Hero Sky Blade Works   作:ゆぐゆぐ

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原作を一旦止めまして、今回と次回だけオリ回を挟みます。
その次の回から、原作を進めながらオリジナル描写を挟んでいくという大まかな構成で進んでまいります。


#06 運命の夜

 

「まさか、遠坂の娘に先を越されるとは」

 

 唐突に。

 此方を睨み付ける視線と第三者の声が、背中に突き刺さった。

 

「──!」

 

 咄嗟に立ち上がり、振り返る。

 小さな建物の屋上。

 数十メートル以上の高さから、そいつはわたしを見下ろしていた。

 

 夜に溶け込む群青の服装。

 吊り上がった口元は、何処か見下すかのように伝わって来る。

 ……この男の視線は涼やかだ。

 この異様な状況において、わたしを幼い頃から見ていた知り合いかのように見つめている。

 

 ──というか、わたしはこの男を知っている。

 

「ケイネス・エルメロイ・アーチボルト……!」

 

「如何にも、遠坂凛。そして……ふむ。そこにいるのはキミの使い魔かな?」

 

「──!」

 

 軽く穏やかな口調で吐いたその言葉。

 霊体化して見えないはずなのに、この男にはアーチャーが見えている……!

 

「……そう。時計塔の君主(ロード)にはお見通しってことか」

 

「ふん。であれば、私のやらんとすることも理解しているのであろう?」

 

「──」

 

 背筋が凍る。

 ケイネスからすれば、なんという事のない言葉を発したに過ぎないのだろう。

 だが、わたしにとっては、それが凍土にいるかのように冷たく、吐き気を催すほど恐ろしかった──。

 

「どうした?魔術師を1人撃破した貴様が、今更何を怯えている?」

 

 ──狭い抜け道に、その道沿いに広がる壁。

 今ここで戦うには相手が悪すぎるし、圧倒的に不利だ。

 どう動くべきか、何が最善なのかは判らない。考えれば考えるほど焦りが込み上げてくる。

 ただ、この男とここで戦うのだけは、絶対にしてはならないと理性が告げている──!

 

「成程。状況判断が鋭い上、この場の要点を抑えている。遠坂の娘にあまり挑発するものでもなかったか」

 

 ケイネスは液体の入った試験管を手に取り、それを地面に零す。

 

Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)

 

 事は一瞬。

 一滴、二滴とそれまで小粒程度だった液体は。

 大きな、水銀へと膨れ上がった。

 

「は、っ──!」

 

 考えるより早く足が前に出る。

 狭い場所だから思いきり動けない、なんて余裕はない。

 とにかく全力で、わたしの持つ力を全部使って、壁を走る気で駆け出す。

 

 わたしを狙って攻撃した衝撃が頬に伝わる。

 ──間一髪。

 ほんの僅かな時間で襲撃してきたソレは、容赦なく壁を破壊し、わたしがいた空間を薙ぎ払った。

 

 裏路地を出て交差点まで逃げても、銀の化け物は迫って来る。

 もはや退路なんてものはないらしい。

 ならば、ここで迎え撃つか──いや、道路の中心で誰かに見られるのはマズい。

 なら、もっと遠いところへ……そうだ!

 

Es ist gros(軽量)Es ist klein(重圧)……!!」

 

 我ながら素早い反応。

 左腕に魔術刻印を走らせ、一小節で唱える。

 身体の軽量化と重力を調整する魔術。

 一歩、二歩、そして三歩目を踏んだ一瞬、この体は羽を生やし、鳥のように軽々と飛んでみせた。

 

「逃がすか……!」

 

Dilectus(指定) incursio(攻撃)

 

 主人の命令に、先端に対象を切り落とさんとする鋭利な刃をを備えた鞭へと変形し、追いかけて来る。流石にクラスカードを2枚持つわたしを見逃しちゃくれないか。

 

「っ──」

 

 風圧と重圧で身体を絞る。

 目的地まであと約15メートル、着地まで1.5秒……流体相手にこれじゃ遅い、切り落とされること間違いなしだ……!

 

vox Gott(戒律引用)Es Atlas(重葬は地に還る)──!」

 

「アーチャーお願い!」

 

「了解した」

 

 着地の衝撃をアーチャーに殺させて、地面に足がついたと同時に走り出す。

 ──良かった、ここも人の気配がない。

 裏路地なんて狭いところではなく、もっと自由に動き回れるところ。

 わたしとアーチャーの長所を生かせる、遮蔽物のない広い場所……そこに移動した末が、このソラシド市にある大きな公園だ。

 

「はぁ、は──!」

 

 裏路地から公園の広場まで、足が自然に止まるまで走り抜ける。

 とはいえ、その速度は常人には残像にしか見えない速度。

 だがそれでも。

 

「ほう、この私の月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を凌ぐとは!ここで殺すのは些か勿体ないな!」

 

 ケイネスらの追手から免れることは出来なかった。

 

「しっ──!」

 

 迫る流体の鞭を、わたしの前に出たアーチャーが実体化して弾き返す。

 その勢いに、思わず後退る。

 この静寂の夜の中、アーチャーの手には月光を反射させる一振りの短剣を手にしていた。

 

「──嗚呼、成程」

 

 ケイネスは、不気味に笑みを零す。

 

「アーチャーのクラスカードから使い魔として、その男を召喚したということか。その意図は疑問だが、実に興味深い」

 

『"限定展開(インクルード)"』

 

 ごう、という旋風。

 その時、ケイネスは今まで組んでいた腕を伸ばすと、血のような真紅の槍を手にしていた。

 

「ランサーのクラスカード……!」

 

 先程までの見下した表情は一変。

 殺気を纏ったケイネスに対して、アーチャーは無言。

 

 両者の間合いは5メートル弱。

 だが、2メートルの槍と想定すると、感覚的には3メートル近く。

 その残り3メートルも、あの物体を操るあの男からすれば、意味を成さないように思えた。

 

 ……でも、これは偏見に過ぎないけど、超一流の魔術師だからといって面と向かってアーチャーとの鍔迫り合いを制するとは思えない。

 とすれば、二手に分かれて殺しに来るか。

 2体の騎士は、既に互いの必殺を図っている。

 

「……貴様、何故弓を出さぬ。アーチャーでないのか」

 

「……」

 

 アーチャーは答えない。

 討伐する敵に語るものなし、と。

 そんなことを、背中で語っているかのようだ。

 

「……あ」

 

 そう思ってたけど、違った。

 アーチャーはただわたしの指示を待っているだけだってことに、今更気付いたのが馬鹿に思えて来る。

 

「アーチャー」

 

 近寄らず、その背中に語り掛ける。

 

「貴方は思う存分暴れてきなさい」

 

「──フッ」

 

 指示を受けた途端、不意に鼻で笑った。

 わたしの言葉に応えるよう口元を吊り上げて、赤い弓兵は疾走した。

 

 渦巻く突風。

 槍兵となったケイネスの言葉を無視して、2つの短剣を両手に突進する。

 

「馬鹿め!まあ良い、ここで惨たらしく死んでいけ!」

 

 迎撃するは真紅の神風。

 突風と神風の対決が、今ここに幕を開けた──!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰路に就く頃には完全に日は落ちていた。

 ランボーグ対策で外出を自粛しているのか、街は静寂に包まれている。

 その中を、俺とソラ、ましろが買い物袋を担ぎ、聖先輩がエルを抱えて歩いていた。

 

「悪いな、俺の買い物に付き合ってくれて。このお礼は必ずするんで、何かあったら遠慮なく言って欲しい」

 

「お礼なんてそんな、って言いたいところだけど。まあ何かあったら士郎くんに甘えちゃおうかな!」

 

「それにしても皆さん、この卵を買うのに凄く必死でしたね」

 

「あれは"タイムセール"って言って、制限時間で限られた物を安く売るんだよ」

 

 俺達が事情を説明した後、近くにあった貼り紙に今日がスーパーの卵の特売日だってことを知り、丁度卵を切らしていたと思い出した俺は血眼になって目的地へと皆を置き去りにした。

 結果として、5日分くらい多く調達することが出来たが、終了時間間際だったこともあって、傍から見れば主夫界の暴君だと思うくらいに必死に戦っていた。

 結局酸欠を起こしてしまい、そこら辺で休んでいたらいつの間にかこんな時間になっていたというわけだ。

 

「それにさ士郎くん。偶には誰かの頼みを断ったり、誰かを頼るべきだよ。確かに士郎くんみたいな人がいるのは心強いけど、いつも他の人達にいいように使われてるじゃん。人助けは良いことだけど、人が良すぎるって」

 

「……そんなに節操なしか、俺?」

 

「節操なしだよ。なさすぎるよ。イッセー君に"全く、衛宮は来る者拒まず過ぎる"って言われるよ絶対」

 

「それは私も同感かな。士郎さん、悪い人に目をつけられそうでちょっと怖いかも」

 

「っ、それはダメです!カバトンの下部になるなんて以ての外です!」

 

「えう!」

 

 皆してそう言うが、いまいち判断がつかない。つまり俺の心配をしているということで良いのだろうか。

 衛宮士郎は頼まれた仕事は断らない。それでいて見返りを求めないから助かる。これは昔から色んな人に言われてきた。

 

 それを、皆は危険なことだと思っているのだろう。

 とはいえ、何でもかんでも頼み事を受けるほど、流石の俺も馬鹿じゃない。もっとも、好きだからやってることだし、俺じゃ出来ないなと思ったことはきっぱりと断っている。

 

「心配してくれるのは嬉しいけど、俺のことは俺が一番分かってる。それに、人助けは善行だろ。やっても損はしない」

 

「でも、士郎くんのは度が過ぎるよ。このままだと潰れちゃう」

 

「……分かった。忠告は受けとっとく」

 

「ホントかな~?」

 

 聖先輩の納得いかない顔つきを浮かべたのを最後に、この話は幕を下ろす。

 そうして歩みを続けるのだが、俺の家とましろの家との分かれ道に到着したところで、俺達はふと足を止めた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奔る刃、流す一撃。

 逆も然り。突き出される槍の一撃を、アーチャーはすんでのところで短剣で受け流す。

 

Scalp()!』

 

「ッ!」

 

 敵は、アーチャーの迎撃を許さなかった。

 槍に加えて、水銀の物体の間合いまで5メートルの接近すらもさせない。

 長柄の武器にとって、距離は常に離すもの。

 要は自らの射程範囲に入る敵を迎撃するだけで良い。

 迫る弊害を貫くことは、槍兵にとって自ら打って出るより容易いのだから。

 

 にも関わらず。

 ケイネスは分裂する水銀を掻い潜って距離を詰め、攻め込んでいる。

 斬りかかる水銀と連携を取って、アーチャーの接近と停止を許さないでいた。

 

「弓兵風情が弓も使わず接近戦で挑むとは、たわけ!」

 

 普通、槍で間合いを詰めるのは自殺行為だ。

 長大な間合いを以て敵の隙を突き、戦いを制するのが槍兵の正しき戦いである。

 故に、無闇に前進を止めないケイネスに勝機はない。

 

 そう、普通"は"。

 

「うそ」

 

 ケイネスの攻撃に後進して回避するところに、水銀が横から鞭のように薙ぎ払う。

 

 一瞬の隙をも見逃さぬ双方の打突。

 一撃ごとにアーチャーの攻撃を押し留め、後退させ、隙を突くケイネスの槍と水銀の刃は、一刺しでさえ必殺と称されるだろう。

 

 だが、それでもこちらはアーチャーのサーヴァント。

 限定展開に過ぎない魔術師の攻め手など、必殺になりえない……!

 

「ふ──!」

 

 眉間に迫る刃先を何度も弾き、ケイネスの槍をかくやという速度で踏み込むアーチャー。

 

 "弓兵風情"なんて言葉を漏らしていたが、彼は弓兵を甘く見て油断している。

 長柄の利点は射程範囲と間合いの自由度が高いこと。それを狭めた時点で、ケイネスの敗北は確実だ。

 もし、彼がそれを打破するものがあるとするならば──

 

「そこまで!!」

 

 わたしたちが見逃していた、偶然という第三者の乱入くらいしか考えられなかった。

 

「……え?」

 

 ケイネスとアーチャー、両者から放たれていた鬼気が消えていく。

 アーチャーは短剣を振り下ろそうとした腕を掴まれ、ケイネスは槍を手の甲で抑えられ、困惑の表情を浮かべる。

 ……だって、それをやっているのは中学生くらいの少女なのだから。

 

「うそ、まだここに残ってたの……!?」

 

「……フッ、そのようだな。命拾い出来て良かったじゃないか、ケイネス・エルメロイ」

 

「くっ……何奴だ!」

 

「ソラ・ハレワタールです!お二人とも、物騒な武器なんて持ち出して喧嘩するなんて、ダメですよ!」

 

 ……何この子、これが喧嘩だと思ってるの?事情を知らないにしてもそうは見えないはずなんだけど。

 ああ、失敗した。ケイネスに気を取られて周りの気配に気付かなかった。

 

「さあ、まずは武器を下ろして、何があったのか私に話して──」

 

 ──頭上を見上げた途端、あらゆる思考が停止する。

 まるで熊のように、ケイネスの使い魔は身体を大きく見せて威嚇した後、刃の鞭となって少女に襲い掛かった。

 

「うわ!?」

 

 幸運にもそれに気づいたその子は、不意に槍を離した瞬間、アーチャーに勢いよく投げ飛ばされる。

 一方、アーチャーは地面を叩く水銀を難なく回避した。

 

「待って、相手は子供なのよ!?」

 

「間抜け!誰であろうと目撃者は消すのが、魔術師の規則であることを忘れたか!」

 

「ソラちゃん!」

 

 次から次へと、数人の男女が寄って来る。

 ああもう、これは見世物じゃないってのに……!

 

「魔術師とか良く分かりませんが、どうしても喧嘩を止めないと言うのなら……私が相手になります!」

 

「え、ちょっと、貴女何言って──」

 

「この私に決闘を申し込んでくるとは、よろしい!」

 

"夢幻召喚"(インストール)

 

 槍を掲げて詠唱した瞬間、月霊髄液が器用な動きで主人に急接近し、その身体に覆い被さる。

 やがて、ソレは主人の顔を立体化させ、首、肩、腕、そして槍の先端部分にまで浸水していく。

 半分はケイネスの身体、もう半分は使い魔の身体と、仄暗く青ざめた影絵の町に、在ってはならない異形を作り出した。

 

「ならば、これは誅伐だ!」

 

 こいつ、本気であのソラって呼ばれた子を殺すつもりなのか。

 一般人相手にそこまで──って、あれ。

 

「──ヒーローの出番です!」

 

 

 

 

 

『無限にひろがる青い空!キュアスカイ!』

 

 

 

 頭痛くなってきた。急に現れては玩具みたいなペンを取って姿を変え始めて、つまりこの女のは一般人じゃないってこと?

 まあでも、少なくとも魔術師とかそっちの関係者ではないことは良く分かった。

 

 だが、そんな戦士を気に入ったのか、ケイネスは薄らと笑みを浮かべながら、

 

Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)

 

 半身となった使い魔に、命令を下した。

 

 

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