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鬱蒼とした森に、色鮮やかな滝、人の住んだ形跡も見られるその場所の名は渓流。その渓流の端、淡水の川とススキが広がり、美しい月の見える趣を感じる場所に、一匹の狩人が座していた。しかしその見た目は明らかに人間ではない。
透き通るような蒼と緑の混じった甲殻、特別大きい訳ではないが重厚感を感じる尻尾から二対の角までは迸る雷を思わせる金色の甲殻が覆っており、四足の足を地につけ、後ろ足から前の身体はとても大きく、特に前足はその者の力強さを感じさせる大きさと強者であることが嫌でも伝わる巨大な爪が生えていた。そう、この者こそ竜でありながら“無双の狩人”の異名を冠し、雷を纏う孤高の竜。
彼の竜は今川の側で座り込み、月を眺めていた。―人でない竜であっても風景を楽しむ心があるのか―と思う者もいるかもしれないが、竜であっても実際は人と同じ、この世界で生を受けた生き物だ。彼らは日々生きる為必死ではあるが…だからと言ってただ食って寝て起きてを繰り返すだけの機械ではないのだ。怒ることだってあるし、子を慈しむ心もある。それならば…綺麗な風景に心惹かれることもある。それを見て何を思うのかは、彼のみが知るところではあるが。
パキッ
ふと、乾いた木が折れる音が響いた。それを聞いた雷狼竜は月を眺めるのを止め、音が聞こえた森の方へ向き直る。普通の人ならば、考え過ぎだと言って笑い飛ばす者もいるだろうが、一部の人間と、もし大自然に生きる生物達がもし言葉を話せるなら、その者を叱りつけるだろう。
何せ、何が起こるのか分からないのだ。自然界には人間の作ったルールなんて存在しないし、もし作ったとしても、守る者なんぞいないだろう。強いてルールを挙げるとしたら“弱肉強食”これだけだろう。強いものが生き、弱いものが死ぬ。それが自然界のルールだ。だからこそ、草食竜等の弱い生き物は強い生き物の餌にされないよう、工夫を凝らして生きて行くのだ。
そしてその括りで言えば、雷狼竜は間違いなく強者だ。雷狼竜は自分より弱い生物に手は出さない。別に弱い生物が可哀想とかそういう情から来るものではなく、弱い生物を理由も無く狩るのは面倒だし、何より自分の強さが惨めなものになるからだ。この場所に来た時には縄張りを主張する為にも仕方なく狩ったが、それ以降、雷狼竜は食事を除いて理由もなく他の生物を狩らなかった。雷狼竜は自分の強さに誇りを持っている。そして実際、雷狼竜にはそれを突き通しても問題ない程の実力があった。
だが、それは敵がいない事とイコールにはならない。雷狼竜が強者と言うことは平均を見ればの話だ。この雷狼竜は自分と戦える程の強者と会ったことがある。特に印象に残っているのは、美しいヒレを持ち、泡沫を纏った竜だ。奴との戦いでは自身の負った傷こそ少なかったが、自身の苛烈な連続攻撃をのらりくらりと躱され、遂には殆どダメージを与えられず、逃げられてしまった。そして限りなく少ないが、自身を歯牙にもかけない程の強者もまた存在する。それは自分の住み処を奪った嵐の化身とも思えた龍だ。常に天を舞い、こちらの攻撃は全く届かず、龍の起こす嵐の前には全く歯が立たなかった。強者は自分だけではない。その意識が今の雷狼竜を作ったのだ。
ガサ…、ガササ
「グルルル…!」
少しずつではあるが、葉の擦れる音が近付いて来ている。雷狼竜はその音に向かって低い声で唸る。これはある意味確認だ。偶々迷い込んでしまった弱い生物なら、これだけで差を感じ取って引き返すだろう、だがそうでなければ…と雷狼竜が考えた次の瞬間。
ビュンッ!
黒い影が凄まじいスピードで何かを振り下ろしながら急襲してきた。並の生物では何をされたのかすら分からず首を落とされるだろう。だが―
「ワオオン!」
―並の生物ではない雷狼竜はその急襲を身を翻して回避することが出来た。そして即座に黒い影に対面するように向き合いその姿を見た。
黒い体毛にしなやかな身体の半分以上を占める長い尻尾、雷狼竜とはまた違った地面に伏せるようにして構える体勢―この世界ではワイバーン骨格と呼ばれる身体だ―後ろ足は雷狼竜と大差ない形だが、目を惹くのは前足だ。翼膜が折り畳まれているであろうその翼は左右の外側両端が、鋭いブレードのようになっているのだ。間違いなくあれで攻撃されれば雷狼竜であってもただでは済まないだろう。そして黒い影がこちらを向く。顔つきは物をよく盗む黒い人獣―分かりやすく言えば黒猫のように見えるが、その視線は可愛らしい動物のものではない。獲物の逃がさないという意志を感じる強者の目だ。その姿と狩り方から“暗殺者”と呼ぶ者もいるその竜の名は―
「ガルルルルル…!」
「グルルルルル…!」
双方、対峙し唸り合う。雷狼竜は迅竜と遭遇するのは初めてだったし、それは迅竜も同じだった。どちらも戦法を知らない中で分かっているのは―
―相手が一筋縄ではいかない強者だと言うこと。
雷狼竜からしてみれば、久しく現れなかった自分の脅威となり得る相手であり、放置しておくと縄張りに被害を出すだろう。野放しには出来ない相手だ。そして迅竜としても、雷狼竜は新天地においての縄張りの競合相手であり、恐らくここら一帯を最も広く縄張りとしている相手だろう。つまり、雷狼竜を倒せば、その縄張りが丸ごと手に入る。手強いことは分かっているし、手傷を負う可能性も高いだろうが、それを考慮しても旨味のある相手だ。最初に手傷を負わせられなかったのは痛いが、まだやりようはある。そうして迅竜は戦闘体勢を取り、雷狼竜も雷光虫を集め―
「ルガアアアアアアアアア!!!」
「ウワオオオオオオオオン!!!」
―戦意を込めた咆哮が、渓流に響き渡った。
「ウォン!!」
先に動いたのは雷狼竜だ。最初の急襲から迅竜の強みが速さであることぐらい分かっていた。そしてあの速さで矢継ぎ早に攻撃を繰り出されては、不利になるのはこちらだ。だからこそ先手を取り、こちらのペースに引き込む、そう考えた雷狼竜は自らの手に雷を纏わせ、素早く迅竜に叩き込もうとする。
一部の人間からはお手と呼ばれるものだが、(一部の例外を除いて)食らえばただでは済まない。特に迅竜の体毛は甲殻と違い、衝撃を受け止めることには向いていない。そして雷狼竜のスピードはその巨体に見合わない、素早いものだった。成す術なく食らってしまうかと思われた迅竜だったが―
「ガアア!!」
それを易々と許す迅竜ではない。その巨体からは考えられないような、それこそ雷狼竜を上回る程のスピードで、雷狼竜の側面へ回るように跳躍し、回避すると同時に前足を振り抜き、刃翼で切り裂こうとするが―
「ワオオオオン!!!」
「ガアアアアア!!?」
なんと雷狼竜が即座に反転し、迅竜の刃翼に雷を纏った掌打を叩き込んだのだ。電撃に弱い迅竜の身体にはダメージとなるが―
「ガウン!!!」
「ギャウウウン!!?」
迅竜もただでは転ばないと言わんばかりに尻尾を振り抜き、雷狼竜を吹き飛ばす。怯んだとは言え自身の今の状態の全力を食らって即座に反撃出来るのかと疑問に思った雷狼竜は迅竜を見て納得した。
迅竜の刃翼には確かに掌打の跡こそ残っていたが、刃翼そのものの機能はまだ生きているように見えた。実際、攻撃を叩き込んだ時は、相当固い手応えが返ってきたのを感じた。
「ガア!!!」
迅竜はまだまだやる気のようで、尻尾を回したと思うと同時に棘を飛ばしてきた。急だったとはいえ、避けられない速度ではない、雷狼竜が身を翻して回避すると―
「ガアア!!」
「ギャウン!?」
背後へ回り込み、また棘を飛ばしてきた。流石の雷狼竜もその棘を食らってしまう。そして迅竜がその隙を逃すはずもない。
「ガアアア!!」
「ギャウン!」
迅竜の尻尾叩き付けを胴体に食らってしまう。今のは相当な痛手だ。そしてまたその機動力で雷狼竜の周囲を回り、牽制する。―今度は棘を消極的に飛ばし、こちらが飛び掛かれるかどうかのギリギリの距離を保ち、中々仕掛けてこない、用心深い性格のようだ。最初に自身の急襲を避けた事と、先程の一撃が聞いているのだろう。
そして雷狼竜は自身の状況を冷静に考えた。力はこちらが上回っているが、機動力はあちらが上、恐らくこちらが何もしなければ、このまま嬲り殺しにするつもりだろう。或いは無理に攻めたところにカウンターを刺すつもりだろう。
普通に考えれば、無茶な攻撃で一か八かを狙うだろう。だが、雷狼竜にはこの状況を引っくり返せる力があった。―小さな協力者達を少し刺激することで。
迅竜は雷狼竜の周囲を跳び回りながら考える。上手く行っていると。雷狼竜の方は警戒しながら棘を避けているが、いつまでも回避し続けられる訳がない。いずれ疲弊する。少し用心し過ぎかと思われるかも知れないが、相手は自分以上の力の持ち主であり、自分には劣るとはいえ、素早さもあるし、勘も良い、おまけに自分の苦手な雷の力を少しとはいえ扱える。それだけで自分が警戒するには十分に値するのだ。力で敵わない相手には、無茶に張り合わず、自分の得意分野で勝負する。
―これは故郷の密林にいた時、普段殆ど寝てばかりの棘の竜を相手にした時に得た教訓だ。あの時は本当に死ぬかと思った。終始相手の突進と毒々しい火球に怯えながら、時折隙を見て刃翼で切り掛かりを繰り返したが、棘の竜の猛攻を遂に止めきれず、大きな痛手を負い、退散する羽目になったのだ。傷こそもう治ったが、今でも時折疼くのだ。
だからこそ、その教訓から迅竜は慢心しない。己の有利な点で徹底的に勝負する。
「キャウウン…!」
「!」
遂に体力の底が見えたのか、雷狼竜がふらつく。迅竜は己の勝ちが近いところにあるのを確信し、しかし用心は欠かさず、後、二、三回棘を飛ばしそれが避けられないようなら刃翼で勝負を終わらせることを決める。―その時だ
―雷狼竜が顔を俯け、身体を少し低くする。
何事だと迅竜が疑問に思った次の瞬間―
「ワオオオオオオオオン!!!」
―雷狼竜の身体から電気が迸り、全身の甲殻が展開したのだ。
その圧倒的な変化を予想していなかった迅竜は、思わず動きを止めてしまう。そして―
―その隙を今の雷狼竜は見逃さなかった。
「ガウウ!!!」
「ガアア!!?」
雷を纏った突進を迅竜は食らってしまう。その一撃はパワーもスピードも最初の一撃の比ではなかった。
「ガウウ!!!」
威嚇する雷狼竜を見て、迅竜はもう一度気を引き締める。最早この相手は、余力を気にして戦える相手ではないと。全身全霊で打ち倒さなければならない相手だと。退く気はなかった。ここまで来てまた一から住み処を探すのなんて御免だし、何よりー
―ここまでされて何の返しもなしに退く気にはなれなかった。
そして迅竜は雷狼竜の死角に回り込む。
雷狼竜は見た。
迅竜の駆けた軌跡が
二つの赤い残光として残しているのを。
「ルガアアアアアアアア!!!」
「ウワオオオオオオオン!!!」
そして二匹は吼える。絶対に終わらせるという意志と、互いを本気で認めたことの敬意の表れの意味も込めて。
迅竜も雷狼竜も構える、最早この後のことなど考えていなかった。迅竜は先程の雷狼竜からの一撃がかなり効いているし、雷狼竜はスタミナはともかく、帯電状態になり甲殻が開いたことで、棘の刺さった場所からの出血がまずい。だからこそ、互いに次の一撃で終わらせるつもりでいた。
「グルルル…!!」
「ガウウウ…!!」
雷狼竜はありったけの電力を己の掌に集中させ、迅竜は尻尾の尾棘を展開し、力を貯める。
そして―
「ルガアアアアアアア!!!」
「ウワオオオオオオン!!!」
―二匹の全力が激突した。
地面に伸びる影の内、一つが起き上がる。
その影は迅竜のものだった。が、その身体の状態は酷いものだった。尻尾は雷狼竜の電力が集中している背中に叩き込んだ為、焼け焦げたようにボロボロだ。
雷狼竜の電気を纏った掌打を食らったと見える左足の付け根の上の辺りは大きな爪痕がついており、身体の肉が抉られているのが見える痛々しい状態だ。が、それでも軽く済んだ方だ。迅竜は尻尾を叩き付ける瞬間、身体を捻り、雷狼竜の掌打が直撃する位置から僅かに逸らしたのだ。
何とか起き上がり、顔を上げると、その先には―
「………」
「!」
―ボロボロの雷狼竜が立っていた。
迅竜はボロボロの身体に鞭を打ち、何とか構える。…が、雷狼竜は構えなかった。よく見ると雷狼竜の角はひしゃげ、背中には幾つかの迅竜の棘が刺さり、他にも胴体など身体の各部位から血を流している。迅竜と同等以上に雷狼竜も限界だった。
だとしても、迅竜は解せなかった。位置が若干移動していることから見ても、自身より早く雷狼竜が起き上がったのは確実だ。いくら限界と言っても、自身の首を噛み千切れるだけの余力はあるはずだ。ならばなぜ…、そう思った時―
「グ…、…オオ…」
―雷狼竜が倒れた。
「!」
迅竜は驚きながらも雷狼竜に近付き、雷狼竜の顔を覗き込む。生きてはいるが…間違いなく抵抗する気がない。迅竜は迷う、まず間違いなく殺しておいた方が良い。自由に出来る縄張りも多いし、餌に困る可能性も低くなる。生かすことで恩を売り、敵対させなくするという手もあるが…
「……」
その恩を返しに来る可能性は限りなく低い。子を育てる為ならばともかく、他の生物に情けをかけるなど何の得もありはしない。ましてや、相手は自分と対等以上に戦える相手だ。殺して得る得はあっても。生かして得することは殆どないし、その殆どに含まれる僅かな得も、相手の気分でデメリットになり得るものだ。様々な考えが浮かんでは消える。そうした末に迅竜の選んだ答えは―
―雷狼竜の目の前に草食種の死体が投げ出される。
「…!」
雷狼竜が起き上がり、投げ出された方を見つめる。その先には傷だらけの迅竜が立ち去るところだった。その背が何を考えているかは、雷狼竜には分からなかったが…悪い気分ではなかった。そしてそれは迅竜も同じ。
本来どちらかが死ぬ筈の生存競争の中で、不思議な関係が生まれた瞬間だった。そしてその関係は、きっとこれからも続いていくだろう。
筆が乗って多くなってしまった…
二話目にして賛否ありそうな話になってしまいましたが、こういう関係もありかなぁと思ったので。某海賊漫画を読んだ人にとっては既視感があると思います。
オウガさんの超帯電状態での本格戦闘はまた別の機会にお楽しみにして下さい(懇願)ぶっちゃけそこまで描くとマジで長くなりそうだったので…(小声)
最後のナルガさんの心境と、ナルガさんが起きるまで待ち、倒れるまでのオウガさんの心境は各自でご自由に想像して下さい。
評価、感想もよろしければお願いします!
それでは次回もお楽しみください!
メインモンスター+αでコイツが好き
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リオレウス
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イャンガルルガ
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クシャルダオラ
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