「この川だよね……?」
休憩を終えて、再びスカイジュエルの捜索にあたった俺達は綺麗な川のある場所へと辿り着く。
曰く、裏山でスカイジュエルがある可能性が最も高い場所らしいが、見渡す限り目印となるものはない。
「おばあちゃん言ってたよ。スカイジュエルを探す時には、ミラージュペンを頼りにすれば良いって」
「そんな機能もあるのか」
「さぁ、宝探しの時間です!」
探知機の役割も担っていると捉えるのが適確だろうか。
ミラージュペンが放つ光を頼りにして、川に沿って注意深く歩いてみる。
ゆっくり、ゆっくりと、忍び足。
数分かけて探しているのだが、そう簡単には見つからない。ミラージュペンからもこれといった変化は見られなかった。
「あの、あれは何ですか……?」
不意にソラが指を差した位置にあったのは、大玉サイズの岩。
それはもう、前に隕石でも降ってきていたのかっていうくらいの馬鹿デカさだ。
「まさかこの中に、なんて……」
あるわけないよね、と言おうとした時、ソラはその場に荷物を置いて手のひらで岩に数回ほど触れる。
まさか──。
「やってみましょう!」
「「「……はあ!?」」
本当に言い出しやがった。
いくらスカイランド人でプリキュアに変身出来るとはいえ、今の彼女は生身の女の子だから有言実行出来るとは到底思えないんだが。
だが、ソラは本気らしい。
考えている間に神妙な顔つきで構えを取り、奇妙な動作を起こす。
恐らく拳法のようなものなんだろうけど、途中から腕だけでなく足も動かし始めたおかげで酔拳に見えてきた。
というか、溜めが長いな……。
「──はあぁっ!!!」
大声を張り上げて、力強い正拳突きを放つ。
一定の距離を取っていた俺達にも、その衝撃は伝わった。
それくらいの一撃だったからか、パキパキパキッ、と岩は音を立ててスイカの如く真っ二つに割れていった。
「本当に割れた!」
「押忍ッ!」
……スカイランド人は戦闘民族の一種なのだろうか。
そう困惑しながら、割れた岩の中身を確かめてみる。
「化石……てかこれアンモナイトじゃないか!」
「まあ、確かにお宝だけど……」
「スカイジュエルではありませんでしたね……」
期待外れだったことにがっかりする2人。
いやでも、博物館とかにはない自然のアンモナイトの化石だぞ。
しまった。まさかこんな身近で出て来るとは思わなかったんで、スコップとか色々道具を借りるべきだった。
「明日行っても誰かに取られないよな……」
「士郎さん持って帰るの?」
「当然だろ?藤ねえの食費を大量に稼げるチャンスなんだから」
「あ、質屋に売るんだね……」
待ってろ藤ねえ、明日はご馳走だ!
「やったー!ありました!」
その後、川の側に青く光る物体を拾い上げ、ソレがあのスカイジュエルだと分かった。
運が良かったことにソラは飛び跳ねながら嬉しそうな表情で喜んでいる。
近くにあったとはいえ、こんなにもすんなり上手く行くものなんだな──。
「「「ッ!?」」」
ドサドサドサーッ!!!
突然、土砂崩れでも起こったかのような爆音に俺達は身体をびくつかせ、その方向へ無意識に振り向く。
「人が折角苦労して積み上げたものを!どうしてくれるのねん──あっ」
そこには見覚えのあるようなないような奴が地面に体重をかけて四つん這いになっていた。
「お前ら……!」
「あなたは……!」
「あなたは~……」
「「えーっとぉ……」」
「おいおい、敵の名前くらい覚えてやれよ。デカドンだろ、デカドン」
「思いっきり間違ってるじゃねえか!カ!バ!ト!ン!だ!」
怒りのゲージが溜まり、身体を小刻みに震わせるカバトン。
だが、ましろが抱えるエルの姿を見て表情を一変させた。
「探し物が向こうからやって来るなんてラッキー!その赤ん坊をこっちに寄越しな!」
お目当ての人物を見つけ、気味の悪い笑みをこぼす。
エルを誘拐したのはこいつで合っているはずだ。
対して、俺達は眼中にないらしい。だが、邪魔をしようものなら力づくでエルを手に入れようと排除しに狙ってくるだろう。
「誰がお前なんかに渡すか。思い通りには絶対させないからな」
「よえぇくせに生意気な……!だったら思い知らせてやるのねん!」
『カモン!アンダーグエナジー!』
『ランボーグッッッ!!!』
その掛け声と共に、地面に禍々しいエネルギーをぶつける。
周囲に放出した後、付近にあった竹にエネルギーが包まれ、それが怪物"ランボーグ"となって出現した。
両手は筍がドリルのようになっており、ソレが奴の武器になると推測する。
「シロウさんとましろさんはエルちゃんをお願いします!」
ソラはそう言うと、ミラージュペンとスカイトーンを手に取ってキュアスカイへの変身の体勢を取った。
「ヒーローの出番です!」
『無限にひろがる青い空!キュアスカイ!』
水色のツインテール。ピンクのグラデーションが掛かったワンピースドレスに、両手にはオープンフィンガーグローブ。そして、勇者のような凛々しさ。
キュアスカイの姿を見るのはこれで二度目だが、変身する時ってあんなに壮大なんだなと呆気にとられた。
ランボーグが颯爽とスカイに襲いかかるのを影に、俺とましろはカバトンに気付かれないよう岩の物陰に隠れる。
両手を地面に突き刺して無数の竹を出現させ棘となって襲う怪物の攻撃を、スカイはバックステップで距離を取って回避を続ける。
高い岩の柱の上に飛び上がって地上を嫌うも、竹は勢いを止めることなくよじ登ってきた。
「うわぁ、凄いパワー!」
その威力は頑丈岩を破壊するほどのもの。
竹で岩を壊すなんて普通じゃありえない光景を、今まさに目の当たりにしている。
スカイはそれを空中で飛び降りて避けたものの、衝撃で身体を吹っ飛ばされそうになる。
だが、それに臆することなくランボーグに接近し、顔面に跳び蹴りを──いや違う。あれはフェイントだ。
「はあっ!」
両手で攻撃を防ごうとする怪物の懐に潜り込み、腹部に正拳突きを放つ。
その渾身の一撃にいとも簡単に吹っ飛ばされていった。
だが、それだけでは終わらない。
カバトンに鼓舞されたのか、ランボーグはすぐに体勢を立て直して次の攻撃へと移す。
両手の筍をミサイルとして連射させる。またも遠距離攻撃を仕掛けてくるという、見た目とは裏腹に姑息な手を使ってきていた。
それに、四方八方……というより無茶苦茶な打ち方をしている。あれじゃこっちにも被害が及ぶことは容易に想像できる。
「……伏せてくれ、ましろ」
「え?う、うん……」
俺の言葉に、身体を丸め地面を頭に置くようにしてうずくまる。
それを確認し、俺達を庇ってくれている岩に手を置く。
アレが降ってきて怪我をしないようにする、ということも一理あるが、それだけではない。
ソラという前例があるので今更だとは思うが、俺のやろうとしている事は人に見せるのをタブーとしている事だから仕方がない。
目を閉じて、触覚で岩の中身を感じ取る。
途端、頭の中に形や中身がイメージとして沸き上がってくる。
「……柔らかいな」
岩にも柔らかいものと硬いもので区別されている。
特にコレは凝灰岩という、岩石の中でも柔らかい部類に入るものだ。
耐性がなく脆いので筍ミサイル相手には頼りなくなる。
場所を移動するのも1つの手なのだが──。
「クソッ、やっぱりこっち飛んできやがった……!」
「えっ、嘘、やばくない……!?」
「大丈夫だ。じっとしていろ……」
スカイに助けを求めようにも、距離が遠すぎて間に合わない。
そうなれば、素人じゃ手に負えない方法でましろ達を守るしかない──!
ズドォォォォォン!!!!!
「シロウさん!ましろさんっ!!」
爆音と共に巻かれる煙の向こうを見据えながら叫ぶスカイ。
『……ランボーッ!?』
「よし、こいつは運がいい……!」
ほんの少しだけ破損したが、それが逆に礫となってランボーグに襲い掛かり、やがて威力に耐え切れず尻餅をついた。
「良かった……!」
俺達が無事なことにホッと胸を撫でおろす。
もっとも、その心配は無用であった。
俺がやったのは、衛宮切嗣に教わった"強化"の魔術なのだから。
ランボーグが隙を見せたのに気付いたスカイは、すぐさま止めの必殺技の構えを取る。
今が好機。助走から徐々に疾走へと変え、その勢いで大きく跳び上がる。
「ヒーローガールスカイパンチ!」
握りしめた右拳で繰り出した渾身の一撃で、怪物を殴り飛ばす。
ランボーグに潜む邪悪なエネルギーは浄化され、元の竹の形となった。
「くぅ~、こうなったら……!」
1人取り残された怪人は奥の手でもあるのか、何かを取り出して見せつけてくる。
紫の斑模様の赤いキノコをバクバクと口に入れる──あっ。
「これでパワー全開なのねん!行くぜ!」
「え、まさかの二回目ですか!?」
「カモン!アンダーグ──イテテテ!!」
急に腹を壊したらしくその場にしゃがみ込むカバトン。
二度目のランボーグの召喚は失敗となった。
あれは正真正銘毒キノコだったわけだが、見た目と違って毒を消化することは出来なかったようだ。
「もう!山にあるものをむやみに取ったり食べたりしちゃ、ダメなんですよ!めっ!」
俺がさっき言った言葉を殆どそのまま抜き取ってカバトンを叱るスカイ。
というか、何で母親口調……?
「……お、覚えてろ!カバトントン!」
怪人の癖に敵に叱られたことに顔を赤らめながら、またも不明な言葉でこの場から立ち去っていった。
「っ、くっ……!」
突然、左腕から急激な痛みが襲い掛かる。
強化に使っていた方の腕に激痛が走り、思わず両膝を地面に置いてしまう。
「っ、大丈夫ですか!?」
「ぁ……ああ、悪い。知らない間に岩に強打してたのかも」
などと、適当な嘘で誤魔化してみる。
俺がやっていたことは、元から完成されているものに手を加える行為だ。
逆に言えば、完成度を貶める、モノの価値を下げるという危険な行為。
つまり"強化"の魔術は単純でありながら高難度ということなのだ。
……そんなのを何で使うのかって、これしか能がないのだから仕方ない。生まれつき魔術師でもなければ、その血すらも持っていないただの一般人なのだから。
「ふぅ……よし、家に戻ろう。すぐにヨヨさんに報告しないとな」
無理矢理でも誤魔化し通すように、俺を先頭にましろの家へと帰還する。
背後から2人に心配と怪訝の視線を送られているような気がするが、気にしない気にしない。そもそも教えられないんだって。
「お願いします、ヨヨさん!」
スカイジュエルをヨヨさんに手渡す。
今すぐにでも両親と通信を繋いでエルを元気づけたいという気持ちが表れすぎて、僅かな笑みを浮かべながら受け取り、ミラーパッドに翳した。
スカイジュエルからビーム状のエネルギーが流れて、ミラーパッドがそれを使って充電する。
少し時間が経てば繋がるという。エルを鏡の目前に移動させ、ジッとその時を待つ。
途端、王冠やティアラを被った男女の姿が映りこんだ。
「こんにちはー!」
「ちゃんと通じてるのかな?」
「大丈夫じゃないか?ソラも普通に日本語喋ってるし」
声や顔がお互いちゃんと映っているか、手を振ったりして確認する。
やがて正常だと分かり、挨拶を交わそうとした時、相手方は涙ながらに言葉を漏らした。
『プリンセス・エル!』
「「プリンセス!?」」
「エル!?」
豪華な容姿からして王族か何かだとは想像していたが、まさか目の前にいるエルが王族の娘、スカイランドのお姫様とは思うまい。ソラ自身もプリンセスだとは知らなかったような驚きを見せている。
「私が付けた名前、合ってました!」
「知ってて呼んでたんじゃないのかよ!」
「いや、驚くところそこじゃないよね!?」
エルは両親の顔を見てしばらく硬直した後、涙を流しながら鏡に手を伸ばしていた。
いつぶりの再会なのだろう。いや、もしかしたら1日2日程度なのかもしれない。
それでも、エルにとっては長い間会えなかったのだ。相手方も娘の元気な姿を見れて安堵の表情を見せている。
「エルちゃん、パパとママの顔を見てちょっとでも安心出来たかな?」
「える!え~るぅ!」
ふとした時には涙は既に引っ込んでおり、ましろの問いに対して元気よく応えていた。その表情をこの瞬間で一度でも両親に見せることが出来たのも良かったと思う。
「王様、王妃様。そちらの世界に戻る手立てが整うまで、プリンセスをお預かり致します」
『貴女は!』
『スカイランドのハイパースゴスギレジェンド名誉博学者のヨヨ殿!』
「「「はい???」」」
いやいや、これ以上は俺とましろの脳内が再びパンクする羽目になるから追究しない方が良い。というか、多分脳が追究するなと拒否反応を起こしている……!
そんな思考を張り巡らせていると、突然ミラーパッドの映像が乱れ始める。
ザザッ、ザザッ、とテレビの砂嵐のような音を立て、その影響で音声も途切れて聞き取れなくなっている。
『そろそろ通信が切れそうです。皆さん、プリンセス・エルのこと』
『宜しく頼みます』
それを最後の言葉として言い残すと、通信が限界を迎えて完全に途切れてしまった。
映像もなくなり、ミラーパッドはただの鏡と化した。
「ああもうこんな時間……」
太陽が沈み、空が赤く染まる時間帯。
事を済ませた俺は、この後バイトが入っているのですぐに向かわなくてはいけない。
「ソラちゃんは寂しくないの?ソラちゃんにもパパやママ、弟がいて家族に会えないのはソラちゃんだって同じなのに……」
「私は大丈夫です。私にはやらなければならないこともありますし」
玄関扉の外でのソラとましろの会話が気になったのか、その場で足を止めてしまう。
「確かに、1人で旅立ってから家族と離れ離れになって寂しい気持ちはあります。けど、私にはやる事もあるし大丈夫です!」
本当に強い子なんだな、ソラは。
まあ、エルというお姫様を守るためにキュアスカイとして戦ってきたんだから当然かもしれない。
「あ、士郎さん。もう帰るの?」
こちらに気付いたのか、ましろが振り向いて問いかけて来る。
「悪い。バイト入ってて、ゆっくりしてられないんだ」
「そうなんですか……」
俺の答えに寂しそうな表情を浮かべるソラ。
あまりそういう眼差しをされると帰りづらくなるのでやめてほしいのが正直な所。
「……ましろやヨヨさんは勿論だけど、もし俺に出来ることがあれば何でも頼って欲しい。出来る限りのことは尽くすつもりだからさ」
こうなってしまったからには見て見ぬふりは出来ない。
この世界にいる間は、安心して過ごして欲しい。
些細な事でも手助けしてやりたいのが、今の俺の気持ちだ。
「っ、はい!ありがとうございます!」
満面の笑みで感謝の言葉を述べ、深々とお辞儀をする。
その姿はプリキュアとして戦う戦士ではなく、まさしくただ1人の明るい女の子としてのものだった。