大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第9話 スゥ、牢の中で過ごす

 

 

 捕虜生活2日目。

 昨日と同じく寝覚めは最悪。布団どころかゴザすらない床だし、硬くて体が痛くなる。毛布にくるまって寝たから、多少マシではあったかもしれないけど……まあ、気休め程度だ。

 

 昨日と同じ感じで朝食が出され、それを食べて食器を返す。

 

 その後はひたすら暇だった。

 何せやることがない。

 

 我ながら、牢屋に入れられて売られるのを待つ身で図太いことだと思うんだけど……一晩ここで過ごしたら、なんか思いのほか慣れてしまった。

 不安とか恐怖を感じてないわけじゃないんだけど、それを心の中に抱えつつも、適度に心を落ち着けてリラックスできているというか。

 

 そうなると、昨日みたいに色々と、今後のこととかを考えたりするんだけど……すぐに考えることがなくなって暇になった。

 繰り返すが、やることがない。本を読んだり、体を動かしたり……そういう、暇つぶしの手段がこの牢屋の中には何もない。

 

 筋トレとか軽い運動くらいならできるけど。

 実際やったけど。やることないから、疲れるまでやって……で、疲れた後はまたやることがなくなって暇になった。

 

 まあ、体がなまらないようにってことを考えればいいかもしれないな。

 

 後は……そういえば、町にいた頃は、毎回の『読み聞かせ』のために、暇さえあれば新しい物語を考えていたっけ。

 

 その感じで色々空想して、オリジナル、あるいはオマージュの物語を組み立てて考えてみた。何度も言うけど他にやることがないので、何個も考えられた。

 けど……それを文章に起こして記録しておく術がないのが地味につらい。

 せっかく考えたのに、忘れちゃう……もったいない。

 

 ………………

 

 ……何もやることがないのって、思いのほか苦痛だな。

 

 結局今日は、3度の食事と体拭き以外は、空想か筋トレかぼーっとしてるかを繰り返していた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 捕虜生活3日目。

 この日は、前日、前々日と比べて1つ変化があった。

 

 昨日一昨日は私、食事の時間と体拭き以外は基本放っとかれてたんだけど、今日はなぜか、朝食を終えても海賊の人が出て行かない。

 そのまま部屋にいて、まるで私を見張ってるような感じだった。いや、『ような』じゃなくて多分見張ってるんだと思うけども。

 

 どうして今日はそういう感じなのか聞いたら、

 

「他の捕まえた女のうちの1人が、昨日牢屋の中で自殺しやがってな。これ以上商品に死なれたり、体に傷でもつけられたらかなわねえってことで、見張ることになったんだよ」

 

 ああ、なるほど……そういうことね。

 

 彼らにとって私達は――『達』っていうか、この牢屋には私1人しか入ってないけど――大事な商品だ。売るところで売れば、それなりの額のお金に変わる。

 けどそのためには、きちんと生きているのはもちろん、『状態』がよくなければいけない。

 

 ガリガリに痩せていて不健康だったり、顔とかに傷がついていたり、その他、見た目や健康状態に何らかの問題があれば、値段はガクッと下がる、あるいは売れなくなってしまう。

 きちんと1日3回食事を出してくれるのも、必要以上に乱暴ないし手荒なことをされないのも、そういう、私達に対する『品質管理』の一環なのかもね。

 

 そして、今回のこの『見張り』も。この先の未来に絶望して自殺を図ったり、自傷行為に走って体に傷がついたりするのを防ぐためのもの。

 これ以上『商品』が死んでしまう、あるいは価値が下がるのは避けたいってことだ。

 

 そんなわけで、今日からはどうやら四六時中……ひょっとしたら夜もかもしれないが、海賊の人が見張りにつくことになる。ずっと見られてて落ち着かないなあ……。

 

 けどまあ、気にしても仕方ない。やめてって言ってやめてもらえるわけもないし。

 

 なるべく気にしないようにして、昨日と同じように、食後少ししてから筋トレを始める。

 鉄格子に足を絡めて腹筋――動くたび手錠の鎖がジャラジャラ鳴る。地味にうるさい――をしていると、その様子を見ていた海賊が話しかけてきた。

 

「お嬢ちゃん、小さいナリして意外と神経図太いんだな。海賊に捕まってんのにリラックスしてくつろげてるしよ」

 

「いえ、くつろげてはいないですけど……やることないから暇つぶしに筋トレしてるだけですし」

 

「普通はこの状況で『暇つぶし』なんて言葉がそもそも出てこねえんだよ。お嬢ちゃんより10も20も年上の大の男でも、海賊に捕まったなんてなったら、怖くてガタガタ震えてるもんだぜ」

 

 ましてや見張られてるなんてことになったらな、とおかしそうに笑う。

 

「怖くねえのか? これから売り飛ばされるってことは知ってるんだろ?」

 

「……怖いですし、不安ですよ。でも、そればっかり考えてても気が滅入りますから。ところで、海賊のお兄さんは、今日は1日中私の見張りなんですか?」

 

「ああ、まだ新入りなもんでな。雑用の他はこういう仕事任されるんだよ。暇で面倒なこと任されちまったなと思ってたんだが、意外と面白いもん見れてよかったぜ」

 

 なるほど、この人にとっても、私を見張ってる時間は暇なわけだ。

 

 加えて、思ったより気さくで話しやすい……まあ少なくとも、意味もなく威圧的とかそういう感じの人じゃないように見える。

 

 であれば……いけるか?

 

「あの……じゃあ、もしよかったらなんですけど。お願いが」

 

「あん?」

 

「やることなくて退屈なので……話し相手になってもらえません?」

 

 

 

 数時間後。

 

「それでよ、結局そいつら2人ともつぶれるまで飲み続けて、次の日二日酔いでまともに見張りもできなくなっちまってな。船長に大目玉食らってたぜ」

 

「あら~……まあ、大きな仕事成功させて気分良くなっちゃってたら、仕方ないんですかね?」

 

「それで分け前も使い果たして素寒貧になっちまってたら世話ねえさ。後は、その店の女給の口が上手かったってのもあるだろうけどな。さすがに普段から海賊を相手にしてるだけあって、物怖じしねえし人をおだてるのが上手い上手い……まあ、横から見てた俺だからわかったんだろうけどよ」

 

「あ、全部わかってて止めなかったんだ」

 

「当り前だろ、そんなおもしれえもん、酒の肴に最適だったわ。酔った勢いで俺らの飲み代まで払ってくれたしな」

 

「うっわあ、確信犯だった。なんて悪い人だ……あ、そうだこの人海賊だった」

 

「はっはっは、そういうこった。隙を見せる方が悪ィのさ」

 

 最初こそ『何言ってんだこいつ』的な目で見られてはいたものの、彼自身も確かに暇だったこともあってか、『まあいいか』って感じで乗ってきてくれた。

 

 最初は単なる世間話とかから始まって、徐々に調子が上がっていくと、今までの自分の海賊としての冒険譚にシフト。

 まだまだ新参とはいえ、『偉大なる航路(グランドライン)』で海賊やってるだけあって、話のレパートリーには事欠かず、色々面白いことを話してくれた。さすがは『海賊の墓場』とまで言われる海だ、普通の航海の記録聞いてるだけで、立派な冒険小説並みの内容である。

 

 予想以上に面白い。暇つぶしのつもりが普通に聞き入ってしまう。

 

 海賊さんの方も、自分の冒険譚を自慢できるのに加え、自分で言うのもなんだけど、私がそこそこ聞き上手だっていうのもあって気持ちよく話している。

 町の皆との飲み会とかで、おじさん達の家庭事情やら愚痴やらを酒の席で聞いてあげながら培ったスキルが役に立った。人間何事も経験しておくもんだな。

 

「やっぱり海賊やってると、他の海賊との抗争とか、海軍に追われたりとかもあるんですか?」

 

「ああ、あるぜ。その時は命がけだな……けど、うちの船長は『能力者』でそりゃあ強ェからよ、今のところ向かうところ負けなしだぜ。そんで、それを乗り越えた後の酒がまあ美味いんだ」

 

「なるほど……他の能力者って見たことあります?」

 

「今のところ……ねえな。まあ、悪魔の実の能力者なんて、そうそういるもんじゃねえしな」

 

 そうなんだ。

 なんか原作見てるとポンポン出てくるから、『偉大なる航路』だと、石投げれば能力者に当たるくらいの頻度で出くわすもんなのかと思ってたよ。

 

「そんなもん、自分から進んでトラブルに首突っ込んでいくような命知らずのバカでもないかぎりはそうそう出くわすようなもんじゃねえさ」

 

 ……なるほど、原作の主人公陣営はそういう感じになるのね。すごく納得できる。

 

「まあでも、海賊船や海軍なんかと戦っても旨味はねえからよ、そういうのは避けるに限るぜ」

 

「あれ、そうなんですか? 海軍はともかく、海賊船とかなら……略奪した財宝とか積み込んでそうだと思ったんですけど。そういうの狙って抗争とかするんじゃないんですか?」

 

「運が良ければな。けど海賊なんてどこも同じよ、金が手に入ったそばから豪遊するから、貯金や貯蓄の考えなんざねえのさ。略奪を済ませた後とかだったら実入りもいいが、それ以外はせいぜい食料とか武器を積んでるくらいだ。普通に村や町を襲った方がよっぽど楽だし稼げる」

 

「へー……勉強になります」

 

「何の勉強だよ、ははは」

 

 雑談の中でも色々な豆知識が手に入る。

 生の体験談って、ただ本を読むだけより色々なことがわかって面白いな……聞いてるのは無法者の犯罪自慢だけど。

 

「にしてもお嬢ちゃん、ホントに物怖じせずに聞くよな。俺が怖く……というか、憎くねえのか? お嬢ちゃんの町を襲って大勢殺して、今からお嬢ちゃん自身も売り飛ばそうとしてるんだぜ?」

 

「それはまあ……全く憎くない、怖くないって言ったら嘘になりますけど……そう思ったところで私に何ができるってわけでもないですし。下手に反抗して生意気な態度取って、痛い目に遭うのもなーって。あとは、単純に暇つぶしが欲しかったのと、知的好奇心に勝てなくて」

 

「子供とは思えねえ神経の太巻き具合だな……そういや、お嬢ちゃんの年、いくつだ?」

 

「今度13です」

 

「予想よりもっと若かったな……」

 

「それより、そういう話になったんで思い切って聞いちゃいますけど、私の町を襲った時って稼げたもんですか? そこそこ豊かな方の町だったと思うんですけど」

 

「……ホントにすげえな、お前」

 

 感心と同時に呆れが入った目を向けられた。

 まあ、自分の町を滅ぼした海賊相手に『稼げましたか?』なんて聞いてくる奴なんて聞いたこともないだろうしね。

 

「まあ、割と実入りはよかったと思うが……良くも悪くも堅実に真面目に生きてる連中なんだなと思ったぜ。金はそこそこあったけど、貴金属とかアクセサリー……ぜいたく品なんかを持ってる奴が少なかったしな」

 

「まあ、こんな田舎の町で誰に自慢する機会もないですからね。結婚式の時とかに出番が来るくらいで……それすら普段着で出る人も珍しくないですよ」

 

「なるほどな……まあそんなわけで、そこそこ程度だったよ。だが、何人か高く売れそうな奴を攫えたから、そっちの方が金になるかもしれねえな……お嬢ちゃんもその1人だが」

 

「あ、なるほど……ちなみに私って高く売れそうです?」

 

「ホントにすげえことを平気で聞くよな……」

 

 もうなんか、海賊さんの私を見る目が珍獣を見るそれだ。

 私のことを改めてじろじろ見ながら、『うーん……』と考えて、

 

「……まあ、見た目はいい方だし、そこそこ高く売れるんじゃねえか? もうちょっと育ってたらさらにいい値段がついたかもしれねえな。まあでも、お嬢ちゃんみたいにまだ体のキレイな(・・・・・・)子なら、それも加味されていい値段が付きそうではあるな」

 

 と、ちょっとアレな内容を織り交ぜて言ってくる海賊さん。

 わざと悪そうな表情まで作って、私をからかって不安にしようとしたっぽい。

 

「あー……そういうとこも査定の対象になるんですね。まあ確かにまだですけど、色々と」

 

「…………」

 

 しかし失敗。

 

「でもそれだと、『経験済み』の人とか、人妻とか出産経験者は値段下がるんですか?」

 

「……もうお嬢ちゃんが何言っても驚かなくなってきたぜ……。まあ、そうだな、生娘に比べたら、値段は下がる。そういうのは年いってることも多いしな。もっとも、俺達としては少しでも高く売りたいから、そもそもそういうのはよっぽど見た目が整ってでもいねえ限りはさらわねえのさ」

 

「そしてさらった奴については、品質を保つためにちゃんと食べさせるし、ひどいこともしない。必要なら今みたいに、バカなことして傷がつかないように見張ると」

 

「よくわかってんじゃねえか。このままいい子にしてれば、健康できれいな体のまま牢屋から出してやれるからな」

 

「でもその後奴隷になるんですよね」

 

「まあな」

 

「そうなると……きれいな体でいられるのもそこまでかなあ。とほほ」

 

「全然平気そうに言うしよ……怖がってる様子もねえし……お嬢ちゃん、ホントに女か?」

 

「失礼な、そりゃ女ですよ。……確認します?」

 

「いや、別にいい」

 

 あ、さいですか。

 

 

 

 それからさらに、お昼ご飯をはさんで数時間。

 

「……お前ら何和気あいあいと話してんだ?」

 

「お、もう交代の時間か……そんじゃな、嬢ちゃん。割と楽しかったぜ」

 

「はーい、それじゃ!」

 

「……いや、楽しかったって……え?」

 

 交代でやってきた別な海賊のお兄さんが、『わけがわからないよ』みたいな顔になってた。

 

 あー楽しかった。あのお兄さん、また見張り担当にならないかなー。

 

 

 

 

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