アンジュ・ヴィエルジュ ~新たな可能性~   作:ゼロ・ツー

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零弐VSキリト 中篇

煙に包まれたフィールドを観客たちは緊迫した雰囲気で見守っていた。

そして、煙が晴れると同時に、その光景に驚きの声を上げていた。

フィールドでは、それぞれレイジとキリトを中心にプログレスたちが集まり、レイジ側ではソフィーナとアウロラが、キリト側では琉花とルビーが、手と、杖を、銃を掲げていた。

ギリギリのタイミングで両者はそれぞれ魔法を、祈りを、水流を利用して攻撃を凌いでいた。

 

「まったく……セニア!」

 

「はい」

 

完全に防ぎ終わったのを確認してから、ソフィーナが眉をピクピクさせながらセニアに詰め寄った。

 

「何であんなに撃ったのよ!いつもならあれの半分以下でしょ!」

 

「そうだよ。セニアちゃん」

 

「マスターの指示です」

 

「「レイジ(くん)の指示!?」」

 

セニアの言葉に途中で加わった美海も一緒に驚いてレイジの方を向いた。

 

「いやぁ、悪い悪い」

 

「大体なんでそんな指示したのよ?」

 

「レイジさんも考えなしに指示したわけではないのですよね?」

 

「まぁな」

 

レイジはいつになく真剣な表情をして、キリトたちを見据えた。

 

「まさか昨日今日でリンクを覚えたっていうのに、ここまでできるなんてな。正直予想以上だ」

 

「お褒めに与り光栄だな」

 

「……嫌みで言ったつもりなんだが」

 

「でもそれだけ実力を認めたってことだろ?」

 

「……そうだな。だったら、認めたついでに……」

 

レイジは片足を半歩下げ、意識を集中させた。

それに何かを感じたキリトも、構え直した。

 

「俺たちの本気を少しだけ見せてやるよ!美海、ソフィーナ!」

 

「うん!」

 

「えぇ!」

 

レイジの言葉と同時に二人が横並びになり、美海は剣を持った右手を、ソフィーナは左手を、それぞれの手が交差するような形で構えられた。

 

「エクシード・ダブルリンク!」

 

レイジが使用したそれは、通常のリンクよりも難しい技術であるダブルリンクだった。

リンクは本来、プログレスとαドライバーの脳波をシンクロさせるもの。

つまりは、同時に二人以上のプログレスとのリンクはできないことはないが、相当な技術が要求される理論上では可能な技術。

しかしそのためには、別々のプログレスに対し、別々の脳波をシンクロさせる必要がある。

それは本来であれば不可能ではないが不可能に近い。

にも拘らず、レイジはそれを平然とやってのけた。

それだけこの奥の手を使い慣れてきているという事である。

 

「いくよ、ソフィーナちゃん!」

 

「えぇ、何時でもいいわよ。美海」

 

美海の風が、ソフィーナの魔法の炎が、同時にキリトたちに向けて放たれた。

 

炎狼の風牙(ブレイジング・エア)

 

暴風のごとき風を纏った狼の形をした炎が、キリトたちを引き裂くかのように向かって行った。

 

「まずッ!」

 

琉花がいち早く反応して迎撃した。

が、撃ち出された水の弾丸は弾けるようにして消滅した。

 

「なッ!?」

 

「無駄よ。その程度じゃ防げないわ」

 

『炎狼の風牙』は風によって、酸素を絶やさず炎に供給し、外部からの攻撃を防ぐようにされている。

つまり、防ぐためにはその風を突破できるだけの力が必要になる。

 

「クソッ!どうすれば!」

 

「キ、キリトさん!わたしとリンクしてください!」

 

「ウェンディ!」

 

「わ、わたしがあれを止めてみせます!」

 

「……わかった。行くぞ!ウェンディ!」

 

「はい!」

 

「エクシード・リンク!」

 

「はぁぁ。やぁぁぁ!」

 

キリトとリンクしたウェンディの放った魔法は、失敗することなく、リンクしたことで通常よりも数段強化された状態で放たれた。

普通であれば二人分の、しかもどちらもリンクした状態での合体攻撃を防ぐのは一人では無理である。

が、失敗の確率が高い代わりに、成功しても失敗してもの威力が高いウェンディの魔法はリンクした状態でも十分に受け止めて、相殺するだけの威力を発揮した。

漆黒の風と風を纏った炎がぶつかり合い、爆風がフィールドを越え、観客席にまで吹き抜けた。

 

「まさか、受け止めてくるなんてな」

 

「やっぱりレイジの言う通り、強いわね」

 

「マスターの予想以上です」

 

「やるな、ウェンディ!ここまでとは思わなかったぜ!」

 

「い、いえ、それほどでも……」

 

「ここまで強いなんてね。私やアンバーお姉さまほどではないけど、やるわね」

 

レイジ達は迎撃されたことに対して予想以上の成果に驚かされ、キリトたちは逆に喜んでいた。

 

「なぁなぁ、琉花さん」

 

「どうかしたの?キリトくん」

 

「さっきのって、どういった原理?」

 

「さっきのっていうと、ダブルリンクのこと?あれは二人同時にリンクしただけだよ」

 

「へぇ~。二人同時ね……」

 

キリトが呟いた一言に、琉花は嫌な予感を感じた。

 

「……キリトくん。いくら君のセンスがすごくても、さすがにあれは見よう見まねでできるようなものじゃないよ」

 

「よし!琉花、テルル。行くぜぇ!」

 

「人の話聞いていた!?」

 

キリトの人の話を全く聞いていなかったような態度に、普段はあまりツッコミしない琉花がツッコミを入れた。

 

「諦めなさい」

 

「ルビー……」

 

「もうあれは、甘味屋に入った時と同じようなものよ」

 

「そ、それは確かに無理です」

 

「テルルはやります!」

 

なんでこんなやつのプログレスになろうと思ったのか、今更後悔し始めそうになった琉花であった。

 

「大丈夫だ琉花。オレはおまえならできるって信じているぜ」

 

「……まったく、しょうがないなぁ。唯、失敗したら容赦しないよ!」

 

「おう、任せておけ!」

 

そうして、キリトたちが再び臨戦態勢を取った。

それを見て、レイジたちも何かを感じ身構えた。

 

「琉花、テルル。エクシード・ダブルリンク!」

 

「バカか、お前!そんなの見よう見まねでできるわけ……」

 

「できるんだなぁ、これが。オレたちならな」

 

観客を含む全員がキリトに対して、一体どこからそんな自信が来るのかと聞きたくなった。

が、そんなことも次の瞬間には吹き飛んでいた。

 

「う、うそ……ありえない」

 

「ふっふっふ。これこそがオレたちの()だ!」

 

なんとキリトは、たった一度見ただけでダブルリンクを真似してみせた。

 

「これはさすがに予想外だな」

 

「成功したら、さすがに報いないとね。テルル!」

 

「いつでも行けます!」

 

激流特攻(スクリューバスター)

 

琉花の水鉄砲から放たれた水がテルルを包み込み、まるでドリルが飛んで来ているように突進してきた。

 

「マジかよ。ソフィーナ、負担が多くなって悪いが頼む!」

 

「仕方ないわ。さすがにあんなのくらったらひとたまりもないわよ!」

 

「よし。アウロラ!」

 

「はい。いつでもどうぞ」

 

「エクシード・ダブルリンク!」

 

アウロラが杖を構え、その目の前にソフィーナが魔法で障壁を張った。

魔法と物理による防御態勢で迎え撃つ算段である。

 

「はぁぁぁぁああああ!!」

 

「っく、うぅぅ」

 

ぶつかり合った瞬間にものすごい衝撃がフィールドを吹き抜けた。

一進一退の攻防が続き、リンクを維持するレイジとキリトの額にはわずかに汗が流れ始めた。

 

「「「っきゃぁぁぁぁ!!」」」

 

最終的に、テルルと琉花、アウロラとソフィーナの両者ともにそれぞれの攻撃の反動と衝撃で吹き飛んだ。

 

「ふ、二人とも!」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「は、はい」

 

「だ、大丈夫です」

 

「えぇ。レイジは!」

 

「うん。キリトくんは!」

 

「大丈夫だ」

 

「問題ねぇよ」

 

反動と衝撃はレイジとキリトの二人にもフィードバックして来るほどだった。

ある意味、ダブルリンクの強力さを物語っていた。

 

「(だけど、これ以上チームとしての隠し玉を素人相手に使うのは、評価的に見てもよくはないよな。それに……)」

 

レイジの視線の先には、わずかに肩で息をしている両チームのプログレスたちがいた。

 

「(こんなことに巻き込んじまったのに、ここまでしてくれたんだ。最後位は……)」

 

レイジが徐にフィールドの中央へと向かって歩き出した。

その行為に観客たちがざわめきだした。

それもそうだろう。指揮とサポートするべきはずのαドライバー自らがフィールドに入ることは普通では決してない。

にも拘らず、レイジは自らフィールドに入った。

その意図にいち早く気づいたソフィーナはレイジの前に立って、その進路を阻んだ。

 

「ダメよ、レイジ」

 

「どいてくれ、ソフィーナ。頭のいいお前ならわかるだろ」

 

「だからよ。わかるからダメって言っているの」

 

ソフィーナの表情は真剣そのものだった。

だからといって、レイジもそれを譲れるわけではなかった。

 

「俺の、俺たちのくっだらねぇ喧嘩(こと)でこんなことに巻き込んだんだ。そこまで迷惑かけらんねぇだろ」

 

「そんなことないわよ!レイジは私の、私たちのαドライバーでしょ!それに、プログレスもαドライバーも関係ない!前に自分で言ったじゃない、チームメイトの問題はチーム全体の問題でしょ?」

 

「……確かにな。でも、悪いが今回は譲ってくれ。あいつとは、キリトとはサシで決着をつけてぇんだ。これは義務でも使命でもない、単なる我儘だ。それによ」

 

レイジはそっとソフィーナの頬に手を添えた。

その行為に、ソフィーナは頬を赤くしていき、最後には顔全体が真っ赤になっていった。

これを見た観客の一部から嫉妬の目線と共に、心の中で『リア充爆発しろ!!』などという事が聞こえてきそうな雰囲気へと変貌した。

 

「こうやって俺を心配しながらも、心の底から信用してくれているパートナーたちがいるんだ。これで負ける気はしねぇよ」

 

「……よ」

 

「ん?」

 

「ぶるーみんの一番高いケーキセットよ!負けても勝っても、奢りなさい!」

 

レイジに背を向けて、腕を組みながらそう言い放ったソフィーナ。

 

「……わかったよ。何でも奢ってやるよ」

 

「ふん!……勝ちなさいよ」

 

「言われなくても」

 

そう言い残してソフィーナは下がっていった。

それを確認したレイジが審判の環先生の方を向いた。

 

「審判!特例ルール適用の許可を!」

 

『な、なんとぉぉ!まさかここにきて特例ルールだぁぁぁぁ!……って特例ルールってなんですか?』

 

『特例ルールとは、今回から導入されたもので、エヌドラのブルーミングバトル参加についての特別ルールのこと。これには条件があるが、まぁ今回は大丈夫でしょう』

 

『なるほどなるほど』

 

「って!あんたら仕事してたのかよ!?」

 

『してましたよ。きっちりかっちり』

 

どうやら戦闘に集中していたレイジたちには、解説が聞こえていなかったようである。

 

「まぁ、仕事をしていたかいなかったかについては後にして……。シズト・キリサキくん。あなたは特例ルールの適用を認めますか?」

 

「いいぜ。やってやるよ。ただし、オレにも許可は出るよなぁ?」

 

「あぁ、認めるよ。でないと、フェアじゃねぇだろ」

 

特例ルール適用の条件とは、このルールを使用できるのがN・αドライバーに限定され、適用を求めた側が求められた側に参加許可を得なければ適用されない。

今回はどちらもエヌドラだったこともあり、またどちらも好戦的な人物だったこともあり適用されたともいえる。

 

「それでは、現時点を持って特例ルールの適用を認めます」

 

「なぁ、レイジ。勿論サシでやるよな?」

 

「はッ、何言ってんだ?んなこたぁ当たり前だろ」

 

「なら、遠慮はいらねぇな」

 

そう言いつつ、キリトも中央に歩み寄っていった。

それを琉花が呼び止めた。

 

「キリトくん!」

 

「ん?なんだ?」

 

「サシでやるのはいいけど、……勝ってよね!」

 

手を鉄砲のように構えてキリトの方に向けると、キリトも腕を突き出して答えた。

 

「ふん。オレを誰だと思ってんだ?黒の世界、闇に眠る黒姫の柩(ダークネス・エンブレイス)の黒の剣士!シズト・キリサキだァァァァ!」

 

「厨二乙」

 

「厨二言うなぁぁ!」

 

たっく、といった感じでキリトが中央に歩み直してきた。

二人が互いににらみ合うような位置に着くと、観客たちにも緊張が走った。

 

「やっとここまで来たな」

 

「そうだな。それにこうなるってなんとなく思っていたからな」

 

「特例ルール聞く前からか?」

 

「あぁ。オレとおまえはどことなく似てるからな。生き方とか、覚悟とか、背負ってるもんとか。なにより、過去とかな」

 

キリトは徐に両袖から剣を出した。

カタール。

キリトの愛用する武器である。

 

「……調べたのか?」

 

「まさか、なんとなくそう思っただけだよ」

 

「……っは!言ってくれるじゃねぇか。だけど、少し違うことがあるな」

 

「違うことだと?」

 

「そう。俺は別に覚悟が出来ているわけじゃねぇ。決断してるだけだ。そうやっていくって決断をなぁ」

 

「……なるほどねぇ。確かにオレの思い違いだったみたいだな」

 

「それと俺とおまえの似ているところはもう一つあるぜ」

 

「もう一つ?」

 

「あぁ。不器用なところがな」

 

「……確かにそれを忘れてたな」

 

レイジは自身の武器である拳を突き出した。

キリトもそれに応えるように剣と突き出した。

その二つを軽くぶつけ合うと、軽い金属音が響いた。

と同時に、二人が後ろに勢いよく跳んで距離を取った。

 

「決着をつけようぜ、キリト!いつだってそうだ。不器用な俺たちには(こいつ)でしか解り合えいんだからな!」

 

「そうだな。オレたちが語り合うのは(こいつ)しかないよなぁ!」

 

互いが互いを知ったからこそ出てくる言葉。

それはその場にいる二人にしかわからない何かだった。

 

「来いよ!これ以上の言葉は必要ねぇだろ!」

 

「あぁ!互いに譲れないもんがあるなら、(こいつ)で掴み取るしかねぇよな!」

 

「どっちの絆が強いかじゃない」

 

「どっちの考えが正しいかでもない」

 

「どっちが勝者で、どっちが敗者なのか」

 

「「ただ、それだけの決着を!!」」

 

その言葉と共に、二人は同時に相手に向かって駆け出し、拳を、剣を振りかざした。

 




誤字脱字がございましたら、ご報告お願いします。

感想も、気楽にどうぞ。

参戦キャラ、タグ等の意見もお待ちしています。

次回は零弐とキリトの直接対決です。
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