大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第95話 スゥとアリスと炊き出し(?)

 

 

 どう考えても騒音被害のこととか考えてないな、ってレベルの銃撃戦が外で繰り広げられてて、絶対眠れないであろうレベルだったので……気になって外に出て見に行った。

 恐らくは、昼間アリスに聞いたギャングとか何かしらの集団が――聞こえてくる銃撃の応酬がどう考えても複数対複数なので――抗争してるんじゃないかと思われた。

 

 そんなのを見に行くなんて流石に危険かとは思った。流れ弾だって飛んでくるかもしれないし……私は銃弾なんて当たっても効かないけど、2人は……。

 

 ……と思ったけど、いや、この2人も普通に平気だな。

 

 スズは言うまでもないだろう。

 『ドロドロの実』……『自然系』の能力者だから、物理攻撃はオート無効である。覇気でも纏ってれば別だが、『見聞色』で見てみた限り、そこまでの使い手は外には居なさそうだ。

 それに飛び道具に覇気を纏わせるのって、かなりの高等技術だしね……弓矢とかならまだしも、銃弾は相当に難しいって聞いた。相性もあるんだろうが。

 

 レオナは『動物系』だけど、銃弾くらいなら当たっても全然効かないレベルの肉体強度をデフォで持っている。『あらゆる武器が効かない』とまで言われる『ネメアの獅子』の鋼の肉体は、人間型であってもそのくらいの防御力を発揮する。

 最初に出会った時のクレーターの大きさと、にも関わらず無傷だったのを思い出せば、そう想像するのは難しくないし……リトルガーデンでも、恐竜の牙も角も刺さんなかったしな。

 しかも、ここ最近は鍛えてるからか、さらに強靭になりつつあるし。

 

 それに加えて、宿に誰か残しておくってのもそれはそれで不安だったので……3人そろって夜の散歩に行くことにしました。

 

 ……暗くてあんまりよく見えなかったけど、銃火がパンパン光って怒号や悲鳴や響き渡ってたので、ああ、抗争だな、ってのはなんとなくわかった。

 『見聞色』研ぎ澄ませても大体同じだったな……誰が誰か判別できるわけじゃないから、すごい敵意とか殺意のぶつけ合いだな、ってのがわかるくらいだった。

 

 けど、レオナはネコ科の肉食獣の目を持ってるからか、暗闇でも割と見えてた方だったみたい。

 なので、わかる範囲で解説してもらうと……

 

「……なんか、割と一方的だな。片方は必死で守ったり逃げようとしてて、もう片方は逃がさないように追い詰めて、皆殺しにしようとしてる感じ」

 

「どちらかがどちらかに攻撃を仕掛けて、その奇襲か何かが上手く行ったのかの? そしてそのまま大勢が決してしまい、それを覆せずに……といったところか?」

 

「まだ始まって割と時間短いから、勝負が二転三転したとは考えにくいだろうしね……たぶんスズの想像で合ってると思う。ということは、もともと計画されてたものだったんだろうな、この抗争……というか、襲撃か」

 

 私達には、どっちがどんなギャングなのかとかその辺の知識は全然ないから、それ以上を推察することはできないし、その意味もないんだけどね。

 

 何にしても……こんな夜中に近所迷惑な騒音を伴って抗争なんてやめてほしいもんだよ。

 

 そんなことを考えていたら、不意に銃撃音が聞こえなくなり……ふっといきなりあたりが静かになった。

 全く静かになったわけじゃなくて、何度か銃声は響いたりしてるが……ほぼ単発とかで、すぐにそれすら全く聞こえなくなった。

 

「……終わったみたい。攻め込まれてた方が撃ち返さなくなって……攻めてた方がそのアジトっぽいところに突入してった。反撃とかがないとすると……全滅したかな?」

 

 時間にしてほんの数十分ほどのことだった。長いのか短いのか……?

 

 けどまあ、これでどうにか寝られそうではあるな。

 さーて、帰ろうか。これ以上ここにいても何もすることないしね。……まさかあの現場に行って『取材』なんかすることもできないだろうし。

 

 そう言って私達は宿に戻ろうとしたんだけど……その時レオナが『あれ?』とふいに振り向いて、

 

「? どうした、レオナ?」

 

「……えっと、今そこに……アリスがいたような気がして」

 

「アリスが? ……この辺に家でもあって、うるさいから様子見に来たのかな?」

 

「本当にいたのなら随分と危ない真似をするのう。わしらと違って、流れ弾にでも当たったら大事じゃろうに」

 

「うーん……わかんない。見えたの一瞬だったし、遠くだったし、暗かったし……」

 

 ちょっとあいまいで、自分でもあんまり自信なさそうなレオナ。

 ……まあ、いいか。さて、戻って寝よう。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 次の日の朝。

 

 朝一番で宿の部屋に来たアリスが『今日も案内するよ! というかさせて!』と突然言って来たので……それに急かされるようにして、私達は部屋を出た。

 食事する暇もくれずに急かしてきたその理由は、移動しながら聞くことができた。

 

 それは、昨日の真夜中の銃撃戦にも関係していることだった。

 

 予想通り、あれはこの付近を縄張りにしているギャング同士の抗争だったらしい。

 敵対関係にある2つのギャングのうち、片方が入念な準備を重ねた末にもう片方を襲撃。奇襲は成功し、総崩れになった相手方はそのまま体勢を立て直すこともできないまま、一方的に攻め立てられて壊滅した……とのことだ。

 

 そして今、勝者となったギャング達による、ここら一帯の残党狩りや、負けたギャングの協力者だった者達に対しての捕縛・粛清などが早くも始まっているらしい。

 

 それで何で私達が急いで宿を出なきゃいけないんだろう、と思った。

 私達、そのどっちのギャングとも何の関わりもないんだけど……まさかとは思うけど、でっち上げで無関係な他人に難癖付けてくるとでも?

 

 ……ああ、そうか。別に私らはそうじゃなくても、それに巻き込まれる可能性はあるのね。

 粛清対象者との急な銃撃戦が始まってそれに巻き込まれたりとか……あるいは、粛清される側が私達を巻き込んで盾にしたり、スズやレオナを人質に取って私に『自分達をかくまえ』って言うことを聞かせようとしたり……というような心配か。

 

 まあ、そんな風な輩が来たら返り討ちにするだけだけど……巻き込まれないにこしたことはないからな、そういう面倒事は。

 

 

 

 そんなわけで今日は私達は、またアリスの案内で、騒がしいことになりそうな市街地から離れた……割と静かな川岸に来ています。

 何かコレっていう見るものがあるわけじゃないんだけど、普通に静かで穏やかな時間を過ごせるスポットということで、今日は連れてきてもらった。

 

 しかし、ここには何もないがゆえに、これといってすることもなくて……

 自然といいつつもそこそこの緑と、後は砂利の地面が広がってるだけなので、のんびりするにも1分くらいで飽きてしまった。

 

 なので、私が収納しているものの中から、人数分の釣竿を出して、釣りをすることに。

 ここは普通にきちんと魚とかは釣れるらしい。アリスに聞いた。なら大丈夫だな。

 

 私が何もないところから釣竿を出したのを見て、アリスはちょっとびっくりしたようだったけど……何か聞いてくることとかはなかった。空気読んであえて聞かなかった、とかかな?

 あまり突っ込んでほしくない、突っ込まない方がいい事柄かも、と思ったようだ。気配りのできる子である。

 

 そんなアリスの分も竿を渡し、しばらく皆で釣り糸を垂らしてみたわけだが……

 

「やべー! 何ここ、入れ食いじゃん!」

 

「うむ……さっきからひっきりなしに釣れるのう。もうバケツがいっぱいになりそうじゃ。アリスよ、お主よくこんな穴場なぞ知っておったな」

 

「い、いや……ボクもびっくりしてるというか。ここ、こんなに釣れたことないんだけどなあ……」

 

「あれ、そうなの? じゃあ、今日はたまたま魚がいっぱいいる日だったのかな?」

 

 あらかじめ言っておくけども、私やスズ、レオナが能力とか何か使って細工をした……というようなことは全然ない。

 そもそもそんなことができる能力じゃないしね。

 

 ホントに理由は不明だけど、すっごい釣れる。何コレ、超楽しい。

 

 ……そういえば、昨日から海軍の軍艦が近海をパトロールしてるんだっけ。それに驚いて逃げてきた魚群がいて、たまたまここに迷い込んできた……とかかな?

 

 アリスの反応を見るに、毎回決まったタイミングで起こるようなことじゃないんだろう。ということは……やはりというか結局というか、運、ないしタイミングがよかったのか。

 

 しかし……スズの言う通り、バケツがもういっぱいになりそうだ。

 というか、コレ……今もう既に、私達4人で食べきれる量じゃないな。絶対。

 

 時間を見ると、食事をするにもそろそろよさそうな時刻なので……この釣った魚を料理してささっと昼ご飯を作ってしまうことにした。

 

 内臓を取ったり串に刺したりといった下準備をスズに任せ、私がそれを焼く。

 

 魚を直火で焼くのって、結構難しいんだよね……生焼けになってもダメだし、かといって焦げちゃってもダメだし……火力、火との距離、ひっくりかえすタイミングなどを見極める必要がある。

 ただ焼くだけなんだから簡単でしょ、なんて思った君。やってみろ。相当な下調べやら何やらをして知識をつけた上でやらないと、泣きを見ることになるぞ。

 

 幸い私は、この30年ほどにもなる人生の中で、サバイバルっぽいことをしたことは何度もあったし、その時に『攻めの料理』の技術も応用してたっぷり練習していたので、自信はある。

 ほどなくして……全て奇麗に焼き上げることができた。

 

 焼き色、適度な焦げ目、じゅうじゅう、ぱちぱち音を立てて弾ける油、漂う香り。

 噛みつく前からふんわり柔らかく焼けたとわかる、この完成度!

 

 我ながら完璧だ! ウルトラ上手に焼けました!

 

「「美味ーいっ!!」」

 

 そしてこの反応。うーん、いつもながら我が娘たち、いい食べっぷり。

 すごくいい笑顔で美味しそうに食べてくれるので、私としても作りがいがあるってものだ。いやー……子供の笑顔ってマジで原動力になるわあ。

 

 そしてもう1人、恐る恐るって感じで焼き魚を口にしたアリスも……

 

「……っ……美味、っ……!?」

 

 どうやら絶句するレベルで美味しかった様子。へへへ、どうだまいったか。

 そのまま、一心不乱に食いついて、脂滴る焼き魚をお腹に収めていく。美味しそうにもそうだけど……すごい勢いで食べるなあ。まるで欠食児童だ。

 

 いや、正にそうなのか。そりゃあ……こんなスラム街で、仕事も選べない、収入も不安定な、その日暮らしそのものといった生活をしてるわけだからな……食べ物もそりゃ少ないか。

 スズとはまた違った理由で日々の食べ物に恵まれてなかったと見えるアリスは、ものすごくきれいに骨だけを残して、1匹分の焼き魚を完食した。

 

 そしてしかし、まだ足りないと言わんばかりに別な魚を見る……よりも先に、

 

「ん!」

 

 別な魚を取ってアリスに突き出してやるレオナ。

 『遠慮すんな、もっと食べろ!』と言わんばかり。その目力だけで、何が言いたいか十全に伝わってるのがすごいな……目は口程に物を言う、とはよく言ったもんだ。

 

 アリスも一瞬びっくりしてたものの、こくりと頷いてそれを手に取り、またかぶりつく。

 よしよし、いっぱい食べな子供達。まだまだ焼いてやるよ。

 

 ……あーそうだ。どうせ4人じゃ食べきれない量があるわけだし……

 

「ねえアリス、あそこで見てる子達って……アリスの友達か何か?」

 

「え? ……あ」

 

 『見聞色』……というより、普通に肉眼で気づける距離にいたんだけど……なんか、物陰に隠れてこっちの様子をうかがっている、何人……いや、十何人……もっとか? って数の子供達が。

 身なりからして、恐らくは……アリスと同じ孤児の類。

 

 その視線は一応に、じゅうじゅうと焼けている魚に釘付けである。

 こちらの目も口程に物を言ってるな……全員の顔に『食いたい』って書いてあるわ。

 

 ほっといたら隙を見つけて盗んですらいきそうな勢いでガン見してきていらっしゃる……が、それ以外に悪意や害意みたいなものは感じない。

 ……あくまで、お腹が減ってどうしようもないって感じであり……まあ、欠食児童だな。

 

 ……ふむ。

 まあ、元々私達だけじゃ食べきれない量だし……いいか。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 で、こうなった。

 

「うっめ―――っ!」

 

「ひぐ、ひぐ……美味しい、美味しいよぉ……」

 

「お、お代わりしてもいいんですか?」

 

「いいよいいよ、じゃんじゃん焼くからじゃんじゃん食べな。早く食べないと冷めちゃうからね」

 

「ただし、喧嘩はだめだぞー。数はあるから仲良く食えよ、順番だからな」

 

「焦らんでも誰もとりゃせんからゆっくり食え。ほれ、水もちゃんと飲めよ、喉に詰まらすな」

 

 なんか、炊き出しみたいになっちゃいました。

 先に食べ終わった私、スズ、レオナ、そしてアリスが協力して、集まってきた欠食児童……もとい、孤児達に、次々に焼き魚を提供している。

 

 もともと獲れすぎなくらいに魚はあって……食べきれなかった残りは保存食にしようかと思ってたが、ここで全部使い切ってしまうことにした。

 

 孤児たちは誰も彼も痩せていて、普段満足に食べられてないのが丸わかりだった。

 それゆえに、こんな焼いただけの魚1匹――1匹と言わず2匹でも3匹でも食べさせてるが――でも泣きだすくらいに感激してくれている。

 というか、マジでほぼ全員泣いてるな。パッと見……9割近いくらいの子が、泣きながら魚をほおばってる。

 

「お姉さん、ありがとうごじゃいます……!」

 

「こんな美味しいお魚、初めて食べた!」

 

「……っ、ぐしゅ、ひぐ……(言葉が出てこない)」

 

 あーあー、いい、いい、いいから食べることに集中しな。

 

 やれやれ……劇的な反応だ。

 美味しく食べて喜んでもらえて嬉しいような……こんだけの数の子供達が、焼き魚1匹で感激できるくらいに飢えてるのことが悲しいような……同時に感じて不思議な気分だわ。

 

 しかし……ふと思ったんだけど。

 スラムで食べる者がないのは仕方ないとして……だったら魚とか釣って食べる子はいないのか?

 

 いつも確実に取れるわけじゃないとはいえ、上手く行けばこんな感じに食事にもありつけるわけだし……そういうことを考えなかったのかな?

 

 そうアリスに聞いたら、苦笑してこう返してくれた。

 

「確かにね、釣れれば、あるいは取れればそういう手もあるんだろうけど……取れそうな漁場や浅瀬なんかは、たいていどこかのギャングやらグループが縄張りにしちゃってて、そこで釣りや漁をしようとすると目つけられちゃうんだよ。ショバ代巻き上げられたりさ」

 

「なんじゃ、そんなところにまで手を伸ばそうとしてくるのか、『ぎゃんぐ』とやらは……ケチな商売しておるのう。弱い者いじめして悦に浸って小銭を稼ぐとは、器の小さいことよ」

 

「ホントだよな、カッコ悪りー。あれだな、他人に迷惑をかけないと生きていけない寄生虫みたいな奴だな」

 

「あ、あははは……それ、間違っても町の中で言わないでね」

 

 変な汗を流しながらも、アリスも子供達の行列整理その他に動いてくれてる。

 

 そんな中、ふと見て気づいたんだけど……子供達の中に、何やら複雑そうな目つきで互いを見ているものや、アリスの方にじっと視線を向けている者がいたり、その中の何人かとアリスが小声でごにょごにょ話してたりしたんだけど……何だったんだろ?

 

 まあ、身内の内緒話的な奴かな。

 孤児の間でいくつもグループもできてたりするって話だったし、そのくらいあってもおかしくはないか。

 

 結局その日は、釣った魚が全部なくなるまで炊き出し(?)をして、集まった子供達のお腹を存分に満たしてあげた。

 終わる頃には、皆笑顔になって、みんな仲良く談笑して、平和で楽しそうな空気になっていた。

 

 うんうん、やっぱり美味しいものは皆を幸せにして、笑顔にしてくれるよね。

 

 はー……結構な重労働だったけど、それでもやり甲斐がある仕事……仕事? だったな。

 レオナもスズも、『やりきったー!』って感じで、達成感のにじみ出た表情になって額の汗をぬぐっている。

 

 アリスも……すごく穏やかで嬉しそうな笑顔になって、笑顔で団らんしている子供達の様子を見ていた。

 

 けど、その目の端から……ほんの一筋、涙が零れ落ちたように見えたのは……気のせいだったんだろうか?

 光の加減で見えづらかったうえに、すぐに顔を隠すように背けて、次の瞬間にはなくなってたから……いまいちあやふやなんだよね。

 

 ま、いいか。仮に気のせいじゃなかったんだとしても……皆が嬉しそうにしてるのが、アリスも嬉しかったんだろう。そう思っておこう。

 

 そんな感じで、非加盟国のスラム街滞在2日目は、なんだか予想外に充実した疲労感と共に終わったのだった。

 

 明日になれば、海軍のパトロールも終わる。そしたらさっさとこの国を出よう。

 そんな風に考えつつ、私達は宿に戻り、昨日と同じように防備を万全にして、その日を終えた。

 

 

 

 

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