「まさか、キリトくんまでエヌドラなんて、私驚いちゃったよ」
昼休みになり、学園のカフェテラスで昼食をとる俺たちは、朝一の授業のときの話で盛り上がっていた。
因みに、エヌドラとはN・αドライバーの略で、αドライバーの略はアルドラである。
「いやぁ、オレも驚いたわ。まさか自分がそんなやつだなんて知りもしないしな」
うんうん、と頷いているキリトである。
「てか、お前生徒証持ってんだろ?」
「生徒証?……あぁ!これね」
キリトが取り出したのは、青蘭学園に通う生徒ならば必ず持っている学生証と呼ばれるカードのようなものである。
このカードには、名前や生年月日、出身世界や顔写真、在学証明の判が押されていたりする。縁には出身世界に合わせて色が変わっており、さらにはICカードとしての機能もある。金さえ入れておけば島中どこでも使用できるというものであり、このカード一枚で島在住者であることの証明にもつながっている。
ただし、一年ごとに更新しなくてはいけないため、ある意味大変貴重なものである。
そしてこのカードには一つ、とあるものを証明する項目がある。
「ある意味謎だったんだよね、αドライバーなのにNがついてるなんて」
そう。とある項目とはプログレスとαドライバー、どちらであるかという項目で、これは俺が入った次の学年から行われた。
種類にはプログレスのP、αドライバーのα、N・αドライバーのNαである。
「ほんと、あんたってバカよね。こんなのが最年少剣士とは思えないわ」
「バカは余計だろ、バカは」
「実際にバカでしょ!」
紅茶を飲みつつ、食後のケーキを堪能するソフィーナにバカ呼ばわりされるキリト。
実際に午前中の授業でその無知っぷりとバカさ加減は身を持って味わった。
二時限目、戦術論。
「それじゃ、ここはどのように対処すべきか、キリサキくん、答えてみて」
「そんなのは簡単です。正面突破です!」
「それだと即撃沈よ」
三時限目、科学
「では、この回路の構造について理解を深めるために実際に作ってみましょう」
ドカァァン!!
「ギャァァス!?」
四時限目、数学
「ここの問題は先ほど説明した公式を使用して解く。すると答えはどうなる、キリサキ?」
「√-36です!」
「それは6iな。答えも6√3で違う」
とまぁ、よくこんなことでここにこれたと思えるくらいバカだと思う。
戦術はほとんど正面突破のみ。科学では爆発するはずのないもので爆発。数学ではありえない方法で答えを導くと言った風だった。
「まったく、こんなやつだとは思ってもいなかったわ」
「ははは。そういえば、キリトくん、お昼大丈夫なの?」
「そういえば、先ほどから一人だけ何も食べていませんでしたね」
話が変わり、よくよく考えてみるとキリトは昼食だというのにもかかわらず何も食っていない。
「お前のことだから甘いもんでも食うのかと思ったが、いいのか?」
「大丈夫大丈夫。もう頼んであるから。準備に時間が掛かっているだけでしょ」
「そうなのか」
確かに何かを頼んでいる様子だったが、何を頼んでいるかまでは知らない。
そんな時、カフェテラスの店員が何かを運んできた。
それを見た俺たちだけでなく、周りにいた他の生徒や遠目に見ている生徒でさえ、それを見て絶句していた。
「お、お待たせしました。ジャンボパフェDX、Verキリサキです」
「お、来た来た」
運んできた店員でさえ驚くそれは、特大どころの問題ではないパフェだった。
なんせ、受け皿が盥である。
きちんと消毒までされている盥は光沢を帯びて、輝いていたが、その中のものは異質である。
そこには、大量の生クリームに多種多様なソースや果物、様々な種類のアイスクリームまである。その底にはこれでもかというくらいにシリアルやスポンジケーキ、アイスクリームや生クリームが目に見えた。
おそらくこれだけでも全種類見えているわけではないだろう。
あまりの量に、見ているこちらが胸やけしそうである。
実際に、周りからの視線がすごい上に、写真を撮っているものまでいる。
おそらく青蘭島の掲示板には今頃、このパフェの話題で持ちきりになっているだろう。
何故なら、このパフェはここのカフェテリアでしか出ないもので、本来出てくるものはこれの半分で、それでさえ未だに誰も一人で完食した者は居らず、今では一人で頼もうとするやつは年に片手で数えるほどである。
だというのにもかかわらず、これである。
美海も、写真を撮っただけで、それ以上は何もできそうになかった。
他のみんなも、笑顔を浮かべているように見えて、額から汗を流している。
アンドロイドのセニアでさえ、現実から目を背けようとしているのだから。
そんなこんなしているうちに、みるみる量は減っていき、いつの間にか半分になっていた。
「「「って、速いでしょ!?」」」
「えぇ~、普通だよ普通」
その言葉に、周りがどよめいていた。
あれが普通だと!?私だって無理よ、あんなの。私だって無理だよ。一日一食で済みそう。
などという言葉が飛びかってきた。
確かに、これが普通なら、俺たちの普通はどうなるんだよ。
そして、ものの十数分で超巨大パフェはキリトの胃の中へと消えて行った。
後で美海の携帯で掲示板を見せてもらったが、案の定パフェの話題で持ちきりだっただけでなく、その話題が始まってから五時間が経っても続いている状況だった。
昼食時のパフェ事件?を終え、オレはレイジ達と共に実践授業が行われるコロシアム地下の練習場に集まっていた。
少しすると、担任の安堂が呼びかけを始めた。
「はい、注目!みんな集まっているわね。それじゃ、ブルーミングバトルの実践授業を始めるわよ」
「ブルーミングバトル?」
「お前、そんなことも知らねぇのかよ」
隣にいたレイジが呆れたように溜め息を吐いていた。
失礼な、べ、別に知らないわけじゃないんだからね。
「キモいからやめろ」
ナチュラルに心を読まれた。
で、そんなことは置いとくとして……
「ブルーミングバトルって、何なんだ?」
「はぁ、ブルーミングバトルっていうのは――」
「ブルーミングバトルは青蘭学園内で行われる、プログレス同士の模擬戦闘のことで、最大4人のプログレスが、それぞれ一対一のフィールドを形成して戦う、いわばスポーツみたいなものだよ」
レイジが説明しようとした瞬間に、後ろから別の誰かが説明してきた。
美海やソフィーナ達ではないのは声で分かった。
振り返るとそこには、金髪を左側のサイドポニーでまとめた少女がいた。
腰には何故かホルスターとリボルバー拳銃があった。
「あれ?琉花じゃん。どうしたんだ?」
「ヤッホ、レイジ。噂の新入生を見に来たところだよ。さっき掲示板でいろいろと見たしね」
何か、親しげに話をする二人をよそに、若干蚊帳の外気味になった俺である。
「なぁ、レイジ。こいつ誰?」
「ん?あぁ。こいつは那月琉花。去年同じクラスだった友人だよ」
「はじめまして、那月琉花だよ。気楽に琉花って呼んでくれ」
「あ、どうも。シズト・キリサキだ。よろしく」
「うん。よろしく、“キリト”くん」
「……どこでその名前を?」
「レイジから聞いた」
「お前、何やってくれてんだよ!」
「アッハハ、別に俺は何もやっていないぞ」
オレがレイジの胸倉を掴んで振り回したが、軽く笑うだけで流された。
まさか、ここまでオレの黒歴史が掘り返されるとは思わなかった。
「フフフ、やっぱり聞いた通り、面白いね、キミ」
「あれ?琉花ちゃんだ。どうしたの?」
「あぁ、美海か。なに、ここにいるキリトって人を見に来ただけだよ」
「へぇ、物好きね。こんなやつを見に来るなんて」
「一応噂はあるからね。レイジに次ぐ二人目のエヌドラだって。掲示板もすごかったしね」
レイジを相手にしている隙に、みんなが集まっていた。
すると案の定、声が飛んできた。
「はい、そこ。もう少し静かにしなさい。まったく、話をしたいなら説明が終わってからにしなさい」
「「「「「すみませんでした」」」」」
「よろしい。それじゃ、今回は他のクラスとも合同だから、いろいろな人と組んでみなさい。登録してあるチームメンバーがいる場合は、そちらを優先して構わないわよ」
安堂の言葉が終わるとともに、みんなが話始めた。
「なぁ、今から何が始まるんだ?」
「練習するためのチームを決めるんですよ」
「チーム?」
「ブルーミングバトルは、αドライバーに対しプログレスが最大4人。それを一チームと考えています」
「つまりは、そのチームを決めろって言ったんだよ」
「なるほど……。ちなみに、登録ってのは何のこと?」
「登録は、学園側に申請してある公式のチームのこと。いろいろなイベントや大会なんかが行なわれるときは、必ずそのチームで参加しなきゃいけないけどね」
そんな制度があるとは、なかなか侮れないな、青蘭学園。
ふと、その時、ある疑問が思い浮かんだ。
「レイジはもう、チーム登録してあるのか?」
「あぁ、してあるぞ。因みにメンバーはこいつらだ」
そうして指さした方には、美海、ソフィーナ、アウロラ、セニアがいた。
「それだとオレ、チーム組めないじゃん!」
「別に無理に知り合いと組めとは言ってないだろ」
「知り合いじゃないと訳が分からないだろ!」
「なら、あたしと組む?」
そう声を掛けてきたのは琉花だった。
「琉花さん。有難い話ではありますが、チームって決まっているのでわ?」
「決まってないよ。今までに組んだチームはどうも合わなくてね。抜けてきているんだ」
なるほど。
チームを登録してあるという事は、抜けることも可能という訳だ。
「それじゃ、お願いしてもいいですか?」
「うん。構わないよ」
「なら、初戦は俺たちとやるか?いろいろとわからないことがあるだろうし、教えてやるよ」
「あぁ、たの……」
「日向美海!」
オレの言葉を遮って、誰かがこちらに声を掛けてきた。
「今日こそ、この間の雪辱を晴らしてあげるわ!相手しなさい!」
「そうだ、蒼薙。この前のは調子がいまいち悪かっただけだ。今度こそお前を叩き潰してやる」
「うわ、また来たよ」
「あんまりしつこくされるとこっちも気が滅入っちゃうね」
声を掛けてきたのは、クラスでは見ていない女子、つまりは別のクラスの女子なのだろう。
ずいぶんと二人に因縁を向けているようだった。
「あの二人、誰?」
「さぁ、ずいぶん前からレイジと美海にちょっかいかけているみたいだけど、正直バカだよ」
「何でさ?」
「それは後で話してあげるよ」
琉花から話を聞こうとしたが、先にこっちをどうにかしなければいけないみたいだった。
「あら、なら最初はあなたたちがやるの?ほかの子たちはまだ決まっていないみたいだし、初戦のデモンストレーションにはいいでしょう。では、両チームステージに来て」
安堂が仕切って、ブルーミングバトルが進められていった。
相手側は、ヤル気満々なのに対し、レイジ達はアウロラとセニアを除いて面倒くさそうにしていた。
「まぁ、彼女たちがバカな理由がわかるから、見てなよ。ついでに少し解説してあげるから」
「あぁ、よろしく」
「それでは、ブルーミングバトル、始め!」
安堂が合図を出すとともに、ブザーが鳴った。
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