TS転生したらラスボス扱いされた~Re~   作:銀髪こそ至高である

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第4話

十六夜と音々は夕暮れ時の街を歩いていた。雫の言葉通り、音々は十六夜にこの島の案内をしながら一般的な常識を教えていった。

 

曰く、この島では魔術師としての強さを示す決闘システムや魔術に関する研究を発表するシステムがあり、それらのシステムで残した功績によってポイントが与えられる。

 

このポイントによって、学生はランク分けされ一番下のランクがC、上はSとなっている。平均的なランクはBであり、このランクによって受けられる島からの恩恵が変わる。Aランクともなれば、様々な施設の優先権や補助金を受けられる。

 

曰く、この島は研究施設や学園などが集中している学区とそれ以外の一般地区、そして五芒星が管理している特別地区に分かれるらしい。

学区内は自治委員会が存在しているため、治安が良く学区に近い場所は人気で家賃が高いらしい。特別地区は収めている五芒星によって色がであるらしく、雫が収める地区は娯楽施設や落ち着ける場所が多く存在している。別の五芒星が収める場所であれば、研究所が密集している区画があったり、病院施設が隣接している区画もある。

 

そして最後に、音々は雨空雫について語りだした。

 

「あんたは雨空雫についてどう思ってる?」

 

「………どうって言われても、あの状況から助けてくれた恩人としか言えない」

 

「それ以外は?」

 

「………なんかすごい人」

 

「予想以上のバカさ加減に戦慄している私がいるわ」

 

ムッとする十六夜に音々はため息を吐く。

 

「竜胆さんにとって、雨空さんはどんな人なんだ?」

 

「魔女」

 

「魔女………?」

 

音々は歩くのを止め、向き直る。

 

「この島で起こる事件は毎年500件近くあるわ。事件の大きさはそれぞれなのだけど、事件の4割はあの女の手の平だと言われているわ。私はこれをただの都市伝説だとは思わない。鈴にしても私にしてもあの女の軌跡を見てきた奴はみんなこれが真実だと疑っていない」

 

「何言って………」

 

「五芒星はポイント以外に特別な『何か』を認められる必要があるわ。それは『叡智』や『業』、『医術』など様々だけどあの女の司るものは『未知』よ。雨空雫は、個人で国を亡ぼせるほどの魔術師でありながら、計略で理事会を押さえつける頭脳を持っている。魔術の腕に至っては歴代の魔術師の中でも最強謳われる。一人の人間でありながら国家を超える危険度を孕んでいる怪物。誰もあの女を制御できない。だけど、あの女は各国への抑止力になる。それ故に、理事会はあの女を五芒星にしたの」

 

「………」

 

十六夜には実感がなかった。どうして、目の前の少女がこれほどまでに畏怖と憎悪を雫に向けるのか。ただ一つ確かなのは、十六夜は雫のことを何も知らないということだ。そして、音々のことも。

 

「竜ど………ッ!」

 

音々に真意を聞こうとした瞬間、音々の身体は宙を舞った。

 

「へ?」

 

強い衝撃に穿たれた。そう直感した音々は、受け身を取り体勢を立て直す。

 

「竜胆さん!?」

 

血相を変えて叫ぶ十六夜に突如強烈な電撃が襲いかかった。

 

「ぐ、いッ」

 

十六夜は雷撃にその身を焼かれた。彼は驚愕と共に意識を明滅させる。通常魔術師は、自身に『身体強化』の魔術を常時かけている。これは身体能力と強度を飛躍的に上げるものだ。並みの魔術師であれば、銃弾やライフルの弾丸を受けても打撲程度で済む。強者であれば、戦車の攻撃すらも無傷で受け流すだろう。そんな魔術師としての生命線である魔術を十六夜は解いていた。

 

十六夜はその身に莫大な魔力を内包しているものの、制御がおぼつかない状態だった。それ故に、魔術の使用を控えていたのだ。

 

結果、中途半端な形で発動した身体強化は雷撃の直撃に耐えることができず意識を保つことで一時的に手一杯となった。

 

音々の視線先。彼女の瞳はただ一か所を見ている。その何もない空間から現れたのはローブを着た男だった。

 

音々は流れを感じていた。過去の体験から類推される勘に近い何か。それが警鐘を鳴らす。流れはそこでは止まってくれない。ロープの隙間から、垣間見える愉悦の笑み。その口角がより上がる。

 

「ッ!」

 

男が十六夜に肉薄する。十六夜はその動きが見えていたが、それでも動けなかった。体は動くようになったが、躱せるはずの攻撃は恐怖によって、致命的な凶刃に変貌する。

 

それを防いだのは音々だった。懐から取り出した金属製の警棒で、男の振るったサバイバルナイフを防ぐ。

 

「怖いのなら下がってなさい!」

 

「あ――っ!」

 

「キヒッ!」

 

男が笑う。たった一本のナイフだというのにそこから繰り出される、凄まじい速さの攻撃。それは言い表すのであれば凶刃の嵐。金属のぶつかり合う嫌なの音が響き、音々がバランスを崩したのを見て男が強烈な斬撃を食らわせる。

 

辛くも音々は殺意を受け止めるも、相手の膂力を殺しきれずそのまま吹き飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

「グッ!!!!!!!」

 

十六夜は悲鳴を上げる身体に構わず音々に飛びつき抱きとめる、だが吹き飛ばされた勢いに押され派手な音を立てて公園の遊具に衝突した。

日が完全に落ちかけ薄暗くなった公園へそのシルエットが近づいてくる。慌てて、十六夜は周囲を見る。自分が庇った音々にはどうやら怪我はなかったらしく安堵のため息をつく。

 

「どいて!」

 

「ッ!!!!」

 

十六夜は瞬時に状況を理解。音々を抱えてその場から距離を取った。接近する男の刃が十六夜たちがいた遊具を切り倒す。

 

「なんだ!?あのナイフ!」

 

「ナイフだけじゃないわ………あのローブも。襲われるまで姿を確認できなかった原因はあれね」

 

「あ!」

 

十六夜はそのことに気が付き、そして襲撃の理解した。襲撃犯は、あのローブのおかげで感知されずに音々を吹き飛ばした。十六夜たちは男を認識できている。つまり、一度認識してしまえば、姿を見れるのだろう。

 

「不意打ちはもうない」

 

音々は同じ結論にいたり、十六夜の背中を押した。

 

「何を?」

 

音々は心底邪魔だという怒りと守り切れないから離れろという心配を言葉に乗せて、罵った。

 

「邪魔だって言ってるの!あたしはあいつと戦える。でもあんたは違う。怖いなら、ビビっているなら逃げなさい!邪魔なんだよ!目障りなんだよ!あたしは一人で戦える!!!!!」

 

それは悲鳴だった。単純な怒りの情ではない。もっと複雑で歪んだ衝動。それを受けて十六夜は呻き声をあげる。

それは否定しようのない事実である。十六夜は命のやり取りが怖い。相手を攻撃することが怖い。そして力を乗りこなせないのが怖い。だから、動けないのだ。

 

それと同時に、十六夜は確信している。彼女の言葉は自分に向けて放たれたものではない。血相を変える彼女は、おそらく誰かと自分を重ねて叫んでいるのだ。

 

「キヒッ」

 

男が音もなく音々に接近する。振るわれる凶刃は空を切るが、それは囮。本命の攻撃が右側から放たれる。音々はそれを受け損ない白い肌から鮮血が飛び散り、次の瞬間細い顎を蹴られ音々は公園の門へと吹き飛ばされた。

 

十六夜が駆け寄ると痛みに歪む顔を見せる音々。太ももに走る切り傷からとめどなく血が流れ出していた…。状況がより絶望的になったことで 、逆に十六夜の頭を冷静にさせていた。

 

(逃げ出すだけならできる。この公園ごと吹き飛ばす勢いで、あれを振るう。周囲に人はいない。今なら――――――)

 

拳を固める十六夜は自分の魔力を熾す。自分の持てる最強の一撃のために。制御など効かない無差別攻撃。十六夜が構えを取った瞬間—————この場に似つかわしくないチリンという澄んだ鈴の音があたりに響いた。

 

気がつけば一人のメイド服の少女がその場に立っていた。灰橙色の髪に灰色の瞳。その顔は人形のように無表情だ。あまりに場違いな少女の存在に、ローブの男すらも一瞬固まった。

 

「雫の言った通り、面倒なことになってる。仕事が増えた…」

 

瞬間、メイドはローブの男の懐に現れそのがら空きの胴体に強烈な蹴りを放った。

 

「ガッ!?」

 

ローブの男は吹き飛ばされる。

 

「ッ!?」

 

鈴が転がるような声がその場に投げ出される。次の瞬間、男の目の前に少女がいた。

 

「おかわり、いっとこうか?」

 

メイド少女の拳がローブの男の胸部に押し当てられる。魔力の防護の上から強引に投打を叩き込む。男は悲鳴もなく悶絶し吹き飛んでいった。

 

轟音と共に土煙が舞う。土煙に交じって赤い霧のようなものが侵食していく。その様子を見た後十六夜は強烈な眠気に誘われて、意識をなくした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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