大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第90話 スゥとスズと海賊の襲撃

 

 

Side.三人称

 

 一言でいえば、その海賊達がこの島にやってきたのは……単なる偶然だった。

 

 この島の属する『本国』こと、『ジバイラネ王国』の港町に攻め入り、略奪を行った海賊達が……そこから逃げる最中に、通常の航海ルートから外れて進んだ結果、偶然この、地図にも載っていない島を発見。

 

 そのまま上陸して、港町と思しき集落を襲撃したわけだが……そこにあったのは、右も左も老人ばかりの村。

 彼らが求めていたような若い女もいないし、金目のものも何もないという、全くの無駄足だったと思わされる光景だけがそこにはあった。

 

 自分から襲撃して無法を働いておきながら、それで海賊達は完全に機嫌を悪くし……一言でいえば、逆ギレするにいたった。

 そして、その憂さ晴らしをするかのように、そこにいた力ない老人達を痛めつけ始める。

 

 しかし、直接的に暴力を振るうのではなく……使ったのは、その海賊船の船長の『能力』だった。

 

「う、うあぁあ……さ、寒い、寒いぃ……!」

 

「痛い、痛い、体が痛い……っ!」

 

「助けてくれ、誰か、助けて……何も見えない、聞こえない……暗い……!」

 

「ぎゃはははは! いいぞ、もっと苦しめクソ老人共! 俺達を不快にさせた罰だ!」

 

 細身にこけた頬の男こそ、この海賊船を統べる船長であり……ある『悪魔の実』の能力をその身に宿す男だった。

 手下達と一緒になって、地面に倒れ、その能力によって苦しんでいる老人たちを見下ろして……げらげらと底意地の悪そうな笑い声を響かせている。

 

 その海賊達に、数少ない無事な老人の1人が、縋りつくようにして懇願した。

 

「や、やめて……もうやめとくれ!」

 

「あん!?」

 

「こ、この島には奪えるようなものなんて何もないんだよ……それでも何か欲しいものがあるなら何でも持って行ってくれて構わないから、ひどいことをしないでおくれ! こんな、老い先短い老人達を、苦しめるようなことをしないでおくれ……!」

 

 しかし、そんな必死の懇願にも、海賊はその顔を不機嫌そうにゆがめるばかり。

 ほんのわずかも心を動かされることもなく、縋りついてきた老婆を、邪魔だとばかりに蹴飛ばして地面に転がした。

 

「ぁあっ!? 何言ってんだババァ……その奪うもんがねえから俺達は怒ってんだろうがよ! この『毒手のベルモス』様をさらに不快にさせやがって……!」

 

 そう吐き捨てるように言うと、その男……ベルモス海賊団船長・ベルモスは、倒れた老婆の額にそっと触れる。

 すると、みるみるうちに老婆の顔は青ざめていき、体はわなわなと震え、歯がガチガチと音を立ててぶつかり始める。まるで、熱病にかかって寒気に襲われているかのようだった。

 

 ……否、本当に病に襲われているのだ。

 

「どうだババァ? 俺の……」

 

「何を……しておるのじゃぁあ―――っ!?」

 

 しかし次の瞬間、地面の中から突如として、1人の少女が飛び出した。

 

 その少女……スズは、飛び出すと同時に腰に差していた刀2本を抜き、げらげらと笑っていたベルモスめがけて振り下ろす。

 

 ベルモスは間一髪それに気づいて回避したが、完全にはかわしきれず、上着が軽く傷ついた。

 

「あァ!? 何だてめえ、あぶねえな……しかも今、どこから出てきやがった?」

 

「はぁ、はぁ……お主ら、海賊じゃな!? 皆に……じい様達、ばあ様達にいったい何をした!?」

 

 質問に答えることなく、逆に聞き返してくるスズに、苛立ったベルモスだったが、すぐににやりと笑みを顔に浮かべて……そのあたりに転がっている老人達を見下ろして言う。

 

「さあな……そいつらに聞いてみろよ。『病気』のことは、かかってる本人に聞くのが一番だ」

 

「病気じゃと……!?」

 

 その不穏な文言が引っかかったスズだったが、倒れている老人達のことが気にかかるのも事実だったため……不意打ちを受けないようにだけ、海賊達に注意しながら、近くにいた1人の老婆……今さっき蹴飛ばされた人に駆け寄る。

 そしてその、やせ細って軽い体を抱き起こして問いかけた。

 

 ……その様子を見て、なぜかにやりと笑みを浮かべるベルモス。

 

「ばあ様、しっかりしろ! 何があったのじゃ、奴らに何をされた!?」

 

「す、スズちゃん……」

 

 わなわなと震え、ガチガチと歯が音を立てる中……老婆は必至で口を動かし、何かをスズに伝えようとする。

 しかしそれは、スズが聞きたかった内容ではなく……しかし、老婆が最も早く、スズに伝えなければならないと思ったことだった。

 

「ダメだ、よ、スズちゃん……離れな……う、感染(うつ)っちまう……病気が……!」

 

「!? 病気……って、一体何の……っ!?」

 

 異変は、すぐに起こった。

 

 老婆を抱き起し、抱えていたスズの体に……強烈な寒気が走り、力が抜けていく。

 目の前の老婆と同じように、手が、顎が細かく震え、歯がガチガチと鳴りだした。

 

(なんじゃ、これは……!? 今言っていた、『病気』……!?)

 

「ぎゃはははは! どうだガキ、俺の『熱病』は? 体の震えが止まらねえだろう!」

 

「病気……一体、何を……能力者か!?」

 

「その通り! 俺は『シクシクの実』の病気人間! 触れた相手を様々な病気にかからせることができる……そしてその病気は、触れた相手にも感染していくって寸法だ。その婆にかけた熱病が、抱きかかえたお前にも感染(うつ)ったのさ!」

 

 言いながら歩いてきたベルモスは、どうにか老婆の体を抱えているスズの顔を……思い切り蹴飛ばした。

 

 しかしその瞬間、スズの体は衝撃と共に泥になって飛散し、びちゃ、と地面に飛び散る。そして飛んだ先で再び人の姿に戻っていた。

 

「あぁ!? 何だよお前も能力者か……しかも何だコレ!? 泥じゃねえか、汚ねえな! ああくそ、靴が汚れちまったじゃねえか、イライラするぜ……くそが!」

 

 言いながら、そこにいた老人――先ほどまでスズが抱きかかえていた、しかし蹴られた拍子に離してしまった老婆だ――を蹴飛ばして八つ当たりをするベルモス。

 それを見て、寒気をも忘れる勢いでスズの頭に血が上る!

 

「やめろ! それ以上……この島の者達に手出しをするな!」

 

「あぁ!? 俺に命令してんじゃねえよクソガキ! そんなにやめてほしいなら、自分で止めてみやがれってんだ! できるもんならな!」

 

 それを聞いてスズは、先ほど一度鞘に収めた刀を再び抜き放つ。

 しかし、その手も『病気』に蝕まれてがくがくと震えていて……そもそも、立っているのがやっとではないかという状態だった。満足に動くことすら、とてもできそうにない。

 

 そんなスズをあざ笑うかのように、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべて見下ろすベルモス。

 

「ぎゃははは……安心しろ、お前はこのジジババ共みてえに殺したりはしねえよ……攫って、奴隷商にでも売り飛ばしてやる。全く、食い物も金目のものもねえんで、無駄足だったかと思ったが……中々見た目もいい、売り物になりそうなガキが見つかってよかったぜ」

 

「……っ……!」

 

「おいお前ら、このガキ捕まえて牢屋にでもぶちこんどけ! 能力者みてえだから、多少乱暴にしても大丈夫だろうよ」

 

 怒りと恐怖が入り混じったスズを見下ろしながら、ベルモスは手下たちに指示を出す。

 

 しかし、返事がない。

 少し待って見ても……返事はもちろん、無力なスズを自分と同じように、下品な声であざ笑うような声すら聞こえてこない。

 

 そのことにまた機嫌を悪くしたベルモスは、ちっ、と舌打ちをしながら振り向いて……

 

「おい、お前ら何……を……!?」

 

 そこで……今まで自分達と共にいた手下達が、全滅している光景を目の当たりにした。

 

 さっきまで自分と共に、スズや老人達をあざ笑ってげらげら笑っていたはずの面々が……1人残らず、白目をむいて倒れ伏している。口から泡を吹いていたり、がくがくと震えている者もいた。

 しかし、誰1人……ほとんど傷らしい傷も追っていない状態でだ。

 

「…………は?」

 

 わけがわからない、といった様子で唖然とするベルモス。

 その視界に、建物の陰から……1人の女性が姿を現した。

 

 背が高く、ふんわりとしたボリュームのあるプラチナブロンドの髪が特徴的な、見た目の整った女性だった。服の上からでも分かるくらいにスタイルはよく、顔も、100人が100人『美女』と表するだろう外見である。

 普段のベルモス達であれば、極上の『商品』になる獲物だとして、小躍りしそうなくらいに喜んだだろう。

 

 しかし、部下達が一言も何も発せずに地面に転がった、死屍累々と言っていいような状況の中で……その美女が向けてくる冷たい視線は、かえってベルモスを困惑させ……あるいは、恐怖すらいだかせるものだった。

 

「なん、だ……お前……!?」

 

「…………」

 

 何も答えず、その女性……スゥは、スズのところまで歩いて行き……震えて今にも倒れそうなその体を引き寄せ、胸に抱きかかえた。

 

 それを見てにやりと笑うベルモス。

 謎の美女は得体が知れなくて不気味だったが、『病気』にかかったスズに触れた。これでこの女も病にかかり……抵抗する力は失われるはずだ、と。

 

 しかし、その予想に反して、スゥが体調を崩す様子などは……一向にない。

 

 いや、ほんの一瞬、体が震えたかのように見えたが……それはすぐに収まってしまった。何秒経過しても、平然とそこに立っている。

 

 それどころか、抱きかかえているスズの方までもが……だんだんと震えが収まり、顔色がよくなっていく。

 これにはさすがにベルモスも困惑するしかない。自分の能力が効かないどころか、既に『病気』に侵されたはずの者までもが。それを解除されてしまっている。

 

「……え、あ、あれ……? 震えが……何で……」

 

「……スズちゃんはともかく、そんな風にあんた自身驚いてるところを見ると……自分の能力ってもんを理解してないな。干渉系の能力は、過剰な『覇気』で防げるし、ものによっては解除できる……いや、そもそも『覇気』自体知らないのかな。まあ、こんな『前半の海』のさらに中盤程度の海賊じゃ無理もないか」

 

「何を言ってやがる!? お前……お前いったい何者だ!? 能力者か、くそ……何で俺の能力が効かねえんだよ!? 何の能力だ!?」

 

「残念だけど、懇切丁寧に説明してやる気も、そんな時間もないんだ。さて、見たところ『超人系』のようだけど……この手のは、能力者本人が気絶すれば解除されるってのもパターンだな……そうなってくれれば、手間が省けていい」

 

「あァ!? 何だてめえ、やろうってのか!? 俺を誰だと―――」

 

 

 ―――ド ク ン!

 

 

 最後まで言うより先に、部下達と同じように……あっさりと『覇王色』で意識を刈り取られたベルモスは、あおむけにどう、と倒れこんだ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 相手してる時間も惜しいので、海賊連中はさっさと『覇王色』で気絶させた。

 

 そしてその直後、おじいさんおばあさん達のうめき声が若干軽くなり……『見聞色』で感じ取れる苦痛の『声』も小さくなった。

 どうやら、頭目の気絶と共に、能力はきちんと解除されてくれたらしい。

 

 さて、ここに来るまで私達が何をしていたかというと……だ。

 

 泥の中を潜って高速で下山していったスズちゃんを追いかけて、私とレオナも山を下りたわけだけど……その途中、登山道で倒れこんでいる一人のおじいさんを見つけた。

 

 たぶんだけど……山の上にいたはずのスズちゃんや私達に、この事件……海賊の襲撃を伝えるために、『病』に侵されたのを押して山を登っていたんだと思う。

 しかし、力尽きて途中で倒れてしまった。

 

 スズちゃんは登山道も無視して一直線に走っていったから、このおじいさんには気づかなかったようで……私達はそのおじいさんを助けていたので、少しここに到着するのが遅れてしまった。

 

 その際、おじいさんに触れたことで『病』が私達にも感染してしまったんだけど、どうにかならないかと思って私が力いっぱい覇気を体に漲らせたら、病を押しのけて解除することができた。

 いや、その後レオナに触れたら、レオナの方も病が治ったみたいだったから……あれってもしかして、覇気を使って病気を治すと、『抗体』か何かができるのかな? そして、それも手を触れることで他人にうつせるとか? 多分合ってると思う。

 

 そんな感じで、偶然見つかった対処法でおじいさんの病気も治し、そのおじいさんはレオナに任せて、私は大急ぎで村に降りて来た。

 そこで、スズちゃんが震えながら――恐怖による震えじゃないのは一目でわかった――海賊達と相対しているのを見て、とりあえず『覇王色』で手下たち全員を気絶させた。

 

 残る頭目が、どうやら予想通り『能力者』のようだった。

 尋問する目的で1人残してたんだけど、する前に勝手に話してくれたので、さっさとそいつも気絶させて……すると、皆にかけられていた病気が解除された、ってわけだ。

 

 しかし、これで一件落着……とはならない。

 

 もちろん、この海賊連中は後で適切に『処分』するけど……それよりも問題は、ご老人達だ。

 

 どうやらこの海賊達……奪うものもなければ攫う者もいない現状に逆ギレして、ご丁寧にも村の全員に『病』を感染させていたらしいのだ。

 その『病』自体は消えたし、かかっていた時間もごくわずかだった。

 

 けれど、もともと老齢による肉体の衰えに加え、毒を含んだ食材を恒常的に口にしていて生命力が衰えていた老人達には、そのわずかな間の『病』のダメージも……致命的なものだったのだ。

 

 急いで村中の老人を、村で一番広い家に集め、野戦病院みたいな有様になった家の中で手当てを行ったけど……率直に言って、芳しくない。

 

 私の医学知識は、航海に出るものとしてのほぼほぼ最低限くらいしかないんだけど……そんな、ほぼ素人目の診察でもわかってしまうくらいに……皆、状態が悪い。

 

 多分……もう、長くない。

 

 その事実を告げると……まあ、正直そうなるだろうとは思っていたけど……スズちゃんは、顔色を真っ青にして……信じたくない、とでも言いたそうな表情になっていた。

 

 

 

 

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