レオナとスズと一緒になっての3人旅の最中、地図にない島を見つけて上陸してみた私達。
ちょっとした冒険心からのことだったんだけども……正直今、その判断を若干後悔し始めている。
とりあえず一言。
この島、というかこの国……ひっでぇ。色々。
(貧困国……にしたって色々と酷すぎるだろ。いくら『非加盟国』だからって……いやまあ、仕方ない部分もそりゃあるんだろうけどさ)
到着した国は、世界政府に加盟していない……いわゆる『非加盟国』だった。
そして、それゆえに海軍による庇護も治安維持も何もなく、海賊やら人攫い、その他アウトロー達が横行闊歩する無法地帯となってしまっている。
……まあ、ここに限った話じゃなく……非加盟国は総じてほとんどどこもそんな感じではあるけどもさ。
それでも実際に目にしてみると……やっぱりというか、ろくでもなさが全面に押し出されてるよね……。
ぶっちゃけ、子供の教育に悪いよ、ここ。いろいろな意味で。
スズとレオナを連れてくるんじゃなかった、と今思ってる。
「なんというか、これは……ひどい有様じゃな。ばあ様達から聞いていた、外の世界の『国の在り方』とは全く違うの……この状態で、海軍も、国の正規軍も、何も動かんのか」
「そういうのは一部の偉い人達を守るので忙しいんだろ……多分だけど、ここよりまともに人間が普通に暮らしてる場所もあるんだと思うよ。それが同じ国とは思えないくらいに、こういう場所と差をつけてるだけでさ」
「お、レオナ賢いじゃん。正解。ここはまあ……同じ国の中でも、吹き溜まりというか……アレな身分の人達が集まってる場所なんだろうね」
おそらくどこかにあるんだろう、裕福な人たちが住む場所と、こういう、そうでない庶民、あるいはそれ以下の人達が住む場所が明確に区別されてる。
ワンピース原作で言えば、『ゴア王国』みたいなもんなのかな。そこに例えると、ここはさしずめ……
もしかしたら、仮にも『加盟国』ではある『ゴア王国』よりも、ここはひどいのかもしれない。……原作で描かれた部分しか、私はあくまで知らないからな。
それに対して、今こうして目の前にしているこの国はというと……中々パンチが効いた『酷さ』がそこらじゅうに転がっている。
少し歩いてみただけでも、道の端には物乞いや浮浪者が何人も。
手癖の悪そうなのも混じって……っていうか過半数だな、雰囲気的にむしろ。値踏みするような目でこっちを見てる。……警戒しておかないとな。
あちこちで怒号や悲鳴が上がってる。内容からして、スリ窃盗に強盗、殺人……人攫いなんかもいそうだな。人目をはばかることなく、堂々と活動してるようだ。
……私達みたいな、見た目のいい女子供3人連れなんて、そりゃ恰好の獲物に見えてるんだろうな……どんどん、狙ってる視線が増えてる気がする。
試しに、人目の少ない裏路地に入ってみると、秒で襲われた。
たぶん、人攫い。頭から布をかぶせようとしてきたので、蹴っ飛ばしてやって……そしたら今度は、棒で殴って気絶させようととびかかってきた。
が、チンピラの域を出ない程度の力しかなかったので、さくっと返り討ちにできた。
わたしだけじゃなく、スズやレオナも普通に戦って撃退できるくらいでしかなかったので、ホントに弱かった。
相手の力量ってもんを推し量れなかったことからしても、単なる小悪党でしかなかったな。
……で、ほんの10分少々の間に、そんな感じの連中から3回も襲われた。
最初の人攫いの後、強盗犯に襲われて、それも撃退したら今度は単に欲望丸出しの浮浪者集団に襲われて……
さすがにうざくて嫌になったので、さっさと大通りに戻った。
こっちの方がいくらか治安はマシだ。……誤差の範囲だろうけど。
それに……襲われる以外にも、いくつも『酷い』ところは目に入ってきた。
さっきも言った、物乞いや浮浪者がいることや、あちこちで悲鳴や怒号が聞こえてるのに加えて……なんか怪しそうなものの売り買いがあちこちで……。
……向こうに見える人、何か白い粉を小さなパックにつめて売ってるように見えたのは気のせいですかね? ……粉せっけんの試供品かな?(すっとぼけ)
そこらの店の中をちらっと見たんだけど……世界政府が『禁制品』にしてるものが、ぱっと見ただけでもいくつか並んでた気が……。
一般には流通しないはずの、希少種の電伝虫も売られてた。『黒』とか『白』とか。
……本物かどうかはわからないけどね。こんな場所で、こんな風に雑に売られるようなものじゃないはずだし……
さらには、道端に立っていた女性が男性に声をかけられて、二言三言話したかと思うと、その手を取って安宿に一緒に入っていったんだが……アレってもしかして……そういうこと?
まあ、アレは人類最古の職業の1つだって言われてるくらいだからな……元手0で、体さえあればできる仕事なわけだし、こういう場所で横行するのも当然と言えば当然か……。……何にしても、特に教育に悪いな……。
そして……やっぱりいました奴隷商人。
人攫いとセットで必ずと言っていいほど無法地帯には存在するからな……爆発首輪じゃなくて、ただの頑丈な首輪みたいだが、それをはめられ、光の消えた目をした、痩せた人間が子供から大人まで、道端に立たされて売られてる。
それらを眺めつつ、ひととおり町を見て回った私は……よし、と一言呟くように口にしてから、レオナとスズに声をかけた。
「出ようか、この国」
「「賛成」」
ここで得られるものはない。あっても居たくない。
3人の意見が一致しました。
見たくもない、見ていても楽しくもない、見ない方がいいものが多すぎる。
百歩譲って私一人なら、こういう場所の取材もたまにはいいか、って見て回ったかもしれないけど……子供2人連れて滞在するような場所じゃない。間違いなく。
……もっとも、この都市にも子供は――ストリートチルドレン的な感じで――何人もいるみたいではあるし、その子達の存在そのものをどうこう言うつもりはもちろんないが……とりあえず、うちの子2人をここに居させたいとは思わないです。
経験も何も今はいいから、さっさと国を出たい。
でないと……
「よぉ、姉ちゃんたち、見ねえ顔だな?」
「よかったら俺達がこの町を案内してやろうか? ひひひっ」
……こういうのに絡まれるからね。
裏路地だけじゃないか、やっぱ。大通りでも普通に声かけてくる奴はかけてくる。
それも、結構な数の仲間をきちんと引き連れて……最初から穏便に済ませるつもりがない感じで。実力行使で攫って、色々する気満々だ。
……何を想像しているのか知らないし、考えたくもないが……ズボンの前の部分が突き出す形でもう変形してるので、考えるまでもなくわかってしまうというね。
「運がいいな俺達。余所者だろうが……こんな上玉なかなかお目にかかれねえぜ」
「ああ、全くだ。こりゃ今夜は朝まで楽しめそうだな」
「他のグループの奴らにも声かけるか。これだけの女なら、相当金とれるだろうぜ」
「白髪の女もいいけど……俺はあの黒髪のガキも中々よさそうだな」
「おれは灰色のガキかな。細身だけど気が強そうで、いい声で鳴きそうだ」
全く、どいつもこいつも……聞くに堪えない欲望を垂れ流しやがって。
しかも、一緒に『使う』つもりなのか……まだ小さい、スズ達と同じくらいかそれより少し年上なくらいかな、って年頃の女の子を、何人か縛って連れている。
恐怖にゆがんだ顔をしている子もいれば、諦めたのか、死んだ目をしている子もいる。油断なく周囲の様子をうかがって、隙を見つけて逃げようとしている子もいるようだ。
多分……男達の頭の中では、あの子達と一緒に、私達をどこかに連れ込んで色々やってるところまで妄想が進んでるんだろうな。
本当、教育に悪い。そう思いながら、私は、背負っていた番傘に手をやった。
そこから、逃げようとした私達を男達が追いかけて来て、路地裏に逃げ込んだところを人海戦術で追い詰めて、
しかし、逆に逃げ場がないところに誘導されたのだと男達が気付く前に……ボッコボコにした。
この国にきて1時間も経ってないのに、もう50人以上ぶっ飛ばしたな……このエンカウント率の高さと、その質の悪さったら……これまで私が回ってきた国、それも非加盟国に絞って思い出してみても、割と有数じゃないか?
まあ、非加盟国ってこんな風に無法地帯になってアウトローが跋扈するか、そうなる余力・気力すらない廃れた街並みになるかの、ほとんど二択みたいなとこあるしな……。
溜息をついていた私が、ふと見ると、視界の端で……さっきまで男たちに捕まっていた女の子の1人が、こそこそと動いていた。
何をしているのかと思ってみてみたら、なんと、倒れ伏した男たちの懐をあさり、財布を失敬していっている。
なんとまあ、たくましいことだ。取れる時に取れるところから取るってか。こういうのも、この国での生活の中で、悲しくも自然と鍛えられてしまう部分なのかな。
けど、捕まってた他の子たちは、私がこいつらをぶっ飛ばしたと同時に、蜘蛛の子を散らしたように逃げて行ってしまったので……この子が特別図太いのかも?
「にひひひ……予想外に大儲けしちゃった。さすがはフランストンのグループ、結構持ってるなー……ん?」
そんなことを考えながら見ていると……その突然、私の視線に気づいたのかはわからないけど、その子が私達の方を向いて、目が合った。
「あ、お姉さん達もどう? よく考えたら、こいつら倒してくれたのお姉さん達だもんね。半分でいい?」
「いや、要らないよ。別にお金が欲しかったわけじゃないし」
お金に困ってもいないしね。
それに、なんかこいつらが持ってたお金とか、汚れてる感じがして使いたくない……お金そのものに善悪とかはないって、頭ではわかっててもさ。気分的に嫌だ。
「そう? じゃあお言葉に甘えてボクが全部もらうね。にひひひ♪」
嬉しそうに札束とコインを数える女の子。
……やっぱ特別図太いというか、豪胆な感じなんだと思えてきた。
「そうだお姉さん、お姉さん達って島の外から来た人たちだよね? もしよかったら……ボクがこの島、案内しようか? 助けてくれたお礼にさ」
と、女の子から申し出てくれた。
治安が比較的マシなエリアとか、汚いだけじゃないこの町の穴場とか、普通の人達が生活してる『中心街』の入り方とか……色々知ってるよ、とのこと。
ふむ……穴場、ね。ちょっと興味あるにはあるけど……今回はいいかな。
とりあえず今日はもう、さっさとこの国を出てしまいたい。幸いまだ日は高い時間だし……
その旨を伝えると、なぜか女の子は『うーん……』と少し悩むようにして、
「それはやめた方がいいと思うけどな。今日と明日はこの国にいた方がいいと思うよ?」
「? 何で?」
「お姉さん、海賊でしょ? 手配書、見たことある」
「!」
あっさりとそんなことを言い当ててきた。
なんだ、知ってたのか……割と物知り、ないし情報通でもあるのかな、この子。
まあ、新聞に挟まってる手配書見てれば誰でも知ってることではあるけど……でもこんな町で新聞読む人なんてごくわずかそうなのにな……。
「そんなお姉さんに悪いお知らせなんだけどね……毎月この時期は、海軍がこの国にやってきて、同時にこの近くの海域のパトロールを強化するんだ。裏取引が活発になるから、その闇商人の船を検挙するため……っていう名目でね。ちなみに今月は、まさに今日からだよ」
うげ……マジか。
もしそれが本当なら……確かに、今出るのは危険かも。そんな理由で網を張ってるなら、不審な小型船なんて一発で呼び止められちゃうだろうし……夜でもその警戒網が緩むとは考えづらい。
まずったな……悪いタイミングで来ちゃったのか。
「だから、その期間が終わる明後日の昼くらいまで待った方がいいと思う。幸い海軍の人達が行くのは『中心街』だけだし、あと海はパトロールするけど……このへんは放置だからさ。マシな宿を選んで泊まれば数日くらいなら大丈夫だと思うよ。そういう宿もボクなら案内できるし」
女の子はそれに加えて、今この場で答えを求めることはしなかった。
『ボクの言うこと信じられないかもだし、港を見てきなよ。たぶんもう海軍の船が来てるから』って、私達に自分の目で状況を確かめる時間と機会をあえてくれた。
その間、自分はある場所で待ってるからって。もし『案内』を頼む気になったなら、そこに来て声をかけてくれって。
そう言い残して、その場からさっさと歩き去っていった。
その去り際に、
「ああそうだ、ごめんごめん。自己紹介まだだったね。ボクはアリス。よろしくね、『海賊文豪』のお姉さん♪」
こんな吹き溜まりの町に、いっそ似つかわしくないくらいの、明るくてかわいらしい笑顔でそう言って、その子……アリスは今度こそ歩き去っていった。
来たことを後悔した理由は、『教育に悪い』でした。
そして、本章最後、3人目のオリキャラ登場です。