こんな縄張り争い見たい…見たくない?   作:ヤクブト

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高評価4人目ありがとうございます!UAの伸びも良くなってるし、この調子で行きたい!(なお書き貯めが尽きると終わり)

記念すべき十話目!

前回と打って変わって脳筋な戦いです

というか片割れに関しては忘れてた人もいるかも←忘れてた人

それではお楽しみください!


暴力の宴

豊かな森林と砂に溢れる荒野、吹雪が吹き荒れる氷雪と溶岩が脈動する火山、これらは一つの土地では共生出来ない、相反する環境だ。例え自然の権化たる古龍であったとしても、相反する環境を同時に存在させることは出来ないだろう。

 

 

だが、新大陸から更に海を渡り、辿り着いた凍て地の更に先、新大陸の奥に、そんな場所が存在する。

 

 

その場所はある程度の階層に分かれており、上層に氷雪地帯、中層に陸珊瑚地帯、森林地帯、荒野地帯、下層に溶岩地帯と瘴気地帯が存在する、滅茶苦茶だが、確かにそれらの環境が共存している。そしてそれだけの環境があるだけに、多くのモンスターがその地に訪れる。そしてそこで苛烈な生存競争が行われる為、どのモンスターも強大に成長し、自然と間引かれている。そしてまた新たなモンスターが訪れる、というサイクルが出来上がっている。多くのモンスターが惹かれ、導かれるその地の名は―“導きの地”。

 

 

一つの場所に複数の環境を詰め込んだような場所は、とある古龍が目的を持って作り上げたものだが…訪れるモンスター達に導かれているなんて自覚は無い。日々強者達による、苛烈な争いが行われ、各地帯の主が頻繁に入れ替わっている。

 

 

そして今、荒野地帯を支配しているのは一匹の古龍だ。

 

 

―全身を覆う甲殻は黒く、頭部からは魔王を思わせる太い角が生えている。地面には四足の脚で歩行し、特に前足が太く、その古龍の力が垣間見える。背中からは悪魔のような翼が生えている。ここまで見ると、目を惹く特徴は少ないように思えるが、その古龍の最も目を惹くのは全身から生えた、黒く鋭い“棘”だろう。どんな物でも貫けそうなその棘に覆われた古龍の見た目は、まさしく“魔王”のようだった。

 

 

そしてその古龍の生態を知る者ならば、その魔王という例えは言い得て妙だと感心するだろう。何せその古龍は―

 

 

 

 

 

―同じ古龍を狙って捕食するのだから。

 

 

 

 

 

その異様な生態から“古を喰らう者”とも呼ばれるその古龍の名は―

 

 

 

 

 

“滅尽龍”

“ネルギガンテ”

 

 

 

 

 

滅尽龍は獲物を求めて練り歩いていた。滅尽龍は古龍を喰らうが、正確に言えば「古龍も含めたありとあらゆる生物」であり、喰らう量こそ規格外ではないが、何でも喰らう性質は恐暴竜に近い。だが獲物の好みもある程度あり、滅尽龍は養分を大量に蓄えたモンスターが好みだ。だからこそ、強大なモンスターが集う導きの地は滅尽龍にとっては餌に困らない楽園なのだ。

 

 

当然、この地に住まうモンスターは滅尽龍であっても油断出来ない強者も多く存在する。特に、各地帯の主とも言える者達は、その最たる例とも呼べる者達だ。主の中には古龍でない者もおり、この地の中では古龍であってもその存在が絶対ではないし、実際血の気の多いモンスターは、相手が古龍であったとしても向かって行く者もいる。

 

 

古龍で無い各地帯を支配している者達は、古龍に引けを取らない程の戦闘力の持ち主であり、この地のエネルギーと幾度の死線を越えて、最早この地に住まう各地帯の主でなければ勝ち目がない程にまで己の力を高めた、歴戦の個体だ。

 

 

いくら滅尽龍と言えども、彼らを倒そうと思えば万全を期さねばならず、例え勝てたとしても満身創痍になっている可能性が高い。そしてその隙を狙って他の地帯の主が漁夫の利を仕掛けて来れば、業腹ではあるが敗北することになるだろう。だがそれは他の主も同じ。そうした主同士によって生まれる力関係の拮抗により、この地の均衡は保たれて来たのだ。

 

 

だがこの地には多くのモンスターが訪れる。ほとんどのモンスターが主どころかある程度導きの地で生き延びて来たモンスターにも敵わないが、時に元いたモンスターを打ち倒し、そのまま住み着くモンスターもいる。だが各地帯の主に対抗し得るモンスターは一度も現れたことが無いし、主を除くと今住んでいるモンスターの中にもいない。

 

 

―だが、何事にも例外や他とは違う特異な存在というものは現れるものだ。今まで現れなかったからと言って、これから現れない保証などどこにも存在しない。自然界におけるものだと古龍級生物がその最たる例だ。この世界の頂点に何が立つかと言われれば古龍だが、大型古龍程の実力を持つ生物なら、金獅子や恐暴竜、希少種などを筆頭に何種類か存在する。

 

 

―だからこそ、導きの地の均衡も、いつまでも続くものとは限らない。

 

 

 

 

 

ズズン…!

 

 

「!」

 

 

 

 

 

突然、滅尽龍は砂の大地が揺らいだのを感じた。この地では軽い地震は時折あることだが、今日の揺れは少し違うように感じた。言うなれば、今滅尽龍がいる位置から少しの範囲しか揺れていないように感じた。

 

 

更に言うならば、滅尽龍は何か威圧感のようなものを感じていた。姿こそ見えないが、歴戦の古龍が陰から殺気を視線に乗せて睨み付けているように思えた。

 

 

地震こそ収まったが、滅尽龍は気を抜かない。それが功を成したのか、次に起きた事に対応する事が出来た。

 

 

 

 

 

「ブオオオオオオ!!」

 

 

「グオオ!」

 

 

 

 

 

―突然地面から雄叫びを上げながら二本の角が飛び出してきた。だが警戒していた滅尽龍はその奇襲を躱して飛び出してきた相手を睨み付け威嚇する。

 

 

「グオオ…!」

 

 

「ブオオ…!」

 

 

―だが滅尽龍の威嚇にも怯まず、負けじと殺気を向けて威嚇し返すそのモンスターは、全身が二十メートルを越え、二本の脚に一対の翼を持った、火竜と同じような骨格だ。頭部からは二本の捻れた角を生やし、尻尾は両側が槌のようになって鈍器のような見た目になっている。その特徴を見た者は口を揃えて角竜だと言うだろう。だが、角竜と言うには首を傾げるいくつかの特徴がある。体色は原種に近いのだが、頭部や翼、脚部や尻尾が血が染み込んだような濃紺色になっている。ならば少し変わった角竜と思うかもしれないが、何より違うのはその角だ。二本ではあるが、左角が右角より一回り小さく、その先端が三股に分かれた独特な形状となっている。原種とも亜種とも言い切れない、明らかに異様な角竜だが、その身体から発される殺気は、原種や亜種を上回る程のものだ。

 

 

それもその筈、この角竜は特別な角竜なのだ。ある地域では、従来のモンスターとは違う、亜種とはまた異なった環境への適応や、強敵との戦いで取り返しのつかない負傷を負い、本来淘汰される筈だったモンスターが生き残り、独自の進化を遂げたものにそのモンスターを象徴する“二つ名”が与えられ、原種とは異なる特別な対応が取られる。

 

 

その角竜は猛者がひしめく二つ名の中でも筆頭とされ、おとぎ話の中にも登場するが、討伐の記録が無い為に、いずれの物語においても悲惨な話で締め括られるという、古龍を除いたモンスターの中でも別格の経歴がある。その逸話から戦闘力を危険視され、いくつもの国が軍隊や凄腕のハンターを向かわせたが、その全てが壊滅や殉職、少なくとも引退まで追い込んで返り討ちにした。ある地域では、ある古龍と並んで“双璧”と謳われる程の強さを持つその角竜の名は―

 

 

“鏖魔”ディアブロス

 

 

鏖魔もまた、この地のエネルギーに惹かれてやって来た。が、別に強くなる為に来た訳ではない。ただ恨みに対して決着はつけた為、漠然と訪れただけだ。そして新たな地には邪魔者がいる。ならば殺す。鏖魔の考えはそれだけだ。

 

 

イカれていると思う者がほとんどだろうが、鏖魔は若い頃に外敵に角を折られ、その恨みによって力を付けて来た為、凶暴性が原種よりも高いのだ。そして原種の時点で外敵に容赦が無い角竜を上回るともなれば、古龍にすら躊躇いなく向かって行く。そして実際、古龍と戦えるだけの力があるのも事実だ。

 

 

そしてその強さは、相対している滅尽龍も感じ取っていた。だが、それを感じてなお滅尽龍は負けるとは思っていない。むしろ望む所だと闘志と殺意を滾らせる。これ程の相手ともなれば、各地帯の主も動きを見せるかもしれないが、どちらにせよまずは鏖魔を倒さねばどうにもならない。

 

 

そうして双方、無遠慮に殺意をぶつけ合い―

 

 

 

 

 

「グオオオオォォォォ!!!」

 

 

「ブオオオオォォォォ!!!」

 

 

 

 

 

―咆哮し、暴力が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブオオオオ!!」

 

 

鏖魔が猛り、滅尽龍に向かって突進する。これ以上ない単純な攻撃だが、その単純な攻撃によって、これまで数え切れない程の生物が犠牲になって来たのだ。その攻撃力は古龍にも引けを取らないものだ。だが―

 

 

 

 

 

「グオオオオ!!」

 

 

 

 

 

―滅尽龍は鏖魔の突進を受け止めて見せた。そして―

 

 

 

 

 

「グオオ…!ゴアァァァァン!!」

 

 

「ブオオ!?」

 

 

 

 

 

―鏖魔を地面に叩きつけ、そのまま投げ飛ばして見せた。

 

 

これが滅尽龍の特徴の一つだ。滅尽龍は古龍の中では珍しく、超自然的な力を操る訳ではない。その分、他の古龍を上回る程のパワーを持っている。そのパワーは鋼龍や炎王龍の突進を真正面から受け止められる程なのだ。二つ名持ち筆頭の鏖魔とはいえ、その突進を滅尽龍が受け止められない道理はない。

 

 

「グオオ!!」

 

 

そして滅尽龍は投げ飛ばされている鏖魔に対して飛び掛かり、追撃を仕掛ける。その距離はとても反撃が間に合うものではない。構えている間に攻撃を食らってしまう。と思われたが―

 

 

 

 

 

「ブオオオオォォォォ!!!」

 

 

 

 

 

―鏖魔が起き上がると同時に、凄まじい声量の咆哮をあげる。

 

 

「グオオン!?」

 

 

その声量には、普段爆音を聞いても何も反応しない滅尽龍も、思わず怯んで墜落してしまう。

 

 

それを見ると鏖魔は突然身体を低くし―

 

 

 

 

 

「ブオオオオ!!」

 

 

「グオオオオン!?」

 

 

 

 

 

―滅尽龍が体勢を整える前に、凄まじい勢いで突進し、滅尽龍の棘をものともせずへし折り、撥ね飛ばした。

 

 

これは決して苦し紛れに放った咆哮が偶然良い結果を引き起こした訳ではなく、鏖魔自身が自身の咆哮によって多くの生物が動きを止めてしまう事を知っているからだ。

 

 

「ブオオン!」

 

 

そして滅尽龍を轢き飛ばした鏖魔は、そのまま直進し、勢いを維持したまま飛び上がり、回転しながら地面に潜る。

 

 

「グオオ…!」

 

 

鏖魔が地面に潜ると同時に、滅尽龍が起き上がる。そして滅尽龍は周囲に鏖魔がいない事を確認すると、最初と同じように、鏖魔が地面に潜っているのだと察する。そう思った瞬間―

 

 

 

 

 

「ブオオ!!」

 

 

 

 

 

―鏖魔が地面から飛び出し、鏖魔に向かって突進して来た。だが―

 

 

 

 

 

「グオオオオ!!」

 

 

 

 

 

―それを予想していた滅尽龍は突進を躱し、背中を身体の前に突き出し、人間で言うところのタックルを仕掛ける。しかも滅尽龍は背中にも棘が生えている為、殺傷力は更に増している。勢い良く飛び出した鏖魔は食らうしかないと思われたが―

 

 

 

 

 

「ブオオオオン!!」

 

 

 

 

 

―鏖魔は地面に着地すると同時にブレーキを掛けると、Uターンし滅尽龍の方に向き直り、真正面から突進を仕掛ける。

 

 

「グオオオオン…!」

 

 

「ブオオオオン…!」

 

 

そして双方の攻撃は激突し、拮抗状態に陥る。鏖魔には滅尽龍の棘がいくつか突き刺さり、滅尽龍には鏖魔の突進により棘がへし折れている。このまま鍔迫り合いが続くかと思われたが―

 

 

 

 

 

「グオオオオ!!」

 

 

「ブオオオオ!?」

 

 

 

 

 

―滅尽龍が鏖魔を押し切り、吹き飛ばした。鏖魔は悲鳴を上げながら地面を転がる。体勢を立て直して滅尽龍の方を見ると、最初に折った筈の棘が再生していることに気づく。

 

 

そう、これが滅尽龍の古龍としての特殊能力、凄まじい自己再生能力だ。古龍は元々生命力の高い生物だが、滅尽龍は古龍の中でも再生力がずば抜けて高い。あくまで傷や折れた棘が再生するだけであり、失った体力が戻る訳では無いが、戦闘終了まで傷の影響を受けないというのは、凄まじいアドバンテージだ。

 

 

「ブオオオオ!」

 

 

だが、鏖魔は滅尽龍の能力を目の当たりにしても戦意を折らない。絶対に逃しはしない。その意志を固め、滅尽龍に向かって威嚇する。

 

 

「グオオオオ!」

 

 

滅尽龍もその意志を感じ取り、確実に仕留める意志を更に強固にし、鏖魔に向かって襲い掛かる。

 

 

「グオオオオ!」

 

 

滅尽龍はその場で飛び上がると、前足を地面に叩きつけ、更に押し込む、すると―

 

 

 

 

 

「ブオオオオ!?」

 

 

 

 

 

―滅尽龍の棘が鏖魔に向かって凄まじい勢いで散弾のように飛んできた。鏖魔はそれを躱すことが出来ず、棘が身体に突き刺さってしまう。その棘は最初よりも更に黒く、鋭くなっていた。

 

 

そう、滅尽龍の棘は再生する際、再生する前よりも更に鋭く、硬くなるように再生するのだ。再生したての時はまだ白く、柔らかいが、その内に折らないと黒く硬化してしまう。

 

 

「ブオオオオ!」

 

 

「グオオオオ!?」

 

 

それでもなお鏖魔は滅尽龍に向かって行く。滅尽龍は棘を飛ばしてその場で硬直していた為、鏖魔の突進を躱すことが出来ずに食らってしまう。

 

 

「グオオオオォォォォ!!!」

 

 

その攻撃は、滅尽龍を本気にさせるものだった。翼を広げ、鏖魔に向かって吼える。そして古をも捩じ伏せる暴力を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは終始滅尽龍が有利に立った。鏖魔も地面に潜ることが出来る有利を活かし、何度か滅尽龍に有効打を与えたものの…再生能力で傷を気にせず戦える滅尽龍との差が目に見えて広がり始め、鏖魔が劣勢に追い込まれつつあった。

 

 

「ブオ…、オオ…!」

 

 

鏖魔の身体は傷付いていない箇所を探す方が難しく、息も絶え絶えだった。その身体は僅かに赤い模様が浮き出ている。その姿の鏖魔を追い詰めることが出来るのは、世界広しと言えども何種もいないだろう。

 

 

「グオオオ!」

 

 

その数少ない数種の内の一匹が滅尽龍だった。傷の痛みや疲労で喘ぐ鏖魔に一切容赦せずに攻撃を叩き込む。滅尽龍の身体の棘のほとんどが黒く硬化していた。

 

 

「グオオオオ!!」

 

 

「ブ…、オオ…!」

 

 

その硬化した棘から繰り出される攻撃は脅威の一言だ。それを食らった鏖魔は思う。このままでは自分もただでは済まないかもしれないと。

 

 

「グオオオオ!!」

 

 

それと同時に滅尽龍が攻撃を繰り出し―それが鏖魔の怒りの臨界点を越えさせる最後の一押しになった。

 

 

 

 

 

ブチィ!!

 

 

「ギィエオオオォォォ!!!」

 

 

 

 

 

血管が切れるような音が響くと同時に、怒りという感情を極限まで凝縮したような咆哮が荒野地帯どころか、導きの地全体に響き渡った。

 

 

そして鏖魔の見た目も大きく変わっていた。薄かった赤の模様が全身に濃く迸っており、身体全体からは蒸気が上がっている。

 

 

「ブオオオオ!!」

 

 

鏖魔が吼え、滅尽龍に向かって突進する。その速度は本当に弱っていたのか疑わしい程に速い。だが滅尽龍に捉えられない速度ではない。今度も強引に止めてやると思い、前足を振り上げ―

 

 

 

 

 

「グオオオオ!!」

 

 

 

 

 

―鏖魔に向かって振り下ろす。その一撃は仮に地面に直撃していれば、地面を軽く砕き割る程の威力だ。この一撃の前には突進も止めざるを得ない―

 

 

 

 

 

「ギィオオオオ!!」

 

 

「グオオオオ!?」

 

 

 

 

 

―と思われたが、鏖魔は滅尽龍の掌打を食らい、背中の甲殻が砕け血を流しながらも、突進を止めることなく、むしろ更に勢いをつけて滅尽龍を撥ね飛ばした。その一撃は今まで砕けることの無かった滅尽龍の黒く硬化した棘をへし折って見せた。

 

 

それ程の威力には流石の滅尽龍も怯んでしまう。そして滅尽龍が起き上がると鏖魔がまた消えていることに気づいた。だがここまで来れば一瞬で分かる。鏖魔は地面からの奇襲を行うつもりだと。滅尽龍はそう思い、感覚を研ぎ澄まして鏖魔が飛び出して来るのを待ち構える。そして―

 

 

 

 

 

ズス…ズスズ…!

 

 

「!」

 

 

 

 

 

―地面からの震動を感じ取り、滅尽龍がいつでも動けるよう構える。すると―

 

 

 

 

 

バゴ…!ズズン…!!

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

―地面から蒸気が吹き出し、それに伴って地割れが起こる。滅尽龍がその現象に驚いていると―

 

 

 

 

 

「ギィオオオオォォォォ!!」

 

 

「ゴアアアアァァァァ!?」

 

 

 

 

 

凄まじい水蒸気爆発が地面を吹き飛ばすと同時に、鏖魔が滅尽龍を角で貫き、撥ね飛ばした。

 

 

鏖魔は確実に滅尽龍にダメージを与える為に、水蒸気爆発と自身の身体を活かして同時に奇襲を行ったのだ。そして鏖魔にとっては運の良いことに、水蒸気爆発によって滅尽龍の身体が吹き飛ばされた為、身体の下が無防備になったのだ。滅尽龍の体表は棘に覆われている為、皮膚に傷を付けるのは難しいが、身体の下は棘に覆われていない為、ある程度の攻撃力があれば傷を付けることも出来るのだ。

 

 

「グオ…!アアア…!」

 

 

この戦いが始まって、滅尽龍が簡単に回復出来ないような傷を負ったのは初めてだった。身体の下から血を流しながら、それでも鏖魔に向き合う。先程折られた棘は既に生え変わり、治癒が完了していた。

 

 

「グオオ!!」

 

 

滅尽龍が吼え、空中に飛び上がる。この状態の鏖魔は危険だが、それでも滅尽龍のように傷が治る訳ではない。異様なまで体温が上がっているのか、体表に付いていた血は消えているが、痛々しい傷痕は残っている。幸いにも今の滅尽龍の身体の棘は全て黒く硬化している。この状態の一撃なら、最低でも戦闘不能まで追い込むことは出来る筈だ。

 

 

「ブオオ…!」

 

 

鏖魔も長期戦は不利と見たか、身体を低くし、全身から蒸気を上げながら力を貯める。

 

 

滅尽龍はその一撃の凄まじさを身体で感じ取り、それでもなお勝つのは自分だと信じて疑わない。鏖魔もまた、自身の体力を犠牲にしたこの一撃に全てを賭ける。そして―

 

 

 

 

 

「グオオオオォォォォ!!!」

 

 

「ブオオオオォォォォ!!!」

 

 

 

 

 

―殺意を凝縮した一撃が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グ…、オオ…!」

 

 

滅尽龍は鏖魔の角のなぎ払いと水蒸気爆発によって、全身の棘と、翼に大きく抉れたような傷痕が出来ていた。消耗した体力の影響もあるのか、傷の治りも遅い。そして鏖魔の方を見ると―

 

 

 

 

 

「オオ……!」

 

 

 

 

 

身体の赤い模様は消え、全身に滅尽龍の棘が突き刺さっていたが、ギリギリ生きている状態だった。滅尽龍よりもダメージが大きいように見えた。

 

 

「グオオ…!」

 

 

滅尽龍は鏖魔に止めを刺そうと動く。ここまでの強者なら養分も多く持っている筈だ。抑えつけてやろうとしたその時―

 

 

 

 

 

「グオオオオォォォォ!!!」

 

 

「「!?」」

 

 

 

 

 

―岩壁を破壊し、モンスターが現れた。その身体は砕竜や斬竜と同じような骨格で、甲殻ではなく不吉な深緑色の鱗に全身を覆われ、頭部から胴体にかけて鱗が裂け、凄まじい筋肉が見えており、鋭い牙が多く見える口からは涎が止めどなく垂れている。

 

 

その竜は瘴気地帯の主である獣竜であり、あらゆるモンスターを喰らうイカれた奴だった。あらゆる生物が捕食対象という点は滅尽龍と同じだが、この獣竜は喰う量が馬鹿にならない。今までは下手に動こうとすると、他の地帯の主が横槍を入れて来た為、動くことが出来なかった。特に滅尽龍は獲物取り合う仲だったこともあり、互いに苛立ちを向けている相手だった。

 

 

だが、今回は余所者によって滅尽龍が追い詰められ、その余所者も滅尽龍にかなりの手傷を負わされている為、獣竜にとっては正に鴨葱となった訳だ。普段ならばともかく、ここまで傷を負った滅尽龍など大したことは無い。他の地帯の主が横槍を入れて来るかもしれないが、例えこの二匹を殺した後でも、十分体力は残っているだろう。問題にはならない。さっさと喰えば良い話だ。

 

 

そして獣竜は鏖魔に視線を向ける。

 

 

「ブオオ…!」

 

 

「グオオオオ!!」

 

 

獣竜が涎を撒き散らしながら吼え、鏖魔に向かって進撃する。鏖魔も何とか相手をしようとするが…

 

 

「グオオオオ!!」

 

 

「ブオオ…!?」

 

 

既に体力を使いきったも同然の状態である鏖魔では、獣竜のパワーには敵わなかった。獣竜が口を開き、鏖魔に噛み付こうとしたその時―

 

 

 

 

 

「グオオオオ!!」

 

 

「ガアア!?」

 

 

 

 

 

―滅尽龍が獣竜の身体を殴り飛ばした。

 

 

「ブオオ…?」

 

 

「………」

 

 

鏖魔が滅尽龍に問い掛けるような視線を向けるが、滅尽龍は何も言わない。だが、滅尽龍からしても、ここで鏖魔に倒れられると困るのだ。例えここで鏖魔を囮にして逃げても、獣竜は滅尽龍の匂いを覚えている。おそらく逃げ切ることは出来ない。そして戦闘になれば今の滅尽龍が不利であること位分かっている。ならば擬似的に鏖魔と連携した方が逃げられる可能性が高い。

 

 

「グオオオオ!」

 

 

「ブオオ!」

 

 

冷静になった鏖魔も、滅尽龍と同じ考えに至ったのだろう。怒れる獣竜に対して滅尽龍と共に並び立ち威嚇している。そして―

 

 

 

 

 

「グオオオオォォォォ!!!」

 

 

「ブオオオオォォォォ!!!」

 

 

「グオオオオォォォォン!!!」

 

 

 

 

 

―強者ひしめく地で、暴力の宴が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、導きの地で確認されていた角竜の二つ名個体である鏖魔と、荒野地帯の主である滅尽龍が激突し、両者共に疲弊したところを瘴気地帯の主である恐暴竜の特殊個体が襲撃。疲弊した鏖魔と滅尽龍は一時的に結託し、連携して恐暴竜を迎撃したことが報告された。戦いが場所を移しながら行っていた為、結末までは分からないが、傷だらけでかなり気が立っている恐暴竜が確認された為、鏖魔と滅尽龍は生きている可能性が考慮されている。余談だが、気が立っている恐暴竜が暴れ、各地帯の主との小競り合いが起こった為、導きの地が数日間、不安定な状態になっていた。




はい、また脳筋達がぶつかる話でした。

鏖魔の身体能力は素の状態だとネギちゃんに僅かに劣り、暴走状態だと互角、狂暴走状態だと鏖魔の方が勝る位に考えてます。ただ、ネギちゃんには再生能力があるので、総合的にはネギちゃんの方が上だと思います。

最後に出てきたモンスターは…話の主役では無いので名前は出しませんでした。え?後日談で分かったって?大々的に紹介はしてないからセーフ。

次回はいよいよメインモンスターの争いはラスト!

お楽しみに!

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