アンジュ・ヴィエルジュ ~新たな可能性~   作:ゼロ・ツー

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参上! 黒の剣士(甘味)

入学式中におしゃべりをしていたことで十分程お説教を受けていた俺たちが戻り、今後の予定について環先生が話をしているときに、それは起きた。

突然、廊下から雄叫びが聞こえ、徐々に大きくなり、教室の前に来たと思ったら、いきなり後ろの扉が粉砕された。

 

「すみません!遅刻しました!」

 

現れたのは、青蘭学園の制服を着こなした男で、何故か口には団子の串を加えていた。さらには、全身から風見屋の独特の匂いを漂わせていた。

 

「こんにちは、キリサキくん。遅刻した言い訳はあるかしら?」

 

環先生が若干青筋を立てながらも笑顔で聞いていた。

 

「来る途中で、お婆さんを抱えた団子がいて、それを助けていたらこんな時間になってしまったんです!」

 

「「「「「(絶対に嘘だろ!)」」」」」

 

クラスのみんなが同じことを思った瞬間である。

 

「ならなんで、口に串なんて加えているのかしら?」

 

さっきよりもさらに青筋を立てた環先生がそう聞いた。

そこで初めて気づいたのか、キリサキのとった行動は、口にくわえた串を手に持ち、振りかぶって――

 

「セイッ!」

 

――窓から外に投げ捨てた。

 

「何のことですか?」

 

そしてすがすがしいくらいに嘘を言い放った。

 

「なら、何でそんなに甘い匂いを漂わせているのかしら?」

 

「それは――」

 

「嘘はいいわよ。もし本当のことを言わないのなら、校長先生に頼んで黒の世界の女王に掛け合ってもらうことにするから」

 

「すみませんでした!!甘味が、甘味が俺を呼んでいたんです!」

 

見事なまでの土下座を決めたキリサキ。

そこまでするなら始めからそうしろよ。

クラスのみんなもその行為に同じことを思っただろう。

 

「はぁ、しょうがないわね。後で職員室に来なさい。お話があるから」

 

「了解です」

 

とりあえず、この話はいったん終わった。

 

「それじゃ、今日はここまでね。実践練習(ブルーミングバトル)の授業が始まるのは明日からだから、気を付けるように。午後には練習場を開放しているから自由に使っていいわよ。それじゃ、解散」

 

環先生の合図とともに、教室が騒がしくなった。

終わったことで、みんなが思い思いのことを始めたからである。

 

「そうそう。蒼薙くんと日向さん、ソフィーナさんとアウロラさん、セニアさんは午後から第一校舎の掃除をするようにね。キリサキくんは私と一緒に生徒指導室に来るように」

 

「げ、マジかよ」

 

「マジよマジ。それじゃ、お願いね」

 

そう言って、肩を落としているキリサキを連れて環先生が教室を出て行った。

 

「うわぁ、第一校舎って一番大きい校舎だよね?終わるのかなぁ?」

 

「終わらせないと終わるまでやらされますよ」

 

「そうですね」

 

「まったく、何で私までこんなことしなくちゃいけないのよ」

 

俺の周りに集まったみんなで愚痴を零した。

 

「何かあったの?美海ちゃん」

 

「あ、沙織ちゃん!」

 

いつの間にか近くにいた友人が声を掛けてきた。

岸部沙織という名前の少女は、去年中等部で同じクラスだった美海の親友であり、俺たちの友人である。俺と美海と同じ青の世界出身である。

とりあえず、入学式での経緯を話したら、沙織も納得がいったみたいだった。

 

「どうする?私も手伝おうか?」

 

「うぅん、大丈夫だよ。もともと私たちが起こした問題だからね」

 

「そうだな。まぁ、手伝いが必要になったら頼むと思うから、そん時に頼む」

 

「わかりました。じゃあ、お昼は一緒でもいいですか?」

 

「別にいいわよ」

 

「そうですね。大勢の方がにぎやかでいいですもんね」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃ、飯食ってから第一校舎の入り口集合ってことでいいか?」

 

「「「「「賛成!」」」」」

 

 

 

 

 

 

昼飯を終えて、掃除を初めて早二時間。

 

「……何で、……何で、まだ半分も終わってないのよぉ!!」

 

「叫ぶ暇があったら手を動かせ」

 

淡々と始めた掃除だったが、二時間たっているのにもかかわらず、未だに半分も終えていなかった。

そのことにソフィーナは我慢できないと言わんばかりに叫び声を上げた。

 

「大体、なんでこんなだだっ広い第一校舎を掃除しなきゃいけないのよ!」

 

「ま、まぁまぁ、学園全部やれって言われなかっただけマシだよ」

 

美海もソフィーナを宥めてくれた。

実際に青蘭学園は島の三分の一ほどの広さがあり、校舎は第一から第三、研究棟に至っては第一から第五まである。それ以外にもブルーミングバトルと呼ばれるプログレス同士の試合用および試験の会場(アリーナ)が三か所、さらに練習場が地下数階にまで及んでいる。他にも体育館や図書館、グラウンドなどもあり、それらすべてとなると到底一日で終えられる作業ではない。

因みに、洋上学園都市と呼ばれる青蘭島内の施設配分としては、三分の二が学園都市として機能し、残りが少し標高のある山を含めた自然でできている。

 

「さてと、ここは終わったから次行くか」

 

「はぁ、今日中に終わるの、これ?」

 

次の掃除場所に移動したとき、セニアが何かを捉えた。

 

「ん?どうかしたか、セニア?」

 

「マスター、何かが来ます」

 

「何かってなんだよ?」

 

俺が質問し返すと、突然扉が粉砕された。

 

「ふぅ。間に合った」

 

そこに立っていたのは、キリサキだった。

 

 

 

 

 

 

 

全く面倒だなぁ。

そう思うのはオレ、シズト・キリサキである。

俺は青蘭学園の入学式である今日。

少しばかり寝坊したために急いで学園に向かった。

しかし、その行く道に罠があった。

和菓子屋『風見屋』。

和菓子の放つ独特の香りに、オレの甘味センサーが反応し、そこでニ時間半ほど糖分の摂取を行った。

そして、学園に行かなくては行けないことに気づいたオレは、名残惜しくも最後に団子を貰い、一本だけ食べながら向かった。

全力で走ったのにも変わらず、遅刻。

さらに、扉を壊したことで、弁償。

さらには、その両方のために、お説教。

この三段階を受けただけにとどまらず、第一校舎を掃除している奴らと合流して掃除を手伝うようにという罰を受けた。

仕方なく、そいつらのいるところを探していたら、二階の一角にある教室から、誰かの声が聞こえた。

多分探している奴らだろう。

声の聞こえた教室に向かって、扉が邪魔だったので粉砕した。

 

「ふぅ。間に合った」

 

丁度移動しようとしていた最中だったようで、手には掃除用具が握られていた。

何故か、唖然とした顔をされたのかわからないが、気づいたら目の前が暗くなった。

 

「何やってくれとんじゃーー!!」

 

「アベシッ!?」

 

次の瞬間には顔面に激痛が走り、廊下をバウンドして壁に激突した。

おそらく、顔面に飛び蹴りを受けた様だった。

俺が顔を抑えて悶絶していると、上から声が聞こえた。

 

「あんた、何してくれんのよ!折角掃除し終えたのに、また余計な仕事を増やして!え?どうしてくれんのよ!」

 

上からガミガミ文句を言われて、さすがに俺も我慢できないかなと思って上を見て、その人物を確認しよう顔を上げた。

因みに、青蘭学園の女子用制服のスカートは意外に短い。

そのため、顔を上げた瞬間に中が見えた。

 

「あ、黒」

 

ピシッ!?

現場の空気に罅が入った。

そしておもむろに、文句を言ってきた奴が右手を掲げた。

 

「……ね」

 

「え?」

 

「死ぃね死ね死ね死ね死ね!!この変態!死んでわびろぉ!!」

 

「ちょ!?タンマ、てか待って!?」

 

「死ねぇ!この天才魔女ソフィーナに焼かれて死ねぇ!!」

 

ソフィーナと名乗った少女は両手に炎の塊を作り、オレに投げつけてきた。

なんとか持ち前の身体能力で避けて行ったが、校舎がところどころ焦げた。

 

「ちょ!?ソフィーナ!!」

 

「わわわ!校舎が焦げてる!」

 

「あらあら、大変ですね」

 

「どうしますか?マスター」

 

「てか、見てないで止めてぇ!」

 

それからすぐに、一緒にいた男に抱えられてソフィーナとかいう女の子は止まった。

 

「落ち着けソフィーナ。ここで奴を焼いても、問題にしかならねぇ」

 

「止めないで、レイジ。あいつを焼かないと私の気が収まらないわ!」

 

一方、残りの三人の女の子は廊下の惨状を目の当たりにして一人だけ溜め息を吐いていた。

 

「はぁ。これ、どうしよう?」

 

「これはさすがに掃除のしようがありませんね」

 

「私たちでは修復不可能です」

 

廊下は、半分近く焦げて、掲示物が焼けていたり、ガラスに罅が入っているどころか割れているものまであった。

 

「まったく、こんなにまでして。直すの俺なんだぞ」

 

さすがに廊下の様子を見て落ち着きを取り戻したらしいソフィーナという女の子を下した男は、めんどくさそうに右手の袖をまくった。

 

「レイジくん!それ使うの?」

 

「あ?あぁ、じゃないと直らんだろ、これ」

 

そう言った男の右手に嵌めた黒いグローブと腕に巻いてあった包帯を外した。

そこには、黒の世界出身のオレでも禍々しいと思う様な痣があった。

何かを呟きながらその右手を前に突き出すと、痣から蒼い焔が出てきて、さらに腕を薙ぎ払うと廊下全体を覆うように広がった。

 

「ちょ!?追い打ちかけてどうすんの!」

 

「見てろって、ほら」

 

促されて見ると、先ほどまで焦げていた廊下は元通りになっていた。

どんな原理かはわからなかった。

 

「……ッ!?」

 

だが、使用した本人はわずかに表情を強張らせていた。

 

「悪いわね。力を使わせて」

 

「別にいいって、これくらい」

 

心配させないように笑っているようだったが、額に少し汗を掻いているのが見えた気がした。

包帯を巻きなおして、グローブをはめるとこちらに向き直った。

 

「それで、お前たしかシズト・キリサキだったっけ?」

 

「あ、あぁ、そうだけど……お前らは?」

 

「俺は蒼薙零弐。同じクラス唯一のαドライバーだ」

 

「私は日向美海。よろしくね」

 

「セニアです」

 

「アウロラと申します。よろしくお願いしますね」

 

「ソフィーナよ。よろしく変態」

 

「変態じゃねぇよ!」

 

「黙りなさい!変態」

 

「落ち着けって。まぁ、とりあえずクラスに二人しかいないαドライバーだ。よろしく頼むぜ、シズト」

 

「あぁ、よろしく、蒼薙」

 

「レイジでいいぞ。俺も“キリト”って呼ばせてもらうから」

 

そのあだ名に一瞬体が反応してしまった。

 

「……何故、その名前を?」

 

「え~、だってよ、キリサキよりはシズトの方が親しい感じじゃん。でも呼びにくいからよ、日本名的な感じで、キリサキ・シズト、略してキリトってわけだ」

 

そんな理由で、そんな理由で……。

 

「そんな理由で、オレをその名で呼ぶなぁ!!」

 

オレの黒歴史が再来した。

 




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