専属メイド・ターニャ大佐   作:ヤン・デ・レェ

21 / 22
今日も一日お疲れさまでした。好い夢が観れますように。


水上 風月 様

誤字報告ありがとうございます!言葉選び等勉強させていただいております。とても助かります。お世話様です。


萌える男 C

人払いの済んだカフェテラスに二人の人影があった。

 

「(ぼ、坊ちゃまに呼び出されてしまった…こ、これは…人払いがされている…何が始まるというんだッ!?まさかっ…他の女が出来たのですか!?そ、そんな!私は遊びだっとでも言うのかッ!坊ちゃま!!答えてくださいッ!ぼっちゃm)」

 

「好きだッ!!!!!」

 

「………ぼっちゃま?」

 

突然の告白に冷静になるターニャ。今日の彼女はメイド服を着ていた。無論ミニスカ改造タイプである。豊胸パッドは入れてない。なんだかヴィーシャに負けた気がするからだ。

 

「お」

 

「…お?」

 

「君…」

 

「きみ?」

 

「き、みの!」

 

「きみの?」

 

空気が張り詰めた。ターニャは生唾を呑み込んだ。ヘッケンは汗をかいている。目線がターニャと、それからターニャの持つメニュー表に描かれたオムライスの絵を行き来した。

 

次の瞬間、ヘッケンが立ち上がって言った。

 

「黄身の美味しいオムライスが好きだッ!!!」

 

「黄身の美味しいオムライスが好きだったのですか!?」

 

「そうだ!!」

 

頭の中が真っ白になるのを感じる。ヘッケンは思考の空白地帯に呑まれて力なく席に着いた。彼とは対照的に、ターニャは明るく振舞った。手を合わせてこう言った。

 

「な、なんて偶然でしょうか!!た、たまたま、本当に偶然にも私、今作ったばかりのオムライスを持参したところでして~!えー、それでー、えー…召し上がりますか?」

 

「食べるよぉぉぉッ!!」

 

「少々お待ちを!」

 

ヘッケンは泣きそうな勢いで叫び、ターニャはきゃぴきゃぴと動いて、オムライスを取りに走った。

 

 

 

 

オムライス発言の裏で、二人は大混乱に陥っていた。

 

「(どどどどどうしようッ!!!君のことが好きだって言いたかったのに…黄身の美味しいオムライスが好きだって…何言ってるんだバカ!僕のバカッ!おたんこなす!オムライスは黄身が美味しいに決まってるだろ!もう!)」

 

斜め上の論点で自分に失望を感じているヘッケンはともかく、ターニャは余りにも行き過ぎた分析と深読みにより、見る見るうちに坩堝に填って行った。

 

「(えぇぇぇぇ!?知らなかったよぉぉぉぉッ!!坊ちゃまの好物なのに私が知らなかっただなんてぇ~…うぐ、ひぐっ…もうやだぁ…ハッ!?危ない危ない、私が冷静さを失うところだった…しかし、リーガン墨付きのオムライス作戦が見破られていたとでもいうのか?…クッ…流石は坊ちゃま…私の想定を遥かに上回る結果をオールウェイズ出してくるとはッ!)かくなる上は…秘密兵器を使うほかあるまい!!」

 

ターニャはそう言って懐からネコ耳と尻尾を取り出し、自身の頭と恥骨辺りに装備した。

 

「お待たせしましたご主人様…ね、ネコ耳メイドのターニャにゃんだにゃん♡」

 

きゅるん♡と音が聞こえてきそうだ。そんな可憐な猫耳メイドさんがそこにいた。ピコピコと動く耳。ゆらゆら、ふりふりと揺れるしっぽ。変身したターニャ…ではなくターニャにゃんの登場により、戦局は一気に彼女に傾いた。ヘッケンは腰を浮かせて警戒態勢をとったものの、その可憐な…というか、可愛いんだコレが。可愛いからね。仕方ないね。

 

ヘッケンはターニャにゃんの可愛さに屈し、力なく着席した。

 

「た、ターニャ…にゃん、なのか?」

 

「そうだにゃん!」

 

「そ、そうなんだぁ……。」

 

愕然とした様子のヘッケンにターニャにゃんは萌え萌えなアラベスクで縁取られたドピンク蛍光色のメニュー表を差し出した。

 

「ご主人様のご注文は何かにゃ?決まったらターニャにゃんに教えて欲しいのにゃ!」

 

「じゃ、じゃぁ、このオムライスで。」

 

ヘッケンはどでかいメニュー表の中心でデカデカと描かれている『合州国産卵使用!スペシャルラブラブデラックスオムライス♡一日一名様限定!』を震える指で注文した。

 

しかし…ターニャにゃんは動かない。

 

「うゆぅぅ~…ターニャにゃんは魔法の言葉しか聞こえないのにゃん。ごめんなさいですにゃん。もう一度、今度はゆっくり、魔法の言葉も含めて教えて欲しいのにゃん。」

 

共感性羞恥を食らえッ!!

 

そう、空耳が聞こえた気がした。

 

経験のないヘッケンはどうすればいいのかわからず狼狽えていたが、やがて羞恥の壁を突っ切る他に道はないことを知った。

 

「が、『合州国産卵使用!スペシャルラブラブデラックスオムライス♡一日一名様限定!』を、ください…。」

 

「畏まりましたにゃん~♡では、もうすでに完成しているので、今すぐお持ちしますにゃん!」

 

「にゃ、にゃんだとぉぉぉぉぉッ!?」

 

注文したら既に完成していたという事実にヘッケンは驚嘆の声を上げた。初めから決められていた、だとッ!?

 

何かの作戦を危惧してヘッケンは周囲を見回したが、そこにはターニャの姿しかない。北も南も西も東も、人っ子一人いなかった。自分も人払いを済ませた側の人間であることを、ヘッケンは混乱のあまり忘れている。

 

 

 

 

ヘッケンの元にオムライスが運ばれてくると、ターニャは食べようとスプーンに手を伸ばしたヘッケンを止めて言った。

 

「る、ルールで、ここではターニャにゃんが食べる前の料理にま、魔法を掛けてあげるのにゃ!」

 

ガタッ!?

 

ヘッケンが血相を変えて立ち上がった。

 

「まさか、君は誰かに脅されて僕に魔法をッ!?」

 

「違いますにゃん。」

 

立ち上がったが、すぐにターニャにゃんの手で席に戻された。

 

「美味しくなる魔法、だにゃん♡」

 

「おいしくなる、魔法…すごいな、君は…僕の知らないことも使いこなしてしまう…流石はターニャ…にゃんだ。」

 

「にゃん♡」

 

「グフッ(吐血)」

 

「坊ちゃまッ!?」

 

「ふ、ふふ、さぁ、その魔法とやらを掛けておくれ!それで、僕も覚悟が決まるから!」

 

「にゃ、はいぃぃぃ!!坊ちゃまのオムライスに…」

 

「僕の、オムライスにぃ…?」

 

「萌え萌えキュン♡だにゃん♡」

 

そう言ってターニャはおもむろにケチャップの瓶を取り出し、オムライスに「あいしてる」と描いた。

 

「に、二段構えだとッ!!ぬわーーっっ‼(萌死)」

 

「坊ちゃまーーーーーーっ!!!」

 

火力戦の信徒、ターニャ・フォン・デグレチャフの前に、ヘッケンは斃れた。その余りにも強すぎる火力によって、骨の髄まで焼き尽くされたのだ。

 

だが、おかげでヘッケンの心も決まった。彼には、ここまでしてくれる幼くも勇敢で一途な女の子がいるのだ。ずっと隣にいてくれた彼女に、報いる時は今を措いて他にない!

 

ガシッ!!とヘッケンはターニャに縋る様に抱き着くと、彼女の耳元に口を持って行った。

 

「ターニャ、君のことが好きなんだ。これからもずっと僕の隣にいて欲しい。好きだ、ターニャ!」

 

ヘッケンの告白を、陸に打ち上げられた魚のように体をビクつかせながら聞き届けたターニャは、泣きながら言った。

 

「ターニャにゃんはご主人様のことが大好きだにゃん ぐふッ……(瀕死)…だ、大大だーい好きだに"ゃ"ん"ッ…ぐはぁッ!?(吐血)」

 

ターニャは真っ赤になっていた。鼻血も物凄い勢いで垂れていた。ターニャは夢現で気絶したまま、無意識の執念だけで自分の想いを伝え、そのまま完全に意識を失ったのだった。

 

「ターニャ!ターニャ!?ターニャーーーーーーーーッ!?」

 

 

 

 

医務室に運ばれたターニャを、ヘッケンは丸一日看病した。休日は半分以上病室で過ごすことになった二人だったが、それでも二人きりで幸せだと、互いに感じていた。

 

「あ、あれ、私は確か…坊ちゃまに魔法を掛けて…それで…ふぎゅうう…お、思い出したら、熱がッ!?」

 

「ターニャ!起きたんだね!好かったぁ~…あれ?でも、顔がまだ赤いね。」

 

医務室に入るなり、ターニャの額に当てていた氷嚢を取り換えようと、坊ちゃまにおでこを撫でられつつ言われて、ターニャはまたしても沸騰した。

 

「な、なんだか熱いですねー坊ちゃまーそ、そーだぁ~!服を、ぬ、脱げばいいんだぁ~!す、すーずC~ですねー!」

 

我を忘れて服を脱ぎ、そのシルクのような素肌を惜しげもなく晒し始めたターニャ。手で仰ぎながら「ゼンゼンダイジョーブ!」を全身でアピールするターニャだったが、もう告白も済ませたヘッケンの敵ではなかった。

 

「…ターニャ、今は欧州の6月だよ?涼しいくらいさ…少し、熱でもあるんじゃないか?心配だから、ほら、こっちにおいでよ。僕がお熱、計ったげるから。」

 

ベッドに乗り込んだヘッケンが脱ぎ捨てた服を着せて、それからあすなろ抱きにターニャを抱くと、彼女は借りてきた猫のように大人しいを通り越し、カチンコチンに動きが硬くなった。

 

「ぼ、坊ちゃま、それは、それはマズいと言いますか…色々耐えられないと言いますか…」

 

ターニャはいやいやと、する余裕もなく、キスの瞬間のようにゆっくりと迫る坊ちゃまの美貌を真正面から受け止める脅威に晒されていた。

 

「…でも、本当に心配だから、おでこ借りるね?」

 

ガッチリと体を包み込まれ、顔も両手により固定されたターニャは観念して、いっそこの瞬間を一生忘れないように楽しもうと心に決めたが…

 

「ひゃ、ひゃうぅぅうぅ…はいいぃぃ坊ちゃまぁぁ…あ、あ~……がはッ!?(昇天)」

 

「あれ!?ターニャ!ターニャがまた鼻から血を噴いた!メディック!メディーーーーック!!」

 

 

 

 

散々な休日だった。だが、ターニャとヘッケンにとっては忘れられない一日になった。掛け替えのない何かを手に入れた瞬間に、魔法が解けてしまうような怖さはあった。けれど、二人は心の中身を共有しても尚、お互いに掛けられた魔法に狂わされたままだ。愛と言うには陳腐なほど、二人は互いのことが前にも増して大好きになった。

 

ターニャの中でまたしてもヘッケンへの忠誠心が上がってしまった。もはやそれは後戻りできない領域に片足を突っ込んでいて、人はその状態を盲従や狂信と呼ぶだろう。彼女はヘッケンの為なら神をも殺すような覚悟を持つに至り、最早、存在Ⅹが望んでいた信仰心の恢復の見込みはゼロに等しかった。しかし、であるが故に存在Ⅹはターニャに試練を与える。その為に新たな祝福を彼女たちの敵に振舞うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。