ウェンディが仲間になった次の日。
この日もまた、カフェテラスにいったん集まって話し合いをしていた。
「で、あと二人だけど、誰かいい奴いねぇかな」
「そうだねぇ。誰かいたっけ?」
今回は、ウェンディも加わっているが、何故かさっきから目を白黒させていた。
「あ、あの、琉花ちゃん」
「ん?どうしたの?」
「これ見て、何とも思わないの?」
ウェンディの言うこれとは、いつもの俺の目の前にあるものだろう。
今回はジャンボパフェが三種類鎮座していた。
「「これぐらい普通じゃないの?」」
「普通なの!?」
オレにとっては普通だが、琉花もついにそれがわかってくれたか。
とキリトは思っているが、実際に琉花だけじゃなく、零弐や美海などほかの人たちもキリトにとって、それが普通だと理解して、諦めたための反応である。
「それよりどうすんだよ」
「そうだね。さすがにあたしたちほどの人材はそうはいないし、キリトくんと相性が合う人となると本当に限られているしね」
う~ん、と唸りながら考えた。
だけど、ここにきて数日のオレと一年は経っているだろう琉花では、そう言った方の情報量では、琉花の方が多い上、交友関係からして違いが大きい。
その琉花ですらお手上げだと、オレが考えても何も考えは出てこない。
オレにできるのは、テーブルの上にある甘味を食うことだけである。
「あ、あの~」
「どうしたの?ウェンディ」
「実は、一つだけ心当たりがあるんだけど……」
「え?一体誰?」
「了承してくれるかわからないんだけど……」
取り合えずウェンディの話を聞いて、その人物の元へと向かった。
ウェンディに案内されて連れてこられた場所は、木々が多い茂った人気の少ない場所だった。
「へぇ、こんなところがあったんだ」
「えっと、この間見つけた場所なんだけど……」
「つまり、その時にその人と知り合ったという訳ね」
「そ、そう言うことです」
「でも、本当にこんなところにいるのか?」
ウェンディの話だと、よくここにいてあることをしているという話らしい。
すると、どこからか心地のいい優しい声が聞こえてきた。
それは歌だった。
声のする方にオレたちは足を向けてみると、声の聞こえてきた場所は少し奥まった場所だった。
そこでオレたちが見たものは、とてもきれいで、幻想的ともいえる姿だった。
「……ふぅ。あれ?ウェンディ、何でいるの?ってあなたたちは……」
「おまえがルビーか?」
「そうよ。で、あなたたちは誰?」
「俺はシズト・キリサキ」
「あたしは那月琉花」
そう。
オレたちが探していたのは、目の前にいる赤の世界出身の妖精、ルビー。
ルビー自身の実力は知らないが、学園が調べているエクシードのランキングには上位に組み込んでいるという。
それでオレのチームに入ってくれれば、レイジ達への対策も今以上にとれる。
「で、一体何のようなの?」
「じ、実は……」
「ここにいるキリトくんが今度レイジとブルーミングバトルをすることになって、メンバーを探しているんだ」
「なるほどね。つまり、ウェンディかどっかでアタシの話を聞いて、チームに入れようと思ってきたわけね」
そう言ったルビーがオレを測るように隅々まで見てきた。
な、なんだよ。
「ふ~ん。あんたが噂のキリトねぇ」
あぁ、もう諦めよう。
どうやら、オレの名前は既にキリトで浸透しているみたいで、やめさせることはできそうにないだろう。
「ま、別にいいわよ。合わなかったらやめるだけだし」
「それじゃあ……」
「だけど、条件があるわ」
条件?
まぁ、可能な限りなら大丈夫だろう。
が、この時オレの考えが甘いという事が身に染みた。
甘味好きだけに。
「あんた、アタシの奴隷になりなさい!」
……ん?
「……ん?」
「だから、アタシの奴隷になりなさい」
は?え?何で奴隷?
あまりに唐突なことで、理解の範疇を越えていた。
たぶんレイジなら大丈夫だったろうが、オレには無理だ。
あぁぁぁ!脳の!脳内の甘味が!糖分がぁぁ!
頭を抱えて、降り乱れていると突然笑い声が聞こえてきた。
「ぷ、ハハハ!」
「え?なに?」
「まさか、こんな簡単に引っ掛かった上に、レイジの言った通りになるなんて!アハハハ!お腹痛い!」
なに突然!?なんでレイジの名前まで出てきてんの!?
「キリトくん、大丈夫?」
「何が起きてるのか、オレの理解を越えているんだが……」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。キリトくんは騙されただけだから」
「騙……された?」
ま、まさか、このオレがそんなことされるとは……。
「因みに、このことはレイジから提案されただけだから」
「あのヤロォ!今度、甘味の海に沈めてやるぅぅ!!」
「な、何かすごく白々しい感じがします」
「ま、そんなどうでもいいことは置いといて」
なんだろう。オレの扱いが酷い気がする。
「チームに入る本当の条件はね、パフェ奢って」
「……そんなんでいいの?」
「いいわよ、別に。お試し期間みたいなもんだから」
「なるほど。じゃあ、さっそくカフェテラスに……」
「待った」
さっそく甘味を取りに向かおうとしたら、後ろから襟首を持たれて、止められた。
「いきなり何すんだ!首が絞まっただろ!」
「そりゃ絞めようとしたからね。それと、誰がカフェテラスのって言った?」
「は?じゃあ、何所のだよ?」
「いいわ。案内してあげる」
そう言って、ルビーは宙に浮かびながらどこかに向かった。
オレたちもその後を追うと、学園の外の街に来た。
途中で琉花がどこに向かっているのかわかったのか、終始ニヤニヤしていた。
「ここよ」
「ここって……」
付いた場所は、喫茶店『ぶるーみん』という店だった。
ここでは今時では珍しい木製の喫茶店らしい。
とりあえず、ここが目的の場所だという事でルビーを先頭に、琉花、オレ、ウェンディの順に店に入っていった。
そして、そこで目にしたものは……。
「いらっしゃい……ま……せ」
ルビーにオレをだますように情報を流した、今度のブルーミングバトルの対戦相手であるレイジだった。
厄日だ。
まさに厄日だ。
後々、そう思った。
いつもと変わらない喫茶店『ぶるーみん』でのバイト。
もともとはセニアを引き取ったときに、感情を、人としての心を育てるために試行錯誤していたときに始めたものだった。
青蘭学園を卒業している元αドライバーの店長の計らいで働かせてもらってかれこれ一年近く経つが、常連客の美海やソフィーナ、学園の生徒がよく来るここでのバイトは少し大変な時があるが、俺の日常の一つとなってきている。
唯、この時ほど大変だと思った日はない。
この日はたまたま人手が足りなくなり、急遽店に来ていた美海とソフィーナのどちらかに手伝ってもらうことにして、美海が手伝ってくれることになった。
こういう風にたまに人手が足りない時に助けてもらうこともある。
そして、何時も通りに働いていると新しい客が来店してきた。
来店客はルビーで、ここにはよく来る常連客の一人でもある。
その後には珍しい組み合わせの琉花が姿を見せた。
そこで俺は、嫌な予感がした。
「いらっしゃい……ま……せ」
そして、その嫌な予感は的中した。
琉花の後に現れたのは、キリトだった。
その姿を捉えた瞬間に、俺のとった行動は……。
「総員!第一種
「は、はい!」
「休憩してるやつら、全員たたき起こして来い!持ち場に付かせろ!」
「わ、わかったよ!」
「セニア!買い出し班を編成させて、早急に五十人前の材料の調達に向かうように伝令!」
「了解です。マスター」
突然のことで、一部の客が驚いていたが、一部はキリトの姿を見て納得していた。
特にソフィーナはルビーが入ってきたところから見ていたので、驚きはしなかったようだ。
唯、キリトの後ろから入ってきたであろうウェンディとか言った少女は、俺の声に驚いていた。
「ふぅ。……四名様でよろしいでしょうか?」
「今のやり取りをなかったことにしようとしてるけど、無理あるよ」
「すみませんがただいま満席なので、相席でもよろしいでしょうか?」
琉花のそんなツッコミは聞かなかったことにした。
何せ、この店にキリトが来たんだから仕方がない。
「ま、いいんじゃない。案内して」
「かしこまりました」
「れ、レイジくん!みんな呼んできたよ!」
「あぁ、サンキュウ美海。お冷三つ追加で」
「わかったよ。どこに持っていけばいい?」
「ソフィーナのところに案内すっから、そこに頼む」
「うん、わかった」
「一ついいか?レイジ」
「何だ?キリト」
「何で水を三つしか追加しなかったんだ?オレたちは四人で来ただろ」
その言葉に、俺は思わず溜め息を吐いた。
「なぁ、キリト。……お前に水はいらねぇだろ」
直後、両手を握り合い、額をぶつけ合いながら競り合いが始まった。
「オレが甘味だけで生きている様なやつみたいに言うんじゃねぇよ」
「何言ってんだ。会ってこれまでおまえが糖分以外を取っているところなんて見た事ねぇよ」
「水分だってとってんだろ。毎回食事してる時に」
「それは糖分入りの飲料の間違いだろ」
互いに歯ぎしりしそうな勢いで牽制し合った。
ブルーミングバトルをやると決まってから、大体がこんな感じで威嚇し合っている。
「……まぁ、と言うのは冗談で、お前用のを用意してやっからそれまで待ってろ」
「お、そうか。悪いな」
まぁ、結局は最後には何もなかったような状態に戻るが。
取り合えず、四人を席に案内した。
「ソフィーナ。悪いが相席頼む」
「いいわよ。さすがに私もこれだけ客がいても話し相手がいなかったらつまらないもの」
「ねぇねぇ、ソフィーナ」
「琉花。いきなりどうしたのよ?」
「ソフィーナってやっぱり、ボッチ?」
「ボッチじゃないわよ!」
顔を赤くしながら否定するソフィーナだが、さっきの発言は完全にボッチ発言である。
「お冷持ってきたよぉ」
そのタイミングで美海がお盆にお冷とおしぼりを持って来た。
そのまま立たせているのもなんなので、とりあえず席に座らせた。
「それじゃ、俺はキリトの分作ってくるから、美海は注文取っておいてくれ」
「うん、わかったよ任せておいて」
そう言い残して、俺は厨房の方に向かった。
レイジが厨房の方に何かを用意しに向かってから、私はキリトたちに質問した。
「それにしても、よくここに来ようと思ったわね」
「アタシが連れて来たのよ。ここは知る人ぞ知る店だからね」
「そうかしら?基本的にあまり人は来ないけどね」
「そういうのを、知る人ぞ知るお店って言えるんじゃないですか?」
「そうとも言い切れないでしょ」
そんなことを言いながら紅茶を口に含んでいると、琉花が得物を見つけたような目をした。
「な、何よ?」
「別にぃ。そういえば美海はここの常連だったよね」
「うん。常連だよ。だいたいソフィーナちゃんとかと一緒に来ることが多いかな?」
「それって、どれくらいの頻度で来るの?」
「う~ん。私は来る時は週に二日か三日くらいかな。あまり行かないときは行かないけど、ソフィーナちゃんは週に三日か四日来てるって話だけど」
琉花が美海にそんなことを聞いているけど、正直質問の意図がわからない。
まぁ、私にはあまり関係なさそうだけど。
「へぇ~。それってさ、大抵レイジがシフトの時じゃない?」
「ブフゥ!?」
その言葉を聞いた瞬間に、思わず紅茶を吹いてしまった。
「あれあれ?ソフィーナ、どうかしたの?顔が真っ赤だよ」
「ゲホ、ケホ。あ、あんたわざとやってるでしょ?」
「さぁ、何のことだろね?」
琉花のニヤニヤした顔がムカつくが、さすがにここで手を出すわけにはいかない。
店にも迷惑が掛かる上、自分でさっきの言葉を認めるようなものだからだ。
「あ、あの~。すみません」
「あれ、どうしたの?注文?」
「い、いえ、注文ではなくて……」
こんな状態の時に、何故かマイペースに注文を聞こうとする美海。
だけど、ウェンディが何かを伝えようとしているのがわかった。
「どうかしたの?できれば早急に済ませてもらいたいわね」
「えっと、その……」
「見ればわかるわよ。ほら、そこ」
ウェンディの代わりに、ルビーが答えてきた。
ただし、ルビーの指差した方は悲惨だった。
「「……」」
まったく気づかなかったが、私の吹いた紅茶を被ったキリトがいた。
「わわわ、キリトくん。大丈夫!」
「美海、急いで拭くものを!」
「わ、わかったよ!」
「まったく、ソフィーナもやるねぇ」
「元はあんたが原因でしょ!」
「さぁ、何のことだろうね」
私の言葉に白を切る琉花。
正直腹立たしい。
「布巾、持って来たよぉ。って、きゃあ」
戻ってきた美海は、持っていたお盆に大量の布巾を乗せて走ってきた。
そしてまたもや、事故が起きた。
紅茶が床にまで跳んでいたのだろう。
それに足を滑らせて、美海が転んだ。それも盛大に。
もともと、美海は出会ったころからドジなところが多かった。
エクシードの制御がうまくいかずに、能力が過剰に発動したり。
唯の葉っぱに足を取られて転んだり。
今でも続いているのが、遅刻寸前で窓からの特攻。
そんな美海も最近はそんなことは収まったと思ったが、まさかこんなところでしでかすとは。
転んだ美海の手がお盆から少し離れ、慌てた美海がなんとか縁を掴むことが出来た。
「よ、よか……」
ガァンと言う音と共に、美海の持っていたお盆は、キリトの脳天に叩きつけられた。
正直に言うと、かなり痛そうである。
「わぁあ!?ご、ゴメン!キリトくん」
「あ、あぁ、大丈夫、大丈夫」
「大丈夫には見えないわよ」
「何やってんだ?おまえら」
そこに、キリト用に作ったお冷を持ったレイジが現れた。
詳しい事情を話して、キリトも被った紅茶を拭いていった。
「なるほどな。さすがにこんなことになったんじゃ、しょうがねぁか。今回は俺がおごってやっから、好きなの食え」
その言葉にキリトたちは喜んでいたが、あまり私としては喜べなかった。
原因はともかく、こうなったのは私の所為でもあるからだ。
「だけど、ブルーミングバトルは負けねぇぞ。キリト」
「は、望む所だ」
とまぁ、とりあえずはパフェを食べられたことで、ルビーはキリトのチームに一時的に入ることにしたらしいし、お店の方も事なきを得たようだった。
ただ、まさかセニアに補充させた分以上にパフェを食べられただけでなく、後日レイジのバイト代が半分以下になっていたと嘆いていたので、バイト代の四分の一を弁償金として渡したのは、別の話である。
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感想も、気楽にどうぞ。
参戦キャラ、タグ等の意見もお待ちしています。