1話の本文での大河の紹介の描写で2年C組担任と書いてましたが、1年C組担任に修正しました。
以上を把握した上で、引き続き本作品をお楽しみください。
──見たこともない景色だった。
頭上には炎の空。
足元には無数の
戦火の跡なのか。
世界は限りなく無機質で、生きているモノは誰もいない。
灰を含んだ風が、鋼の森を駆け抜ける。
剣は樹木のように乱立し、その数は異様だった。
十や二十なんかじゃない。
とはいえ、百や二百まではいかない。
だが実数がどうであれ、人に数え切れぬのであるなら、それは無限と呼ばれるだろう。
大知に突き刺さった幾つもの武具は、使い手が不在のままに錆びていく。
──それを、まるで墓場のようだと思った。
……視界が戻る。
窓からは輝かしい朝の光が差し込んでいた。
毛布にくるまった体は僅かに冷えているが、風邪をひくほど寒くはなかったらしい。
「──今の、夢」
ぼんやりと目を開けて、見ていた夢を思い起こす。
……剣の丘。
それが何を指すかは、俺には分からなかった。
「……てかまいった。最近ここで寝ること多いな、俺」
軽く頭を振って、作業服から学生服に着替える。
──時刻は朝6時。
桜のことだから、起きて朝の支度をしているだろう。
庭に出て、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。
とてもいい朝だ。
これで家に入れば女の子が三人もいる、ということがなければもっと気が楽なのだが。
「……訂正。女の子は二人だけだった」
藤ねえに"子"をつけるのは流石に抵抗がある。
何はともあれ、早速桜の朝食の手伝いに行こう。
「"それじゃあお互い頑張っていこうね。虹ヶ丘ましろより"……そっかぁ~」
「おはよう。何読んでるんだ?」
「あ、おはよう士郎くん。今朝ましろんから手紙届いてさ、士郎くんのもポストに入ってたよ」
そう言って、先輩はその手紙を俺に差し出す。
手紙にしては少々重さがあり、封筒を開けてみると1枚だけでなく2枚、3枚と束になって入っていた。
『士郎さん、お元気ですか?あれから数日経ったけど、お身体の方はもう大丈夫ですか?最近会いに行けなくてごめんなさい。
プリキュアが2人に増えて、怖くなったのかな。カバトンは最近、ケイネスっていう人もあれ以来一度も姿を現していません。エルちゃんも元気に過ごしてるよ!
あと、ソラちゃんのことならもう大丈夫だよ。以前は怖い夢を見たり、あの時のことをフラッシュバックすることもあったそうなんだけど、大切な友達だから一緒に戦いたいっていう私の思いを受け止めてくれて、いつもの明るいソラちゃんに戻ってくれました。おまけに、『アップ・ドラフト・シャイニング』っていう私とスカイの合体技も使えるようになりました!そのおかげでカバトンは出てこなくなったのかなー、なんて!』
『その後、士郎さんの怪我はすっかり治ったって言ってたよって言ったら、今日士郎さんとお話しにお家に行きたいって言ってたから、学校の後の夕方頃に2人でそっちに行くね。士郎さんも新学期だったりアルバイトだったりで忙しいと思うけど、なるべく時間空けてくれると嬉しいな』
2枚の小さな紙の中に、こういった文章と節々に愛らしいイラストが描かれていた。
更に、3枚目の白紙にはプリキュア2人が必殺技を打っているであろうイラストがあり、恐らく『アップ・ドラフト・シャイニング』の再現絵かと思われる。
"ぴかーん!"とか"どーん!"とか擬音が殆どなのが、何ともましろらしい。
何より──
「良かったねソラちゃん、元気を取り戻したみたいで!」
「あぁ、本当は俺が会いに行くべきだったんだけど、ましろには頭が上がらない」
俺が気を失っている間、ソラは相当な精神崩壊で泣きじゃくっていたらしいし、そこからよく一緒に戦うまで挽回出来たものだ。
いやもう本当に、ましろには感謝してもしきれない。
今日は放課後の作業もアルバイトもないので、話し合いなら喜んで引き受ける。というか、今日俺から行く予定だったので丁度良かった。
「……そういえば先輩、昨日はよく眠れたか?」
「うん、十分寝れたよ。課題とかレポートが大変で最近寝不足だったのに、すんごい元気になれた!」
「そりゃよかった。てっきり眠れていないと思ってさ。藤ねえ、寝相悪かっただろ。昨日も騒がしかったし」
「ううん、昨日も楽しかったよ!大河先生ってホント良い人だよね~。悩みも一緒に考えてくれるし、前向きにアドバイスもくれるからいっつも助かってる。あーあ、私のクラスの担任が大河先生だったらなあ~」
「藤ねえは大変だぞ?朝のホームルームは毎回遅刻するし、1時限目ギリギリまで雑談してるような教師だ。それよりかはテキパキ授業を進める葛木先生の方が断然いい」
「葛木先生も良い先生だったけど、結局心が読めなかったっていうか……」
まあ、あれだけ無口無表情だったら心の1つも読めないのも無理ないけどな、あの人……。
でも、確かに教師としての藤ねえの人柄には同意出来る。
問題はその後、普段の藤ねえの思考を理解出来るかという事だが、それは別の物語である。
「それじゃ桜とも仲良くできただろ。桜は藤ねえに輪をかけて毒がないからな」
「あー、うん……そうだね、桜ちゃんも大和撫子って感じで優しかった!」
……何とも歯切れの悪そうな言い方に耳を疑ってしまうのだが、これ以上の詮索はやめておく。
あれだけ騒いでる様子じゃ大した問題もないだろうしな。
朝食の時間になり、いただきますという声が重なり合う。
朝の食卓、四人でテーブルを囲むというのはあまりない体験で、こういうのもいいな、と思わず和んでしまう。
「あの、先生?今日の朝練に参加されるなら、もう少し控えた方が良いかと思いますけど……」
──間桐桜。
友人の妹で、訳あって衛宮家の家事を手伝ってくれている高校の新入生。
最初から料理は得意ではなかったのだが家に通うごとに上達し、たまに藤ねえの餌付けを主に任せてもらっている。
そういう日々が時折続いたおかげで、最近藤ねえに対する当たりが強くなったような気がする。
「だいじょうぶだいじょうぶ、これぐらい入れておかないとお昼まで持たないもの。そういう桜ちゃんだって、朝の体験入部の後におにぎり食べてるじゃない」
「──!先生、知ってたんですかっ!?」
「端っこでコソコソやってるから気になって観察してたのよ。だめよー、年頃の女の子が朝二食なんて。悪魔はこっそりと、体内のあらゆる場所に肉となって蓄積するんだから。むふふ、このわたしの読みでは桜ちゃんの今の体重は──」
「っ、だめです先生!言ったらもうご飯作りに来ませんから!」
「へぇ~、桜ちゃんっていつもそんな感じなの?」
「ち、違います!間食は時々だけでいつもやってるわけじゃありません!」
「あれ、そうなのか?朝飯、いつも一合多く炊かれてて塩の量も減ってたから、てっきり桜が塩むすびでも作ってるんだろうなって思ってたんだけど」
「せ、せせせ先輩も知ってたんですかっ!?」
「あーダメダメ桜ちゃん。士郎ね、そういう細かいことには妙に神経質なヤツだから。きっと初めておやつを作った時から気付いてたわよ?」
「初めて?それって去年の夏に通ってた夏期講習の時のことか?」
「っっっ────!!!」
「あっはは、照れ隠しに手振っちゃって、かーわいー!」
──こうした盛り上がりようで、朝食は進んでいく。
いつもより2倍増しで騒がしい朝食。
その中で、不意に。
『──今朝未明に発見された被害者は50名を超え、現在は最寄の救命病棟で治療を受けているとのこと。また、警察は先日のガス漏れ事件の同一犯と断定しており──』
何か、酷く物騒なニュースが流れていた。
「……え、またガス漏れ?うわ、今度は50人超えだって」
藤ねえは即座に新聞を広げ、事件の詳細を音読する。
「……」
聖先輩も厳しい顔でニュースを見つめている。
多分……いや絶対間違いない。
目的こそ定かではないが、この事件は魔術師によるものだろう。
先日のと合わせて、死者は1名。被害者数と比較すると規模が小さく見えるが、それでも死人は出ていることに変わりはない。それに、死者が1名でも殆どの被害者が重症患者なのだから、正に不幸中の幸いだ。
「もう、物騒だなぁ。士郎、しばらくアルバイトは禁止だからね。貯金ならたくさんあるんだから、こんな時くらいゆっくりしなさい」
藤ねえの心配は有難いが、上手く返答することが出来なかった。
もとより今はアルバイトどころじゃないのは確かだ。しかし、戦いが始まればここに帰ってこれることも少なくなる。
そんな葛藤を察してか、先輩も藤ねえの言うことに少しばかり複雑な表情を浮かべているように見えた──。
後片付けを済ませて玄関に出る。
藤ねえと桜は朝練のため、そして聖先輩は朝から研修のため一足先に外出していった。
時刻は朝七時四十分。
いつもより遅く家を出たものの余裕を持って正門を通り抜けられ、校舎へと向かっていく。
その途中──
おかしな違和感に襲われて、足を止めた。
「何だ……?別に何がおかしいってわけじゃないよな……?」
誰かの視線を感じるわけでもないし、いつもと景色が違うわけでもない。
強いて言うのなら、そう──なんとなく活気がないというか。
それは校舎に向かう生徒達だけでなく、木々や校舎、つまり学校そのものも何処か色褪せて見えるような感覚だった。
「……気のせいかな。色々あったから過敏になってるのかもしれない」
そう思い、一度目を瞑ってポキポキと肩を鳴らす。
……が。
そうやって一呼吸おいてみても、正体の判らない違和感が消えることはなかった。
三階に上がって教室に向かう。
と。
そこにばったり、遠坂と顔を合わせた。
「よっ」
一応、もう顔見知りなわけだし軽く挨拶をする。
「……ええ、おはよう」
対して、遠坂は愛想のなく素っ気無い返事をし、その後もまじまじと俺の顔を伺っている。
「……?何だよ、俺の顔に何かついてるのか?」
今朝のご飯粒がうっかりついてたかな、と制服の裾で顔を拭う。
「……別に、何でもない」
またしても素っ気無い態度で、ふんと顔を背けて自分のクラスへと戻っていった。
「何だよ、あいつ……」
まさか、学園の優等生を演じてるとかか?
まあいずれにしても、遠坂と挨拶を交わせただけでも良しとしよう。
「──」
教室に入るなり、またあの違和感があった。
誰かが菓子でも持ち込んだのか、微かに甘い匂いがする。
「別に普通だよな……」
男連中に挨拶をしながら席に着く。
ホームルームまであと10分ほど。
その間にぐるりと教室の周りを見渡して、鞄のない席に気が付いた。
「慎二のヤツ、また欠席か」
ここのところ、あいつは部活も来ていないらしい。
あれでも慎二は几帳面で、神経質なまでに規則を守ろうとする真面目なヤツだ。
そんなあいつが学校で姿を見せていないのは、どうも気になった。