「ハァハァハァ」
「ゲホゲホッハァ」
日が沈みかけている夕暮れ時の時間。
今、俺とキリトは第一校舎の屋上で、二人して仰向けに倒れていた。
しかもどちらも息を切らした状態で。
周りにも、さすがに走りつかれたのか座り込んでいる美海やソフィーナ、何時も通り笑みを浮かべているが明らかに疲れているアウロラ、たった一人だけケロッとしているセニアがいた。
何故こうなったかというと、理由は二時間ほど前に遡る。
二時間前。
「そんな理由で、オレをその名で呼ぶなぁ!!」
俺が親しみを込めて呼びやすい名前を考えた結果、“キリト”という素晴らしく親しみやすく呼びやすいあだ名を考えたというのに、呼ばれた当の本人は頭を抱え、悶絶し始めた。
「……キリト、……黒、……剣士」
隣の方でソフィーナが何かを呟きながら考えていた。
「わわわ!?大丈夫、“キリト”くん?」
「ノォォォォォ!!」
「あらあら、これは大変ですね」
「マスター。“キリト”さんは大丈夫なのですか?」
「イィィィィヤァァァァ!!」
「これはまずいかもな。大丈夫か、“キリト”?」
「ヤメテクレェェェェ!!」
あまりにもショックなのか知らないが、廊下を転げまわりながら悶絶するキリト。
口調までカタカナになる始末だ。
「あ!思い出した!」
「ギクッ!?」
「あんた、ちょっと前に話題になった“黒の剣士 キリト”でしょ!あの厨二病全開の口調、言動、行動、ポージングで有名になった!」
「ダレカオレヲコロシテクレェェェェ!!」
どうやら相当な黒歴史のようである。
ソフィーナの話によると、このキリトは一昔前に女王からの依頼を受けて、見事成功させた最年少剣士らしく、その時のことは黒の世界では有名らしい。
「なんせ、女王に対してあれほどの厨二っぷりを見せたのは彼くらいよ」
「当の本人は相当恥ずかしいみたいだがな」
ソフィーナの説明でより一層悶絶が激しくなっていた。
「そういえばさ、何でキリトくんはここに来たんだろ?」
「そりゃ、αドライバーに目覚めたからであって……」
「そうじゃなくて、何で掃除している私たちのところに来たのかな~、ってこと」
言われてみればそうだ。
ここの掃除をするように言われたのは俺たち五人だけで、それ以外にはいない。
だとすると、考えられる可能性は……。
「おい、いい加減に起きろ」
未だに悶絶しているキリトの頭をタイミングよく爪先で蹴り上げた。
蹴り上げたとは言っても、サッカーで言うところのシュートではなくボールを上げるループである。
そしてキリトは、そのまま――
「グエッ!?」
――顔面から柱に激突した。
激突した場所から少しずつずり落ちるようにして倒れていく様子を見ていると、何とも言えない雰囲気が漂った。
キリトは、わなわなと肩を震わせながら徐に立ち上がったと思うと、メガネを外しながらこちらを向いた。
「テメェら!こっちが下手に出てっからって、調子に乗ってんじゃねぇぞ!このクズが!」
「「「なんかキレたぁ!?ていうか別人になっている!?」」」
「あらあら」
「……」
えぇぇぇぇ!?
なにこの変貌っぷり!
完全に別人やん!
メガネ外し、キレたキリトは、目の色が黒から赤に変わり、口調まで変動していた。
それに驚いた俺と美海、ソフィーナが驚きの声を上げた。
アウロラは相変わらずで、セニアは何も反応せずに無表情でいた。
「舐めてんのか?あぁ?」
「いやいやいや、むしろお前こそ何しに来たんだ?ただ暴れに来たのか?」
「なに舐めたこと言ってんだ?こちとらテメェらの手伝いに来てやったんだろぉが!」
「いや、むしろ破壊活動しかしてないじゃない」
「誰が、破壊魔じゃ!?」
「「「おまえ(貴方)(キミ)だよ!」」」
あまりに的を射ているセリフにまたしてもツッコミが入った。
「大体、何でオレがこんなことしにゃならねぇんだ。こんな無能集団の手伝いなんてよぉ!」
プチッ。
俺の中で何かが切れた。
こいつ、今なんて言った?
俺の脇にいた四人がいつの間にか少し離れたところに避難しているのが見えたが、今はそれどころじゃない。
「誰が無能かぁぁぁぁ!!この厨二ヤロォォがぁぁ!!」
「誰が末期の厨二患者じゃぁぁぁぁ!!」
「「「「ついにキレたぁぁぁぁ!?しかも何故か逆ギレしてるぅぅぅぅ!?」」」」
俺とキリトは互いに胸倉を掴みあい、罵り合いとなった。
最終的には、話の方向性が変わってしまった。
「だったら白黒はっきりつけてやろうじゃねぇか!!」
「面白れぇ、乗ってやんよ!!」
「なら、勝負はこの校舎の残り半分をどちらがより多く掃除できたかでどうだゴラァ!」
「上等だ!やってやんよ!」
刹那、二人が姿を消した。
だが実際には早く動いて掃除しているだけである。
「って、いつの間にか勝負になっちゃってる!?」
「しかももういなくなってる!?」
「急いで追いかけましょう」
「そうね、行くわよ」
「了解」
そして二時間が経ち、冒頭の状況となった。
「ハァハァ、やるなキリト」
「ゲホッ、お前もなレイジ」
本来ならここでどっちの方が掃除した箇所が多かったかと言い争いになるが、今はそんなことをするほどの余裕と体力は残っておらず、唯ぶっ倒れているだけだった。
しかも、なんだかんだで追いかけてきた四人は、セニアを除いてグロッキーになっている。
なぜだかそんな状況がおかしくて、笑いが込み上げてきた。
「クッ、アハハハハハ!!」
「プッ、ハハハハハ!!」
なぜだか分らなかったが、キリトも笑い声をあげてきた。
人とうり嗤い終えた俺たちは、顔を突き合わせることなく話始めた。
「いやぁ、久々に楽しい思いが出来た」
「俺もだ、こんなに楽しいって思ったのは久しぶりだ」
「……気が合うな」
「……だな」
仰向けに寝転がりながら、空中で握手をするように手を握り合った。
その光景を美海、ソフィーナ、アウロラ、セニアは微笑みながら見ていた。
「そんじゃま、親睦を深めるために青蘭クレープでも食いに行くか、美海?」
「あ、それいいね!行こう!」
「なに!?クレープだと!?オレの甘味センサーがうなるぜぇ!!」
「まったく、さっきまではケンカしているみたいだったのにね」
「ケンカするほど仲がいいという事でしょうか?」
「そうかもしれません」
この後、掃除用具を返してから、六人で学園都市内にあるクレープ屋“青蘭クレープ”に向かい、親睦を深めあった。
校舎を出る前、そんな俺たちの背中を見る者がいた。
「一時はどうなるかと思ったけど、意外と早く溶け込んだわね、彼」
その人物は、担任の安堂環だった。
「これから大変だと思うけど、頑張りなさい。たった二人の
そう言い残して環は校舎の中に戻って行った。
ちなみにこの後も少し大変だった。
「うまっ!?なにこれ!?ちょー美味いんだけど!」
「へへへ、気に入ってくれてよかった」
「まぁ、ここのクレープにはずれはないからな」
「マジか!?おねぇさん、ここからここ全部くれ!」
「「頼み過ぎだ!!」」
キリトの甘味好きは底がしれないことがわかった。
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