Hero Sky Blade Works   作:ゆぐゆぐ

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#05 ふわり広がる優しき光

 

「うおおおぉぉぉ!!!」

 

 隙を与えることなく襲い掛かるランボーグの触手を、強化した金属バットで対抗する。

 今の武器の威力はコンクリートを破壊するのも容易なはず。俺自身も戦いにおいてそれなりに心得はある。

 触手の先端を踏みつけ、身動きの取れないソレを叩く。いや、斬っていく。真っ二つに切断するように。

 端から見れば、バットで打撃を与えるよりかは急造の剣で舞うように斬撃を与えていると見えるだろう。

 

「つ、つえー……」

 

 そうしてランボーグの背後へと追いつく。

 散りばめられた触手の群れを見て困惑する怪物の後頭部を叩き割らんと、武器を頭上へ振り上げる。

 ここまで上手く動けていることに驚きを隠せないでいる。このままソラを助け出し、形勢逆転を図る──!

 

「……でも、甘いのねん」

 

『ラーッ!!』

 

 突然、ランボーグの胞子から謎のエネルギーが放出され、思わず後退る。

 何処か、カバトンが怪物を召喚する時の空気に似ている気がする──。

 

『ランボーグ!』

 

「増えた……!?」

 

 その予感は悪い方向に的中する。

 新たに生み出された既存のより一回り小さいソレは、校舎内に避難したましろ達の後を追う。

 あれ程の体格でもし、建物に侵入することも可能になるなら、かなり不味い事態だ。

 

「待て……!」

 

 俺は怪物の侵入を阻止しようと必死に駆け出す。

 ソラには悪いが、戦えない2人とエルが被害に及ぶ前に対処することを優先させてもらう──。

 

『──ランボーグッッ!!』

 

「え……?」

 

 こちらに見向きもしなかった筈の怪物は、何か技を仕掛けることなく、空手のまま俺へと肉薄する。

 

 そして、くるりと振り返って、右ストレートを放ってきた。

 

「があっ──!?」

 

 青空に浮く雲が豪速球で流れていく。

 直撃した胸部が痺れ、上手く呼吸が出来ない。

 足が地面を踏んでいないのは、つまり俺は宙ぶらりんになって飛ばされているということだ。

 まさか2、3m程度しかない小型の怪物の右ストレートで、自分の体がボールのようにぶっ飛ばされるなんて思わなかった。流石に油断したか──。

 

「ぐっ──!」

 

 やがて遠心力が落ち着き、背中から地面に落ちる。

 ベンチにぶつかり、背中から折れる程の衝撃を受け、するりと地面に落ちていく。

 

「ごほ──ぁ、はぁっ……!」

 

 息が出来ない。器官が空気の吸収を停止しているような感覚。

 視界も霞む。

 手に持っていたバットも放り出してしまったが、とりあえずベンチに手をついてどうにか体を起こした。

 

「シロウさん!!」

 

「ギャハハハ!武器だけはつえーが、お前自身がよえーヤツには変わりないのねん!」

 

「は──はあ、はぁ……」

 

 近くで馬鹿笑いする豚を無視して、霞む視界で小型のランボーグを探す。

 この場には見当たらない。もしやましろ達を追って校舎に侵入してしまったのか。

 それより……本当に数メートル近く飛ばされたんだな。いや、それどころか10メートル以上かもしれない。

 

 と、その時、ピーッという甲高い音が鼓膜を襲う。

 

「あーマイクテス、マイクテス」

 

 カバトンが拡声器を屋上に向けて声を発しているようだ。

 その視線の先には、そこまで逃げ込んだましろ達の姿がある。

 

「無駄な抵抗はやめるのねん!今すぐプリンセスを連れて出て来い!」

 

 何を言ってるんだ、お前は。

 そんな反抗が出来る程の声も出せず、バットの回収を優先して忍び足でゆっくり歩いていく。

 

「ほら、お前も一言言ってやれ!」

 

「何をですか!?」

 

「『私たちの負けです!カバトンさんにごめんなさいしましょう!』って」

 

「なっ、降参なんてするわけないでしょう!?ましろさん、あげはさん!出てきちゃダメです!」

 

「けッ、ムカつくのねん!」

 

 機嫌を損ねたカバトンによって、ソラの口がバツ印のテープで塞がれる。

 加えて、ランボーグから更に無数の触手が生み出され、拘束の強化やこれ以上抗えないよう刺激を与えて屈服させることを図る。

 なんて悪質な手法だ。ああいうのは一度痛い目を体感させた方が良い。俺は運よくバットを拾い上げ、カバトンへと近づく──。

 

「──それでも行かなくちゃだよ!ソラちゃんを助けたい!!」

 

 刹那。

 屋上から鮮やかな彩りの閃光が放たれる。

 あまりの眩しさに顔を腕で覆いながらもその光景を見てみると、ましろの目の前にソラが持つものと同じミラージュペンのような物体が現れていた。

 カバトンから奪い取ったわけでもなさそうで、他に考えられるとするならば、あれは新たなミラージュペンではないだろうか。

 

「これ、私の……私が、プリキュアに?」

 

 自分もプリキュアになる資格を得た。

 そう感じたましろは、ゆっくりとペンに手を伸ばす。

 

「やめろ、そいつに触るな!!」

 

「っ……!」

 

「お前みたいな"脇役"がプリキュアになんかなれるもんか!お前に何の力がある!?自分だって分かって──ぐほぉっ!?」

 

 変身の拒否を促す怪人に向けて、俺は目の前まで直進してその身体を強化したバットで殴り飛ばした。

 息を止めてフルスイングをお見舞いした影響で、肺などの呼吸器官から痛みが迸るが、構わず壁に叩きつけられたカバトンに視線を向ける。

 

「痛、ってぇぇぇ!!!折れた!絶対腕折れてるってこれ!」

 

 悲鳴が耳に入るが、よく聞こえない。

 俺は再度近づいて、言葉を吐く。

 

「……お前、今ましろに脇役って言ったな」

 

「ひぃ──!」

 

「ただでさえ変身出来ない状態でその場で出くわして怖い思いしてるはずなのに、それでもましろはお前からエルを奪われないように、ソラが全力で戦えるように自分の責務をちゃんと果たしてるんだよ。それを脇役だとか何の力もないだとか、侮辱するのもいい加減にしろ!」

 

 ……まずい。

 いつの間にか頭に血が上り過ぎている。

 もし、ここで気を抜けば意識を失いかねない。

 

「士郎さん……」

 

「……ねえ、ましろん」

 

「ん?」

 

「それを手に取ったらどうなるのか、プリキュアっていうのが何なのか、私には分からない。でも、そんなのどうだっていい。あの日、私はましろんに教わったよ。優しいっていうのは、強いことなんだって」

 

 あの日──それは多分、俺も知ってる話だと思う。

 

 

 

 ──聖あげはが幼い頃、引っ越す為にソラシド市を離れなければならなかったあの日。

 ましろ達と別れるのが嫌で駄々を捏ねたことで親子喧嘩が始まり、家を飛び出す事態まで陥ってしまった。

 

 その話を聞きつけたましろは、すぐにあげはの捜索に向かい、やがて近くの土手にて見つかった。

 両親が心配するよと説得を試みたが、体育座りで膝に顔を埋めて泣くばかりでその場から離れようとはしなかった。

 

『もう会えなくなるんだよ、ましろん……』

 

『引っ越しても、お手紙出すよ。電話もするよ。だから……』

 

『ましろんは悲しくないの!?』

 

 嫌だ離れたくないと、年下の前で泣きじゃくる姿は確かに情けないけど、本心なんだから仕方ない。そう言わんばかりに反抗するあげはを見ても、ましろは怖気づくことはなかった。

 

『私も、悲しいよ。でも、私が泣いたら……ッ、あげはちゃんはもっと泣いちゃうでしょ……?』

 

 スカートの裾を抓んで涙を我慢したましろだったが、言葉を綴っていくうちに溢れ出るものは正直者になっていく。それでも、あげはを更に悲しませないように必死に堪えながら笑顔を作っていた。

 

『どこへ行っても、わたしとあげはちゃんは……ずっと、友達だよ。泣かないで、あげはちゃん……!』

 

 これが、ましろが見せた優しさ。そして、強さなのだ。

 

 

 

 ──この話を聞いた当時の俺は、思わず腑に落ちた。

 ましろと知り合ってそれなりに時間は経ったはずなのに、彼女のことをまるで分かっていなかったのだ。

 だからこそ、ましろの目前にミラージュペンが現れた理由も何処か合点が行く。

 

「私なんかとか……そんな事言うな!そんなこと誰にも言わせるな!ましろんには優しさって言う誰にも負けない強い力があるんだよ!」

 

 彼女に救われた親友の、精一杯の気持ち。

 その言葉に勇気を貰ったましろは、恐れていた手を伸ばしてミラージュペンを取る。

 

「ぷいきゅあ〜!」

 

 エルが不思議な物体を光と共に送り飛ばし、ましろがそれを受け取る。

 ソラが持つスカイトーンスカイと瓜二つのアイテム。ソラがそれを使って変身できるように、ましろもミラージュペンと共に使って変身することが出来るはずだ。

 

「ヒーローの出番だよ!」

 

 

 

 

 

「ふわり広がる優しい光!キュアプリズム!」

 

 後ろを編み込みにしたピンク色の長髪の頭頂部にはリボンを装着。大きな白いドレスが特徴的で、数ある色のストライプや白のロンググローブなどで彩られている。

 この姿こそが、虹のプリキュア。"キュアプリズム"となっている。

 

 そうこうしているうちに、校舎に侵入していたランボーグが屋上の扉を破壊してプリズムの前に立ちはだかる。

 だが、今度はエルを抱えて逃げようとはしない。同じ土俵で戦えるようになった今、目の前に立って怪物を見据えていた。

 

「ボッコボコにしろランボーグ!!」

 

 主の言葉に反応し、ランボーグが先制攻撃を放つ。

 上空に跳んで踵落としを繰り出すが、それを予測していたかのように素早く回避してカウンターを──あれ。

 

「はうっ!?」

 

 ガツーン!

 いつの間にか後方のビルにまで飛んでいき、後頭部から壁に激突していた。

 あれは流石に痛い。一瞬走馬灯や星が見えていたことだろう。

 ひゅるひゅるという情けない音が似合う速度で落下していくプリズムの元へ、俺は駆け寄る。

 

「大丈夫か!?」

 

「あはは、パワー強すぎちゃった……」

 

 ……全く、こういうキメきれないところもましろらしい。

 

「ランボーグ今だ!プリンセスを捕まえろ!」

 

 そんな力のコントロールがままならないプリズムを利用して、カバトンが怪物にエルの捕獲の指示を出す。

 

「させないよ!」

 

 プリズムはすぐに体勢を立て直すと壁を蹴って屋上へと跳び、その勢いそのままに小型のランボーグを蹴り飛ばした。

 

 運良く、蹴り飛ばした先がカバトンのいる地点であったために対象物と衝突し、ソラのミラージュペンが手から放れて宙を舞う。

 

 だが、ソラがそれを取り返そうにも固く縛られている状態では動くことも出来ないでいる。

 1秒たる一瞬の隙も許されない中で、俺はランボーグへ接近する。

 

「さっさと放しやがれ──!!」

 

 触手で襲うこと以外は隙だらけな怪物の一本足を、バットで殴り飛ばした。

 その威力に耐えられなくなったのか、怪物は触手を緩めながらバランスを崩す。

 敢えてミラージュペンがある位置に近づけるように足払いを仕掛けてみたのだが、一発で成功しそうだ。

 

 拘束が解けたソラはランボーグを足場にして蹴り、ペンの届く場所に身体を捻って手に取る。

 口元に貼られたテープを剥がし、これで参戦する準備は整った。

 

「ヒーローの出番です!」

 

 

 

『無限にひろがる青い空!キュアスカイ!』

 

 変身したスカイは、すぐに間合いを取る。

 プリズムと二手に分かれて2体同時に撃退を図る中、俺の攻撃で倒れた隙だらけのランボーグにトドメを放つ。

 

「ヒーローガールスカイパンチ!」

 

 右拳で繰り出した蒼天の一撃が怪物の腹部に命中し、ランボーグは浄化していった。

 まずは1体。近くでプリズムも浄化技の体勢に入る。

 

「ヒーローガールプリズムショット!」

 

 両手を頭上に掲げて作り出した巨大な波動弾が対象を襲って包み込み、間もなくもう1体も浄化することとなった。

 同じように、カバトンも額から黒い煙幕を巻き散らしてこの場を去っていった。

 

「あ、あれ……?」

 

「っ、ましろ!」

 

「ましろさん!」

 

 戦いを終えて変身を解除した瞬間、ましろの身体が急にふらつき始めた。

 すぐにましろの元に向かい、その両肩を支える。

 

「大丈夫、緊張が解けたらふにゃ~ってなっちゃっただけだから……」

 

 初めての戦闘でプレッシャーや慣れない自分との闘いもあったのだろう。

 いきなりあれだけ身体を動かしたら、その場で膝が曲がってしまうのも無理ない。

 

 そこにソラが顔を俯いたまま、ましろの肩に手を添えた。

 

「お二人とも、ごめんなさい!私が未熟なせいで……怪我はありませんか!?」

 

「あぁ、うん。俺はもう何ともないからそこまで気にしなくて──」

 

「気にしないわけないじゃないですか!私なんか放って逃げていてくれれば……!」

 

 かなり思い詰めてしまっている。

 結果的に皆無事だったんだからと言いたいのだが、それでも納得はしないらしい。

 

「ソラちゃん」

 

 すると、ましろが手招きをしてソラに耳を貸すように誘う。

 その行動のままに、ソラは顔を近づけて耳を傾けた。

 

「自分を責めちゃダメだよ。"私なんか"なんて言っちゃダメ。ソラちゃんは私の大切な友達なんだから」

 

「っ……!、はい!」

 

「みんな無事でよかった~!」

 

 ソラが笑顔を取り戻すまで、そこまで時間は掛からずで良かった。

 直後、学校の屋上からエルを抱えて聖先輩が駆け寄って来る。

 

「2人は何処も怪我はないか?」

 

「おかげさまで、3人が守ってくれたから大丈夫。ありがとね!」

 

「こちらこそ、エルちゃんを守ってくれてありがとうございます!」

 

「ところで、さっきの大事……こればっかりは綺麗さっぱり忘れるのは無理そうなんだけど」

 

 そりゃそうだろう。

 あんなデカい怪物を忘れろなんて言う方がひどい話だ。

 

「特に士郎くん。プリキュアでもないのに何であんな戦えたの?」

 

「え、それは偶々これがあったから……」

 

「確かに金属バットがあれば私でもワンチャンって思ったけどさ。それにしたって普通の人間じゃあそこまで動けないでしょ!」

 

「それは私も思いました!もしやシロウさんも戦いの経験があるとかですか?」

 

 グイグイ攻めて来る先輩とソラに、苦笑いを浮かべるましろ。

 ここまで問い詰められると、もはや言い逃れも出来ないか。

 

「……分かった。けど、どっちも俺達だけの秘密だからな?特に俺のは色々な事情で本来話しちゃいけないやつだし」

 

「はい!」

 

「勿論だよ。でもその代わり」

 

 そう言うと、先輩の目線がソラへと移り変わる。

 

「いつかソラちゃんのこと、もっと色々ちゃんと教えてね。私ももっと知りたいから!」

 

「はい、勿論です!」

 

 先輩がちゃんと約束を守ってくれる人で、安堵の表情を浮かべる俺達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外はすっかり闇に落ちている。

 生徒の門限である6時を過ぎて、時刻は7時。

 最近騒ぎになっている未確認の怪物の出現だなんだで警戒しているのか、街や交差点には人気がない。

 そんな静寂の中で、わたしは街を軒並み調べ、最後の締めとして裏路地へと周る。

 

 すると、その場で意識を失って横になっている魔術師がいた。

 彼の手から離れた1枚の紙を音を立てずにそっと拾い上げる。

 そこには、銀の剣を構える鎧の騎士の画が描かれていた。

 

「──こんなに早く、しかもセイバーのクラスカードを回収するなんて」

 

 セイバーは他より強力なクラスと言われている。

 それでも回収できたのは、よほどこいつの使い方が悪かったのか、セイバーの力を自分のものに制御できなかったか。

 

「それとも、あなたが他のアーチャーよりも強すぎるから?」

 

「──」

 

 誰もいないはずの虚空に問いかけるも、当然返事はない。

 でも、それならそれで強いことに越したことはない。

 

 以前、誰かさんから"勝ちたければ人を殺して力をつけろ"と言われたことがある。

 そんな単純なこと、わたしだってちゃんと理解している。

 だから、これから自分が行くべき道も判ってるつもり。

 すごく癪に障るから2度と口にしないで、と冷たく言ってやったのに、そいつは何故か弾むような声で力強く返事していた。

 

 




次回はオリ回を挟みます。
あの要素を入れようか迷っていまして、なかったらなかったでじゃあこの世界に士郎いらなくない?っていう疑問も出てしまったので入れていきます。更新遅れたのはそれが主な原因でもあります()

ですので、本作品もここから本格的に進んでいければと思っています。とはいえ、気長に読んでいただければこちらとしても嬉しいです!
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