専属メイド・ターニャ大佐   作:ヤン・デ・レェ

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ド・ルーゴ将軍 S

合流地点では案の定戦闘が起こっていた。上空では航空魔導師同士のドッグファイトが展開され、地上ではフランソワ共和国とアルビオン連合王国の連合軍と帝国軍が、互いに戦車を前面に出して漸進、撤退を繰り返す一進一退の攻防が続いていた。

 

上空から戦況を観察していたターニャは合州国の航空魔導師がいないことに気づき、撮影班が向かったであろう味方の駐屯地、その後方に目を向けた。

 

そこには、装甲車の上で戦況を睨みつける闘将の姿があった。ターニャには、前世も含めて、その闘将に見覚えがあるとともに、微妙な苦手意識を感じたのであった。

 

この男こそフランソワ共和国軍の事実上の総司令官ピエール・ミシェル=ド・ルーゴだと知り、「名前までまんまじゃないか」とターニャが納得を覚えるのはすぐのことだった。

 

 

 

尚、この際に合州国は未だ中立の立場であり、宣戦布告していない状況下での部隊派遣だったため、ターニャたちは合州国が国際的な慣習を破り参戦したと後ろ指を刺されぬように、死んだ部下の遺留品を含めて回収済みである。また、このような事情から戦闘部隊といえども共和国と連合王国とのこの場での共闘は許されておらず、また接触を必要とするこの避難処置もまた、非常時に与えられる特権的な行動であった。

 

 

 

 

数分後、ターニャと彼女の部隊は戦闘の狂騒に囲まれた野戦陣地にいた。

 

ターニャはそこで先ほどのド・ルーゴ将軍と面会することになっていた。

 

「(な、なんでこうなるんだ…。)」

 

ターニャは一目見て苦手意識を感じたド・ルーゴとの対談に必要性を感じていなかったが、というか是非とも回避願いたかったが、よく考えればド・ルーゴは、合州国を自国に招き入れた『現地協力者』の親玉のような存在であった。

 

協力者との折衝を一任されているターニャにとって、それは面白くない現実だった。

 

野戦指揮所から場所を移し、人払いされた駐屯地内部の執務室で、ターニャはド・ルーゴ将軍と相対していた。

 

出されたコーヒーには手を付けずに、ターニャは軽く会釈をした。

 

「さて、まずは長旅ご苦労。デグレチャフ大尉殿。」

 

「いいえ、こちらこそお取込み中に大変失礼いたしました。」

 

「はっはっはっ。戦争をお取込み中とは…君は面白いな、アルビオン出身かね?」

 

「いいえ、生まれは帝国ですが育ちは合州国であります。」

 

ターニャが皮肉を受け流し、真面目に自身の出自を答えると、ド・ルーゴの目の色が変わった。いや、分かりやすく変えて見せたと言うべきか。なぜならド・ルーゴが作戦指揮官であるターニャの情報を知らないはずがないからである。

 

「ほぅ、帝国生まれと…では、色々と心苦しいかもしれんが、君には尚のこと勇敢さを求める必要があるな。」

 

「はぁ…?と、いいますと?」

 

雲行きが怪しくなるとともに、ド・ルーゴの話には身振り手振りが多くなり、身をずいっと乗り出してターニャに迫るようなものに変わっていった。

 

「君の部下から聞いたよ。なんでも一人で50名の敵兵に吶喊したそうじゃないか。」

 

「あぁ、それは私も頭に血が上っていたと言いますか、初戦で気持ちが余ってしまったといいますか…。」

 

「いいのだよ。…私にはわかっているとも。君は恐れているのだね?」

 

「…?何をでしょうか?その、私には閣下の仰る意味が…。」

 

ターニャにはなんとなく、自分がここに呼ばれた理由を察してきていたが、それでも自身の口からは言うことができず、また言えば相手の思うつぼだと理解していたため、本当にわからないような口調でド・ルーゴに応答した。

 

「君は本国に、何の戦果も携えずに帰るつもりかね?死んだのは合州国生まれ合州国育ちの兵士たち。生き残り栄誉を受け取るのは帝国生まれの君!さぁ、どうする!?」

 

「(…なんなんだッ!?何が言いたいんだよこの親爺はッ!)」

 

どうするこうするもあるかッ!いい年した親爺が8歳の幼女に生きる死ぬを一丁前に迫りやがって!恥を知れッ!とターニャは内心で思ったが、ド・ルーゴの言わんとしていることを理解してしまったからこそ、目の前の男を見るその目つきには理知と険がちらついた。

 

ド・ルーゴは一旦、乗り出していた身を応接椅子の革の背もたれに預けた。

 

「…フッ、安心したまえ。そこで君に提案だ。今、ここで起きている戦闘の戦局を打開してくれたまえ。」

 

「あ、あの!お言葉ではございますが、小官単独では戦局の打開はおろか!犬死にすることになると愚考いたしますが!」

 

「単独で吶喊など、誰が言ったのかね?」

 

「え?…は、あ!(嵌めたなこの親爺ッ!)」

 

言ってから気づいてももう遅い。ターニャはド・ルーゴという前世と今世を足しても尚、人生経験で上回る強敵の出現により、まんまと手玉に取られてしまった。

 

「よろしい。ならばこうしよう。君たちの部隊はこれから24時間だけフランソワ共和国軍の栄えある航空魔導師だ。公的身分は私が保証する。軍服も銃も貸そうではないか。物資も好きに…フランソワの兵士たちと同じだけ使ってよかろう。さぁ、勇敢なる自由戦士よ今がその時だ!」

 

「…私と私の部隊の上級指揮権は合州国軍統合作戦参謀本部航空作戦部作戦課にあることをご存じの上で、そのように仰っていると、そのような理解でよろしいでしょうか?」

 

「無論。要請したのは私だからな…。」

 

ここにきて、ターニャは確信した。ド・ルーゴの目的は単なる合州国参戦ではないことを。たとえ汚い手を使ってでも合州国を戦場に引っ張り出し、その上で戦わせることだと。出血を強いることだと、そのように確信した瞬間だった。

 

そして、同時に今自分が置かれている状況はマズい。戦わなければならなくなったことも勿論マズいが、それと同じくらい、ここから先どれだけこの男にいいように扱き使われるかもしれないかと思えば、ターニャの思考は冷たく鋭くなっていくのだ。

 

「…委細承知いたしました。では、軍服等お借りします。」

 

「うむ…存分に奮戦してくれたまえ。」

 

「失礼します…。」

 

 

ターニャはその場を辞したが、間もなくド・ルーゴの背筋を這うような寒気が走った。

 

 

 




強化されているのはターニャだけではありません。
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