TS転生したらラスボス扱いされた~Re~ 作:銀髪こそ至高である
雨空雫の朝は遅い。幻想島の学習カリキュラムは選択式だ。故に、時間割の調節を行いやすい。雫は現在高校2年生。1年生の時に先取りで無理やり授業を取っていた雫は、午前中の授業をすべてカットしていた。
この島には大きく分けて5個の教育機関が存在する。それぞれに小学校から大学までが存在し、一般教養はもちろんのこと魔術の知識やそれ以外の知識も学ぶことができる総合教育機関だ。ただ、それぞれに特徴はあり一般教養に力を入れている『叡相学園』、魔術の研究に力を入れている『神聖学園』、魔術の扱いに力を入れている『青海学園』、すべてを満遍なく行うことを重視した『未来学院』、そして研究と魔術の使用に重きを置いた『ロキ・アカデミー』以上の5つがこの島に存在する教育機関だ。雫は未来学院に籍を置いている学生である。
雫は未来学院に籍を置いていた。
日の光は目覚めの眼球にひどく沁みて、雫は涙目になるぼやけた視界の中に振動する携帯端末を見た。
そこには見慣れた名前がある。
「おはよう、鈴ちゃん」
『おはようございます。雫。今いいですか?』
端末をタップすると友人の声が聞こえてきた。
「槙原十六夜君についてかな?」
『………はい、一般生徒には知られていませんが自治委員会の一部では貴方が審問会に乗り込んだ話が出回っています』
「おー、耳が早いね。流石は自治委員会」
電話の向こうにいる友人は自治委員会の長であった。自治員会は幻想島の治安維持組織である。その構成員はすべてが学生であり、学区内や生徒同士のいざこざは自治委員会が収める。
『…単刀直入に聞きますが、どういう意図ですか?今度は何を企んでいるのでしょうか』
「企んでいるのはリーグの方だよ。彼を餌に私をあそこに引っ張り出したのさ」
『わかりませんね………事件の解決を雫にお願いしたいのであれば、五芒星に対して依頼を出せばいい』
「私もそう思う」
『ですがそうはしなかった』
「だからさ、これは簡単で難解な話なのさ。私をこの件の解決に関わらせたい理由がリーグにはあったけど、五芒星としては動かしなくないのさ。だから私が個人的に動くように仕向けた。彼はそのために利用されただけの哀れな被害者ってわけだ」
『………彼をこの島に招待したのは貴方ですよね?』
「だったら?」
『いえ、聞いただけです…』
鈴は端的に言えば、雫を疑ってた。この島で起こる事件の半分は彼女の掌だと言われるほど、裏を知る学生の間では黒い噂が有名なのだ。
「彼の無罪を三日以内に証明したい。彼を連れて行くから、とりあえず協力してくれないかな?あ、後私が五芒星だってことは彼の審議が終わる前言わないでね?」
『…学生の平穏を守るのが私の仕事です。目星はある程度付けておきました。昼休みに連れてきてください。今日は登校されるのでしょう』
「ああ、そろそろ行くよ。じゃあね」
電話を切ってから、雫は朝の用意を始める。
制服に袖を通し、パンを齧る。
雫が住んでいるのは未来学院から1Kmほど離れた高層マンションだ。このマンションの家賃は通常よりも異常に高い。なぜなら、雫が住んでいるからだ。五芒星の住んでいる地区で問題を起こすと、高確率で狙われると多くの人間が思っているからである。別にそんなことはしないが、雫のマンションは特にそうで騒ぎを起こした学生は決闘にて血祭りに挙げられ再起不能になったというデマが流れている。誓って言うがそんなことはない。確かに、決闘で相手を血祭りに挙げたことはあるが、それはマンションで騒ぎを起こしたのが原因ではなく自分の命を狙ってきたテロリスト崩れだとわかっていたからだ。
話を戻そう。雫の家から1キロ。遠くはないが近くもない。電車を使うにはもったいない距離であり、自転車で行くには人が多い。
そこで編み出したのが空を飛ぶ魔術だ。テレポートみたいな魔術は雫には使えない。頭の中にスパコンがないと無理だというのが通説だ。
「黒髪美少女が箒に跨って空を飛ぶ………これぞロマンだ」
雫は、マンションの屋上から箒と共に身を投げ出す。箒には風の魔術と浮遊の魔術を刻み込んである。作り上げるのに三年もかかった。
「
落下する箒は、ふわりと浮くのみに留まり彼女の身体を乗せて安定した。それこそ、座っても落ちたりしないとでも言いたげな安定感がある。
そのまま風を切って空を飛び始める。
ちなみに、雫はいわゆる横乗りをしている。わかりやすく言えば箒に腰掛ける乗り方。この乗り方こそが至高だと彼女は考えている。控えめもしくはセクシーな印象を与えやすい。ついでに足組みもできる。完璧だろう?
跨り乗りは認めない。自転車の要領で箒にまたがる最も標準的な乗り方だが、そもそもダサい。長時間の飛行は股への負担が大きいし。
「お、我らが女王様のお出ましだ」
「下手に視界に入るな、消されるぞ!」
「いや、普通にしてる分には大丈夫だろ」
「でも許可なく正面に立ったら殺されるって………」
学院に到着し、校門に降り立った瞬間、向けられる畏敬と親しみと尊敬と恐怖。
その中に違った視線が混じっていることに気が付く。
「やあ、昨晩ぶりだね」
雫は、ちょっと悪戯をしようと強化魔術と消音魔術で距離を詰める。相手の瞳を覗き込むようにして、目と目を合わせて笑う。
「お、オハヨウゴザイマス」
「何で片言?今昼休みだけどね」
そうは言いつつも、雫は自分が可愛いと自覚しているためニヤニヤしながらそれを見ていた。性格が悪い。
「はいはいそこまでにしてくださいね」
深く落ち着いた声とともにパンパンと手を打つ乾いた音が鳴り響いた。
「面倒事を増やすのはやめてください」
そう言いながら目もくらむような金髪の髪をなびかせた少女がやじ馬の中から現れた。
雫とはまた違った美しさの持ち主である。雫は妖しげな雰囲気と無邪気な子供のような雰囲気そしてミステリアスさを合わせ持つ、それに対しその少女は静かな
「やあ、
「ええ、このままだと茶番劇で終わりそうでしたので」
二人の少女が相対する。彼女は星垣鈴。
「………皆さんは早く教室に戻ってください。私は彼女と話がありますので」
彼女の言葉にやじ馬たちが教室に戻っていく。その様子を眺めてから、雫はにやりと笑みをこぼすのだった。