大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第96話 スゥと、アリスの秘密(1)

 

 

 滞在3日目。ようやくこの日が来た。

 海軍船によるパトロールも終わり、私達が問題なく出港できる準備が整う日だ。

 

 この町では、何だかんだで楽しいこととかもあったりはしたけど……それでも、あんまり見たくもないものがそこら中に転がっているという現状には変わりない。

 だから、滞在を延長するつもりとかは全然なくて……準備ができ次第、すぐに出ていくつもりだった。

 

 朝になって、海軍の船が周囲にはもう見当たらなくなった――早朝のうちに出港し、帰って行ったらしい――ことを確認した私達は、予定通りに撤収準備を進めた。

 そしてもう、後は帰るだけ、というところまでは来たんだけど……最後に一応、アリスに挨拶でもしていこうか、って話になった。

 

 この島にいた間は、何だかんだで世話になったし……一緒に過ごした時間は楽しかった。

 昨日の炊き出しとかね。いやー……何十人もの欠食児童のお腹を満たしてやったのは、色々な意味で痛快で楽しかった。

 

 なので、一言『色々ありがとね』って伝えるくらいのつもりで……昨日のうちに聞いていた、アリスの住処にお邪魔させてもらって……

 

 

 そこで、頭から血を流して倒れているアリスの姿を見ることになった。

 

 さらには、その周囲を取り囲んでいる、ややみすぼらしいがガラの悪そうな感じで、ニヤニヤと笑っている数人の男達の姿も。

 

 

 予想外にも程がある光景に絶句する私達に、まだ気付いていない男達は、げらげらと笑いながら……傍から聞いていても下品で見るに堪えない話を続けていた。

 

「え!? こいつ女なのかよ!? 貴族街の物好きなマダムが一晩買ったって言ってたから、てっきり見た目が女みたいな小僧かと思ってたぜ」

 

「ああ、俺も男だと思ってた……やたら女と仲良くしてるみてえだからよ、ソッチでウリでもしてんのかと」

 

「ぎゃははは、そのマダムも相当な『物好き』だったんだな!」

 

「いや、こいつは間違いなく女だぜ。まあ確かに男っぽいところもあるけど、具合は良かったしな」

 

「おいおい、お前まさか食ったことあんのか?」

 

「へへへ……見てみな」

 

 そんなことを話しながら、ぐったりとして動かないアリスの服を乱暴につかんで、脱がして剥ぎ取るチンピラA。

 晒されたその素肌は、確かに女の子のそれだった。痩せてはいるけど、あちこちに女の子らしい丸みのある体で……何より男の子にはあるはずのものがついていない。

 

 それを見てまたげらげらと笑い、中には顔にわかりやすく情欲を浮かべ始める奴までもが出てきた段階で……流石に私も腹が立った。

 で、ちょっと殺気か何かが漏れてしまったらしい。

 

「へへっ、しかしこうなると、このまま殺しちまうのももったいねえな……」

 

「だな。どうせ殺すなら、ちょっとくらい……あん?」

 

 チンピラの1人に気付かれた。

 それに続けて、他の連中も私達3人が出入り口に立っているのに次々気付いていく。

 

「何だ、見世物じゃねえぞ、どっか行きやがれ」

 

「それとも混ざりてえのか? へへっ、それならそれで構わねえぜ? この人数だ……このガキ1人じゃ少ないかもな、って思ってたことだしな」

 

「ああ、確かに……なあお嬢ちゃん方、ちょっくら遊んでいか……」

 

「お、おい待てお前ら。ダメだ、こいつらやべえよ」

 

 そしてそのまま、ニヤニヤと下卑た笑みをこっちにも向けてきた……かと思ったんだけど、途中でお仲間の1人が何かに気づいたように彼らを止めに入った。

 『あ、何だよ?』と不機嫌そうに顔をしかめて睨み返す仲間に構わず、冷汗をかいているその男はまくしたてる。

 

「こいつら、こないだ話になってた余所者の旅行者の連中だよ。カモろうとして襲い掛かった連中を全員返り討ちにしてぶっ殺したっていう……」

 

「え、マジで? そ、そういや昨日、そんな話を別なグループの奴らが……」

 

「こ、こいつらがそうなのか!?」

 

「そうだ、確かあのデカい女は賞金首で……7600万の海賊だって」

 

「な、七千万!? 何だその額、見たことねえよそんなの!」

 

 アレ、なんか向けられる視線が警戒と恐怖に変わったな。

 話してる内容から察するに……滞在初日に私達がやった、チンピラ返り討ち大会(討伐数50人以上)のことが知られてるらしい。

 簡単に手籠めにできる相手じゃないってことがわかって尻込みしてるのか。情けなくはあるけど……狙われる側としては好都合だし、面倒が省けていい。

 ……一点訂正させてもらうなら、私ゃ誰も殺してはいないんだが。せいぜい半殺しだよ。

 

 というか、私ってそんなに大きい? 身長? それとも別な部分?

 

 身長はまあ……190㎝くらいあるから、女性の中では高い方かもしれないけど……私と同じくらいの身長の人だって結構いるしなあ。ハンコックとか。

 あと、軽く超えてくるのも。むしろ多い。マリーとかソニアとか。

 

 逆に、身長以外のその他の部分に関しては……それこそいくらでもいると思います。

 ワンピース世界、女性陣は大体の人が『ボン・キュッ・ボン』な気がする今日この頃。

 

 すっかり勢いをなくしたギャング達ではあるけど、あくまである程度の虚勢は保ったまま、私達に話しかけてくる。

 

「何のようだお嬢ちゃん方……さっきも言ったが、見世物じゃねえんだ。用がないならさっさとどっかに行きな」

 

「いやあ、なくはないんだよね……そこにいる、その子に」

 

 私がアリスを指さして言っているのを見て、ぎくり、という感じの表情になる男。

 

 一応私、笑ってはいるんだけど……隠そうとしてないので、機嫌が悪いのは雰囲気や声音から伝わっていると思う。

 横にいるレオナやスズは、笑顔ですらなく不機嫌……を通り越して怒り始めてるし。

 なんなら、レオナの方からは『ぐるるる……』なんて唸り声も聞こえるし。獣か。

 

 私達がアリスと仲がいい……ってところまで知られているかはわからないが、自分達がアリスを虐げているのが私達の逆鱗に触れた、というところまでは理解したんだろう。

 

 しかし、彼らもどうやら元々、目的があってアリスをこういう目に――これから『せっかくだから』でやろうとしていたことはともかく――遭わせていたのは確かなようで、

 

「それは困るな……こっちも仕事でここにいるんだ。俺達のボスから、こいつをぶっ殺すように言われててよ。お友達だったのは驚いたし、気の毒ではあるが……こっちも商売だ。悪いが、何も見なかったことにしてどこか行ってくれねえか?」

 

「それはちょっと聞けないお願いだね……私達もちょっとその子にはどうしても今日、済まさなきゃいけない用事があってきたからさ。さて、どうしようか……」

 

 ギャング達は必死でこっちを睨みつけてきているけど、ビビっているのが丸わかりなので、威圧の効果は0。

 加えて、感じ取れる力量は……多分、スズかレオナのどっちか1人だけでも、この全員を相手にしておつりがくる程度でしかない。もしこのまま喧嘩になったとしても、何の問題もない。

 

 けど、なるべく面倒だから騒ぎにはしたくないし……こいつらの面子もあるだろう。

 それもそもそもこっちが鑑みてやる必要はないんだが……この交渉が長引くの自体めんどくさいし、さっさとアリスの手当てもしてあげたい。

 だから……

 

「まあ、お兄さん達も色々あって大変だとは思うし……なら、こんなんでどうかな?」

 

 おもむろに私が懐に手を入れたのを見て、ぎょっとする男達。

 恐らく、武器でも取り出すかと思って警戒したんだろうけど……その予想に反して、私が取り出したのは……札束だった。

 500万ベリーある。普通の人なら、片手だとどうにか持てるくらいの額……というか、物理的な厚みのお金だ。別の意味で男達がぎょっとしていた。

 

 言うまでもないが、こんな『非加盟国』じゃあ大金も大金である。

 

「これでその子、売ってもらえない?」

 

「お、おぉう……!? こ、これ、こんなに……いやしかし……」

 

「あともう1つ。私達これからもうすぐこの島出るつもりなんだ。準備してからだから、昼くらいにはなるかもしれないけどね……そんで多分、もう二度とここに来ることはない。もちろん、召使として連れて行くこの子もね。永遠にこの国からいなくなるなら、殺したも同じでしょ?」

 

「そ、それは……」

 

「確かに、そうだな……」

 

「それに、この500万ベリーのうち、半分くらいでもその『ボス』の人に渡しておけば、許してもらえるんじゃない? 殺しても1ベリーにもならないはずの孤児が、こんなお金に変わったんだしさ。ああ、もちろん残りのお金はあんた達へのボーナスってことで……どお?」

 

 ……ちょろいな。

 話している最中から、男は既に顔がにやけるのが止まらなくなってきていた。その後ろにいる仲間達も、ほぼ全員そうだ。

 

 ややあって私達は、その男達から『くれぐれもさっさと島を出ろよ!』と厳重注意された上で、アリスの身柄を受け取ってその場から立ち去った。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 で、その十数分後。

 

「なんだ、じゃあ途中から起きてたんだ?」

 

「うん。というか、そもそも殴られた時にちょっとの時間気絶してただけだったんだよ。隙を見て逃げ出すつもりだったんだけど……まさかお姉さんに買われちゃうとはね、びっくりした」

 

 ギャング達に約束したとおり、私達は彼女……アリスを連れてこの国を出るつもりだった。

 

 けど、抱きかかえて近くで見てよくわかったんだけど、アリスの体はちょっと……いやかなり汚れていた。お風呂にも満足に入れないような環境で済んでたわけだから、無理もないけど。

 

 それに、さっき殴られて頭から出ていた血もきちんと洗って、そして手当もしてあげないとと思ってたから……昨日釣りフィーバー&炊き出しをした、この川岸に来た。洗ってあげるために。

 

 気絶してると思ってたので、私がアリスの服を全部脱がせて、川に入った。濡れちゃうので、私も一応服は全部脱いで。

 一部だけならともかく、全身洗ってやるならそれなりに水もいっぱい使うしね。なら、川の中に一緒に入って洗ってあげた方が手っ取り早い。

 

 なお、助手として手伝ってもらうスズとレオナは、全裸にまでなる必要はないので、腕と裾をまくっただけである。

 

 そしていざ洗おうかと思った時になって……何か気配というか視線を感じて、注意深く『見聞色』で見てみると……そこでようやく『なんだ起きてるじゃん』って気づいたんだ。

 大したもんだな、ここまで私が気づけないとは……いや、私の油断ゆえかもしれないけども。

 

 でもまあ、折角だしそのまま洗ってやることにした。服ももう脱いじゃったし。

 頭怪我してるのは事実だしね。ふらついて倒れて溺れる……なんてことにならないとも限らないし、一人で洗わせるのは危険だ。

 

 まあ、能力者である私が入っても大丈夫なように、全然浅い部分ではあるけど、念のためにね。

 前に何かの防災啓発で習った気がするんだが、人間っていうのは大人でも、30㎝の深さの水で簡単に溺れてしまえるそうだ。

 だから、側溝なんかに落ちると危ないんだって。こんな浅い水で溺れる方が難しい、と思っていても……パニックになっていたり、足をとられていたりすると、その浅い水から抜け出すことすらできなくなってしまうのが人間だから。

 

 自分で洗える部分は自分で洗わせるけど、手が届かない背中とか、あと見てて洗い方が甘い部分とかは私が洗ってあげて……なんか入浴介助みたい。あるいは、小さい子に洗い方を教えるお母さん的な……。

 それをアリスは、気恥ずかしく思うようなこともなく、むしろ嬉しそうに楽しそうにしてる。感覚というか、価値観というか、そのへんがよくわからない子だな……。

 

 というか……何か妙に視線を感じるんだが。

 他ならぬ……目の前にいる、アリスから。じろじろと、私の体に。

 

 ……そういえば、一昨日聞いた『お仕事』の話や、さっきのギャング達の話でも……アレな仕事の中で、女の人も相手にしてたって……え、もしかしてやはりそちらの趣味が?

 

「にしても、お姉さんにはまた大っきな恩ができちゃったなー……どうやって返せばいい? さっき言ってたとおり、召使になる? それとも……定番の『体で』返そっか?」

 

 ニヤニヤ笑ってそんなこと言ってくるし……。

 さっきのギャングと違って、下卑た感情から来るものじゃなくて、悪ふざけが前面に押し出されたものだってことは見ててわかるけど……いやでも、まったくそう言う感情がない、わけでもないような……おいおい、教育に悪いよ。

 

「一昨日も言ったでしょ。私にそういう趣味はないから結構です」

 

「うーん……やっぱり女の子の体じゃダメかあ……お姉さん普通に男の人が好きな感じ?」

 

「まあ……多分」

 

「でも、好きとかそういうアレでもない気がするよな。母ちゃんの周りに男の気配って全然ないし。色々昔の話とか聞かせてもらってても、それっぽい話影も形もないよな……興味ないのか?」

 

「これ、レオナ。そういうことを言うでない。アレじゃ、ほら……母上はまだ本気出してないだけじゃから。30超えておっても母上美しいから全然ありじゃし、まかり間違っても嫁き遅れとかそういうことは言うでないぞ。頭の中で思っておってもじゃ」

 

 おいコラそこの義姉妹、失礼な言葉がばっちり聞こえてきてんぞ。

 というかスズ、君そんなこと思ってたのかこら。悪かったな嫁き遅れで。

 

 ないんだよ出会いが! いや別に欲しいとも思ってないけど!

 

 パパが持ってきたお見合いの話蹴っ飛ばすくらいには、プライベートの方をまだまだ優先したい感じだし!

 だからこの私の、三十路独身仕事が恋人彼氏いない歴イコール年齢の現状はただの自業自得だ!

 

 ……言ってて悲しくなってきた。

 

 というか私、結婚できるのかな……? この歳になるまで奇麗な体を貫き通してしまってるんだが……

 まあ、今言った通り、今のところ興味を持てなくて、したいとも思えないんだよなあ……。

 

 なんて、頭の悪そうなことを話していると……

 

「ふーん……まあ、お姉さんが適齢期を逸してる話はともかくとして」

 

 そんな話はしてない。

 

「少なくとも、男じゃなくて女だからボクはダメなんだよね? それなら……もしボクが男なら、興味持ってもらえるかな?」

 

「は?」

 

 何を言ってるんだこの子は、と思って私が首をひねったと同時、

 ぱちん、と音を立てて、アリスが指を鳴らした。

 

 すると次の瞬間……アリスの体が、『男』になった。

 

「「「……え!?」」」

 

 私達3人、きょとん。絶句。

 アリス、ニヤニヤ笑っている。

 

 目の前のあるアリスの体は……さっきまで、というか一瞬前まで間違いなく『女』だった。

 

 瘦せてはいるけど、女の子らしい丸みやふくらみがあちこちにあって、よく見ないとわからないけど骨格もきちんと女性のそれだった。

 何より……男の子ならついているはずのモノが、またの間に影も形もなかった。

 

 しかし今、アリスの体は……こちらも瘦せてはいるけど、こちらは、男のらしい多少なりがしっとした肉体、という感じのつくりになっている。丸みというより、筋肉のふくらみが目立つし、骨格も男性のそれになっていし、首元を見ると『のどぼとけ』もある。声もちょっと低くなった?

 そして、何より……ついている。何とは言わないが、さっきまでなかったはずのモノが。

 

 え? え!? これ……どういうこと!?

 

「これで『お相手』……務まるかな?」

 

「え……えぇえ!? お前アリス、お前……男だったのか?」

 

「な、なななっななっ……お、おまおまおま、それ……ひゃぁああぁあ!?」

 

 びっくりしつつも普通に見ているレオナと、恥ずかしがって手で目を覆っている――でもよく見ると指の隙間からばっちり見てるな――スズ。反応が対照的である。

 スズってこういうのモロに見るのダメな感じ? でも興味津々ではあるっぽい……ムッツリ?

 

 いやそんなことより……アリスあんた、何でいきなり男になってるの?

 

「にひひひひ……びっくりした?」

 

「いや、そりゃもう……え、アリスって男の子だったの? でも、今まで確かに……」

 

「は、母上、下がれ! 体を隠せ! ええい、この大バカ者、いきなりなんてものを見せるのじゃ! というか……今まで女じゃと言って、わしらを騙しておったのか!?」

 

 と、いきなり現れた『男』のアリスの前に……今思い出したけど、全裸で無防備に立っている私のことを庇うように前に出るスズ。

 パニクって腰に差した刀2本に手をかけてる。落ち着け娘よ。私なら大丈夫だから。

 

「変装……じゃないよね? よく見ないとわからないけど、骨格や体型も……声も変わったし」

 

「それに、匂いも違うぞ。さっきまで確かに女の匂いだったのに、今は男の匂いだ」

 

 と、獣の嗅覚を持っているレオナが言い当てる。

 そんなところまで違うのか。ってことは……体の内部もきっちり変わってるってことだな。いよいよ変装だの手品だのなんて小手先の技術じゃないぞ。

 

 ということは……おのずと答えは限られる。

 種族的にそういうのでもないとすれば、残るは毎度おなじみ……

 

「悪魔の実の……能力?」

 

「ぴんぽーん! 大正解!」

 

 ぱちん、とまた指を鳴らすと……アリスはまた、もとの女の子の体に戻った。

 

「ボク、『リバリバの実』を食べた『逆転人間』なんだ。色々なものを真逆の性質に『逆転』させることができる。今のは、性別を女から男に変えてただけ」

 

 また聞いたことない悪魔の実が出てきたな。『逆転』……そういうのもあるのか。

 

「他にもいろいろ応用できるんだよ。例えばこんな風に……」

 

 言いながらアリスは、川底から大きめの石を一つ拾い上げ、真上にぽーんと放る。

 当然そのまま石は真下に……すなわち、アリスの頭めがけて落下してくる。

 

 しかしアリスはそれを避けることなく額で受け止めた……かと思ったら、

 

「“反射(リフレクション)”」

 

 ぶつかった瞬間、石は弾かれたように上に跳ね上がった。

 まるで、同じ力で跳ね返されたみたいに。……これ、まさか。

 

「物体の運動も『逆転』させられる……」

 

「ご明察♪」

 

 ぶつかってくる石の動きや衝撃を『逆転』させて、そのまま跳ね返したのか。

 そんなことができるなら、これ、戦闘分野でも相当有用な能力じゃ……。

 

「もっともコレ、意識してないと発動させらんないから、不意打ちとかに弱いんだけどね……今朝のアレも、油断してるところにいきなり奇襲食らってああなっちゃったんだ」

 

 あ、なるほど。フルオートじゃないのね。

 それは確かに……万能とか無敵とまでは言えない、油断大敵な能力ではあるな。使い手の警戒心その他にきちんと左右されるわけだ。

 

「あ、ちなみにボク、きちんとホントの性別は女だから安心してね。いつでも男になれるってだけで……仕事の時とか、男と女を使い分けてるんだ。そのせいでさっきのギャングみたいに、噂とかを聞いて勘違いしてる人もいるみたいだけど」

 

 何の仕事か、っていうのは聞かないでおくとして……それであんな感じの噂とか認識だったのか。

 

「もっとも……昔からこの能力で男になったり女になったりしてたから、ボク自身もよくわかんなくなっちゃって……単純に好みとしては、今はもう『どっちでもイケる』感じになっちゃったけどね。だからお姉さん、気軽に声かけてくれていいよ?」

 

 にひひひ、と笑いながらそんな風に言ってくる。なんじゃそら

 ボーダーレスな価値観、と言えば聞こえはいい……のか? また随分と独特な副作用だな。

 

 ……あるいは、案外この子に元々備わってた素質、という可能性も……いやむしろ、この雰囲気見てる限りそっちの可能性のが高い気が……。

 

 ……というかコレ、ある意味『新人(ニューカm)』……うっ、頭が……!

 

「それにしても、ホント助かったよお姉さん……エッチなのはまあ置いておくとして、このお礼は必ずさせてもらうからさ。何でも言ってね」

 

「はいはい、考えておきますよ」

 

 そうぞんざいに返したけど……アリスはなぜか、ちょっとだけさっきよりも神妙?な感じの声のトーンになって、続けて言った。

 

「ぶっちゃけ、確実に殺されると思ってたからね……掛け値なしに命の恩人だから、ホントに何でも、遠慮なく言って」

 

 こんな風にまで言われると、流石にちょっと気になってしまう。

 

「……どれだけ殺意高く見積もってたの、それ?」

 

「アリスお主、何ぞ奴らに恨まれるようなことでもしたのか? そういえば奴ら……『ボスの命令で殺しに来た』と言っておったが……」

 

「何か……ギャングの仕事を請け負って失敗したとか?」

 

 スズもレオナも、気になったらしく一緒になって尋ねる。

 

 それを聞いて、アリスは『うーん……』と考え込むようにした後、

 

「まあ、当たらずとも遠からず、かな。ただ……失敗したんじゃなくて、むしろ成功……それも、大成功したから、だけど」

 

「「「……?」」」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 一方その頃、スラム街のとある建物の中にて。

 

 

 ―――ドォン!

 

 

「ど、どうして……ボ、ス……!?」

 

 1人のギャングの男が死んだ。

 自らがそう呼んだ、自分達のグループの『ボス』の手によって、心臓を撃ち抜かれて殺された。。

 

「どうしてだと!? てめえがしくじったからに決まってんだろうが……俺は『殺せ』と命令したんだ。それを勝手に売り飛ばした上に、『国外に追い出しちまえば殺したのと同じ』だ? 勝手に命令を書き換えて納得してんじゃねえ、このゴミが!」

 

 ボスの男は、部下に命じて死体を片づけさせる。

 そして、舌打ちの音を響かせながら、同時に次の命令を出す。

 

「大至急追っ手を……いや、殺し屋を手配しろ。あのガキが余計なことをしゃべっちまってる可能性もある。そうなったら俺が王政府からにらまれる……くそ、折角抗争相手をぶっ潰したところだってのに、厄介な……。いいか、買っていった女も含め、全員この国から生かして出すな!」

 

 

 

 

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