それではお楽しみください
“森丘”
暖かい日の光が降り注ぎ、アプトノス達が地面の草を食んでいるその場所は、一部のハンター達にとってはこの地が始まりの場所とも言える場所である。
だが、長閑な場所であってもモンスターの支配する領域であるということは忘れてはならない。
確かにこの地では怪鳥やドスランポス等、ハンター初心者でも相手にしやすいモンスターが多いが、トップクラスの相手となると火竜や電竜と言った危険度の高いモンスターが支配することもある。
時には古龍である霞龍が出現することもある為、決して慢心して良い訳では無い。
時にはこんな報告もある。
「イヤンクックを狩りに来たと思ったらそこにいたのはイヤンクックとよく似た別のモンスターだった」
報告としてはかわいいものかもしれないが、それによる被害は計り知れない。
怪鳥によく似たモンスター、という時点である程度想像がつく者もいるだろう。
古龍及び古龍級生物を含めた全モンスターの中でも頭一つ抜けて異質な性質を持つモンスター、黒狼鳥である。
黒狼鳥は“戦闘そのものを好む”という性質上、大なり小なり身体に傷のある個体がほとんどである。
切り傷等の軽傷は勿論、酷いものだと片目を失くしている個体まで存在する。
黒狼鳥の中でそういった個体は、ギルドによっては区別している場所もある。
区別される個体の名は―
この個体は特に大きな傷を負っている個体のことを指し、新大陸では歴戦の個体として扱われる。
黒狼鳥は大型モンスターの中でも上位に入る危険度を備えている為、その黒狼鳥が深刻な傷を負うということは、それ程の相手と戦ったということであり、そして生き残って来たことの示唆になる。
だが、無傷の個体が弱いかと言われればそういう訳ではなく、それだけ戦いを上手く行ってきた個体ということであり、結局危険なことに変わりはない。
「グルルルル…」
とはいえ、黒狼鳥も生物。
最低限の食事や睡眠は取らなければ生きて行けない。
鬱蒼とした茂みの水辺でゆっくりと水を飲んでいた。
「グアアアア…」
水を飲んで喉を潤すと、黒狼鳥はどうしようかと考える。
久方振りに故郷に帰ったのは良いが、今は生憎お眼鏡に叶う程の強者がいなかった。
やはりこういった穏やかな場所には強者は少ない。
黒狼鳥は今までの経験則からそれを知っていたとはいえ、やはり予想を越えて来て欲しかった。
仕方ないがまた相手を求めて黒狼鳥は飛び立つ。
「ギュアアアアァァァァ!!」
「!?」
その時、空中から影が凄まじい勢いで黒狼鳥に突貫してきた。
その速さは空中の機動力に優れる火竜や千刃竜を凌駕する程のものであり、並のモンスターなら何が起こったのかも分からず死ぬことになるだろう。
「ギュオオッ!!」
だが、幾度もの死闘を乗り越えて来た黒狼鳥はそう簡単には行かない。
即座に身を翻して紙一重で突進を躱すと、追撃として火球を放つ。
あれ程の勢いがついた飛行だ。
複雑な動きはできないだろうと思ったが―
「ガルルルアア!!」
「!」
―相手は身体を捻って尻尾で薙ぎ払うことで火球を打ち消した。
そこで黒狼鳥は初めて相手の姿を捉えた。
自身と瓜二つのその姿だが、体格はやや小さく、翼と尻尾の先端が濃緑色に染まっている。
そして何より目を引くのは頭部だ。
左耳が欠け、目に至っては完全に抉れているかのように失明している。
にも関わらず、残った右目は赤い眼光を放っている。
同胞であることは分かるが、見た目も発する威圧感も明らかに普通ではないと、黒狼鳥は感情を昂らせると同時に警戒を強める。
そしてその警戒は正しかった。
この黒狼鳥は特殊個体ではあるが、その中でも特に異端な存在として扱われる“二つ名”の個体である。
その異様な光を放つ瞳を示す二つ名は―
「ガルルルル…!」
隻眼はドスの入った声で唸って威嚇する。
二つ名になったと言っても黒狼鳥の特徴である好戦的な性格は治るどころか増長している。
そして二つ名に区別されるということは、危険度も据え置きであるはずがない。
龍歴院から見た隻眼の危険度は6。
この数値は古龍級生物である金獅子や恐暴竜、リオスの希少種と同等の評価である。
人間から見たモンスターの危険度と実力は必ず噛み合うものではないとはいえ、高い危険度を設定するのはそれだけの理由があるのだ。
つまり隻眼の戦闘力は金獅子や恐暴竜と言った古龍級生物にも食い下がることを可能とする程だと言える。
まず普通のモンスターなら勝てない相手。
歴戦の黒狼鳥と言えども、分が悪いと言えるだろう。
「ガルルルアアア!!」
戦闘そのものを好む黒狼鳥にとって、自身以上の実力を持った相手はこれ以上ない獲物と言える。
幾度もの死闘を乗り越えたことによって、危機察知能力は上がっているが、根本的な性格は変わっていない。
「ギュアアアア!!」
そしてそれは隻眼も同じ。
格上だろうと格下だろうと平等に戦うのが黒狼鳥である。
向かって来る相手など大歓迎だ。逃げたとしても殺すまでだが、向かって来るのならわざわざ追う手間が省ける。
向かって来た黒狼鳥をサマーソルトで迎撃する。
「ガルン!」
「!」
が、隻眼が攻撃を放つと同時に黒狼鳥が羽ばたいてギリギリで躱し、僅かな硬直の隙を狙ってブレスを放つ。
「ガルルオオ!!」
隻眼はブレスを躱すかと思いきや、逆に凄まじい勢いで突っ込み、ブレスを無力化しつつ黒狼鳥に突貫する。
黒狼鳥も突進を食らわないよう飛んで逃げる回るが、中々振り切れない。むしろ距離が縮まっている。
隻眼が自身よりも高い身体能力を持っていると判断した黒狼鳥は、次の手を打つ。
「ガルルルル!!」
「! ガルオオオオ!!」
直線飛行から突然旋回し、隻眼の混乱を誘うが、隻眼は一瞬で黒狼鳥の動きを見切ると、ブレスを放って黒狼鳥の回避を誘う。
「ガルル!」
だが黒狼鳥も一筋縄では行かず、背後を見ることもなくブレスを躱す。
が、回避を取った時点で隻眼の射程距離だった。
「ガルオオオオ!!」
隻眼は黒狼鳥を捉え、明らかに危険な色の毒が滴る尻尾を振るって黒狼鳥を叩き落とす。
「━━━━━━━━━━ッ!!」
「ギュオオオオン!?」
―黒狼鳥は一瞬で方向転換し、隻眼の懐に潜り込むとサマーソルトキックを繰り出し、のけ反ったところを更に上から尻尾で追撃し、叩き落とした。
とある社跡で倒した傘のような鶏冠を持っていた鳥竜の攻撃を真似たものだが、中々悪くない。
黒狼鳥の主な武器は尻尾やブレスだが、使える武器が多いことに越したことはない。
「ガルルルル!!」
そして黒狼鳥は隻眼の落ちた場所に向かって急降下していく。
黒狼鳥は相手を殺害、あるいは完全に見失うまで追撃する性格であることが影響しているが、それ以上に隻眼がこの程度で戦闘不能になるとは思えなかった。
「ガルルオオオオ!!」
そしてその予感は的中していた。
収まっていない土煙の中から甲高い咆哮と赤い眼光を伴って黒狼鳥を睨みつける。
「ガルオオオオ…!!」
そして隻眼は姿勢を低くし、力を溜めるようにする。
黒狼鳥は突進しつつ隻眼の様子を訝しげに見詰める。
隻眼の体躯は黒狼鳥に劣る大きさであり、力を溜めたところで勢いをつけた黒狼鳥に勝てるとは思えない。
だが、同胞であるが故に考え無しとは思えない。
おそらく突っ込んで来ると見せかけてのフェイントか、即別の攻撃に繋げて来るつもりだろう。
ならばこちらは隻眼が動くと同時に更に速度を上げて押し切る。
そして黒狼鳥と隻眼が直線上に重なった瞬間―
「━━━━━━━━━━ッ!!」
「!?」
―隻眼が動いた。
しかし黒狼鳥にとって予想外だったのは、隻眼がフェイントを仕掛けるどころか清々しい程馬鹿正直に突っ込んで来たこと、そのスピードが黒狼鳥の予想を遥かに凌駕していたことだ。
当然、予想以上のスピードで来られると―
「ガルオオオオ!!」
「グッ…!?」
―躱せる筈もない。
自身より小柄でありながら、あまりの衝撃に黒狼鳥は驚愕する。
だが大きな傷を負い慣れている黒狼鳥は即座に体勢を―
「ガルアアアア!!」
「ガッ…グッ…!!」
―立て直す間を与えず、隻眼は吹き飛んでいる黒狼鳥に追い付くと先程の意趣返しを行うかのように尻尾で地面に叩き付け、そのまま足で踏み付けようとする。
「ガルルルル…!!」
「! ガアアアア!!」
黒狼鳥は踏み付けられるのは何とか躱すが、隻眼はしつこく追いかけ、追撃を試みる。
「グッ…ウウウウ…!」
黒狼鳥は尻尾を食らった箇所から感じる激痛に顔を歪める。
黒狼鳥は毒を扱うだけあり毒にはそれなりに耐性があるが、隻眼の扱う毒は“劇毒”と呼ばれる猛毒を越える危険性を持った毒なのだ。
並のモンスターならば毒が身体に回る前に食らった箇所がグズグズに溶けてゆくが、激痛程度で済んでいるのは黒狼鳥の耐性のお陰だ。
だが、劇毒によって更に黒狼鳥は窮地に追い詰められることとなった。
元の身体能力でも上回られている以上、勝ち目はほぼないに等しい。
「ガルルルル…!」
負けるどころか死ぬかもしれないが、そんなことは関係ない。
こんな楽しい時間を終わらせるなど、そんな勿体ないことはできない。
「ガルアアアア!!」
「! ガルオオオオ!!」
このまま逃げ回っていても追い付かれるだけだと感じた黒狼鳥は旋回しつつ隻眼に向かってブレスを乱射する。
ブレスを見た隻眼は、ブレスの間を縫うようにして躱し、黒狼鳥に接近する。
隻眼もまた相手が同胞であることに気付いている為、このままあっさり終わるとは思っていない。
隻眼としてもこの戦いは楽しいが、わざわざ攻撃を食らってやる義理はない。
フェイントか、裏をかいての特攻か。
どちらを選んでも隻眼は対応するつもりでいた。
面白いテクニックだが、手の内を知った以上は初撃程の効果は発揮しない。
このまま終わらせる。
「ガルアアアア!!」
速度を上げて突進しつつ隻眼は左右を尻尾で薙ぎ払う。
後ろに下がろうと意味はなく、強引に抜けようとすれば尻尾を食らう、完全に決める為の攻撃だ。
そして劇毒によって弱っている黒狼鳥に、これを躱す術はない。
これで終わるだろう―
―普通のモンスターなら。
「ガアアアアァァァァ!!」
「!?」
結果として黒狼鳥は隻眼の予想通り特攻を選んだ。
だが、隻眼にとって予想外だったのは完全にこちらの速さを見切り、尻尾をやり過ごすようにして
だが、黒狼鳥としては予想内のこと。
隻眼の速さにはまともに比べれば勝てないだろうが、一度最大速度を見ることができれば、その速度が余程のものでない限りはやり過ごすことができる。
そして劇毒は確かに効いてはいたのだが、黒狼鳥の集中力を阻害する程の効果を発揮することができなかった。
黒狼鳥は戦闘を好むという性質故に、ダメージや死に対する恐怖や反応が他のモンスターよりもかなり薄い。
当然疲労やダメージで動きが鈍ることはあるが、それらも全て楽しむことができる為、最期まで心理的優位に立つことができないのだ。
そしてこの黒狼鳥は死線を潜り抜けて来た歴戦の個体である以上、土壇場での集中力も並大抵のものではなかったということだ。
「ガルアアアア!!」
「ガッ…!!」
そして黒狼鳥は隻眼の失った左目を狙って渾身のサマーソルトキックを叩き込んだ。
弱点への一撃ということもあり、流石の隻眼も左目から血を流しつつ相当効いたような反応を見せる。
「ガアアアア!!」
黒狼鳥は更に追撃として尻尾を隻眼に向かって振り下ろす。
だが、忘れてはならない。
隻眼は左目を失って尚二つ名として名を馳せていることを。
「━━━━━━━━━━ッ!!」
「ガッ…!?」
隻眼はなんと振り下ろされていた黒狼鳥の尻尾速度を見切って紙一重で躱すと、足で掴んで勢いを利用して地面に向かって投げ飛ばした。
叩き付けられた黒狼鳥がダメージの大きさに動けずにいると、上空から凄まじい勢いで隻眼が向かって来ていた。
「ガアアアア!!」
それでも黒狼鳥は隻眼の接近を拒むようにしてブレスを乱射する。
しかしその速度は隻眼にとっては容易に対処できる速度だった。
「━━━━━━━━━━ッ!!」
「ガッ━━━━━」
そして隻眼は勢いをつけた蹴りを黒狼鳥の頭部に叩き込み、黒狼鳥の命を絶った。
隻眼は黒狼鳥の最期の表情を見ることはできなかったが、それでも同胞であるならきっと満足しただろうと確信していた。
今まで飽きる程の相手と戦ってきた隻眼は、自分の“何か”が異常なのだと分かっていた。
だからといって自分を曲げる気は更々無かったが、自分と同じ悦びを感じることができる相手との戦いは、今までとは違った楽しみがあった。
「ガルルルル…」
隻眼は黒狼鳥の死体を少し見詰めた後、空へ飛び立った。
今度はどんな相手と戦うのだろうと、期待を膨らませながら。
二匹共狂犬過ぎるなぁ(小並感)
あっそうだ、この作品しか見ていない方には関係ないのですが、現在同時連載中の“おいたわしい竜”について重大なお知らせがありますのであっちを見ている方はこちらの活動報告を見てください。↓↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=299480&uid=410551
端的に言うと、見直していて余りに詰め込み過ぎてこりゃ酷いと思ったので(特に一話)一旦削除してまた書き直します。
伸びてないわけじゃないけど、最近ちょっと頭がごちゃついていまして…そのリセットも兼ねています。完全な自己中で申し訳ありません…
今までと投稿の仕方は同じで交互に投稿していきますので、その辺りはご心配なく。
評価、感想もよろしければお願い致します。
それでは次回をお楽しみに。
メインモンスター+αでコイツが好き
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リオレウス
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イャンガルルガ
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クシャルダオラ
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エスピナス
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ティガレックス
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ナルガクルガ
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ラギアクルス
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ジンオウガ
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ブラキディオス
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ゴア・マガラ
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セルレギオス
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四天王
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双璧
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ネルギガンテ
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イヴェルカーナ
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マガイマガド
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メル・ゼナ
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今回の司会ちゃん