賞金首なんかやってると、命を、あるいはそれ以外の色々なものを一緒に狙われるなんてことは割と日常茶飯事である。
変に目立とうとしなければ、そんなにしょっちゅうあるわけじゃないけど……それでも人の目はある以上は、いつ、どこで、誰に狙われないとも限らない。
加えて、襲ってくる面子も様々だ。
この首にかかっている7600万の懸賞金が目当ての賞金稼ぎ。
職務の一環として海賊を拿捕もしくは討伐しようとしてくる海兵。
私を討ち取って名を挙げようとする、あるいは、積み荷や金銭、私の体など、その他色々な欲望を丸出しにして襲ってくる海賊。
捕らえて売り飛ばして金に換えようとする人攫い。
その他ケースバイケースで様々いるわけだが……当たり前だが、捕まってやるわけにも殺されるわけにもいかないので、都度撃退している。
もうこのへんは、この30余年の人生……の中の、賞金首として生きた半分近い時間の中で、すっかり慣れてしまった。
最近じゃ『動きが硬いな……まだ経験浅い新兵かな?』とか、『おーおー欲望丸出しだな、捕まったらひどいなコレは』とか、襲ってくる連中の表情やら何やらを観察する余裕すらできてしまったくらいだ。
どうせ戦うことになるなら……って、少しでも脳内で遊んでみようという意図が感じられる。我ながらすっかり神経図太くなったもんだ。
そんな感じで今日もその手の連中と戦うことになった。
今回のお相手は『人攫い』っぽい。何かと私の人生の中でも縁がある職業である(不本意)。
それも、結構な大手の業者らしく……人気のいない場所で、何十人って数で襲い掛かってきた。
ただ、これまでと違うのは……狙われたのが私1人じゃなくて、4人である点。
そして、その4人全員で応戦している点だ。
「畜生、話が違う!」
「何でこんなに強いんだ……誰だよ、ガキを人質にすれば楽勝だって言ったの!?」
「ガキまで含めて滅茶苦茶強いじゃねえか!」
「ガキって言うなー!」
むきーっ! って感じでぷんすか起こりながら、人攫いの男が振り下ろしてくる金棒を頭突きで押し返すレオナ。
『人獣型』に変身してとはいえ、『覇気』はおろか『鉄塊』もなしでこれはすごい。
『ガン!』という硬質な音を立てて、思いっきり振り下ろしたはずの金棒が弾かれたのを、信じられないと言わんばかりの目で見る男。
その一瞬の隙をついて、レオナはその男の足元に潜り込んで両足首を掴んで、力任せに持ち上げ……その場で大回転。
ジャイアントスイングで、周りにいた連中まとめて巻き込んでなぎ倒す。
最後に武器として使われて自分もボロボロになった男を投げ飛ばし、遠くの奴にぶつけて終了。
その瞬間を狙っていた人攫いが、背後から銃でレオナを狙い撃つが、そんなんじゃレオナの体を貫くことはできない。
それどころか、変身によって鬣みたいにモコモコのボリュームになった後ろの髪の毛すら貫くことはできずに止まってしまい、ちょっと動いただけでぽろぽろと足元に零れ落ちた。
そして唖然としたところを、振り向いたレオナにギロリとにらまれる。タゲ変お疲れ様です。
そのまま突っ込んでいって体当たりしてきたレオナにぶっ飛ばされて……おー、よく飛ぶな。
そんな感じで、大雑把にパワー重視のスタイルで暴れまわっているレオナに対し……テクニック重視で『巧みに』戦っているのはスズだ。
『毒島』での戦いではあんまり出番のなかった、腰の刀を使っての二刀流を披露している。
攻撃に防御に変幻自在。敵の攻撃をかわし、あるいは受け流し、そうしてできた一瞬の隙にもう片方の刀を一閃させて敵を断ち切る。
繰り返しているのはそれだけだが、その太刀筋には迷いはなく、見た目の小ささ、幼さからするといっそ異質なくらいに力強く、頼もしいとすら言えるくらいだ。
『ドロドロの実』の能力はほとんど使っていない。
私と同じで、能力に頼り切りにならないようにするためだそうだ。せいぜい、敵の足を泥ですくって隙を作る時に使ってるくらい。
代わりに使っているのは、
「黒炭二刀流……“
例の『秘伝ノ書』に記されていた剣術である。
一刀流の技と二刀流の技の両方がいくつか書いてあったんだけど、スズは主に後者を練習して、使っているようだ。
低い姿勢で敵の懐に飛び込んで、両手の刀を交差させるように一閃させ、一撃で仕留める。
子供とは思えない、予想もできない鋭い技に対応できず、ばたばたと斬り倒されていく。
剣術としての完成度は割と高いっぽくて……やっぱり『ワノ国』の侍の、そしてその戦いの中で磨かれてきた力っていうのは大きいのかな、というのを感じられた。
相変わらず、その国での『黒炭家』の立ち位置みたいなのはわかんないけど……やはりワノ国でも高名な武家か何かなのか……それとも、ワノ国ではこのくらいが当然のレベルなのか……。
ただ、スズはやはりまだ防御が完璧ではないので、時々攻撃がかすったり食らってしまってる。
当然泥になって受け流せているので全然効いてはいないんだけど、そのたびに『ちっ』と悔しそうな感じに表情をゆがめていた。
被弾は未熟の証だと思っているようだ。まじめなスズらしい。
まあ、大雑把なレオナも含めて、戦闘のスタイル自体は予想通りといえばそんな感じではある。
それとは対照的に、予想を大きく裏切っているというか、普通に意外だったのは……
「な、何なんだこいつ……弾丸が……跳ね返される!?」
「剣も、槍も……何も効かねえぞ! いったいどういうことだよ!」
「そんな見え見えの攻撃、ボクには通じないよっ!」
軽業みたいに縦横無尽に飛び回って戦っているアリスである。
彼女の場合、レオナみたいに肉弾戦で戦うわけでも、自前の武器を持っているわけでもなかったけど……戦いが始まるとすぐに、こん棒で殴りかかってきた――生け捕りにするつもりで、刃物は避けたんだと思う――海賊に対し、『リバリバ』の能力でそのままその一撃を返して昏倒させた。
そして、倒れたその人からこん棒を奪ってそれを使って戦い始めた。
スラムで暮らしてたからなのか、割と動ける感じだったアリスは、ここ最近は他2人や私と普段の訓練を行ってることもあり、普通に戦えている。
しかも、苦手な武器ってものが特にないみたいで、剣だろうが槍だろうが、今回みたいなこん棒だろうが普通に使えている。それこそ、銃だって撃ててた。
思わぬ反撃をくらって面白くなく思った海賊達が、殺気をむき出しにして反撃し、剣で切りかかってくると、それも『逆転』させてそのまま返して倒し……今度はその剣を奪う。
銃で撃たれても銃弾を『逆転』させて返し、倒れた海賊からまた、その銃を奪う。
とまあ、攻撃という攻撃を反射させてそっくり返して相手へのダメージにして――当たり所と元の威力次第ではその一撃でもう終わる――挙句にその武器をそのまま強奪する。
ある意味、海賊達にとってこの3人の中で最も勝機が見えないのは……アリスだろうな。
どんな攻撃をぶつけても返されてしまう上に、ほぼ確定で武器を奪われる。そしてそのまま普通に戦っても結構強いと来ている。
多分あれ、『武装色』さえ使えれば貫通させられるんだろうけど……こんな場所でちんけな人攫いなんかやってる連中に、それだけの腕利きがいるはずもない。
よって、なすすべなし。
……あと何気に思うのは、他2人に比べて、アリスが一番『ためらわない』んだな……ってことだろうか。
スラム街なんていう場所で生きてきたからか、『生きるか死ぬか』のステージで戦っていることを理解して、へらへら笑っててもそのへんの覚悟が決まってる感じがする。
剣を振るう時、銃で狙い撃つ時、急所を狙うことに迷いがない。
子供でコレってことを考えると少し怖くもあるものの、戦いに立つ者としては全然何も間違ってはいないわけで……しいて言うなら、子供ながらにこんなレベルまで至ったことに、何かしら思うべきなのかもしれない、な。
そんな感じで、向こうの攻撃は一切効果なし。こっちの攻撃ばかりがヒットする。
最初の頃にあった『ちょろい獲物だぜ』『売る前に味見するか』的な楽勝ムードは、もうすでに完全に霧散してしまっている。
というか、もうすでに諦めて逃げ出したい的なムードすら漂っている。
が、逃げ出そうとした奴は私が処理しているので、現状逃走に成功した者はいない。
そっちから喧嘩売ってきといて、旗色が悪くなったら逃げ出すなんてことが通じるとお思い?
後から逆恨みで報復とかされても困るし、全員きちんとここで終わっていただきます。
(いやーしかし、3人とも強くなったなー……もうそこらの海賊相手くらいなら全然楽勝じゃん。安心して見てられる)
レオナは、『人獣型』で暴走せずに戦えるタイムリミットがかなり伸びて、今回くらいの一戦する間くらいなら余裕で耐えられるので、その分安定して戦闘力を発揮できるようになった。
スズは、相手がいる状態で稽古を続けていることで、『黒炭二刀流』の技のキレが日増しに鋭くなっていっているし、『ドロドロ』の能力の使い方も巧みになっていく。
アリスはもともと『リバリバの実』の能力を使った戦い方になれていたのに加えて、他2人との稽古を通して地力そのものを全体的に底上げされて、速く、強く、鋭くなっていく感じ。
あとコレは3人全員に言えることなんだけど……食生活がまともになったことで体つきがしっかりして、ぐんぐん成長して、力をつけている。
これも、3人の戦闘能力が大幅に上がっていく大きな理由なのは間違いない。なんだかんだで、健康で強靭な肉体は、全ての基礎、ないし基本になる『強さ』だからね。
そして、戦いの中でより多くを学ぶことで、さらに、もっと、どんどん強くなっていく。
3人とも、もともと才能もあった方なんだろうな。これは……この先もどんどん伸びるぞ。
うんうん……母親として将来が楽しみになるね。
おっと、とか考えてるうちにもう終わったみたいだ。
☆☆☆
襲ってきた人攫いを返り討ちにした私達は、逆にそいつらが持っていた金品をいただいた上で、そいつらが船にとらえていた奴隷達を解放してやった。
めっちゃ感謝されたが、それに対応している間のわずかな隙をついて、生き残っていた人攫い達が、もう1つあった船で海に逃げていった。
『うおー』『やったー』とか叫びながら、『ぎゃははは』『ざまーみろ』とか笑いながら、沖へ、沖へと遠ざかっていく。この距離でも反省してる様子がないのや、こんな目にあっても懲りていない……全員じゃないにしても、大部分そういう感じなのがわかるってすごいな。
今回の敗北で一文無しになりはしたが、彼らはまたどこかで再起を図り、無法者として力のない弱い人達を食い物にして生活していくんだろう。
……その船の船底にあらかじめ穴が開けてあって、それがスズが出した泥の塊でふさがれている、っていう状態じゃなければ、上手くいったかもね、その逃亡劇も。
文字通りの泥船だ。泥が崩れて溶け出すまで、まだしばらくかかるな……人が泳いで陸地にたどり着くことができるような距離じゃない、って位置までは十分に行くと思う。
誰にも迷惑かけることなく、きちんと海の藻屑と消えてくれ。
「しかしアリスよ……いつも思うのじゃが、お主少々『能力』に頼りすぎではないか? 使うなとは別に言わんが……あまりそればかりで戦っていると地力を鍛えるのがおろそかになるぞ」
「わかってるよ、スズ……でもさ、『能力』は使わないと成長しないのも確かでしょ? ただ攻撃が効かないだけの力より、もっともっと成長させて強い力にしたいじゃない。お母さんを見てれば、成長した『能力』がどれだけすごいことになるかわかるってもんだしさ」
「それは……まあ、一理あるがの。ううむ……どうにか両立したいものじゃな」
「いいなー2人とも、なんかいろいろできそうな能力で。あたしなんか『ライオンになれる』って大本の部分がもう決まってるから、あとは体鍛えるくらいしかやることないんだぞ」
「それはそれでシンプルだからこその強さがあるじゃない。鍛えれば鍛えただけ、体と一緒に能力が成長していくんだから、育てやすさはレオナが一番だよ」
「一長一短じゃの。それに、『動物系』も種類によっては、育てれば特異な能力に目覚める場合があると聞く。お主のは『幻獣種』なのじゃから、悲嘆にくれるのは早いかもしれんぞ」
「うー……だといいな」
自分達で反省会みたいなことをしながら、そんな風に話してるのを見ると、内容は若干物騒だけど微笑ましくていいなあ、なんて思ったり。
「さて……それじゃそろそろご飯にしよっか。何食べたい?」
「牛丼!」 ← レオナ
「ビーフシチュー!」 ← スズ
「ローストビーフ!」 ← アリス
「何この熱い牛推し? 3人ともそういう気分なの? まあいいけど……っていうか、アリスはまたローストビーフ? 昨日も食べたじゃん。あれ結構作るの時間かかる上に、今ストック切らしてるんだけど……他のにしない?」
「えー、ローストビーフがいいなあ……ね、お母さん。時間かかってもいいから! 全然待つから! ね、お願い!」
「んー……まあ、別に食べたいなら作るけどさあ」
別に私が何か嫌なわけじゃないんだよ。
でも、残る2人……特に、いかにも現在進行形でお腹空いてそうな食いしん坊が何て言うか。
「えー、時間かかるのはちょっともごもご」
「まーまーまー、いいじゃん、ね? お母さん手作りの出来立てのローストビーフ絶対美味しいから……ほらちょっと耳かして」
「……?」
案の定不満を口にしようとしたレオナ。
しかし、横からアリスが口をふさいで、部屋の隅へ引っ張っていき――なぜか一緒になってスズもついていった――そして戻ってきたときには、渋々ながらレオナも納得した様子だった。
「じゃ、今から作るから……30~40分くらいかかるからね。そんだけあれば他のも同時進行で作れるな」
「あ、そう? じゃ、ごめんお母さん、ちょっと待ってる間、ボク達3人で反省会の続きしてるから、それじゃね?」
「……? うん、わかった」
そのまま、なぜか別室に3人で移動していってしまうアリス達。
キッチンには私1人が残った。いやまあ、別にいいけど……何か様子、変だったような……?
まあいいか。さっさと作っちゃおう。ローストビーフ……ゆっくり過熱しなきゃいけないから、時短にも限度があってそれなりにかかっちゃうんだよなあ。
あれだけ暴れて疲れてお腹も減ってるだろうに……そんなにアリス、コレ好きだったっけ?
「……じゃ、2人とも、今のうちになんだけど、ちょっと話が……」
「ふむ……聞かせてみよ」
「おなか減った……けど、母ちゃんに関係あることなら我慢する……何だ、アリス?」
ま、いいか。
さー、美味しいの作って3人とも喜ばせてあげないとなっ!
☆☆☆
そして、一時間後。
無事にローストビーフ他2品を作り終え、4人できれいに完食するところまで全部終わったわけだが……なぜかその後、片づけを済ませてから……船の談話スペースに集まることになった。
ついているこの4人掛けのテーブル、普段は、長辺に2人ずつ、『2対2』で座って、食事なりお話なりするんだけど……今はなぜか、『3対1』で座ってる。
私が『1』で、娘たちが『3』だ。……向こう側、ちょっと狭そう。
しかも、なぜかいつになく3人とも真剣な表情でこっちを見返してくるもんで、ちょっと戸惑ってます……え、何この圧迫面接みたいなの? 今からコレ何が始まるの?
「えー……なんじゃ、その……変にかしこまった感じになってしまってすまんの、母上。じゃが……何ぶん、わしらとしても真剣な話なので、今回こういう感じで行く。すまんが承知してくれ」
「う、うん……えっと、それで……何?」
「うむ。では僭越ながら、わしことスズが、『長女』として代表して話させてもらう」
うん、よろしく…………
…………『長女』?
「母上、話というのはじゃな……わしら3人から、母上に頼みたいことがあるのじゃ」
一拍。
そして、
「どうか、わしら3人を……母上の『娘』にしてほしい」