某日 作戦行動0日目 合州国ラングレー飛行場
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私…ターニャ・フォン・デグレチャフは、今日ここに至るまでの三か月間を思い出していた。
ヘッケン坊ちゃまとの約束から早三カ月が経ち、私は無事に士官学校を爆速で卒業、コネ編入だったため首席こそ逃したが次席で入営することが出来た。そこからは申し分のないコネとカネで爆速で昇進…何の功績も無いのに…し、今日に至る。
辛かった…三か月間辛いことしかなかったと言える。特に辛かったのは作戦行動中の排泄と食事に関する訓練だった。
トイレトレーニング(ガチ)、及びマグマクッキング(火力)である。これは通称に過ぎないが、あまりにもあんまりだと思うなかれ。それは早計だ…実際はもっと酷かった。
生まれて初めてガソリン焼きの味を知った時は、これまで私がどれだけモルガン財閥の衣食住に恵まれて来たのかを再認識することが出来た。貴重な体験だったが二度と御免である。…が、恐らく今日からはほとんどそういう日が続くであろう。
自分が豪快な野戦クッキングに勤しんでいる様子を思い浮かべただけで、私は憂鬱の波に水平線まで流される様に感じる。
にしても…うぅ、どうか坊ちゃまには知られませんように。この年で、空からばら撒くことになるとは…あぁ、あんまりだ。こんなことを、こんなはしたないことを平然とやってのける女だと知られでもしたら私は生きていけない。
だが、戦場での道理に従わなければただただ無惨に死にゆくのみ。そのこともまた現実なのだ。だ、だから私が催した時に致し方なくゴニョゴニョ…うぅ、や、やらなきゃッ…やらなきゃダメなのかッ!?
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ターニャが雑念に魘されていると、滑走路脇の大スピーカーから指令が伝達された。
「各員搭乗準備ー!各部隊長は搭乗前の訓示等あれば今のうちに済ませておくように!敵領域内上空では私語厳禁、ハンドサインと筆談のみ可!各部隊は5分後に搭乗開始!以上!」
慌ただしく動き始める無数の戦争機械たちをぼんやりと眺めながら、ターニャもまた自分自身の部隊の元へ向かった。もうそこには萌え萌えメイド・ターニャの顔は沈んで見えなくなっていた。そこにいたのは、分厚い防寒用の特注戦闘服に身を包んだ冷徹な空軍士官、メイド戦士・ターニャだった。
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淡々とした足取りで割り振られた輸送機の前に辿り着いたターニャは、自身の持ち分…約500名の部隊員の前、にあるレーションの空き箱で組んだ小高い足場の上に立った。
ぺったんこの胸をえっへんと張り、しかし、その自然体を意識した威風の波に自分という幼女の上官を舐め切った部隊員を巻き込みながら、沈黙によって渾沌と緊張を演出し、ただ場の静謐を待った。
………
沈黙の下、ターニャは両の足を僅かに開くと、上半身は重心を落して直立不動の姿勢を保ち、その上でその人形の様に細く可憐な腕を精一杯振り上げた。
ターニャは叫んだ。
「諸君!諸君には何が見える!諸君の目には何が見える!目の前には何が居る!」
問われた意味を兵士たちが噛み砕いてしまう前に、思考の隙を与える前に、ターニャは畳みかけるように腕を振り下ろした。
「私には見える!そこに居る者の顔が!目が!体が!闘志が見える!」
「そこに居るのは幼女か?違う!そこに居るのは農夫か?違う!そこに居るのはパン職人か?違う!そこに居るのは炭鉱堀か?違う!そこに居るのは仕立て屋か?違う!違う!違う!」
「そこに居るのは兵士だ!そこに居るのは戦士だ!私の目の前で整列する諸君は兵士だ!諸君の目の前にいる私は戦士だ!」
「我々はこれより戦場へ向かい、本軍上陸の為の橋頭保を築く尖兵である!諸君は国家の最先鋭として選ばれた戦士だ!」
「もしも故郷に家族を残してきた者がいるならば!今ここで帰るがいい!我々は燃え滾る先鞭を敵軍に叩きつけ、その行動に枷を嵌める役を負っている。その為に必要なものは迷いなく上官の命令に従い、死をものともせずに前進できる者だけだ!戦車のガソリンでパンを焼き!液体燃料で暖をとり!高度二千メーターで用を足せるものだけだ!」
「総員戦闘準備!死に方よーい!覚悟のある戦士だけが、私と同じ機体に乗ることを許す!私と共に極寒の空を泳ぐことを許す!私と共に敵兵のはらわたを地上軍の頭上にばら撒くことを許す!」
ターニャの檄は、激しく、熱烈で、その幼女の外見も相まって一層神秘的でさえあった。腹の底からこみ上げる妖しい熱狂に唆された数人が呼び水の歓呼を上げた。鍵穴は嵌り、歯車は正常に作動した。滑らかな駆動音と共に、戦場を埋め尽くす歯車が、ネジの一本一本が、一先ずは500セット納品された瞬間だった。
満足げに笑ったターニャの顔は、ヘッケンも見たことが無い淫靡でいて凶暴なものであった。
彼女は叫んだ。
「総員搭乗開始!目的地は敵占領地パリースィイの西方約100マイル、到着後は海岸線に砕ける白波に沿って飛べ!」