えろ!」

 

「必要ないと言っとるじゃろうが! 農具はまあともかく、石を運んでどかすくらいならわし1人で能力でできる! それに、手伝ったところで食べ物はやらんぞ!」

 

「それはもうわかってるよ! けど、何か……手伝わずに見てるだけってのもなんか悪いというか……こう、嫌な……負けた気分になる! だから何かやる!」

 

「なんじゃその理由は!? よくわからん奴め……って、おまっ、何じゃその姿は!?」

 

「私も能力者なんだよ! 『ネコネコの実 モデル:ネメアの獅子』! 動物(ゾオン)系だ! 馬力ならそこらの奴には負けない!」

 

「ねめ……何て? 猫はわかったけど、聞いたことないぞその生き物」

 

「えっと、幻獣種だから、実在はしない動物、というか怪物らしいんだけど……私もよくは知らない。母ちゃんに聞いただけだから」

 

「よいのかそれでお主……ええい仕方ない。まあ別に手伝うのは構わんが、邪魔と盗みはくれぐれもするなよ!」

 

「わかってるよ!」

 

 

 

(何を張り合ってんだか、あの子らは……)

 

 『人獣型』に変身して大量の石や農具を運ぶレオナと、負けじと泥を操って土を耕していくスズちゃん。

 

 ……多分レオナあれ、素だよね。

 おばあさんが言ってた『友達になってあげて』っていう頼みを聞いて構ってる感じじゃない。普通に自分のやりたいようにやって、結果カラんでる感じだ。

 

 2人ともぎゃーぎゃーと言い合いながら、競うように元気に働いている様子を見ると……なんだかそのスズちゃんの元々の孤独が、早くも消え失せ始めているような気がして見えた。

 

 

 

 

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