それではお楽しみください。
“渡りの凍て地”
新大陸から海を跨いだ先に最初に訪れるであろう場所。その名の通り寒冷地として厳しい気候に見舞われているこの地は幻の古龍である冰龍の縄張りだったが、少し前に出て行ったきり戻って来ていない為、実質的な主はいなかったが―今は状況が変わっていた。
「ゴルル…」
白銀の世界の中で黒い生物が蠢いていた。その体躯はさほど大きくなく、十メートルもない。翼も持たず、力強い前足と引き締まった後ろ足で凍て地を闊歩していた。頭部からは凶暴性を感じさせる二つの赤い瞳と一対の立派な角が垣間見えていた。
その姿は世界で一番最初に発見された古龍に匹敵する生物―“金獅子・ラージャン”だった。冰龍が出て行った少し後にふらりと現れ、あっという間に凍て地の生態系の頂点まで上り詰めたのだ。新大陸の中でも強者が多い凍て地においても、金獅子は基本的に敵無しだった。以前の主である冰龍であれば金獅子にとっての障害と成り得たかもしれないが、生憎今は留守の為に金獅子の敵はいなかった。
「グオオ…」
その当の金獅子は崖際の海が見える場所に腰を下ろし、景色を眺めて非常にリラックスしていた。縄張り意識の高さで恐れられている金獅子だが、何も考え無しの脳筋という訳ではない。あまりにも実力が離れていれば逃げるだけの判断力もあるし、その地で自身に挑み掛かる者がいないと分かれば過剰に警戒することもなくなる。故に自身に歯向かう者がいない今、金獅子がリラックスするのも当然のことだった。
だがその時―
パキィ…!
「ッ!!」
―氷を踏み砕くような音が響き、金獅子は即座に振り返って周囲を警戒するが、そこには何もいない―否、よく見ると小さな霜柱が立っていた。少しの違和感を金獅子が抱いた瞬間―
「━━ッ!?」
ビシィ…!!
―悪寒を感じた金獅子がその場から飛び退き、その直後に巨大な氷柱が出来上がる。流石にこれは何者かの仕業だと金獅子が周囲を見回すと―
「………」
―少し離れた場所に一匹のモンスターが佇んでいた。そのモンスターは黒い体毛と体色、紫色のたてがみと立派な角を携えている。金獅子よりも小さな体躯だが、発する威圧感は金獅子に勝るとも劣らない。そのモンスターはある意味で金獅子と非常に深い関係を持つモンスター―
そう、世にも珍しい幻獣の更に希少な亜種だった。幻獣は身体の周りに霜を舞い散らせ、赤い瞳で真っ直ぐに金獅子を見据えていた。先程の攻撃から見ても、金獅子と戦り合うつもりなのは間違いないだろう。
そして、金獅子と幻獣が戦うことには大きな意味がある。金獅子は成体になる際に幻獣の角を喰らい、体内の気光エネルギーを発生させる器官を活性化させることで成体に成れる。つまり古龍たる幻獣に勝つ事で始めて一人前という、とんでもない生態をしているのだ。その儀式をこなせず死んでしまう個体もいるが、勝つ事が出来れば立派な古龍に匹敵する戦闘力の証明となる。
この金獅子の生態と、確認された縄張り争いで金獅子に抗戦虚しく敗れてしまうが故に、幻獣は古龍の中だと格下だと馬鹿にする輩もしばしばいる。だが、幻獣が金獅子に劣勢を強いられるのは、小柄故に金獅子のパワーに抗えないこと、得意の雷撃が成体の金獅子に対しては効果が薄いという相性の悪さが大きい。能力の規模や小柄故の機動力などは、他の古龍と比較しても決して侮れるものではない。
そして幻獣の亜種は金獅子の弱点である冷気を操る―つまり幻獣に対して優位を取れていた最大の要因、“能力に対する耐性”が失われ、多少の手傷を覚悟した特攻が出来ない事となり、逆に大きなダメージを受けるリスクを伴うことになった。少なくとも原種のように、“勝って当然の相手”と見なすことは出来ないだろう。
「ヴォオオオオォォォォン!!!」
だが、金獅子としても戦り合うことを忌避する理由もない以上、即座に咆哮を轟かせて開戦の合図とする。相性が悪い相手でも恐れず、威嚇も挟まず敵対していると見るや否や攻撃するのは金獅子らしいと言えるだろう。
「ヒヒィン!!」
ズドドドッ!!
「!」
だが幻獣も襲い掛かって来た金獅子に驚くことなく嘶き、氷柱を発生させることで金獅子の接近を制する。これが雷撃であれば耐性がある為強引に突貫出来るのだが、弱点である冷気にそのような真似は出来ない以上、慎重に立ち回る必要があった。
「ヴォオオ!!」
そこで金獅子は一旦幻獣から距離を取って地面に手を突っ込むと、巨大な岩盤を掘り起こし、幻獣に投げ付けた。これには幻獣も回避する必要があるかと思われたが―
「ヒヒィン!!」
パキィン…!
―何と幻獣は一鳴きするだけで岩盤をを凍り付かせてしまった。そして同時に自身の周囲に生み出していた氷柱で岩盤を砕こうとする―
「ヴォアアアア!!」
「!?」
―前に、金獅子が岩盤を砕いて突貫してきた。金獅子としては、岩盤を砕こうが回避しようがどちらでも良かった。回避したようならその隙を狙って殴り込んで行くつもりだった。故に―この拳は当たる。
「…ッ!!」
「ヴォオオ!?」
確かに拳は当たったが、それと同時に幻獣も周囲の氷柱を射出し、金獅子にダメージを与えた。原種の雷撃ならば大したダメージにはならなかったが、弱点である冷気による攻撃では軽傷では済まなかった。
「ヒィィン!!」
「!?」
更に幻獣は即座に体勢を立て直すと、今度は氷塊を生み出すと、金獅子に向かって射出する。金獅子は驚きながらも地を駆けて氷塊を回避する。
「ヒヒィン!」
バギィ!!
「!!」
だが突然、駆ける金獅子の前に氷の壁が出現した。前門は壁によって阻まれ、後方からは氷塊が迫っている。状況はほとんど詰み―
「ヴォアアッ!!」
「!」
―だが、金獅子にとっては対応可能な攻撃だ。金獅子は壁に向かって跳躍し、一瞬で壁に手を付いて着地することで氷塊を引き付けると―
「ヴォオオッ!!」
「ヒィィン!」
―更に跳躍することで氷塊を壁にぶつけて無力化しつつ、幻獣に向かって襲い掛かった。だが幻獣も素早く移動することで躱すと、またもや氷柱や氷塊を生み出し、金獅子に向かって射出して攻撃する。
「ヴォルル…!」
金獅子は攻撃を躱しつつ、幻獣の動きを捉える。その能力は実に厄介なものだ。冷気によって氷塊、氷柱を生み出すことが出来、地上戦はもちろん、空中戦も対応可能、その上壁を生み出して移動の妨害、制限も可能という、範囲攻撃力、応用力の高い能力であり、そこに幻獣の機動力が加わると金獅子でも捕まえることが困難だ。
原種を安定して倒すことが出来ていたのも、雷撃の中を突貫してゴリ押すことが出来ていた為であり、元より追いかけっこでで幻獣を捕まえるのは金獅子の機動力を以ってしても至難の業だった。
そして中〜遠距離の攻撃手段がブレスぐらいしかない金獅子にとってはこの幻獣は原種からは一転、下手に甘く見ると完封される恐れもある相手だ。そしてこのままではジリ貧になる可能性が高いとなれば―
「ヴォオオオオォォォォ!!!」
「!」
―短期決戦で一気に勝負を着ける。金獅子は地を駆けながら吼え、全身を金色に染める。
「ヴォオオ!」
「!?」
そして地面を蹴り、速度を上げて幻獣に接近する。
「ヒィィン!!」
だが幻獣も簡単には接近させまいと、氷柱や氷塊を更に生み出して金獅子に向かって射出する。
「ヴォアア!!」
金獅子は氷の弾幕を回避、あるいはブレスで相殺しながら幻獣に迫っていく。今までは幻獣の速度に追い付けなかったが、興奮状態に至り、古龍をも上回りかねない程までに身体能力が向上した金獅子ならば、幻獣に追い付くことも出来る。
「ヴォオオ…!」
両腕に気光エネルギーを集中させ、硬さとパワーを更に引き上げる。次の一撃で確実に大ダメージを与える為だ。
「ヒィィン…!!」
幻獣も金獅子の本気を感じ取ったのか、一気に冷気を解放し、巨大な氷塊と氷柱を生み出した。
「ヴォオオッ!!」
金獅子は地面に手を突っ込み、内部で腕から気光エネルギーを流し込むことで地面を炸裂させる。
「ヴォオオ…!」
炸裂した拍子に飛び散った氷を足場に、最も大きい氷塊の場所まで辿り着くと、氷塊に手を突っ込み、腕に気光エネルギーを集中させる。
「ヒヒィン!!」
「ヴォオオアアアア!!」
そして幻獣が一斉に氷柱や氷塊を射出し、金獅子が集中させた気光エネルギーを解放させると同時に氷塊を幻獣に向かって投げ飛ばすと―
ドッゴオオオオォォォォン!!!
―轟音と共に、凄まじい衝撃波が辺りを埋め尽くした。
「ヴォオオ…!」
辺りに氷が散乱している地面の上に、金獅子は傷を作りならも立っていた。あの最大の技を以ってしても全ての弾幕を掻い潜ることは出来ず、いくつかまともに食らってしまった。それでもまだ動くことは出来るし、幻獣にも十分ダメージが与えられただろう。まだ油断は出来ないが、まずは幻獣がどうなったかを確認するべきだろう。そう金獅子が思った瞬間―
「ヒヒィン!!!」
「!?」
―今までとは違う強い怒りを感じさせる嘶きと共に、凄まじい速さで金獅子に向かって突っ込んで来た。金獅子はどうにか突進は躱したものの、その速さと幻獣の怒りによる強化に驚く。何故なら幻獣が通った軌跡を示すようにして、地面が凍り付いていた為だ。
「ヴォオオッ!!」
だが、相手が強くなったからと言って臆して退く金獅子ではない。素早く地を駆けて、幻獣に接近して殴り掛かる―
「ヒィィン!!」
ピシィ…!パキパキ…!
「ヴォオオ!?」
―直前に幻獣が嘶くと、周囲が青白く見える程の冷気を発生させ、金獅子の腕を凍らせてしまった。
「ヴォオオ…ッ!?」
その様子にまずいと感じた金獅子は即座に幻獣から距離を取ろうとするが、足が動かない。おかしいと感じて足元を見ると、足が凍らされ、地面に縫い止められた状態になっていた。
「ヴォオオ―」
金獅子が足に力を入れて脱出しようとするが―もう遅い。
「ヒヒィン!!」
ズドドド!!
「ヴォオ…オオ…!」
幻獣が渾身の力を込めて氷柱を生み出して射出し、金獅子は咄嗟に腕を使って防御するが、流石に全方位からの攻撃は凌ぎ切れず、いくつかの氷柱が身体を貫いた。それでいてもまだ生きているのは流石と言うべきだが、もう足を凍らされた時点で金獅子の命運は決まっていた。
「ヒィィン!!」
「ヴォ――」
バキィン…!!!
幻獣が冷気を放出して嘶くと、一瞬で金獅子の氷像が出来上がった。間違いなく勝負は決した状態だが、幻獣はそこから更に容赦のない攻撃を行った。
「ヒィィン!!」
ズドォォン!!!
幻獣は金獅子の氷像を覆い隠すことが出来る程の氷塊を生み出し、氷像に向かって思い切り叩き付けた。完全に見えない形になった為、金獅子の氷像がどうなったのかは分からないが、良くて瀕死、普通に考えれば命はないだろう。
「ブルルル…!」
見た目の華麗さにそぐわない凄まじい殺意の籠もった攻撃を叩き込んだ幻獣は、ようやく落ち着いたのか、少しの身震いと共に身体に付着した雪を払い落とした。
幻獣は割りと気性が荒いことは分かっているが、それにしてもここまでの攻撃性を見せる個体は中々いない。この幻獣の逸話も一夜にして王国を氷漬けにしたという逸話もある故に、ひょっとしたら原種よりも攻撃性が強いのかもしれない。
「ヒィィン」
ある程度の傷はありながらも、嘶く幻獣の姿はどこか誇らしげにも見えた。あるいは、金獅子が自らの同胞を脅かす敵だということが分かっていたのかもしれない。亜種である為厳密には関係はないものの、幻獣全体の遺伝子に金獅子に対する警戒心や敵意が刻まれていてもおかしくはない。
そう考えると今回の戦いは、幻獣から金獅子に対する下剋上を含めた挑戦状だったのかもしれない。
「ブルルル…」
そして幻獣は、何処へともなく歩き始めた。その軌跡として、霜柱を残しながら。
全体の流れは良かったけど、また5000字行かなかった…
違和感のない流れを上手く出力するのって難しいなぁ…
評価、感想もよろしければお願い致します。
それでは次回をお楽しみに。
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