「俺のターン、ドロー。……よし。俺は手札から魔法カード『マドルチェ・ボレロ』を発動。発動時、ゲームから除外されている「マドルチェ」と名のつくモンスターを全てデッキに戻す。その後、デッキから「マドルチェ」モンスターを1枚手札に加えるか特殊召喚することができる。俺は『マドルチェ・マジョレーヌ』を手札に加える」
遊石はチラリと美琴の場を見やる。
先ほどのターンに発動されて再セットされた『Ranker.3rd Railgun』には、モンスター破壊効果がある。
2体まで破壊できるということは、3体以上召喚および特殊召喚しなければ、遊石の場にモンスターが増えないことになる。
苦しい状況ではあるが、遊石はこのデュエル、勝たなければならないのだ。
当然、学舎の園への切符がかかっているというのもあるが、それ以上に、デュエリストとして負けられない事情がある。
実はこのデュエル、美琴が完璧に進めていたならば遊石はすでに負けていた。
美琴が『Ranker.3rd Railgun』を発動したターン、遊石の場のジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンは攻撃表示だった。
つまり、あのタイミングで『電池メン-角型』2体を使い、『No.101 S・H・Ark Knight』をエクシーズ召喚し、ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンをエクシーズ素材として奪っておけば美琴の勝ちだったのだ。
ただ、これは結果論であり、あのプレイングをミスとして美琴を馬鹿にすることはできない。
遊石が美琴の立場であっても、手札に『Ranker.3rd Railgun』がくればそれを使うプレイングをしてしまう。
それに、美琴は今はもうジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンに蘇生効果があることを知っているから、次からは迷わず『No.101 S・H・Ark Knight』を呼び出すに違いない。
いずれにしても、今回遊石はすでに負けのはずのデュエルをまだ続けていられる訳であり、なんとしても勝たなければならない。
(とにかく、ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンの効果は使えない。幸い、ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンは素の状態でも攻撃力2500だから、戦闘を行うことはできる。もっとも、モンスターを装備していないジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンが相手プレイヤーに与える戦闘ダメージは0になってしまうが……)
『Ranker.3rd Railgun』には発動条件がある。
美琴の場にいる『燃料電池メン』を戦闘破壊すれば、ひとまずは発動不能になる。
が、戦闘を行うということはジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンを攻撃表示にして、美琴にターンを渡すということになる。
もし返しのターンでNo.101 S・H・Ark Knightを呼び出されたら、エクシーズ素材として吸収されてジ・エンドとなる。
危険な賭けだが、遊石のライフはどのみち風前のともしびだ。
賭けに出るのも悪くない。
「バトルフェイズ! ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンで燃料電池メンへ攻撃!! モンスターを装備していないジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンが相手プレイヤーに与える戦闘ダメージは0となるが、戦闘破壊はできる!」
「……何も発動しないわ」
「(オネストが手札に無くて良かった……)俺はこれでターンエンド」
「私のターン、ドローよ! 私はモンスターをセット。さらにカードを1枚伏せて、ターンエンド」
美琴の場には、守備表示のNo.106 巨岩掌ジャイアント・ハンドと裏守備モンスターが1体、そして伏せカードが3枚。
うち、伏せカードの1枚は『Ranker.3rd Railgun』だ。
一方、遊石の場には装備カードのないジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴン。
そして、手札にはマドルチェ・マジョレーヌ1枚。
「……俺のターン、ドロー!!」
遊石はドローカードを見る。
もたもたしては美琴に布陣を整えられて負ける。
なので、相手に決断を強要させることにした。
「俺は手札の『マドルチェ・マジョレーヌ』を召喚!! このカードが召喚・反転召喚に成功した時、デッキから「マドルチェ」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる……が、この効果を使えるかどうかは、第三位様が『マドルチェ・マジョレーヌ』に対して『No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド』の効果を使うかどうかによって変わる。さぁ、どうする?」
「くっ……!」
美琴は決断を迫られた。
ここで『マドルチェ・マジョレーヌ』を召喚したということは、意図があってのことだ。
効果を止めなければ、相手に思い通りに動かれる可能性がある。
しかし、ここでエクシーズ素材を取り除いて『No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド』の効果を使えば、ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンへの抑止力が無くなってしまう。
美琴は遊石の除外されているカードを確認することにした。
マドルチェデッキにはレベル3やレベル4のモンスターが多いことから、除外されているエクシーズモンスターの大半がランク3やランク4のモンスターだ。
これらの中にマドルチェデッキの『女王様』である『クイーンマドルチェ・ティアラミス』が無いのは、1つ前の遊石のターンで使われた魔法カード、『マドルチェ・ボレロ』の効果でエクストラデッキに戻っているからだ。
つまり、『クイーンマドルチェ・ティアラミス』を装備されることはない。
が、そんな除外されているモンスター群の中に、ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンのためだけに入れたことが容易に想像のつくモンスターがあった。
(超弩級砲塔列車グスタフ・マックス……ですって!?)
1枚だけ、異様な存在感を放つランク10のエクシーズモンスター、『超弩級砲塔列車グスタフ・マックス』。
攻撃力、守備力ともに3000というモンスターだが、その効果もシンプルかつ強力なもので、1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動でき、相手ライフに2000ポイントダメージを与えるというものだ。
(私のライフは残り1600……つまり、この効果を使われたら負け……!)
使われたら負けの効果。
何を差し置いても、これだけは使われるわけにはいかない。
よって、ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンの効果も封じなければならない。
「……私は優先権を放棄する。マドルチェ・マジョレーヌの効果、使いなさいよ」
「そうか。なら、マドルチェ・マジョレーヌの効果で、俺はデッキから『マドルチェ・エンジェリー』を手札に加える。そして、魔法カード『
「しまった!」
「もう遅い!! 俺は手札に加えた『マドルチェ・エンジェリー』を通常召喚!! そして、レベル4『マドルチェ・マジョレーヌ』と『マドルチェ・エンジェリー』で、オーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!! さぁ、いよいよ出番だぜお菓子の国の女王様!! 現れろ、『クイーンマドルチェ・ティアラミス』!!」
遊石の場が眩い光に包まれ、その光の渦の中から、チョコレート色のドレスを身にまとったクイーンが姿を現した。
「クイーンマドルチェ・ティアラミス……」
高貴な姿の中にも可愛らしさを併せ持ったクイーンの登場に、美琴がその名を呟く。
美琴が感じているのは、女王としての気品と、これから彼女を待ち受ける絶望。
『遊石様、いえ、今はマスターとお呼びした方がよろしいでしょうか……お久しぶりです』
「前回の葛城とのデュエル以来か。ティアラミスのマスターは葛城だ、俺のことは名前で良い。それより、ティアラミスの力、今日は俺に貸してくれ」
『了解いたしました。わたくしの力、存分にご活用下さい』
「助かる。俺は『クイーンマドルチェ・ティアラミス』の効果を発動!! 1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、自分の墓地の「マドルチェ」と名のついたカードを2枚まで選択して発動できる! 選択したカードをデッキに戻し、戻したカードの数まで相手フィールド上のカードを選んで持ち主のデッキに戻す!! 俺は素材の『マドルチェ・マジョレーヌ』を取り除き、墓地にある2枚の魔法カード、『マドルチェ・チケット』と『マドルチェ・ボレロ』をデッキに戻して効果を発動!! 『No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド』と、さっきのターンの終わりに伏せられたカードをデッキに戻してもらう!!」
「……どうやら、私の負けみたいね」
状況を察した美琴が、ため息をついてそう言った。
「ティアラミスの効果にチェーンして、ジャイアント・ハンドの効果を使わないのか?」
「勝ち目のある時の抵抗は全力でするけど、どっちにしても負けって時の抵抗は見苦しいだけでしょ? 今回は潔く散ってあげるわ」
美琴はそう言うと、選択された2枚をそれぞれデッキとエクストラデッキに戻す。
「ただし、今度戦うときは絶対に負けないわ」
「その言葉、楽しみしておくぜ御坂。俺はジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンの効果を発動! 除外されている『超弩級砲塔列車グスタフ・マックス』を選択してジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンに装備! エクシーズモンスターを選択したので、素材となるモンスターを選択できる! 俺は2体の『M.X-セイバー インヴォーカー』をエクシーズ素材として選択して、そのうちの1つを取り除き、御坂のライフに2000ポイントのダメージを与える!!」
こうして、遊石と美琴のデュエルは、かろうじて遊石の勝ちに終わった。
デュエルリングから降りた遊石を、満面の笑顔を浮かべたアヴリルが出迎えた。
「遊石、私、感動しました!! 2連続で勝つなんて!!」
「そ、そうか? 正直、今の御坂とのデュエルはあまり納得がいってないんだよな……」
「それは、調子が悪かったということですか? でも、調子が悪い中でも勝つ遊石が、すごいと思いますよ!」
(引くカードのほとんどが運の遊戯王で、調子が良いとか悪いとかはさほどないんだが……ま、勝ったんだし、いいか)
遊石はデッキからジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴン、エクストラデッキからジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴン用に入れたモンスターを抜き、デッキを葛城に返した。
「やっぱ、俺にはまだこのデッキを使いこなすのは無理みたいだ」
「切り札とはいえ、やっぱりジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンとマドルチェたちの相性が良くなかったわね。でも、アヴリルの言うとおり、自分のデッキでないのに勝ってしまうあたり、遊石君らしいわね」
「いや、まだまださ」
「じゃあ、本調子じゃなかったアンタに負けた私は、どうなるのかしらね」
気付けば、美琴たちが遊石たちのすぐ近くにいた。
「失敗だったわ。なんでS・H・Ark Knightを出すことに気付けなかったのかしら……悔しいったらないわ」
「ま、そういうことは誰にでもあるさ。ジェムストーンアイズ・ジョーカードラゴンがいなかったら、御坂のインチキ速攻魔法でやられてたよ」
「アンタのドラゴンだって十分インチキよ。それはともかく、約束は約束だから、アンタの連れを学舎の園に招待するわ。……でも、そこまでして学舎の園に行きたい?」
「俺は特段興味ないけど、やっぱ女子のあいだでは羨望の的だぜ? 特に常盤台は1回は行って、二人のレベル5とお話ししてみたいって感じになるぜ、俺たち庶民の間じゃな」
「ふーん……私はいつ、誰とでも話してあげるから良いけど、もう片方は難しいんじゃないかしら。元々自分の領域から出たがらない人間だし、そもそも今は行方知れずだし」
「……え? 何だって?」
「もう一人のレベル5、食蜂操祈は、今どっかに行っちゃってるのよ。取り巻き達も置いてね。レベル5に手を出せる人間なんてそうそういないから、どこかにお忍びで出かけてるんじゃないかしらね」
予想外の展開に、遊石たちは顔を見合わせることしかできなかった。
今回のオリカです。
《マドルチェ・ボレロ》
魔法カード
発動時、ゲームから除外されている「マドルチェ」と名のつくモンスターを全てデッキに戻す。その後、デッキから「マドルチェ」モンスターを1枚手札に加えるか特殊召喚することができる。