TS転生したらラスボス扱いされた~Re~ 作:銀髪こそ至高である
講義室より少し狭い執務室。その部屋には現在3人の人間がいた。槙原十六夜、星垣鈴、雫の三人である。
軽い自己紹介を済ませた鈴と十六夜は席についている雫に目配せをした。
「私の名前は雫。気軽に雫ちゃんって呼んでいいよ?役職は………まあ、生徒のお悩みを解決するって意味では鈴ちゃんと同じ自治員会みたいなものさ。さて、時間もないし私のことはこれくらいにして本題に入ろうか」
十六夜には聞きたいことが山ほどあったが、話を進める。
「じゃあ、鈴ちゃん。事件の概要を教えてくれない?私にではなく、彼に」
「いいでしょう。昨夜未明、南西地区をランニング中の学生、鴨崎貫が何者かに襲撃されました。重傷を負わせ逃亡したと思われる犯人は、十六夜さんの顔で監視カメラに映っていた。ここまではいいですね?」
「あ、あの………疑われてますけど、俺はやってないんです」
「鈴ちゃんも君が犯人だとは思ってないよ」
自分の無実を主張したいだろう十六夜にこの場にいる人間は敵ではないと諭す。
「顔なんて魔術でいくらでも偽造できる。数分間であれば、鈴ちゃんでも男子生徒に変化できるからね」
「………十六夜さん誤解のないように言っておきますが、姿形の偽造魔術は、視覚的なものだけですし、極限の集中力が必要とされます。そのため非常に高度な魔術とされますが、監視カメラの映像だけで犯人を特定するのはナンセンスだと我々も考えています。加えて、十六夜さんは近日この島に来た転校生。動機がありません」
鈴はそこからさらに情報を垂れ流す。
「本日未明、同様の手口で襲撃を受けた事件が2件発生しました。被害者は両方とも、この学院の女生徒です」
初耳の情報を受け、雫は目を細めた。この時点で十六夜の容疑はかなり薄れるだろう。何せその時間帯はアリバイがあるはずだからだ。
「狙われている学生には共通点がある感じ?」
「狙われている学生に共通点はありませんが犯人の目的の一つがわかりました」
十六夜は前のめりになり、雫は静かにその目的について聞かされるのを待っている。
「それは魔術師の『眼』です………被害者は全員目玉をくり抜かれているのです」
口調はいつもと変わらないが、星垣鈴の声色には隠し切れない怒りがにじんでいた。自分の学園の生徒が被害者にいるからではない。雫もそうだが彼女は無差別的な犯行が嫌いだ。理不尽が嘲り笑うかのように、誰かを傷つけるのをひどく嫌う。
「………え?被害者って生きてる?」
「ええ辛うじて、生きています。くり抜かれているのは片目ですし。鴨崎さんのお話ですと、炎魔術で襲われ、特殊な魔術で拘束。その後に、じっくりと時間をかけて目玉をくり抜かれたそうです」
想像以上にサイコパスな犯人の行動に、十六夜は何とも言えない顔をしていた。
「鴨崎君、あったことはないけどタフなんだろうね」
目玉をくり抜かれるレベルの話だとカウンセラーがいるだろう。それにここまできな臭い犯行となると、放っておくわけにはいかない。魔術師の犯罪は、恨み以外の犯行は大抵、何かの研究のためか、より大きな計画の一歩目だったりするからだ。
「…幸いと言えなくもないのが、さらなる手掛かりが舞い込んできたことです」
「本日未明、襲われた学生は2名と言いましたが目玉を抉られたのは一名だけで、もう一人は犯人を辛うじて撃退。犯人には逃げられたそうですが、背格好や性別などは記憶しているそうです」
「へえ、撃退したんだ。誰?」
「
3人しかいないはずの室内に声が響く。声の方向に振り向いた十六夜が見たのは、一人の少女であった。
青い髪を結い上げ、首には白と青を基調としたヘッドホンを掛けている彼女は、如何にも気が強そうだ。
「紹介します。竜胆音々さんです。音々さん、こちらが転校生の十六夜君です」
「ふーん。あんたがそうなんだ。ぱっとしない男ね」
いきなりパンチの利いた挨拶をされて、十六夜の顔が引きつる。竜胆音々と呼ばれた少女はすぐに雫の方を見て、目を細めた。
「久しぶりね、雨空雫。相変わらず、いけ好かない女で安心するわ」
「………なるほど、竜胆ちゃんか。確かに並大抵の魔術師であれば、君を襲撃するのは無理だ。停学処分明けに災難だったね」
音々の嫌味をまったく気にしていない雫は、竜胆にとってこの上なく気に食わない相手だった。
音々は視線を切って、鈴に問いかける。
「で、私に何をさせたいわけ?」
竜胆音々は、十六夜の冤罪の件も今回の連続襲撃事件も鈴から説明されていた。
「竜胆ちゃんにはさ、十六夜君としばらく行動を共にして欲しいんだよね。私と鈴ちゃんはデータベースと監視カメラ映像から真犯人を調べてみようと思っていてね。この島のことを説明する傍ら、君たちには被害者の鴨崎君に事件当時のことを聞いてきて欲しい。竜胆ちゃんと認識の齟齬がないかとかね」
代わりに答えたのは雫であった。
「あんたの言うことを聞いてあげる義理はないわよ?」
犯人を見て撃退した音々と犯人がスケープゴートに選んで失敗した十六夜は、襲撃されるリスクが高い人物だ。つまり、自分を囮にしようとしているのだと音々は直感していた。
「冤罪を掛けられた可哀そうな少年を見捨てるのかい?」
「あんたがそれで困るならそれでも悪くないわね」
「フフ、自分も騙せないチープな嘘をつくのは兄譲りなのかな?」
その言葉を皮切りに完全に部屋の空気が凍った。
「ッ!」
「雫!!!!!」
音々が顔を歪め、鈴が雫を窘めた。状況についていけないのは、冗談のつもりで話していた雫と事情を知らない十六夜だけである。
「………いいわよ。やればいいんでしょ」
音々は感情を殺した声で依頼を受領した。申し訳なさそうにする鈴と感情のない瞳でそれらを見る雫はどこまでも対照的だった。
「すいません、音々さん。報酬の件は何とかしますので」
「行くわよ、転校生!」
「え?え?」
完璧に事態についていけない彼を引きづって少女は部屋から出ていった。