「やるんなら徹底的にだ……!!」
「……何じゃ母上、急に?」
「ああいや、ごめん、何か言いたくなって」
えーただいまですね、今回アリスのことを殺そうとし、さらに一度きちんとお金で解決したにも関わらず、私達もろとも亡き者にしようと『殺し屋』を差し向けてきたギャングの皆さん……の、お屋敷にお邪魔しております。
そして今しがた殲滅完了いたしましたのでこれから帰るところです。
この手のはほんとにね……後々面倒なことにならないように、禍根を完全に絶っておくことが重要だって、これまでの経験から私、知ってるもんで。
島出たくらいじゃ諦めない奴も中にはいるんだよ……海超えてまで殺し屋差し向けて来たりさ。
私単体ならともかく、子供達にまで危害が及びかねないとなれば……それはもう、見逃すことはできない。
なのでこうして、完膚なきまでに叩き潰させてもらった。
なお、ここに来たのは私とスズの2人だけである。
物理無効なのに加えて、体を紙や泥に変えてこっそり忍び込んで一気に殲滅できるからね。
と言ってもまあ……忍び込んだ後、暴れたのはほぼ私一人だけど。
スズには泥で出入口という出入口を全部ふさいで逃げられなくしてもらって、その間に屋敷の中に閉じ込められたギャング達を私が一人残らず……という感じだ。
「しかし……母上がここまで徹底的にというのも珍しいのう。いつもであれば軽くどついて『ほらさっさと帰れ』的な感じに済ませておるのに、1人残らず命まで奪うとは」
「生かしといても別に問題ないパターンと、そうじゃないパターンがあるんだよ。……幻滅されちゃったかな? 怖かった?」
「今更じゃな。……コレがわしらのことを考えた結果の判断であることくらい、わしはもちろんのこと……レオナもアリスもわかっておるよ。何をそれで嫌いになどなろうものか。……大体、母上なんかより悪辣で非道な輩なぞ、世の中には掃いて捨てるほどおろうに」
こやつらもそうじゃしの、とスズ。
……ほっ、よかった。
容赦なく、徹底的にやるべきだと思ったからやったわけだし、そのことに後悔も何ももちろんないが……スズ達にちょっと怖がられてしまったり、引かれたり、距離を置かれたり……なんてことにならないかどうかだけ不安だったんだよね。
さて、そうとわかればもう何も問題ないな。
後始末だけ済ませてさっさと帰ろう。
「じゃ、スズ。大雑把にでいいから部屋の中物色して、現金と金目のもの片っ端から持ってきて。とりま全部私が収納して持ってくから」
「うむ。して、母上はそれ……何をしておるのじゃ?」
「このギャングの重要そうな書類とかを仕分け中。構成員の名簿とか、犯罪の証拠とか、外部に漏れると致命的そうなものを探して……これを、わかりやすい場所に置いておきます、と」
「? ……ああ、もしかしてあえて、ここを調べに来た者に見つけさせるのか?」
「そゆこと。今アリスに頼んで、こいつらと敵対してるギャング組織にそれとなーく『あいつら壊滅したらしいよ』って情報流してもらってるから、その組織が様子見に来たら、噂通り全滅してる上に、同じギャングにとっては値千金の情報が載ってる書類が無造作に残されてる、ってわけ」
こうしておけば、抗争か何かで勝手に壊滅したと受け取ってもらえるだろうし、残しておいた書類を元に、残党の始末や、組織としての残骸の掃除まで、そいつらにやってもらえるだろう。
他のギャングからしても、せっかくのチャンスだからこそ、完膚なきまでにこの組織を潰して、その分のイスを空けてしまいたいと思うだろうし。
……たとえ、そうなるように誰かが仕組んだ……という意図を、このわざとらしく残されている書類から読み取ったとしてもね。
「私達につながるような証拠だけは全部抜き取るようにして……と。お、スズ終わった?」
「うむ。現金がいくつかと……母上の言っていた通り、隣の部屋に金庫が2つあった。1つはこれ見よがしに置かれてあって……もう1つは隠し金庫じゃったな。ただ、どちらも番号がわからん」
「その開け方はさっきこいつの頭から『読んで』おいたから大丈夫だよ。どれ、開けてみようか……その隠し金庫の中にも、重要そうな書類とかありそうだね」
そして私は、スズが見つけてくれた金庫×2を無事開錠し、中に入っていた現金と書類の一部をかっぱらって……他の誰かが来る前にその場を後にした。
これでこのギャングは壊滅。さっき言った通り、後始末ないし残党狩りは、他のギャングが進んでやってくれるはず。
あとこのギャング達は、この島の統治機構の偉い人達とつながってるって話だったな。世界政府の暗部や、海軍の一部とも。
一時的に裏取引が滞ったり、提供される『場所』がなくなってしまったことを、少し不快に思うかもしれないが……そこまで大事にはなるまい。これも、残してきた『書類』を利用して、ノウハウを学んだギャングがさっさと後釜につくだろうからね。
取引相手達にとって重要なのは『取引』そのものであり、誰と取引をするかじゃないのだ。
こういうモラルも何もない闇系の取引の場合は特にね
それでもしばらくこの国は騒がしくなるだろうけど……今から出国してしまう私達にまで何かが波及することはないだろう。なら、何も問題ない。
そんなわけで速やかにトンズラします。さよーならー♪
☆☆☆
そんな感じで島を出たのが、早いものでもう半月前の話。
私の船には今、私のほかに……レオナ、スズ、そしてアリスという、3人の『娘』達が乗っていて……少し前までよりもだいぶ騒がしい、賑やかな雰囲気の旅路になっていた。
当初、私達に引き取られた――というか、買い取られたというか――アリスは、前に自分で言ってた通り、従者でも召使でも何でも……そういうポジションで船に乗るもんだと思ってたみたいで、彼女自身そのつもりだったらしい。
が、私達的にはそんなつもりはこれっぽっちもなかったわけで。
……というかぶっちゃけ、特に『どんなつもりで』と言えるような考えもなしに、仲いい子が殺されそうになってたからさっさと助けただけでありまして。
お客さんとまではさすがに言わないまでも、そんな召使とかにするつもりもなかった。
というか、そういう……堅苦しい関係性の他人が船に乗ってるっていうのは、私達にとっては、便利であっても逆に窮屈に思えてしまう。3人そろってそういう感性なのだ、私ら。
加えて、根っから……かどうかはわからないが、基本的にフレンドリーな感じのレオナや、彼女ほどではないにしてもそれなりに社交的なスズが、こちらの方こそ遠慮なしにぐいぐいアリスと話して、引っ張りこんで、溶け込んで……普通に友達付き合いで仲良くなっていった。
そして私も、アリスに対して他人行儀に接することもなく。
むしろ、図太さやしたたかさで言えば、スズやレオナ以上であり、多少なり雑に接しても、いい意味で問題ない相手だと知ってた。なので、他2名と同じように接し、扱っていた。
……ぶっちゃけ接し方変えるのがもうめんどくさかったしね。ひとくくりだった。
最初はアリスもその扱いに少し困惑してた様子だったけど……そこはそれ、元々社交性で言えばそれこそレオナやスズよりずっと上と言っていいセンスを持つのが彼女である。
変に肩ひじ張らなくていい、緊張しなくていい(するだけ無駄。意味ない)関係性は、彼女にとっても心地よかったようで……数日一緒に船旅を続けた頃には、もう……
「だーかーらー、そこは『レッドライン』だってばレオナ! 『レストラン』じゃ5文字でしょ、合わないよマス目の数に!」
「お主どうせ腹減ったからといって頭に浮かんだもん適当に入れたじゃろ。おいおい、他のも全然違っとるではないか……せめてマス目の数くらい合わせい。ヒント読んどらんじゃろ絶対」
「あーもーうるさいなアリスもスズも! 今あたし集中してやってんだから邪魔しないでよ! コレ解いて応募して当たったら特Aランクの牛肉詰め合わせもらえるんだよ!」
「だから解けてないんだって……そんなんじゃ参加賞ももらえないよ! ほら見して手伝ってあげるから!」
「やだ! 1人で解くー!」
こないだ行った島で買った雑誌についてるクロスワードの解読で白熱している娘達の図。
1人で全部解きたがっているレオナに、横から見ててもう見てらんないとばかりに手を出そうとしているアリス、呆れた様子でその2人を見ているスズ。
「というか、わしら常に船で移動してるんじゃから、そんなローカル誌の懸賞なんぞ応募するの無理じゃろ。そもそも母上海賊じゃし」
「えー、ダメなの!?」
「あーまあ、言われてみればそうだね……っていうか、高級牛肉くらい、頼めばお母さん買ってくれそうな気もするけど……どぉ?」
と、アリス。
いつの間にやら彼女も『こう』だ。私のことを母親扱い。
彼女の場合も、スズの時と同じで……2人がそう呼んでるのを見ていて、自分も……って感じでそう呼び始めた。
最初のうちはやっぱりたどたどしい感じだったけど。他2人と仲良くなっていくとともに、私を『母親』だとしてみることにも抵抗がなくなっていき、むしろしっくりくるようになったって。
今ではこんな風に、スズやレオナとほとんど同じ感じで、フランクに……というか、家族らしく緊張も何もない感じで接してくれている。
私としても、こっちの方が心地いいあたり……彼女のことを受け入れつつあるんだろうな。
「何から何まで際限なく買ってあげるとかはしないよ、お母さんはそんな甘やかす系の親じゃありません。……でもなんか話聞いてたら牛肉食べたくなってきたね。次の島で買おうか」
「よっしゃー! 焼肉ー! バーベキュー! ビーフシチュー!」
「泣いたカラスがもう笑う……か。やれやれ、忙しい奴じゃの」
「まー結果オーライってことでいいじゃない、ボク達も美味しい牛肉食べられるし……ところでじゃあ、もうそのクロスワードいらない?」
「あ、いや、これは一応最後までやる!」
こんな感じでうちの3人娘は今日も仲良しです。
……しかしなんだ、結婚もしてない、恋愛すら経験の1つもないところから、いきなり三児の母になってしまうとは……読めなかった。この『海賊文豪』スゥの目をもってしても。
事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったもんだ。
けれど、こういう騒がしさも嫌いじゃない。
そして、3人娘に『母ちゃん』『母上』『お母さん』って呼ばれるのも……なんだか心地いい。
……ひょっとしたら、妊娠、出産、乳幼児期の夜泣きその他に悩まされながらの子育てっていう過酷な部分が丸々スキップして、かわいくて物分かりも聞き分けもいい年齢の子供が転がり込んできたからこそなのかもしんない。この、都合のいい母性みたいな感情は。
それでも、愛情そのものに間違いも偽りもない。少なくとも、私はそのつもりだし……娘達も。きっとそうだ。
……というか、そんな風な小難しいこといちいち絶対考えてないな。
(……思えば、最初は記憶喪失のレオナを、一時的に気分転換で連れ回したところから始まったんだっけな、この変な旅も……)
それがいつの間にか、なあなあのうちにレオナと『親子』になって。
その後さらに、その『親子』の関係にスズもアリスも加わって。
居心地いい関係に、何だかんだで疑いや拒否感を持つこともないままに、ここまで来た。
……でも……
「……さて、このままなあなあで行って、果たしていいものかどうか……」
「……? 母上、何か言ったか?」
「いや、何でもない」
ふいに口から出てきたそんな言葉を、スズが聞いていたみたい。
けど私はとっさにそう答えて、元通り海図を見る作業に戻った。さーて、次の島はどこにしようかな、っと……。
そんな私を、何か気になったような目で、アリスが見ているのにはなんとなく気づいていたものの……私は特に、気にすることもなかった。