ネイが着替え終わったルイズと連れ立って部屋を出ると、少し遅れて近くの部屋のドアが開いた。
そこから、燃えるような赤い髪をした女子生徒があらわれる。
昨日、ドラゴンに乗せてくれた青色の髪の少女と共に、学院長室の前までついてきた娘だ。
耳のいいネイは、彼女がだいぶ前から既に起きていたことに気が付いていた。
どうやら、自分たちが部屋から出てくるまで待っていたらしい。
名前は確か、キュルケとか言ったか。
「おはよう、ルイズ」
「おはよう、キュルケ」
ルイズは嫌そうに顔をしかめつつも、挨拶を返す。
「……ふうん?」
キュルケは、そんなルイズの少し後ろに立つネイの姿を、しげしげと見つめた。
「やるわねえ。使い魔にそんな格好をさせてるあたり、昨夜のうちにしっかり話はついたみたいじゃないの」
「私がやらせたんじゃないわよ」
ルイズは顔をしかめる。
「あら。じゃあ、どうして?」
「今朝、ルイズの下着を洗いに行ったときに会ったシエスタという使用人に、身一つで召喚されたので着替えるものがないと零したら、他の同僚に事情を伝えて用意してくれてな」
首をかしげるキュルケに、ルイズに代わってネイが詳しい事情を伝えた。
「へえ?」
つまり、いずれにせよ下着の洗濯などという雑用を引き受けされられる程度には、話を付けたということか。
敵対的ではなさそうだが、ハーフとはいえエルフだし、昨日は周り中にメイジがいる状況でも、タバサの召喚したドラゴンを見ても怯えた様子がなかった。
そのためにまだ少し警戒していたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
「別に、下着の洗濯なんか使用人に任せとけばよかったのに……」
「今日は暇だったからな。まあ、明日からはそうしよう」
ルイズとネイがそんな会話をしているのを見て、キュルケはふっと頬を緩めた。
「仲が良さそうで何よりね。けど、あたしの使い魔だって負けてないわよ。フレイムー」
そう呼びかけると、彼女の部屋の奥の方から、のそのそと大きな赤いトカゲが現れる。
尻尾が燃え盛る炎で出来ており、口からもちろちろと炎がほとばしって、周囲に熱気を放っていた。
「ふむ。これは……」
ネイがそれを、まじまじと見つめる。
そういえば昨日も彼女が連れていたような気がするが、あのときはそれ以上に重要なことがたくさんあって、注目していなかった。
見たことのない生物だが、魔獣の一種だろうか。
「あら。火トカゲを見るのは初めてかしら、ハーフエルフさん?」
「……ネイと呼べ」
「サラマンダーね。火竜山脈あたりから来たんでしょ」
ルイズがやや苦々しげな顔をして、そう説明する。
キュルケは得意げに、その豊満な胸を張った。
「そうよ。『火』属性のあたしにぴったりね」
「ほう。サラマンダーか……」
屈み込んでフレイムの姿を観察していたネイが、ぴくりと耳を動かした。
自分のいた世界でサラマンダーといえば、燃えさかる肉体と槍を持ち、熱線の
(どちらも、火に関わりの強い存在には違いなさそうだが……。世界が違えば名称も変わってくるのか)
ネイは、まあそういうこともあろうと納得して、体を起こした。
キュルケが、そんな彼女の姿をじっと見つめる。
身長は女性としては長身な自分より少し高いくらいだし、顔立ちも悪くないし、体つきも露出の少ないメイド服を着ていてもはっきりとわかるくらいには女らしい。
このハーフエルフのほうが、見た目的にルイズよりもあたしのライバルっぽいわね、などと考えながら。
「……そういえば、あなたは何属性なのかしら?」
「ルイズにも聞かれたが、おそらく『風』だ」
「あら。じゃあ、『風』属性の魔法がお得意ってことなのね?」
「他のものよりはな」
そんな雑談をしながら、三人はゆるゆると食堂へ向かっていく。
ルイズとしては、実のところキュルケと一緒に行くのはあまり気が進まなかったのだが。
なにせ、二人の実家であるヴァリエール家とツェルプストー家とは、先祖代々犬猿の仲の宿敵同士なのである。
とはいえ、今のところは友好的に話しかけてきている級友相手に、お前とは一緒に行かないから一人で先に行け、などと言えるほどにはルイズは礼儀知らずではなかった。
トリステイン魔法学院の食堂は、学園の敷地内でも最も高い、中央の本塔の中にあった。
内部には、百人は優に座れるほど長い豪奢なテーブルが三学年分、三列も並んでおり、それに加えて教職員が座るロフトの中階もある。
その食堂の扉の前まで来ると、ルイズはネイに言った。
「ここは貴族用の食堂だから、使い魔は入れないわ」
ましてやハーフエルフではなおさら、などとはわざわざ言わない。
「あんたは、裏手にある厨房の方で食事をもらいなさい。使い魔だって言えば用意してもらえるはずだから」
「ああ、わかった」
「食べ終わったら、外で待ってて。最初の授業には、召喚した使い魔を連れてかなきゃいけないのよ」
ネイは素直に頷くと、一旦ルイズと別れて建物の裏手側に回り、厨房の入り口を探す。
うまそうな匂いが漂ってきているので、すぐにわかった。
コンコンと扉をノックして、出てきた使用人に要件を伝える。
「ルイズ……ミス・ヴァリエールの使い魔の、ネイという者だ。こちらで食事をもらうよう言われたのだが……」
「あっ、ネイさん」
応対した使用人の後ろから、シエスタが顔をのぞかせた。
「お待ちしてました。こちらに来られると思ったので、あらかじめ用意してあります。私たち使用人のいただく賄い食と、大体同じようなものですけど」
「ありがとう。気が利くのね」
ネイは顔を綻ばせて、シエスタが差し出してくれたモーニングバスケットを受け取る。
「どういたしまして。外ででも食べられるようにはなっていますけど、厨房の端の方でよろしかったら、席をご用意しましょうか?」
「いえ。あまり仕事の邪魔はしたくないし、大丈夫よ」
彼女はともかく、扉を開けて最初に自分と応対した使用人の男は明らかに緊張した感じで、シエスタが代わってくれた時には露骨にほっとした様子だったし。
口には出さぬまでも、ハーフエルフが長々と側にいるのを嫌がる者も多いことだろう。
自分の生まれについて卑屈になる気はまったくないが、なぜあんなやつを中に入れたのかと恩義のあるシエスタが後で責められるようなことにでもなっては、彼女に申し訳ない。
そんな考えから、ネイはシエスタの申し出を辞退すると、あらためて礼を言ってその場を離れた。
中庭の適当な場所に腰を下ろして、バスケットを開く。
途端に、ふわりといい香りがした。
「わあっ」
思った以上に豪勢な中身に、ネイは軽く感嘆の声を漏らす。
焼き立てのパン、うまそうな鶏肉の切れ端、見慣れないが瑞々しそうな果物。
温かい野菜入りのスープと紅茶が入った小さな水筒も一つずつある。
「これが賄いだなんて……」
この世界はやはり、戦乱の耐えない自分のいた世界と比べると、相当に穏やかで豊かな場所であるらしい。
ここでずっと暮らすというのもいいかもしれない。
もちろん、D・Sがいればの話だが。
ネイは用意された食事をぺろりと平らげると、厨房に礼を言って器を返却した。
「さて……と」
腹ごしらえも済んだことだし、この後の授業とやらが楽しみだ。
この世界の魔法の学院とは、どんなことを教えるものなのか。
自分の方を遠目に伺う他の生徒らの視線を無視しつつ、壁に背を預けてそんなことを考えながら時間を潰した。
ややあって、ルイズが姿をあらわす。
「おまたせ。それじゃ、授業に行くわよ」
・
・
・
魔法学院の教室は石造りで、教壇が一番下の方にあり、そこから席が上に向かって階段状に連なっていた。
先に教室に来ていた生徒たちの多くは、二人が入ってくるとそちらを振り向き、笑ったり、逆に顔をしかめたり、ひそひそと何か話し合ったりする。
キュルケはルイズよりも先に食事を終えたようで、既に教室に入っていた。
大勢の男子生徒に、まるで女王のように取り巻かれている。
近くの席には彼女の友人である青い髪をした小柄な少女が座って、黙々と本を読んでいた。
ルイズは、他の生徒らからなるべく離れた隅っこの方の席に腰を下ろすと、黙って教科の魔法書を開く。
勉強熱心なのもあるだろうが、おそらく周囲の級友たちとあまり関わりたくないのだろう。
「……ふむ」
ネイは、ルイズの側で壁に背を預けるようにして立ったまま、周囲の様子を観察する。
特に、教室のあちらこちらに、あるいは窓の外にいる、メイジたちの使い魔に目を惹かれた。
猫とか蛇とかフクロウとかいった普通の動物も多いが、中には魔獣の一種らしき生物の姿も見られ、その多くが見慣れないものばかりだ。
後学のために、ルイズに尋ねておくことにする。
「あの大きな目玉の怪物はなんだ? 腕や足は生えていないし、鈴木土下座ェ門とは違うようだが……」
「なによ、そのスズキなんとかってのは。あれはバグベアーよ」
「ほう?」
ネイの知るバグベアはあのようなモンスターではなく、ゴブリンの近縁にあたる亜人の一種なのだが。
サラマンダーと比べても、なお姿形や性質の違いが大きく、ほとんど共通点がない。
「では、あの足の数が多いトカゲの名前は……バジリスクか?」
「そうよ」
そちらは同じだった。
どうやら、何もかも名前が違うというわけでもないらしい。
ネイのいた中央メタリオン大陸においても、バジリスクといえばあのような姿をした石化能力をもつ魔法生物である。
それに比べると、やや小型な気もするが。
雌雄で姿と名前がまったく違っているのが特徴で、ネイの配下である鬼道三人衆のカイ・ハーンは、雌にあたるコカトリスを使役していた。
(なぜそんな違いや共通点が生じたのか、気になるがな……)
あるいは、その理由がわかれば、元の世界へ帰還するための手がかりになるかもしれない。
あまりアテにはならないが、とにかくまだ情報が少なすぎるので、何でも覚えておくに越したことはないだろう。
そうするうちに、教室の前方の扉が開いて、紫色のローブと帽子に身を包んだ教師らしき中年の女性が入ってきた。
いかにも魔法使いらしい装いだが、ふくよかで温和そうな雰囲気を漂わせている。
生徒らが一斉に静かになっていく。
「皆さん、今年も春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズは、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのが、とても楽しみなのですよ」
彼女は教室をゆっくりと見回しながら、満足そうに微笑んでそう言った。
「……あら?」
その視線が、メイドの装いをして壁に寄りかかったネイのところでぴたりと止まる。
「どうして、教室に使用人がいるのですか?」
教室のあちらこちらから、ちらほらと笑い声が上がる。
苦笑いや、引きつった笑みを浮かべている者も多かったが。
ルイズは困ったように言った。
「いえ、私の使い魔です」
「ネイだ。聞いていないのか?」
それでシュヴルーズは、ああ、という顔になった。
「失礼しました。ミス・ヴァリエールが……、亜人の方を召喚された、という話は伺っています」
そう言って、軽く謝罪するように頭を下げる。
彼女は特に嫌悪感をあらわすとか緊張した様子をみせるとかいうことはなく、それ以上そのことについては触れずに、こほんと咳払いをした。
「では、本年度の授業を始めますよ」
そう言って杖を振ると、机の上に石ころがいくつか現われる。
「既にご存じの方も多いかとは思いますが、あらためまして。私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年の間、皆さんに講義します。まず……」
シュヴルーズは軽く会釈をすると、教室を見渡した。
教師とはいえ、始まったばかりでまだ生徒の顔と名前を十分に把握していないので、昨年度からかかわりがあって名前を知っている生徒を選んで指名する。
「ミスタ・グラモン。魔法の四大系統が何か、ご存じですね?」
金色の巻き髪にフリルのついたシャツを着て、薔薇をシャツのポケットに挿したいかにも気障っぽい男子生徒が、無駄に勿体ぶって気取った調子で返事をした。
「もちろんです、ミセス。我々メイジの誇る魔法の系統は、『土』『水』『火』『風』の四つです」
「そうです。それに、今では失われた始祖の系統である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知ってのとおりです」
シュヴルーズが満足そうに頷きながら、話を進める。
「その五つの系統の中で、私は『土』こそは最も重要なポジションを占めているものだと考えます」
その話に、先ほど答えた男子生徒、ギーシュ・ド・グラモンがうんうんと、得意げな様子で頷いている。
言うまでもなく、彼もまたシュヴルーズと同じ『土』系統のメイジなのだ。
昨年度からかかわりがあったのもそのためである。
「何も、私が『土』系統だから身びいきをしているというわけではありません。理由があるのです。『土』系統の魔法は、万物の組成を司る重要な魔法です。この魔法がなければ、重要な金属を作り出すことも加工することもできません。建物の建築や、農作物の収穫にも、大いに活かされています。このように、皆さんの生活に密接に関係している系統だから、最重要だと考えるのです」
「ほう……」
この世界では今でもそこまで魔法が日常の生活に活用されているのかと、ネイは感心した。
現在の中央メタリオン大陸では、魔法など一部の才能ある者だけが使える特殊技術に過ぎず、一般の人々が普段からその恩恵に与れているとはとても言えない状態だ。
かつて繁栄したという旧世界の魔法は、一度世界が滅亡したときに失われ、エルフたちがその粋を集めて作ったという魔法都市「キング・クリムゾン・グローリー」も、既に滅びて久しい。
(それほどまでに発展した魔法文明が、今でもあるというのなら……)
自分の力など、こちらでは通用しないのだろうか。
その可能性はあるなと、ネイは思った。
概ね平和な世界らしいので当然のことではあろうが、実戦経験のありそうな者はこれまでに見た限りではごく少ない。
だからといって、弱いとは限らないだろう。
こちらの世界の魔法が、自分の知るそれよりも圧倒的に高性能であるのならば、経験の差など無意味かもしれないのだから。
ポテンシャルの差とは無情なもので、鍛えに鍛え抜いた最強の人間でさえ、最弱の魔神にも勝てはしないのだ。
おそらくは、あのD・Sでさえも……。
(……いや、ダーシュは例外か?)
そんなことを考えている間に、教師は次の話に移った。
「よって、皆さんにはまず、『土』系統の魔法の基本である『錬金』の魔法を覚えてもらいます。一年生のときにできるようになった人もいるでしょうが、基本は大事ですから、おさらいから入ります」
そう言うと、シュヴルーズは石ころに向かって手に持った小ぶりな杖を振り上げ、短く呪文を唱える。
すると、石ころが光りだした。
それが収まったときには、石ころは黄金色に輝く金属に変わっていた。
(あれは……原子配列変換? いや、違うか?)
ネイは、シュヴルーズの詠唱や身振りから、発生した結果に至るまで、まじまじと観察しながらあれこれ考えを巡らせていた。
教師の席まではそこそこ距離があるが、ハーフエルフは目がいいので仔細までしっかりと見える。
「ゴ、ゴールドですか!?」
キュルケが目の色を変えて、身を乗り出す。
「いえ、真鍮です。ゴールドは、『スクウェア』クラスでなければ錬金はできません。私は……ただの、『トライアングル』ですから」
こほんと、勿体ぶったように咳をしながら、シュヴルーズがそう説明した。
おそらくメイジのランクをあらわす言葉だなと、ネイは推測する。
「さて、それでは皆さんにも、実際にやってもらいましょうか」
シュヴルーズは、さて誰を指名しようかと考えながら、視線を巡らせていく。
先ほどは自分が知っている生徒を選んだが、せっかく新しいクラスになったのだから、これまで関わりの無かった生徒もあてていくべきだろう。
(ええと……)
そう考えた彼女は、ルイズのところで目を留めた。
名門ヴァリエール家の令嬢として、またハーフエルフを召喚したとして、顔と名前を知っている生徒だ。
これまで担当したことはないものの、実技は不得手だが努力家だという話だった。
ごく基本的な魔法をやらせるのには、ちょうどいいだろう。
「ミス・ヴァリエール」
「は、はいっ?」
「こちらに来て、ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」
途端に、教室がざわつき始めた。
ルイズは立ち上がらず、困ったように俯いて、もじもじしている。
「ミス・ヴァリエール? どうしたのですか、こちらへ」
きょとんとして、再度促すシュヴルーズに、キュルケが横合いから口を挟んだ。
「あの、先生。やめておいたほうがいいと思いますけど」
「なぜですか?」
「ルイズにさせるのは、危険です」
キュルケがきっぱりとそう言うと、教室のほとんどの生徒もそれに同調して頷いた。
ネイはその様子を見て怪訝そうに眉をひそめたが、おそらくルイズはこの系統の魔法を制御するのが苦手なのだな、と考える。
「……得手不得手というのは、誰にでもあるものだ」
あのD・Sでさえ、すべての呪文が使えるというわけではなく、冷却系の呪文は苦手なのだ。
そして、魔法は行使に失敗すれば最悪暴走して、危険な現象が起きることもある。
「無理なのであれば、断ればどうだ?」
ネイはそう提案したものの。
「ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」
シュヴルーズの方は、教師としての立場から生徒の挑戦を促したいらしく、ルイズに再三、実習に参加するよう呼び掛けた。
「……やります」
結局、ルイズは緊張した面持ちで前を向くと、そう言ってすっと立ち上がった。
つかつかと前の方へ向かっていくと、シュヴルーズの横に立ち、目を閉じて精神を集中させて、杖を振り上げる。
それを見て、前の方の席に座っていた生徒たちは、あわてて机の下に隠れ始めた。
自分の使い魔を避難させようとするものもいる。
「むう……?」
一体何が起きるのかと、ネイはじっとルイズの挙動を注視し続けた。
彼女が短く呪文を唱え、杖を振り下ろす。
その瞬間に、机ごと石ころが爆発した。
「おおっ!?」
爆風をモロに受けたルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられ、突然の閃光と爆音に驚いた使い魔たちが暴れ出した。
教室中がパニックになる。
気分よく眠りこけていたキュルケのサラマンダーが腹を立てて炎を吐き、マンティコアは飛び上がって窓をぶち破って外に飛び出していき、代わりに外で待機していた大蛇が入ってきて、別の生徒の使い魔であるカラスを呑み込む。
「ちくしょう! 『ゼロ』のルイズめ、またやりやがった!」
「もう退学にしてくれよ!」
大騒ぎになっている生徒らを尻目に、ネイは二人の下へ飛んでいくと、彼女らを抱き起して介抱する。
ルイズは煤塗れになって服があちこち裂けていたが、事前に心構えをしていたためか大事ないようだ。
だが、完全に不意を食らったシュヴルーズの方は、昏倒して痙攣している。
「……ちょっと、失敗みたいね」
意識を取り戻したルイズはしかし、教室の大騒ぎを意に介した様子もなく、顔についた煤を取り出したハンカチで拭いながら、淡々とそう呟いた……。