専属メイド・ターニャ大佐   作:ヤン・デ・レェ

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昼ごはんの御供にどうぞ。


休暇初日 C

先の戦功を鑑みて、三日間の完全休暇を与えられたヘッケンとターニャ。二人は半年ぶりに二人きりでの時間を過ごした。

 

 

 

 

二人は今、海にいた。昨日までの激戦を忘れたような青い海だ。血の臭いもしない。敢えて、探そうと思えば見つかったかもしれないが、西海岸から更に西に向かって、無傷の海岸を見つけたのだ。二人きりの時間。上裸の坊ちゃまとくれば、ターニャはもう死んでもよかった。ほぼ裸の想い人が、死ぬ思いで渡った海岸線を今は楽しそうに走っている。自分の元に溌溂と駆けて来るご主人様の姿に、メイドに戻ったターニャの心は歓喜と安堵で溢れんばかりだった。無論、下心は満載。坊ちゃまの水着は波に浚われてしまえと、心から願っていた。

 

抱き着いて、抱き返されて。あの時の温もりが忘れられない。あの時の感触が忘れられない。ターニャはムッツリスケベであった。それが前世からのものなのか、今世で開いた扉なのか…それは彼女自身にもわからなかったが。

 

 

「(ふ、ふふ…アレからニヤニヤが収まらん…ど、どうしよう…。)」

 

「ターニャーーー!こっちはイイ感じだよ~!」

 

「坊ちゃま!機雷があるかもしれません!危のうございますよー!(勢いで海に来てしまった…大モルガンめ、慰問袋にセパレートタイプの紺水着って…何時の世代だ貴様ッ!!…着てしまったものは、仕方がない…破くにも力が足りんからなぁ…あーあ、幼女の体のなんと不便なことか…。無力にも紺色水着で坊ちゃまを誘惑してしまうとは…ふふふ…おっと、鼻から出血が…。)」

 

「大丈夫だよ!なんたって僕にはターニャが付いてるからね!」

 

「ぼ、坊ちゃまぁッ!!(やめてくれッ!どうか手加減を!キュンキュンするだろうッ!!)」

 

「う、うわぁぁ何だこの波ッ!?ターニャ見ちゃだめだぁぁッ!!」

 

「キャーーーーーーーーッ♡ハッ!?私はいったい何をッ…坊ちゃまお待ちを!私が坊ちゃまの水着代わりにッ!!」

 

「なッ!?何を言っているのか理解しているのかい?」

 

「さぁッ!私が視線を遮ります!今のうちに!チラチラ…さ、さぁ!今のうちにパンツを!海水パンツをお早く!チラチラ…。」

 

「う、うわぁぁぁ!?なんでこんなところに鮫が!?これじゃぁ取りに行けないよ!」

 

「私が取り返してまいります!」

 

「本気なの!?」

 

「鮫如きに坊ちゃまのパンツは譲れませんッ!!」

 

「えぇぇッ!どういうこと!?」

 

「負けられない戦いがここにあるのですッ!!」

 

 

こうしてターニャは坊ちゃまとの海を大いに満喫した。鮫に食いちぎられたボロボロのパンツで半見え状態でビーチバレーに勤しんだ二人は、あとから来た連合国軍の兵士たちから英雄カップルと持て囃された。そこはおいておくとして、何故ボロボロの海水パンツで競技に勤しんでいたのかは戦争中の七不思議として語り継がれることとなった。セパレートを坊ちゃま以外の男に見せる気が毛頭なかったターニャは、すぐさまタオルで全身を覆い隠し、他人にターニャの水着姿を見せたくなかったヘッケンが彼女を横抱きにして走り去ったとか、走り去らなかったとか…。二人は仲睦まじく、休暇初日を過ごしたのだった。

 

 

 

 

遠く離れた祖国から届いた慰問袋の中身は不思議でいっぱいだった。差出人はじいじ。中身はセパレートタイプの紺色水着(太字で胸のところにターニャと書いてある)、着慣れたミニスカ改造メイド服、魔術感応式ネコ耳カチューシャと尻尾(感情の昂ぶりに比例して動く)、豊胸パッド、チョコレート(天然媚薬成分配合)…エトセトラエトセトラ…。

 

やけに大きな袋が送られてきたと思ったらコレである。ターニャはカンカンだった。だが…『これで上手いこと孫を堕とせ』という言質をとったとも言える。そう考えれば悪い気がしないのだった。

 

「(しかし…完全休暇三日の内に、どうやって坊ちゃまを堕とせば好いのやら…)」

 

同じ頃、ヘッケンもまたじいじからの叱咤激励の文章と共に、将来ターニャを第一夫人として結婚を認める旨の誓書ともとれる文面が送られてきていた。これに頭を悩ませたのもターニャと同じ。彼にしてみれば、気づいた時にはずっと隣にいてくれた存在である。金持ちの弊害と言えば好いか、両親とも一週間とて一緒にいた例のないヘッケンにとって血のつながった家族よりも長い時間、深く自分と向き合い続けてくれた存在がターニャだった。

 

「(彼女に告白しよう…あぁ、でも彼女を人前に出すことはお互いにとって今はマズい。戦時中の広報活動にまで引っ張られたら、今度こそ会う時間が減ってしまう…うぅ、なんとか二人だけの秘密にできないものかな?)」

 

二日目にして難問にぶち当たったターニャの元に、そして全く同じ悩みを抱えったヘッケンの元に、それぞれ心強い助っ人が現れた。

 

 

先ずはターニャの元に二人の助っ人が現れた!

 

「大尉!水臭いですよ!俺たちに頼ってくれないなんて!」

 

「そうですよデグレチャフ大尉殿!私たちに任せてもらえれば、必ずや彼を貴女のモノにするお手伝いが出来ますのに!」

 

そう言ったのはアパッチ大隊で副官を務める二人だった。

 

「ドナルド・リーガン少尉、それにジョルジュ・ブッシュ少尉…貴官らがどうして私の恋路を応援しようという気に?」

 

「あ、あっさり恋路って認めるんですね!」

 

「リーガン!口を慎め!大尉殿はピュアであらせられる!」

 

「き、貴様らぁぁッ!…っくっくっく…イイだろう…扱き使ってやるから覚悟しておけ!」

 

「「望むところです!!」」

 

「これぞ俺たちの大尉だ!」

 

「こればっかりはリーガンに同意だッ!」

 

ターニャの指揮の下で、二人は作戦名『ハニートラップ』完遂の為の準備に奔走するのであった。また、同時刻ヘッケンの元を訪れる三人の影があった。

 

「俺たちの存在を忘れて貰っちゃ困りやすぜ!坊ちゃん!」

 

「そうだよぉ~う!おらだに、任せてよぉ~!」

 

「ご期待に添えると、思いますが如何かな?」

 

「カチンスキー!クロップ!チャーデン!君たち、どうしてここに?」

 

上等兵から軍曹に昇進したことで、一旦は離れ離れになると思っていた三人との再会にヘッケンは大喜びだった。再会を喜ぶのもそこそこに、三人組はカチンスキーを筆頭に、ヘッケンがターニャに告白するための絶好の機会を生む作戦を説明し始めた。

 

「いいですかい、坊ちゃん。明日、あっしらが知り合いを集めてコンサートを開きやす。参加者には食い放題飲み放題、おまけに綺麗なねぇさんが出るショーまで見れるんです。この退屈な駐屯基地中の野郎共が集まってくるに違いねぇ。そこでだ、坊ちゃんは貸し切り状態になったカフェテラスで、妖精の嬢ちゃんと一緒に、二人きりで茶ぁをしばく訳ですわな。ここで、ね?坊ちゃん!漢の見せ時ですよ!いっちょ、ガツーンと言っちゃってくださいよ!愛の言葉ってやつを!それで全部大成功!おいら達も軍の物資を使わせてもらって一儲けですわ。モルガン様様ってんで、なら坊ちゃんが一番美味しい思いをしなきゃ神さんに叱られちまいますよ!」

 

「さぁ、どうですかい?やりますかい?」

 

そう聞くカチンスキー。クロップとチャーデンも一緒に考えてくれたのだろう、うんうんと頷いていた。

 

「よーし!やろう!存分にやってくれ!僕も自力で愛を伝えて見せるよ!」

 

「よぉぉぉしッ!来たコレぇぇ!」

 

クロップの雄叫びが響き渡った。作戦名『ロマンチック・デュエット』始動ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一九二三年六月時点(開戦から約二年半が経過)
ヘッケン 18歳
ターニャ 満9歳

*尚、精神年齢はターニャがヘッケンの約2倍。
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