魔女保有国アトランタを目指して。   作:ペジテ市民A

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皇帝 1933年ゲルマニア

 ジーク・ライヒ!!

 どうも、アトランタ合衆国副大統領、ネヴィル・アーガスです。私現在、国務長官のアーチボルト・トルートレン君と一緒にベルリン王宮に来ております。この世界では帝政が継続したので、皇帝の居城のままなのです。そして、これからこの王宮、そしてこの国の主人である、ゲルマニア帝国の皇帝陛下にお会いする訳です。

 

 彼、即位から半年ですが、かなりの強硬派だと認識されています。再軍備を主張している事が最も分かりやすい例でしょうか。これは先の大戦の講和条約であるコンコルド条約の破棄に他ならないのですがね。まあ、ヴォルガ連邦の脅威に立ち向かうという建前と、軍需産業で失業者問題を解決したいという本音があるのでしょうが、テルミドールは受け入れるでしょうか。共産主義と帝政、どちらへも反発が強そうですし。まあ、そこら辺の問題を解決したくて私と話す。そんな部分もあるのでしょう。

 

 はぁ、オットーさん割ととんでもない事をいきなり要求して来そうな感じがあります。チョビ髭にしろカイゼル髭にしろ、外交で相手にするのは面倒そうです。まあ、戦争で相手にするのはもっと大変なのですが。会うのが憂鬱だぜ。

 

 そんな事を考えていたら会議室の前まで案内されていました。

 

 この扉の向こうにオットーか。原作では核保有国の元首となる奴です。その面、拝ませて貰いますよ!

 

────────────────────────

 

 皇帝との会談前に正気を取り戻せた。あの状態で皇帝と顔を合わせたら、何をするか分かった物じゃない。

 

 扉が開かれ、豪奢な椅子に座った白い軍服の男と目が合った。

 

 男は立ち上がり、手を広げて私を出迎える。ウェーブの掛かった黒髪、鷹のような目、姿勢の良い長身。間違いなくオットーだ。

 

「ようこそ、アーガス副大統領。就任後初の訪問先に我がゲルマニアが選ばれた事、嬉しく思っておる」

「お初にお目にかかります。先ずは、御即位おめでとう御座います」

「ああ、そちらこそ就任おめでとう。新しく指導者となった我々が共に立って、恐慌の解決に乗り出そうではないか」

 

 そして我々は固く握手した。こうして対面して分かったが、オットーは指導者として魅力的過ぎる。ゲルマニア人で無い私でも、「強靭な指導者」と言う印象を植え付けられた。上手くやれば、大衆の指導者と帝国の皇帝を両立してしまえる天性の才能がある。……我々、か。私も大分毒されていたな。

 

「トルートレン国務長官、君も頼もしそうな男だ。この困難な情勢では、会談する事も多いだろう。貴国と我が国の間に良い関係を築きたいと考えている」

「ゲルマニア帝国は我が国にとって最も重要な国の一つです。こちらからも、より良い関係の構築を望んでおります」

 

 同じ様に、オットーと国務長官は握手した。

 

「グレン大統領に、『政権最初の外交で我が国へ副大統領と国務長官を派遣すると決断された事は我としても喜ばしく、大統領の熱意を受け取った』、この様に言っていた時伝えて欲しい」

「承知いたしました。貴国と我が国の協力について大統領もより一層の前向きになるでしょう」

 

 その後、一通りの国際問題について認識の確認をした。

 

「ルール地域の統治にテルミドールが主張する様な条約違反は無い。この認識はアトランタと共有出来ていると言う事で宜しいか」

「20年以降ルール地域の統治を主導している親衛隊が警察組織であると言う貴国の主張には同意します。しかし、親衛隊の前身が大戦中貴方の指揮下にあった第1近衛師団であることは事実であると言う認識です。また、近年重武装化しており、このままでは軍事組織に回帰するのでは無いかと危惧しております」

「では現状では条約違反とは考えていないが、将来的に違反となりうると」

「貴国次第です」

 

 オットーの名が知られる様になったのは大戦中に勇敢な軍指揮官としてである。だが、一躍全国に名を轟かせたのは親衛隊によりルール地域のゼネストを鎮圧した事件によってだ。軍備制限により解雇された軍人で構成された親衛隊を皇族が指揮すると言う構図によって、オットーは軍や右派の支持を受け、1920年以降国家の中の国家の指導者として君臨していた。

 そしてとうとう帝国全体の指導者になってしまった訳である。

 

「では、我が国の再軍備についてアトランタの立場を確認したい。我が国は共産主義の脅威を切実に感じている。現状の弱体な帝国軍では、防潮堤にはなり得ない。ヴォルガ連邦は思い立てば直ぐに大西洋まで到達する事が可能なのだぞ」

「『恐慌の影響を受けなかったヴォルガ連邦』ですか。現状それ程の戦力は無いでしょうが、ヴォルガの強大化は我々も警戒しています。しかし、再軍備により強化された軍がヴォルガに対してのみ使われる事を我々はどう信じれば良いのか。この不安が解決されなければ、認められないかと」

 

 再軍備と言えば、赤軍と一緒に訓練とかやっているのだろうか? それともこの世界では帝政のままだからやっていない?

 

「当然、再軍備された帝国軍は帝国の防衛それのみの為に行動する。ただ、自衛戦争を行う相手をヴォルガのみに限定する事は出来ない。帝国が攻撃を受けたのならば、自衛する。それは相手が何処であろうとも、だ」

「テルミドールが警戒しているのは、汎民族主義にあるとも言えます。貴国と合邦しようと言う動き、これを理由に貴国が軍事力を用いて合邦を強制するのでは無いか。それを危惧しています」

 

 結局ゲルマニアはオーストリアに該当する国とチェコに該当する国を併合してしまう。これは第3帝国と同様のルートによってだと思われる。原作劇中の地図をよく見ると、多分ズデーテンを剥がした上で保護国化した様な境界線なのだ。

 

「それらの地域が我が国との合邦を望むのであれば、受け入れよう。この時代、同胞で団結しなければ生存出来ないのは明らかだ。それについて、我が国の軍事的圧力による物だ、などと難癖を付けないでもらいたい。第一、我が民族を国境により引き裂いたのは貴国等では無いか」

「合邦は地域情勢に大きな影響を与えるものです。ある国からある国へ領土を割譲する様な形の場合は特に。領土が減少した国家の国力は低下し、恐慌からの脱出と言う本意から外れかねません。少なくとも、国際的な同意を得る為に、周辺諸国や我が国が参加する会談のは場が必要です」

 

 会議室はギスギスした雰囲気になっていた。国務長官は流石にキリッとしているが、一部の外交官はやめてくれよ、みたいな思いが滲み出ている。向こうの外交官もちょっと冷や汗をかいていた。

 

「周辺諸国に説明する必要がある事は良いだろう。だが無論、地域の住民の意思によってその地域の帰属する国家は決まる。住民による投票や、住民に選ばれた代表者が合邦を望むなら、我が国も受け入れる事を考える。そしてこれが大きな疑問だが、何故アトランタに説明する必要があるのか。欧州における国境の変化が貴国の安全に直ちに重大な影響を及ぼすとは思えない。我が国も大戦を起こすつもりは無いのだからな」

 

 本当かい? 

 そんな風に私が思っていると、国務長官が答えた。

 

「第3国としての役割を果たす事が出来ます。周辺諸国は貴国の強大化を恐れる余り、正当な合邦すら強硬に批判する可能性があり、第3国の視点は不可欠と考えております」

「仲裁者としてブリタニアの株を奪うつもりか? 確かにブリタニアは対岸と言うには近過ぎるが……。まあ良い。繰り返すが、住民の意思があるならば貴国とて合邦を妨害する事は出来ない」

 

 ブリタニアが没落する光景を想像したのか、オットーは薄らと笑みを浮かべている。しかしアンシュルスは絶対の様だ。だが、この言い方だと確認しておくべき事がある。

 

「では、独立心の強いヴェストリアやエイルシュタットを合邦する事はあり得ないと言う事で宜しいですか」

「国民が望まないのであれば。その2カ国は三十年戦争の終結以来独立している。エステルライヒなどとは事情が違う。住民が望めば話は違うが、その2カ国の指導者は合邦を望みそうに無い」

 

 ほう、そんな認識なのか。確かにエイルシュタットに対しては正面から侵攻している。また、合邦出来るならリヴォニアより先にエイルシュタットが併合されそうなものだから、オットーが戦争前にエイルシュタットを併合する気が無いのは確かだと、そう考えて良いのかもしれない。そうするとエイルシュタット合邦ルートは無さそうかな?

 

 因みに、エイルシュタットはヴェストリアの様に永世中立というは訳では無い。中世にはティロル地方を巡って周辺領邦と戦争を繰り返し、独立後もエステルライヒやロムルスと戦争した事もあった。

 ついでに言えば、ロムルス=エイルシュタット間の南ティロル戦争の結果、南ティロルがロムルスに併合され、それが遠因でロムルスの大戦参戦が遅れ、ゲルマニアにて帝政が続行される事に繋がるのだが、それは別の話。

 エイルシュタットがアルプスの平和な小国と言うのは、ここ最近だけの話なのだ。

 

「そうだ。ヴェストリアの軍縮会議で、我が国はこう提案する予定だ。『ブリタニアやテルミドールの軍縮、或いは我が国の再軍備によって、軍備を平等にするべきだ』とね。ヴォルガ連邦も賛成する可能性がある。貴国はどう考える?」

「その提案が軍縮によって遂行されるとすれば、我が国はそれを歓迎します。しかし、その平等とは植民地軍を含めた戦力が均衡する様に、と言う事ですか?」

「当然だ。テルミドールはヴォルガ内戦の折、植民地軍を派遣して内戦に干渉したでは無いか」

「植民地軍を含めて軍縮を行うとなると、テルミドールは特に反対するでしょう。軍縮会議の趣旨として、我が国も軍縮する方向へ交渉を行います。貴国の提案について、軍縮という主張についてのみ賛同し、テルミドールやブリタニアの軍縮について協力出来るでしょう」

 

 オットーは凶暴な笑みを浮かべた。その顔を見ていて気圧される様だ。

 

「植民地軍の軍縮。それによる植民地帝国の崩壊。孤立主義を脱却しようとする政権。全てが繋がるな」

「……、と申しますと?」

 

 国務長官がこちらをチラと見てくる。オットー、かなり感が鋭いな。

 

「アトランタ合衆国の覇権。君達は、これを確立しようとしているな」

 

────────────────────────

 

 そんなやり取りがあった後も、会談は続き、幾つか合意点を見つけた。我々はそれについて大統領に確認した上で、正式に合意を結ぶ事となった。

 

 そして2日後、私は列車でエイルシュタットへ向かっている。国務長官はリヴォニアに向かい、私には外交官や護衛が何名か付いているだけだ。

 

 列車が国境を越えエイルシュタットに入った時、私は美しいアルプスの渓谷を眺めながらぽつりと呟いた。

 

「世界の平和、或いは君が言うところのアトランタの覇権。これを確立する為の、必要不可欠なピース。それが何なのか、君はいつ気がつくのかな?」


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