それではお楽しみください。
“獄泉郷”
あちこちから煙が噴出し、硫黄のような臭いと色も相まってこの世ならざる雰囲気を醸し出している。しかも下で流れている川の色は真っ赤であり、人によってはここを地獄だと言う者もいるかもしれない。
そしてその例えもあながち間違いではない。
この地には何故か異様にモンスターが集まりやすく、その訪れる種も多種多様だ。
火山地帯や氷雪地帯のような極地に住まうモンスターだけでなく、温暖で安定している地に住まうモンスターや、時には古龍までもが訪れる魔境である。
縄張りとしているモンスターは少ないが、単に訪れるだけならばかなりの数のモンスターが訪れる地である。
そして今、この地には一匹の牙獣の縄張りとなっていた。
「ゴルルル…!」
唸りながら歩くその姿は白い体毛に包まれ、まるで外套のようだ。前足は発達しているが金獅子程の長さはなく、身体の位置は低い。
だが最も目を引くのは頭部…というより顔だった。
顔は水色の頭殻に覆われ、黄色の眼光を放つその姿は、モンスターというより鬼のお面のように思えた。
そしてその実力は侮れるものではない。
この付近にある寒冷地である寒冷群島だと生態系の頂点に位置するモンスター―
この雪鬼獣はその寒冷群島で頂点に君臨した後も猛者と戦い続け、それでも尚生き延びて来た歴戦の個体だ。
流石に古龍や古龍級生物が相手となると分は悪いが、裏を返せばそれ程の相手でもない限りは早々に負けることはない。
ここ獄泉郷も侮ることのできない強者が多いが、雪鬼獣はそれら相手に勝利を収めて縄張りを勝ち取ることができたのだ。
それには雪鬼獣の実力は勿論だが、住まうモンスターの中でも頭一つ抜けて強かった焔狐竜がこの地を去ったというのも大きいのだが、強いことに変わりはない。
だが縄張りを持ったからと言って油断はできない。
相変わらずそこそこの強さを持ったモンスターは時折訪れているし、古龍や古龍級生物が訪れない確証はない。
ドスン!!
「!?」
雪鬼獣の後ろに何か大きな物が落ちる音が聞こえた。
驚いた雪鬼獣が後ろを振り返ると、そこには―
「グオオオオ…」
―呑気に尻もちをついて欠伸をしている青熊獣がいた。
青熊獣、と聞くと青い体毛に頑強な甲殻に覆われた前足を持った、どこか愛嬌のある大型モンスターを思い浮かべるだろう。
実際実力としても動きもそこまで速くなく単純であり、しかし油断すれば大きな一撃を食らう為、ハンターとしては最初の壁といった印象が強いだろう。
だが、目の前の青熊獣は明らかに様子が違う。
体躯は通常の青熊獣を上回り、青かった体毛のほとんどが血に染まったような赤色に染まり、瞳も真っ赤に充血したようになっており、どこか感じられた愛嬌が完全に消し飛んでいる。
最早“青”熊獣とは言えない見た目だが、単なる色違いだと思ってはならない。
この青熊獣は龍歴院が確認した、通常の青熊獣とは一線を画する危険度と実力故に特殊な“二つ名”を与えられた存在。
その特徴的な体毛を指して付けられた二つ名は―
二つ名を与えられている以上、その実力は通常の青熊獣の内に収まらず、大型飛竜に匹敵、もしくはそれを上回る程の実力を持っている。
通常種より凶暴性も遥かに高く、熟練のハンターであっても下手をすれば返り討ちに合う。
実際二つ名の個体が確認された直後は「たかがアオアシラだ」と高を括って功績狙いで意気揚々と狩猟に赴き、返り討ちに合ったハンターが多く、そうでなくとも苦戦を強いられたハンターがほとんどだった。
この件は紅兜の強さを知らしめると共に、二つ名を戴いたモンスターの強大さを認知させられた一件だった。
「グオオオオ…オオ?」
肝心の当獣は呑気に辺りを見回していたが、雪鬼獣を発見すると―
「グオオオオォォォォ!!!」
「!!」
―先程までの呑気な雰囲気を一瞬で捨て去り、凄まじい声量の咆哮を放った。
通常種は放てなかった筈だが、特異な成長を遂げたことによってそういった部分も相当に変化していた。
見た目も実力も恐ろしいものとなった青熊獣の放つ咆哮に伴う威圧感は相当のものであり、並のモンスターであれば気後れしてしまうものだ。
「ゴルオオオオォォォォ!!!」
だが、雪鬼獣は恐れることなく負けじと咆哮し返す。
相当な強さを持っていることは十分理解しているが、負けるとは思っていない。
今まで売られた喧嘩に全て勝ってきたからこそ、ここまで強くなれたのだ。
それによって育まれた自身への自負は、この程度で揺らぐものではない。
「ゴルオオオオ!!」
それを証明するかのように雪鬼獣は紅兜に向かって突進する。
その前足の鉤爪から繰り出される攻撃は、通常の青熊獣が食らえばその時点で終わりだろう。
「グオオオオン!!」
「!!」
だが、二つ名を冠している紅兜は普通ではない。
同じように飛び掛かって雪鬼獣の突進を受け止め、そのまま相撲のように互いの身体を掴んで力比べをする―
「ゴアアアア!!」
「グオオ…!?」
―と思いきや雪鬼獣が掴み掛かろうとしてきた紅兜を思い切り殴り付けて吹き飛ばす。
雪鬼獣は紅兜の得意分野であろう力比べに付き合うつもりはない。このままゴリ押しで圧倒する。
「ゴオオッ!!」
更に追撃を仕掛けようと雪鬼獣は飛び上がり、前足を振り上げる。
攻撃を食らった直後の追撃、紅兜の反撃は間に合わない。
「グオオオオォォォォ!!」
「ゴウッ…!?」
紅兜はそんな予想を覆すことを表すかのように前足でアッパーカットを繰り出し、雪鬼獣を殴り飛ばした。
落下のスピード+雪鬼獣の体重を掛けた攻撃だったにも関わらず反撃で殴り飛ばして見せるのは紅兜の異常なパワーがよく分かる。
「グオオオオ!!」
だが先程の雪鬼獣の攻撃は相応の効果があったのか、吼えながら猛然とした勢いで雪鬼獣に向かって行く。
「ゴオオ…!」
雪鬼獣は何とか立ち上がったが、顎への一撃はやはり相当なダメージだったらしく、足がふらついて覚束ない。
「グオオオオン!!」
「ゴ…オオ…!」
突進してきた紅兜をどうにか受け止めたものの、未だにダメージが尾を引いている雪鬼獣はかなりの距離を後退してしまう。
何とか持ち堪えているが、全快の状態でも単純なパワーだと劣勢を強いられるのだ。
こんなふらついた状態で紅兜を抑え切れる筈もない。
「グオオオオォォォォ!!」
「グ…オオ…!」
そのことを示すかのように、紅兜が雪鬼獣を思い切り投げ飛ばし、雪鬼獣は地面を転がる。
気付けば攻勢が完全に逆転していた。
雪鬼獣は紅兜を侮っていたつもりはなかったが、強さを見誤っていたのは否定できない。
その代償としてここまでのダメージを負ってしまったが、まだどうにかできる段階だ。
この程度の苦境は、今までもあったのだから。
「ゴルオオオオォォォォ!!!」
「!!」
雪鬼獣が吼え、興奮によって顔つきを真っ赤にして異名通り“鬼”の形相になる。
紅兜は関係なく突っ込んで攻撃しようとするが―
「ゴオオ…オオッ!!」
ズバン!!
「グオオオオン!?」
―雪鬼獣が白い息を前足に吐き掛けたかと思うと、一瞬で紅兜の元まで急接近し、紅兜を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた紅兜の胴体には斬撃の跡が刻まれ、雪鬼獣の前足には氷刃が形成されていた。
これが雪鬼獣最大の武器であり、真骨頂でもある。
氷刃から繰り出される一撃は紅兜の屈強な身体を切り裂くことも可能な程の切れ味を持つ。
だが、紅兜もまた大ダメージを受けたからと言ってあっさり引き下がる筈もない。
「グオオオオォォォォン!!!」
紅兜は斬り付けられた箇所から血を流しながらも立ち上がり、両腕を広げて咆哮した。
雪鬼獣と違って何かが変わる訳では無いが、興奮状態になることで身体能力が向上するだけでも十分な脅威となる。
どちらにとっても、ここからが本当の勝負となるだろう。
「グオオオオ!!」
紅兜は凄まじい勢いで地を駆け、雪鬼獣に向かって行く。
岩を飛ばすなりして遠距離への攻撃手段はあるとはいえ、最も力を発揮できるのは近距離戦である。
当然、近付かなければ始まらない。
「ゴルオオオオ!!」
「!」
しかし先程までの戦いで紅兜の強さを知っている雪鬼獣が簡単に接近を許す筈もない。
氷のブレスを放ち、紅兜の接近を妨害する。
躱すか受けるか、どちらを選んでも構わない。その隙を突くことぐらい雪鬼獣には容易い。
選択を強いられた紅兜が選んだのは―
「グ…オオオオ!!」
「!?」
―どちらでもなく、地盤を掘り起こして強引に投げ飛ばし、氷のブレスにぶつけることで盾とした。
紅兜のパワーによって掘り起こされた地盤は相応の大きさを誇り、雪鬼獣のブレスであっても貫くことはできない。
「━━━━━ッ!」
そう判断した雪鬼獣はブレスを止め、地盤の下敷きにならないようその場から飛び退く。
地面に激突した半冷凍状態の地盤は大きな音を上げて砕けた。
ブレスを放ち続けるか氷刃で迎撃すれば砕くことはできたかもしれないが、それが命取りになることは雪鬼獣も分かっている。
「グオオオオ!!」
「ゴルオオオオ!!」
そう、もう紅兜がすぐ近くまで接近して来ていた。
流石にこの距離は逃げられない。紅兜の振り上げた前足を氷刃で迎撃する。
ズドォン!!
「「━━━━━━━━━━ッ!!」」
凄まじい衝突音と共に、氷刃と前足が激突し、互いに弾き飛ばされる。
氷刃による防御もあり、押し負けることにはならなかったものの、一撃打ち合っただけで罅が入り、前足がビリビリと痛む感覚がある。
対して紅兜の前足も多少の罅はあるものの、出血はない。
やはり接近しての殴り合いだと紅兜の方に分があるようだ。
距離を取りたいところだが、もうここまで接近された状態では紅兜も逃す気はないだろう。
ならば―
「ゴオオオオ…!!」
「!」
―雪鬼獣は右足の氷刃を分厚い拳のような形に変える。
氷刃は攻撃力は高いが、防御力という点では紅兜相手だと少々心許ない。
故に攻撃力を低くし、防御力に重きを置いた形にすることで右足で防御を左足で攻撃を行うスタイルを選択した。
数多くの強敵との戦いを制して来た歴戦の雪鬼獣だからこそ行き着いたものだと言える。
「グオオオオ!!」
だが、紅兜からすればやることは変わらない。
防御を固めようと何をしようとその上から叩き潰すまでだ。
紅兜は前足を振り上げて雪鬼獣を引き裂こうとする。
「ゴルオオオオ!!」
だが、雪鬼獣も一枚岩ではない。
右足に纏った氷で紅兜の攻撃を弾くと、氷刃で紅兜を斬り付ける。
「グオ…オオオオ!!」
紅兜は多少怯んで後退したものの、直ぐ様体勢を立て直すと再び攻撃を仕掛けて来た。
最初に攻撃を叩き込んだ時にも思ったが、紅兜の身体は相当に硬い。
戦いの決着を着ける決定打を叩き込むにはまだまだ掛かるだろう。
「ゴルオオオオ!!」
雪鬼獣は咆哮を上げ、紅兜に向かって行った。
数十分後―
「グオオオオ!!」
「ゴル…オオ…!」
雪鬼獣と紅兜は戦い続けていたが、どちらに戦況が傾いているのかは明らかだった。
雪鬼獣は攻守一体の戦い方で上手く紅兜をいなしつつ戦っていたのだが、紅兜の一撃は重すぎるが故にどうしても防御に偏ってしまい、それでも衝撃は殺しきれずにダメージが蓄積してしまったのだ。
対する紅兜も雪鬼獣からの反撃によってダメージは負っているのだが、とにかく攻撃は最大の防御と言わんばかりに攻め続けて雪鬼獣に攻撃させる間を与えず、ゴリ押しで防御の上からダメージを重ねて行った。
「グオオオオ!!」
ドゴォン!!
「ゴ…オオ…!」
そして当然、ダメージが蓄積されていけば防御力も落ちる。
もう雪鬼獣は攻撃どころか防御すらままならない状態にまで追い込まれていた。
「ゴルルルル…!!」
「!」
だが、最後まで勝負を捨てるつもりはない。
もう逃げるのは難しいし、そんな場所もない。
氷刃を纏っていた方の前足も分厚い拳の形に変形させ、どっしりと構える。
「グルルルル…!!」
紅兜もその雪鬼獣の考えを感じ取ったのか、身体を低くして構える。
まさに次のぶつかり合いが両者にとっての最後の一撃、大一番となるだろう。
「「━━━━━━━━━━」」
一瞬の静寂の後―
「グオオオオォォォォ!!」
「ゴルオオオオォォォォ!!」
―互いに吼えながら猛然とした勢いで駆け出し、氷を纏った前足と血に塗れた前足を振りかぶる。
そして―
「「━━━━━━━━━━ッ!!」」
―互いの顔面を捉え、雪鬼獣は頭殻が罅割れ、紅兜も顔が歪み出血する。
だが、単純なパワーだとやはり―
「グオオオオォォォォン!!」
「ゴッ…!」
―紅兜に軍配が上がり、雪鬼獣は殴り飛ばされて川下へと落ちて行った。
「グルオオオオン…」
雪鬼獣が飛んで行ったのを確認した紅兜は、勝負が着いたことを確信して、一息つくようにしてその場に座り込む。
あそこまで食い下がって来る敵は久し振りだった為疲れてしまった。
この辺りを縄張りにしていたのかは知らないが、主だとするならば通りで強い筈だ。
まずは栄養補給をしたいところだが…
スンスン、ベロン「……グオオン」
食わず嫌いは良くないと思い、前足に付着した雪鬼獣の血を舐めてみるが、あまり口に合わない。
実力を付け、凶暴になっても子ども舌は変わらず、やはりハチミツかサシミウオに限る。
「グオオン」
確か下には川があった筈だと、紅兜は川を目指して降りていった。
獄泉郷にて行われた大一番は、これにて幕を閉じた。
紅兜君かわいいねえ(にっこり)
尚実力はかわいくない模様。
仕事めんどくせえなぁ…
評価、感想もよろしければお願い致します。
それでは次回をお楽しみに。
メインモンスター+αでコイツが好き
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リオレウス
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イャンガルルガ
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クシャルダオラ
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エスピナス
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ティガレックス
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ナルガクルガ
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ラギアクルス
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ジンオウガ
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ブラキディオス
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セルレギオス
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四天王
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マガイマガド
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メル・ゼナ
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今回の司会ちゃん