とある原石の決闘目録   作:みんふみ

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迫りくるもの

「そうですか、分かりました。……いえ、わざわざ調べていただきありがとうございます」

 

 美琴とのデュエルの後、遊石たちは本来の目的である、アヴリルの生活用品などの買い出しを済ませ、遊石と葛城の住むマンションへと帰ってきていた。

 そのマンションへの帰りのあいだに、葛城が自分の所属する研究機関、および、そことつながりのある機関に連絡を取り、心理掌握こと食蜂操祈の情報を集めてもらっていた。

 

「どうだった?」

 

 電話を切った葛城に遊石がたずねる。

 3人とも食事を済ませ、エアコンの効いた部屋でゆっくりとくつろいでいた。

 アヴリルは、葛城が電話をしている最中は遊石のカードを1枚1枚手に取り、興味津々に眺めていたが、葛城が電話を済ませたことに気付いて顔を上げた。

 

「私の知ってる機関の一つが、昨日食蜂操祈の協力のもと実験を行う予定だったらしいわ。でも、その実験に食蜂が姿を見せなかったって話があるわ。その実験自体は食蜂がいなくても行われたから、特段の騒ぎにはならなかったみたいね。レベル5は実験とかをバックレることがデフォだから、連絡も入れなかったみたい」

「なるほど。でも御坂の話じゃ、食蜂操祈の取り巻きの連中も行方を知らないってことらしいな。誰か一人くらいは行き先を知っててもよさそうだが……」

「そうね。お忍びの旅に出たって可能性もあるけど、食蜂の部屋には服や下着なんかが丸々残ってたってことだから、その可能性も低そうね……」

「その食蜂さんという方、何かの事件に巻き込まれていなければ良いのですが……」

 

 買ったばかりのパジャマに身を包んでいるアヴリルが、遊石と葛城が考えていたことを代弁するかのように呟いた。

 誰にも行き先を告げずにいなくなっている現状を考えれば、何らかの事件に巻き込まれていると仮定することは間違いではないし、むしろ自然なことである。

 だが、問題はそのいなくなった人物が、学園都市の中でも最強のレベル5の一人だということなのだ。

 食蜂の能力が戦闘向きではないとはいえ、対人という観点からすれば、彼女に勝てる人間はそうはいない。

 それこそ、相手が彼女と同じレベル5でなければ勝つのは不可能といってもいい。

 

「……とにかく、明日葛城たちが学舎の園に行って、何でもいいから食蜂操祈の情報を手に入れられることを願うしかない」

 

 美琴とのデュエル後の話し合いの結果、明日、美琴の友人である初春飾利と佐天涙子が学舎の園を訪れるので、葛城やアヴリルもその時一緒に招待するということで話がまとまっていた。

 一方、男である遊石は、美琴の紹介をもってしても学舎の園へ入ることはできないので、おとなしく留守番ということになった。

 

「葛城、悪いが明日一日頼む」

「ええ」

「あの、遊石」

「ん?」

 

 遊石がアヴリルの方を見ると、アヴリルが『原石眼の切札竜』を手に何やら訴えかけるような眼差しで遊石のことを見ていた。

 

「お願いがあるのですが」

「……まさか、デュエルを教えてほしいって感じか?」

「はい!! 遊石のデュエルを見ていて、私もやってみたくなりました!」

「それは構わないが……本当にやるのか? 簡単そうに見えて、結構ルール複雑だぞ?」

「そうね。とっつきにくい部分が多々あるのは間違いないわ」

「大丈夫です! 記憶力には自信があります!」

「記憶喪失なのに記憶力に自信とはこれいかに……いや、記憶が無いからこそ、記憶力が高まったのか? それに正直、遊戯王の難しさは記憶力の問題じゃない気がするが……まぁ良いか。止める理由もないし」

「ありがとう遊石! それと、もう一つお願いが……」

「なんだ?」

 

 アヴリルは手にしているジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンのカードの縁を人差し指でそっと撫でた。

 

「差し支えなければ、このカードを貸してほしいのです」

「ジェムストーンアイズをか?」

「はい。遊石には言いましたが、このカードを持っていると、私の記憶にない風景などが時おり浮かんでくるのです。それに、ぬくもりも感じます。優しくて、それでいて強い力がぬくもりとなって、私を包み込んでくれるのです」

「そういえば、白井や御坂たちと出会う前にもそんなことを言ってたな……」

 

 遊石は考える。

 アヴリルの喪失した記憶に、ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンが関係しているのは間違いない。

 遊石も、ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンからアヴリルに向かって、力というか思念というか、言葉では形容しにくいが、確実に何かが流れ込んでいるのを感じていた。

 モンスターが主体のデッキにはほぼ必ずといって良いほどジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンを入れ、何度か窮地を救われてきて遊石。

 だが、今日のサイバー・ダークの男や御坂美琴とのデュエルもそうだが、ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンに頼りきりになることを遊石は悩んでいた。

 ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンはあくまで切り札であり、出来れば使わずにデュエルを終わらせられればそれに越したことはない。

 記憶を取り戻す一助になるかもしれないジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンをアヴリルに貸すことで、アヴリルにとってもプラスになり、遊石はジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンを使わずにデュエルを楽しむことができるようになる。

 

「……よし、ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンをアヴリルに貸そう。ついでに、アヴリルのデッキも作るか」

 

 遊石はそう言って、収納スペースからカードの入ったケースをいくつも引っ張り出した。

 

「これ、全部遊石のカードですか!?」

「まぁな。デッキを組むときは、この中から40枚以上60枚以下で組まないといけない。基本的に、枚数は少ない方が良い。60枚の方が、強いカードを多く入れられるから良さそうに見えるけど、実はダメなんだ。どうしてだと思う?」

「えっと……」

 

 アヴリルはしばし考える。

 チラリと手にしていたジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンを見て、そしてひらいめいた。

 

「そっか、ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンが引けなくなる!」

「え?」

「あ、いえ、ジェムストーンアイズに限らず、欲しいカードが引きにくくなるからです! 60枚の中から欲しいカードを引くより、40枚の中から引く方が引きやすいですから!」

「その通り。じゃあ、今からその40枚を選ぶわけだが……」

 

 話しはじめる遊石と、その話を真剣な表情で聞くアヴリル。

 一方葛城は、二人の話が長引きそうなのを察知して、バッグからノートパソコンを取り出してネットの海に潜ることにした。

 ああなってしまった遊石を止めることは、葛城をもってしても不可能なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、眠い……」

 

 翌日。

 学舎の園へ向かうバスに乗るため、葛城とアヴリル、そして遊石が見送りとしてバス停にやってきていた。

 結局、遊石とアヴリルの遊戯王談議は夜の3時にまで及び、痺れを切らした葛城がアヴリルを無理やり遊石の隣から引き剥がして自分の部屋へと連れ帰ったのであった。

 おかげで葛城は寝不足となり(遊石は自業自得)、一方のアヴリルは3時まで起きていたとは思えないほど晴れやかな表情でバスを待っている。

 

「アヴリルさん、どうしてそんなに元気なの……」

「遊石とのお話がとっても楽しかったので! 早くデュエルしてみたいです!」

「そ、そう……生憎、今日はデュエルディスク持ってきてないわよ。家に帰ってから、遊石とやってちょうだい」

「お、来たみたいだぞ」

 

 雨の降る中、屋根のついたバス停でバスを待っていた遊石たちの視界に、緑色のバスが近付いてくる光景が入ってきた。

 学園都市を循環しているバスの一つであり、このバスのルートの途中に『学舎の園入り口』という停留所がある。

 バスは水しぶきをあげないよう早めに減速を始め、ややゆっくりとした速度で停止した。

 ドアが開くと、葛城とアヴリルが順にバスの中へと入っていく。

 

「それじゃ葛城、頼んだぜ」

「ええ」

「遊石、また後で!」

 

 ドアが閉まり、ゆっくりとバスが滑るように動き出した。

 動くバスに目をこらして車内をよく見ると、一番後ろの席に初春飾利と佐天涙子が座っているのが見えた。

 事前に打ち合わせてはいなかったが、どうやら同じバスだったようだ。

 

「……さて。暇だし、カードショップにでも行くか」

 

 遊石は傘を開くと、バス停の屋根の部分から出て一人歩き始めた。

 今は雨が降っているが、あと10分でこの雨も止むという予報だ。

 正確には、演算の結果確定した未来の事象、すなわち10分後に雨が止むという確定事項を予報として発表しているにすぎないのだが。

 学園都市の外の住人からすれば、100%当たる天気予報ということで驚愕に値するものだが、中の住人からすれば至極普通のことだ。

 

(ここからショップまでは歩いて10分以上はかかる。そのあいだに雨は止む。ショップで適当に時間を潰して、たまには少しリッチな外食でも……)

 

 そんな風に1日の計画を頭の中で練り上げていた遊石。

 ところが、人通りの少ない道を歩いていると不意に、全身を奇妙な気配が包み込んだ。

 

(……なんだ?)

『マスター、気を付けてっ』

『ライナの言うとおりだマスター。後ろから邪悪な気配を感じる』

 

 遊石の脳内に、今日の同伴である『光霊使いライナ』と『闇霊使いダルク』の声が響く。

 二人の声には警戒の意識が含まれていて、遊石の全身に緊張が走る。

 だが、今遊石のいる場所は人通りが少なく、雨という天気も相まって助けを呼んでもすぐに誰かが駆けつけてくれる気配はない。

 意を決して、遊石は後ろを振り返った。

 

「……なんだ、アイツは?」

 

 そこには、フードつきのローブを全身にまとった人物が一人立っていた。

 背格好からして男のようではあるが、顔が見えないため断言はできない。

 断言できることというと、友好的な関係を築こうという雰囲気ではない、ということだ。

 

「……俺に何か用か?」

 

 ローブの人物は黙ったまま、左腕をローブから出すようにして遊石に見せた。

 そこには、デュエルディスクがあった。

 

「俺とデュエルしようってことか? 結構だが、それならそのローブを取って顔を見せてほしいもんだな」

「……今のお前からは、あの竜の力を感じない。私の目的は、お前からあの竜を奪取すること」

(あの竜、だと? ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンのことか?)

「だが、お前があの竜を持っていようといまいと、お前を倒すという私のもう一つの目的は果たせる」

「俺をデュエルで倒そうってか。いいぜ、かかってこいよ」

 

 遊石はカバンの中からデュエルディスクを取り出して左腕に装着する。

 直後、ローブの人物が両腕をバッと左右に広げた。

 すると、晴れ間が覗こうとしていた空が徐々に暗黒に覆われ、その闇が遊石とローブの人物を取り囲んだ。

 

「これは……お前の能力か!?」

「能力? まぁ、そうだといわれればそうだな。この空間では、デュエルの勝敗がプレイヤーの命を左右する。勝ったものは無事この空間から脱出できるが、負けた者には永遠の闇が待っている」

「……何を言ってるんだ?」

「やってみればわかるさ。では、早速始めるとしようか」

 

 男がデッキを取り出してディスクにセットする。

 それを受けて、遊石をホルダーからデッキを取り出してディスクにセット。

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

 To be continued.

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