Hero Sky Blade Works   作:ゆぐゆぐ

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#07 悪夢の開幕

 

 ──銀の流体が一本の槍となって飛散する。

 男の腕から、生きた蛇が突進するように至近距離からキュアスカイに襲い掛かる。

 

「はあぁっ!!」

 

 ソレを回避し、隙を見せた男の腹部を叩きに行くスカイに対して、攻撃をさせまいと主人を球体に取り囲む流体。

 その動きはスカイが攻撃を始めたと同時だと思い込ませるほど、一瞬のものだった。

 

「私も……ヒーローの出番だよ!」

 

 

 

「ふわり広がる優しい光!キュアプリズム!」

 

 その真横。

 流星じみた何条もの"弾丸"が、その球体を釣瓶打ちにする……!

 

「っ……!」

 

 空気が震える。

 大きな固体となった銀の流体を、プリズムの光弾が爆風を上げてこじ開けようとしていた。

 

 機関銃めいた掃射、キュアプリズムが持つ技は一撃一撃が秘めた威力を持つ。

 恐らく、岩盤すら穿ちかねない。

 

 ──それを数多。

 家の1つや2つは容易く蜂の巣にするだろう。しかし、

 

「そんな、びくともしない……!?」

 

 銀の球体には何ら効果を持たず、攻撃を全て防いだ。

 

「っ──」

 

Skalp()!」

 

 口元を歪めるスカイの元へ、旋風の如く流体が鞭となって薙ぎ払う──!

 

 バンッ、というぶつかり合った衝撃音。

 スカイが流体を回し蹴りで弾こうとしたが、それをも華麗に避けて隙を見せたところを突いた音だ。

 

 吹っ飛ばされた末、ドンという爆音と共に建物の壁に激突する。

 両者のぶつかり合いはスカイの敗北となったものの、それでもすぐに体勢を立て直した。

 

Dilectus(指定) incursio(攻撃)

 

 追撃する鼠色の槍男。

 銀の異形は、本気で殺しに行っているかのように武器を押し付ける。

 

「むっ……!?」

 

 避ける間もなかったのか、スカイは顔を槍と逆方向に傾け、両手でそれを抑える。

 彼女の直感が功を奏した。

 

 とはいえ、男は自身の全てを巧みに使う、魔術のスペシャリストとも言える技術者のはず。

 故に、結局スカイは受けに回るばかりになってしまう。

 彼女にとって、勝機は男の剣戟の合間に活路を見出すこと。

 だが、それも男が一瞬の隙を晒せばの話。

 

「はあっ!」

 

「Skalp!」

 

 それはプリズムにも言えることかもしれない。

 背後から放った波動弾ですらも、流体によって打ち返される。

 武器を持っているのと否とでは差が出るはずなのに、男の速度は2人を上回っていた。

 

 男の身体は1つでありながら、自身と使い魔で2つの脳と視野を持つ。

 

 それで十分なのだろう。

 使い魔が圧倒的な速度と能力を持ち合わせているのなら、二手で来られても関係ない。

 しっかりと、自身の欠点を補う技巧を編み出している。

 

「──」

 

 息を呑む。

 俺も聖先輩も、幸運がこちらに訪れないものかと2人を見守ることしか出来ないでいた。

 

「だったら……!」

 

「ヒーローガールプリズムショット!」

 

「──ッ!?」

 

 巨大な波動弾が容赦なく男の半身に直撃する。

 大気を穿ちながら飛ぶプリズムのエネルギー弾は、戦車の砲撃に匹敵する。

 あのランボーグに直撃すれば原型を留めず浄化するほどの威力なのだから、それを受けて無傷でいられるはずがない。

 

「──やあぁっ!!」

 

 間髪入れず捉えた隙を拳で打ち抜くスカイ。

 凄まじい威力かつ容赦なく顔面を攻撃されたことで防ぎきれず、水銀を纏った部分が大きく崩れていき、衝撃で身体が宙を舞った。

 

 大きく弧を描いて落ちていく。

 背中から地面に叩きつけられながら倒れ込むように着地し、膝をついて起き上がろうとする。

 

 一気に戦況はこちらが有利となった。

 その勢いを殺さず、流れのままにスカイは大きく跳び上がって拳を強く握りしめる。

 

「ヒーローガールスカイパンチ!!」

 

 必殺技──彼女が持つ渾身の一撃を、それまで敵わなかった敵に繰り出した。

 上空から放つ技ではあるのだが、遠距離からでも威力が弱まることはなく、寧ろ接近する速度が上がる度に強さが増していく。

 

 勝機は、今この瞬間にある。

 敵の異常な防御力から勝ち目があるのか疑問を浮かべてしまっていたが、それでも踏みとどまって勝機を見出そうとした彼女らのおかげで、杞憂に終わるかもしれない。

 

 そう、思っていた──。

 

「……Fervor, mei Sanguis(滾れ、我が血潮)

 

 膝をついた男が、ぽつりとそう唱えた。

 

「──えっ」

 

 スカイの必殺技を、柱状の棘に変形した水銀が防いだ。

 防いだどころか拳をがっちりと掴んだ後、鋭利な刃となってスカイもろとも薙ぎ払う一撃は、今度こそ彼女を吹き飛ばした。

 

 だん、と。

 遠くに何かが落ちる音。

 

 彼女の脇腹から鮮血が流れていく。

 その中で、もはや立ち上がることもままならない体で。

 

「スカイ……!!」

 

 彼女は、意識が朦朧とするまま立ち上がった。

 自分が戦い続けなければ、残された俺達が、殺されかねないと言わんばかりのように。

 

「つ、う──」

 

 ……そうだった。

 大事なことを失念していた俺は、なんて愚かなんだ。

 プリキュア、スカイランド人がどれぐらいの体力を持つのかは知らない。

 いずれにせよ、スカイもプリズムも先程の激しい戦いを繰り広げてから、これで2戦目だ。

 

「ヒーローガールプリズムショット!!」

 

 プリズムの必殺技と共に水銀の中の小さな粒が飛沫を上げる。

 だがそれも無意味なものと化している。

 男の体には傷1つつかない。

 柱状の棘に変わっただけなのに、ただ純粋に効いていない。

 

「そんな……!?」

 

 別段特別な詠唱をしたわけではない。

 寧ろ、水銀を生み出した時と同じ詠唱をしていたはず。

 それなのに、何故直撃していた技が効いていないんだ……!

 

「……っ!」

 

「プリ……ム……ッ!」

 

 困惑するプリズムに容赦なく、スカイにも与えたような攻撃で、彼女を近くの柱まで薙ぎ払った。

 

 スカイを殺傷した男は彼女の元へ接近した後、動きを止める。

 立ち尽くす俺達と吹き飛ばされたプリズムに目もくれず、ただその姿を見据えていた。

 

「馬鹿め。ケルトの英雄の力を纏ったケイネス・エルメロイに敵うとでも思うたか」

 

「ケルトの英雄って……!」

 

「そう。この槍こそかつてクー・フーリンが愛用していた魔槍"ゲイ・ボルグ"である。貴様らのような少しばかり小賢しい小娘の力とは格が違うのだよ」

 

 ケイネスと名乗った男は、愉しげに瞳を細める。

 それは敵を抹殺しようとする愉悦の目。

 

「よく、も……プリズム、を……!!」

 

「未だ威勢を張るか!己の身体を見つめ直してからほざけ!」

 

 どうすればいい。

 2人に代わってあんな超人と戦えって言うのか。

 いや、出来ない。

 武器も無しに半端な覚悟で近づいたところで、ただ無駄死にするだけだ。

 

 俺は──。

 

 

 

 

 

 俺は──スカイを、ソラを見捨てることなんて出来ない。

 衛宮士郎はそういう生き方を選んだ筈だ。

 なにより──俺達を守ってくれたあの少女を、死なせるわけにはいかない。

 

「だが、最期まで私に抗うその姿勢は評価に値する。褒美として、たっぷりと馳走をくれてやろう」

 

 ケイネスの活動が再開する。

 魔槍が届く間合いで、スカイの心臓に定める。

 

「こ──のぉおおおお……!!」

 

 それを見た俺は──全力で駆け出した。

 

「っ、士郎くん──!」

 

 聖先輩が何か言っているが、聞こえない。

 恐らく、俺が行ったところであいつをどうにか出来るはずがないと訴えているのだろう。

 そんなことは俺も分かってる。だからこそ、せめてスカイを突き飛ばしてケイネスの一撃から助けて──。

 

「──ぁ?」

 

 ナニカが、衛宮士郎の心臓を、貫いていた。

 なんで……?

 俺はスカイを突き飛ばして、ケイネスからスカイを引き離して、その後はその後に考えようって思ってたのに。

 

「が──は」

 

 世界が歪む。

 地面に倒れて、息が異常なまでに出来なくなっている。

 そう感じた瞬間、一度だけ血を吐き出した。

 

「シ、ロウ……さん、?」

 

 驚く声が耳に届いた。

 まず、目の前にいるキュアスカイ。

 遠くで愕然としている聖先輩、エル、キュアプリズム。

 そして何故か、呆然と槍を抜いて俺を見下ろすケイネスという男。

 

「……ぁ、れ」

 

 胸の部分にぽっかりと、穴が空いている。

 頭が地面から離れない。

 でも、痛みは別段感じないが、その代わりなのか世界が真っ白で俺だけが真っ黒になっているとかいう摩訶不思議な現象が俺の視界全体を映し出している。

 

「……あ、そっか。俺の、間抜け……」

 

 要するに、間に合わなかったのだ。

 だからそうだ──突き飛ばしたところでどうせまた殺そうとするんだから、そのまま盾になってみたんだ。

 そうしてあの毒々したおぞましい槍で、グサッと心臓を持っていかれてしまった。

 

「──こふっ」

 

 二度目の吐血。

 ああもう、こんな時まで失敗するなんて呆れてしまう。

 正義の味方になるんだーって頑張ってきたけど、こういう大一番に限ってはドジばっかりだ。

 

「──貴様」

 

 男はぼんやりと呟いた後、

 

「えぇぇぇぇぇるううううぅぅぅぅ!!!」

 

「っ!」

 

 エルの大きく泣く声に、驚くように身体をふらつかせた。

 

「今よ、アーチャー……!!」

 

 誰かの声に応じて、月の下から銀の光が接近する。

 

 正確無比、とはこのことか。

 ケイネスを射抜く無数の銀光は、紛れもなく"矢"による攻撃だった。

 

Gewicht(重圧)um zu(束縛)Verdoppelung(両極硝)────!」

 

「ぐおおぉぉぁぁっ!!」

 

 それと同時。

 天空から飛栄する無数の銀光と同時に、黒曜石のような黒く煌めいた石がばらまかれ、水銀はケイネスもろとも爆散した。

 

「くっ……!この私を侮辱したことは忘れんぞ、ドブネズミ共」

 

 そう言葉を吐いた後、水銀の球体となって天高く跳び、この場を立ち去っていく。

 それを見届けた後、完全に視界が失われた。

 

 意識が途絶える。

 もう取り返しがつかなくなった。

 病院に救急搬送されたって心臓を貫かれてるんだから、遅すぎる。

 魔術を使おうにも、俺には治癒再生の魔術なんて持ち合わせてはいない。

 

「シロウさん、シロウさん……!目を覚ましてください!お願いです!シロウさん……!!」

 

 身体が浮遊した状態で、俺をすすり泣きながら懇願する声が聞こえた。

 ……きっとソラが俺を揺さぶっているんだ。良かった、取り敢えずソラは無事に助けられたみたい。

 

 そんな安心と同時に、何処か申し訳ない気持ちも芽生えてくる。

 でも仕方ないだろ。

 俺はソラやましろみたいに戦えるわけじゃないし、出来ることって言ったらこれくらいなんだ。

 

 ……そう。

 こうやって体を張ることぐらいしか、俺には、出来ることがなかったんだから──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月明りも閉ざされた夜。

 ひどく冷たい公園の広場には、地面に倒れた少年と、その身体を揺さぶる1人の少女。それを囲むように立ち尽くす2人の少女と1人の赤ん坊の姿があった。

 

「……」

 

 ケイネスを追い払い、武器をしまったアーチャーは無言で彼女らを見つめている。

 ……段々と漂う、鼻につく匂い。

 それが死の匂いなのだと、赤く染まった芝生を見て、思い知らされた。

 

「……アーチャー、あの子達が危険な目に遭わないように見張っててくれる?別のクラスカードを持った奴が湧いて出て来ることも考えられるし、またあの子達が戦う羽目にならないようにしないと」

 

「──」

 

 アーチャーは小さく頷くと、姿を消して霊体化する。

 それを確認したわたしは、彼女らに近づいていく。

 

「ねえ、少し彼の身体を見せてくれない?」

 

「ぇ、あ、はい……」

 

 ソラと呼ばれていた少女が、赤くした目でわたしを不思議そうに見た後、彼の身体をこっちに寄せる。

 

「……」

 

 とは言うものの、直視できない。

 けれど、直視しないと。

 これはわたしの責任。これはわたしの責任。これはわたしの責任。

 

「……って君、遠坂ちゃん!?」

 

「えっ?あ、どうも」

 

 しまった、よりにもよって見知った顔に出会ってしまった。

 でも、今はそんなことどうでもよくて、彼に集中しないと。

 

「……やっぱり、心臓を突かれてる。これじゃあ助からない」

 

 貫かれたのが心臓だったのは幸でもあり不幸でもある。

 ケイネスの一撃は単純な外傷ではないのか、血液の逆流は酷くない。

 

 酷くはないが、脳に血液がいかなくなったらそれでお終い。

 いや、そもそも心臓を壊されたのなら即死といっても間違いはないはず。なのに、

 

「……まだ死んでない。意識はないけど、ほんの微かに息がある」

 

「っ、本当ですか!?」

 

 肯定。

 けどそれもあと数秒で尽きると思う。

 こいつは自分で傷を癒すコトも出来ないし、わたしには、こいつを助けるだけの力はない。

 

 一先ず、顔を見ないと。

 俯せになっている顔に触れようとして、ふと指先が動かなくなる。

 ……震えている。

 なんで、どうして。

 こんな事、慣れてるのに。

 さっきだってこんな事、起こってたのに。

 

「シロウさん、分かりますか!?ソラです!見えてますか!?見えていたら返事を──」

 

 過呼吸気味に、ソラは彼に応答を求める。

 ……シロウ?

 何処かでそんな名前を知っているような、そんなモヤモヤが脳裏に焼き付いてくる。

 

 ……まあ、そんなことしても助かる保証はないけど、せめて看取るぐらいはしないとね。

 震える指と、崩れそうな膝を理性で抑えつけて、倒れている少年の顔を確認する。

 

「──ぅぷ」

 

 ズキッ、という後頭部から生じた痛みと共に。

 胃から食道、喉、口内にかけて悪い空気とナニカが逆流してくるのを、必死に飲み込んで元の場所に戻した。

 

「……ふざけんな」

 

 また吐きそうになるのを、ギュッと拳を握りしめて抑えつける。

 わたしは、本当に頭にきている。

 なんだってこいつなんだ。

 まったく完璧に、魔術師らしく目撃者を1人仕留めたケイネスにも、わたし達の戦いに割って出しゃばったソラ達にも腹は立たない。

 ソラ達においては、こいつが如何に馬鹿な男であるかをより深く知れたことに寧ろ感謝している。

 それくらい、こいつが憎たらしくて仕方がない……!

 

「お願い、です。返事を、してください……!」

 

「えるうぅ……!!」

 

 溢れ出る涙を何度も拭うソラ、つられて泣く赤ん坊、そして顔を俯かせて涙を堪える周囲を見てると、ふとあの子の顔を思い浮かべる。

 "桜"も、もしこの場にいたら泣いていただろう。

 

「──よし」

 

 ……手はある。

 失敗して切り札を失うかもしれないけど、あるにはある。

 いや、失敗しようが成功しようがどのみち切り札はなくなるんだから、わたしにとっての結果は変わらないんだけども。

 ソラ達に見られる羽目になるけど、今更そんなこと気にしたってしょうがない。

 

「ねえ、ちょっとだけ離れてくれる?ほんの数メートルくらい」

 

「……何をするつもりなんですか?」

 

「壊れた心臓を蘇生させる」

 

「そんなこと出来るの!?」

 

「成功の保証はないけど、貴女達に気付かなかったわたしの責任だしね」

 

 いや、それは間違ってる。

 こいつが死のうとしてるのは、ある意味終わったことだ。

 周囲の気配に気付かなかったわたしの責任なのは勿論だけれど、それだけじゃない。

 運悪くこの辺を歩いていた、こいつらの責任でもある。

 

 だから、わたしがここまでやってやることはない。

 だって、そう、元々コレは、今まで何一つ遺してくれなかった父さんが、唯一わたしに遺しておいてくれたものだ。

 わたしの使命を果たす為に、夢を叶える為に、切り札として遺してくれた強力な魔力の塊。

 わたしにとって、大切な、大切な──

 

「──だから何だって言うのよ」

 

 振り切って、無様に心臓を壊されたヤツの前に跪いた。

 

 




ごめんなさい、もう少しオリ回続きます。
ただ、士郎視点でのオリ回なので、次回以降は原作と並行して進んでいきます。
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