どうも、アトランタ合衆国副大統領のネヴィル・アーガスです。現在私はゲルマニア帝国の首都、ベルリンに来ております。さて、新皇帝オットー・フォン・ゲルマニアがぶち上げたノイエ・ベルリン計画により改造の進むベルリンですが、やはり活気に満ちています。ノイエ・ベルリン計画は公共事業として首都の改造を行い、雇用問題と公衆衛生問題とインフラ問題を一石三鳥で片付ける名案だと、街の人々は我らが皇帝と称えています。私としましては、都市計画を見た所空襲対策が異様に厳重であるのが気になりましたが、それはそれ。
ところで、私がベルリンを訪れている理由。これは何も労働の喜びを噛み締めている勤勉な労働者の働きぶりを観察する為では有りません。それはオットー、失礼皇帝陛下のお仕事です。
私の目的は、ズバリ皇帝陛下に会う事! しかしまあ会談は明日の予定。今日は自由に観光という訳です。と言っても護衛付きでは有りますが。国務長官殿はホテルで報告書を書いている様なので、私はホテルが爆破されて一網打尽などと言う事態を避ける為、市中に繰り出しているのですね。
しかし久しぶりに来てみると良い街ですね、ベルリンは。住んだ事はありませんが、街並みが変わってしまう事が少し残念に感じます。それ以上に完成した世界都市ゲルマニアを見てみたいと思っておりますが。
ああ、もちろん世界都市なんて名乗らせませんよ。せいぜい廃墟都市とか、要塞都市とか。いや失礼。冗談ですとも。アトランタ人は皮肉を言いたがりですが、ブリタニア人程皮肉が上手くないので、この様に笑えない事を言ってしまう訳です。その辺り、皮肉など言うつもりがないゲルマニアの皆さんとは相性悪いかも知れませんね。
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欧州に来てもアーカム病──私は何者かに話し始めてしまう事をこう呼ぶ事にした──が発症するとは。
私は私とぶつかって転んでしまった少年に手を差し伸べながら、謎の持病について考えた。やはり前世の記憶が問題なのだろうか。それにしても、誰に話しかけているのだろうか。
「すみません。お怪我はありませんか」
私がアーカム病について考えていると、起き上がった少年が話しかけて来た。この少年、よく見れば良家の者なのだろう。言葉使いや態度、服装などから分かる。こう言う能力は政治家をやっているとすぐに身につくものだ。それに、メイドを1人連れている。これは恐らく、貴族の子弟で間違いない。
しかし、私は少年の顔を見て、そんな事を考察する以前に驚愕していた。
「ああ、私は大丈夫だ。そして前を見ていなかったのは私の方だ。ベルリンは久しぶりでね。つい街並みに目が行ってしまった。不注意を詫びよう」
時計を見ると、昼頃だった。
「昼食はもう食べたのかい。まだ食べていないなら、ご馳走させて欲しい」
「いえ、気にしないでください」
「その様子だと、まだの様だね。何、遠慮しなくて良い。君と話したくてね。明日、然る方と会う予定があるのだが、この国の様子を聞いておきたい」
私がそう言うと、少年はメイドと何か話し、すぐに応えた。
「分かりました。ご馳走になります。近くに良い店があるのですが、そこに案内しましょうか?」
「うむ、そこにしよう。そう言えば、名前を言っていなかったな。私はネヴィル・アミュクリオン・アーガスという」
これには少年も驚いた様だ。しかし私が少年を見た時の驚きには及ばないだろう。
「これは失礼致しました。まさかアトランタ合衆国の副大統領その人とは」
「副大統領に同行する外交官の1人、くらいの予想はしていたんじゃないかな?」
「ええ、しかし護衛も見えませんでしたから、まさか副大統領ご本人とは思いも寄りませんでした」
少年は気まずそうだ。まあ、そんなに気にしないで欲しい。目につかない様にと指示したのは私だから。
「失礼、私の方こそ名乗っておりませんでした。私はリッケルト・ツー・フェルトと申します」
そう、この少年どう見てもリッケルトなのである。街中で突然原作キャラにあったら流石に驚くわ。よく見るとこのメイド、近衛のビアンカさんに似ている様な……。もしかしてリッケルトの初恋相手とか、そんな感じだろうか。
まあ、という事で、リッケルト少年に昼食を奢る事になったのだ。
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ゲルマニアやベルリンの最近の様子や皇帝の評判をひとしきり聞いた後、話題はリッケルトの方へ向かった。
「ふむ、とすると、秋からは士官学校へ?」
「ええ、ヴァイクセル軍の方へ。領地はバヴァリアなのですが、やはりヴァイクセル軍の方が主体ですから」
「確かに、特殊な機関や部隊はヴァイクセル軍に集中していると聞く。親衛隊もヴァイクセル軍だろう」
「そうですね。私は前線に出る普通の部隊に配属されたいのですが、きっと父が後方の部隊に配属される様に働きかけるでしょう。父は先の大戦で前線に出ていたので……」
リッケルトは不満げな顔だ。安心したまえ、君は前線の向こう側に配属されるぞ。後方には間違いないが、自国の後方とは言ってない。そんな感じだ。
「それなら仕方ない。あの戦争は酷かった。私は従軍記者としてあの戦場にいた。だから突撃はしなかったが、それでも悲惨だった。お父上は兵士として出られたのだろう。貴族出身者の戦死率は特に高かったらしい。君はお父上の勇敢さを受け継いだのだろうな」
「父が勇敢、ですか。そんな感じではありませんけどね。戦友会に呼ばれても滅多に行きませんし」
「それは会うべき戦友を殆ど亡くされているからじゃないかね。これは想像だがね、数々の死線を乗り越え生き延びたお父上は、それがどんなに奇跡的にだったか実感されているんじゃないか。だからこそ、君にも同じ奇跡が起こるかは分からない。そんな想いが根底にあるのかも知れないね」
リッケルトと神妙な顔をした。君の父は多分すごい人だぞ。私なんか火事の中喉に木材が刺さって死んだんだぜ。運が無さすぎるだろ。従軍記者だった時だって最前線って訳じゃないのに何回も爆撃を受けたし、包囲されかけるし。
「なるほど、そう言う観点は持っていませんでした。父には辛いかも知れませんが、入学前に戦場での事を聞いておきたいと思います」
「そうすると良い」
リッケルトの上昇志向は父との確執にあったっぽいな。まあこれでそれ自体は解決しそうだけど、多分リッケルトの上昇志向自体に変わりは無さそうだね。特務に配属されるくらいだ。普通に優秀なのだろう。
「うむ、そろそろ解散としようか。国務長官と打ち合わせが必要だからな」
「分かりました。私の相談に乗っていただいて、ありがとうございました」
「いや、私は勝手に色々言っただけだ。あとはお父上と話し込まれると良い。それではな」
そうして私は代金を支払い、店を出た。全く、運が良い。今回会えるのはオットー、そしてせいぜいエリオットくらいだと考えていた。ベルクマンやエリザベートと会ってしまったのなら逆に危ないだろう。そんな中原作キャラと会えたのはボーナスだ。
よし、明日のオットー戦に備えて国務長官と打ち合わせするか。
ゲルマニア帝国軍がヴァイクセル軍とバヴァリア軍に分かれているという設定にしたのは、軍服が2種類あるからです。
ヴァイクセルはヴィスワのドイツ語名、バヴァリアはバイエルンの英語名。原作の捻った国名に倣っての命名してみました。