大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第91話 スゥとレオナとスズ、旅立ち

 

 

「すまないねえ……スズちゃん。お前さん達も……最期まで迷惑をかけてしまって」

 

「最期なんてそんな、悲しいこと言わんでくれ、ばあ様……わしは。わしはまだもっと……もっと皆と……!」

 

 海賊の襲撃があった、その翌日。

 

 『病気』こそ治ったものの、そのせいで体力……を通り越して生命力そのものを大きく損なってしまったお年寄りたち。

 彼ら彼女らを一度に看病するため、この村で一番大きな、それでいて作りもしっかりしている家に集めて寝かせていた。

 

 その中の1人であるおばあさん……比較的状態がマシだったために、上体を起こすこともでき、しゃべることも普通にできる人が、私達を呼んで……ぽつりぽつりと話し出したのが、今だ。

 

「自分の体のことじゃ、誰よりもわしが一番よくわかっとる。……いや、おそらくはわし以外の年寄りたちも全員そうじゃろうて……じゃからこそ、スズちゃんにはきちんと伝えねばならん」

 

 そこで一旦切って、おばあさんはスズちゃんの目を見て言う。

 

「スズちゃんや……この人らについて、この島を出なさい。お前さんはまだまだ子供……これからずっと長く人生が続くんじゃ。自分だけの、後悔のない人生を見つけんといかん」

 

「それはっ、でも……!」

 

「どの道……わしらはもう手遅れじゃ。もう長いことない……いや、もしかしたら、今日明日にもお迎えが来るかもしれんしの……それでも、備蓄してある食料や、この近くで取れる山菜や魚で、少しの間食いつなぐことならできる……きっと、それらが尽きる前には、わしらも……ごほっ」

 

 ……ひどいことを言うかもしれないが、多分その通りだと思う。

 素人の私から見ても、ご老人達の状況はかなり深刻で……正直、その備蓄とやらの出番が来るかどうかも怪しい。今言った通り、1日2日が峠だって人がほとんどだろう。

 

「じゃからもう、お主がここに縛り付けられる必要はないんじゃ……スズちゃん、お前さんはもう十分苦労した。これからは自分の好きなように、やりたいことをやって生きるんじゃ。やりたいことがないのなら、それを探すためにも、この島を出て……色々な物事に、見て、触れて……」

 

「……っ……」

 

「わしらのことを悲しむ必要はない。もうわしらは、ぎょうさん生きた。ここで朽ちていくのを待つばかりかと思って島に来て……それなのに、お前さんという、新しい『孫』に出会えて、一緒に暮らせて……皆、最後に最高の思い出ができた。もう、思い残すことなぞ何もない。じゃから最後に……わしらの望みをかなえとくれ、スズちゃん」

 

 一拍。

 

「幸せになっとくれ。わしらの分も、幸せに、豊かに、長生きしておくれ。それが、わしらの……何よりの喜びで、最後の願いじゃ」

 

 おばあさんは、もうほとんど力の入らないであろう腕を一生懸命持ち上げ、伸ばし……骨ばった手で、スズちゃんの頭を優しくなでる。

 これから死ぬとわかっている人だとは思えないくらい、優しくて穏やかな目。スズちゃんという『孫』の幸せを、心から願っている……祖母の目だ。

 

「……卑怯じゃ。そんな言い方……そんな風に言われたら、わしは……」

 

「ひゃひゃひゃ……そうとも、年寄りは長く生きておる分、無駄に頭も口も回るんじゃよ……それが、大事な孫のためならなおさらな」

 

 そしておばあさんは、私達の方を見て、

 

「……お前さん達にも、最後に迷惑をかけてしまう。じゃが……どうかお願いしたい。この子を……島の外へ連れ出しておくれ。どうか、この子が平穏に、しあわせに暮らせるところまででいいから……あんた達になら、この子を……」

 

「……ええ、任せてください。もっとも……スズちゃんが望めば、ですけど」

 

 そこまで言って私は、そしてレオナもおばあさんも……視線だけでちらりとスズちゃんを見る。

 スズちゃんは、涙が出そうなのを懸命にこらえながら……上を向いて無理やりそれを止めるようにすると、こちらもきちんと、おばあさんの目を見て話す。

 

「安心せいばあ様! わしは……わしはここを出ても立派にやっていっていせる! いつか……まあ、何十年後になるかわからぬが、わしが死んであの世に行って、また会えたら……その時は、どれだけ楽しい、幸せな人生を過ごしたか、たっぷり土産話持って行って聞かせてくれるわ! じゃから……じゃから、心配せんで……っ……!」

 

「ひゃひゃひゃ……それは、楽しみじゃな……」

 

 こらえるのちょっと失敗したな、スズちゃん。

 顔は笑顔だけど……目の端に、きらりと光るものがはっきり見える。

 

 けど、それに触れることもなく……おばあさんは、本当に安心したような、幸せそうな笑顔を浮かべて……腕が上がらなくなるまで、スズちゃんの頭をなでていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 それから数日後。

 島のお年寄りたちは……1人残らず息を引き取った。

 

 その全員の埋葬までを、私達は3人で協力して済ませて……今この島には、生きている人間は、私達3人しかいない。

 

 そんな中で、私は……スズちゃんの案内で、彼女の家に来ていた。

 

 これからスズちゃんは、私とレオナと一緒にこの島を出るわけだけど……その前に、準備というか、荷物の整理とかをしておかなきゃいけないからね。

 もっとも、ほとんど私物なんて何もないらしいから、すぐ終わるって話だった。

 

 ……だったんだが……結構あるね、荷物。

 

「わしのというよりは、わしをここに連れて来たじい様とばあ様の私物じゃ。2人が亡くなった時に、もしかしたらいつかわしが使うかもしれんからと言って、島の者達に頼んでしまっておかせたらしい。せっかくじゃし、使えそうなもんは持っていかんともったいない」

 

 たしか、スズのおじいさんおばあさんは、『ワノ国』から来たんだっけ。

 何か、その国の特産品みたいなのが……いや、見る限りはあるようには見えないな。

 

 なんか、時代劇で見るような、平たくて大きな『編笠』って奴とか……そのおじいさんおばあさんが使っていたんであろう刀とかならあるけど、それ以外は……何だコレ? 巻物?

 

「母ちゃん、何て書いてあるんだそれ?」

 

「ちょっと……紙の劣化が激しくてほとんど読めない。それに、文字自体が達筆すぎて……スズちゃん、コレ何て書いてあるのか知ってる?」

 

「知らん、けど……文字の読み書き自体は習ってるから、読めんことはない。どれどれこれは……あーすまん、やっぱ後で」

 

「えー、何で!?」

 

「……こういうの、アレじゃ。掃除とかしてて懐かしい思い出の本とか見つけて、ついついそういうの読みふけってしまって永遠に掃除終わらんくなるパターンじゃ。知ってる。……じゃから後でまとめて説明するから待ってくれ」

 

 うわ、すげえ説得力。私も何回も心当たりある。

 もう10年以上前になるけど、ステラと同居してた時に、大掃除の最中に昔好きだった本見つけてじっくり読んでて、気が付いたら暗くなっててステラに『余計散らかってるじゃない』って呆れられたっけな……ははは、今となってはいい思い出だ(汗)。

 

 お預けを食らったレオナはちょっと不満そうだったけど、我慢することにしたようだった。

 

 そのまま3人で協力して、荷物の仕分けをしていく。

 

 そして、小一時間ほどでそれは終了。島を出るにあたって、スズちゃんが持っていくものが出そろった。

 

 と言っても、そんなに多くはない。

 さっき言った編笠と、形見だという2本の刀――結構立派な作りだし、名刀では?――と……何やら重要そうな巻物がいくつか。

 

 それに、何だコレ……『印籠』ってやつか? 水戸黄門でお供の人がクライマックスで掲げて、悪人達が一斉に『ははーっ!』ってなる奴、家紋も入ってるし。

 作りも丁寧だし……こんなもん持ってるってことは、ワノ国では結構な名家だったとか?

 

 そんで、そこに入ってる家紋だが……いや見てもわからないんだけどさ。

 形的には、5枚の花弁を持つ花、みたいな……

 

「なースズ、何だコレ? オモチャか?」

 

「いや、何ぞ大事なものだったらしいが……教えてはくれんかった。一応持っておこうと思ってな……でも多分、ほら」

 

 その印籠を上下に引っ張ると、ぱかっ、と開いた。

 

「こんな感じになっとるから、小物入れか何かだと思う」

 

「へー……何か大仰なつくりだな。変なマーク入ってるし」

 

 ……まあ、実際の『印籠』も、権力者の身分証明書じゃなくて、常備薬とか入れておく小物入れとして使われてたらしいからな。

 

「そんで、結局そっちの巻物は何なんだ?」

 

「ああ、これな……『黒炭家秘伝ノ書』と書いてある。あちこち傷んでいる上にくすんでいるゆえ、気合入れて解読してみんと何とも言えんが……なんぞ、剣術やら何やらの指南書のようじゃな」

 

「ふーん……ってことは、その『クロズミ』ってのがスズの名前なのか?」

 

「ん? ああ……そういえば名乗っとらんかったの」

 

 そう言うとスズちゃんは、その場に正座し……会釈程度に軽く一礼すると、

 

「わしの名は『黒炭(くろずみ)(スズ)』。ワノ国出身で、『黒炭家』の末裔じゃ。……いやまあ、その『黒炭家』が何なのかとかはわしも全然知らんのじゃがな。以後、よろしく頼む……スゥ、レオナ」

 

 そう、改まって挨拶してくれた。

 『黒炭スズ』ね……それがスズちゃんの本名か。やっぱ日本ちっくなんだな。

 

「はい、よろしく。……それじゃ、そろそろ出発しようか。船に乗ったら、自分の家だと思ってくつろいでいいからね。気楽に行こう」

 

「よろしくなー、スズ!」

 

「うむ!」

 

 そう、元気よくスズちゃんが返事をして……私達3人は、スズちゃんの家を出た。

 多分もう二度と、この家に戻ってくることはないんだろう。

 

 スズちゃんは、村から港に場所を移し、船に乗り込む際……一度だけ村の方を振り返った。

 しかし、何も言わず――もしかしたら、心の中でだけ『いってきます』とでも言ったのかもしれないが――にっこりと笑って、私の船に飛び乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 ちなみにこれは余談なんだが、

 

 その『毒島』の一件のしばらく後……といっても、何年も経ってからだが。

 

 『ジバイラネ王国』で、老人を『定期便』に乗せて『ウーバステン島』に送る因習は、縮小気味になっていき……やがてなくなったらしい。

 

 理由は……わからないけど。

 

 

 

『それらの難題を解いたのは、私ではなく、私の老いた母です。老人達は、私達よりも長く生きて、私達より多くのことを経験し、多くのためになる知識を持っているのです』

 

 

『おじいちゃんを載せてきた背負子は、一緒に捨てないで持って帰ろうよ。お父さんを捨てる時にまた使うから』

 

 

『なぜ枝を折って落としているのかって? お前が帰る時に迷わないように、目印にしてあげるためだよ』

 

 

 時を同じくして、そんな内容の子供向けの絵本が――私こと『海賊文豪』の作だとわからないように、ペーパーカンパニーの別名義で――いくつか出版され、世界に出回って読まれ、『深い話だ』と子供だけにとどまらず一時期ブームになったそうだけど。

 お年寄りを粗末に扱う風習を、噂でも持っている国や地域、村なんかは、あちこちで噂され、白い目で見られるようになったそうだけど。

 

 果たして……関係あるのかはわからないね。

 

 

 

 

 

 

 

 





今回は珍しく、ちょっと重めで悲しい話になってしまいました。

それと、スズの素性については……さー果たして書くというか、使う機会が来ますのやら……?
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