それではお楽しみください。
“水没林”
ジメジメとして空気で溢れたこの地。鬱蒼とした茂みに時期やタイミングによっては完全に一部は水没しきってしまう為、特殊な適応の仕方をしたモンスターも多い。
今の時期は水没はしてはいない為、陸上生活に適応したモンスターが多く定住している。今の水没林でも、特徴的なモンスターは何匹かいる。
「キシキシ…」
そんな中でも、一際個性的なモンスターはこのモンスターだろう。
赤い甲殻に、巨大な鋏、身体を支える六本の足に背中に背負った一角竜の頭殻が大きな目印となる大名の名を冠するモンスターは―
盾蟹は鋏を器用に使って自身の触角を手入れしていた。盾蟹は大型モンスターの中では大人しい性格であり、何より雑食性であ る為虫や小動物、植物など盾蟹にとって多くの食料が存在している水没林はまさに格好の住処というわけである。
強さという点ではフィールドの主クラスには一歩劣るものの、基本的には腹が満たされると地面に潜っている為、外敵と戦うこともそう多くない。だが―
「キシイイイイイ!!」
「!!」
―何処ぞの霞龍のような完全ステルス能力を持っているわけではない為、タイミングによっては外敵と相対することもある。
突然背後から聞こえた音に盾蟹が振り向くと、盾蟹に似たモンスターが地面から這い出て来ていた。ただ盾蟹よりも全身の甲殻が鋭利であり、盾蟹と対になるような青色をしている。盾蟹の鋏に当たる部位が鎌のような形状をしており、背中に背負った頭殻も鎧竜のものだ。
将軍の名を冠するそのモンスターの名は―
「キシイイイイイ…!」
鎌蟹は鎌を開閉させて盾蟹を威嚇する。鎌蟹は本来攻撃を受けない限りは大人しい性格の筈だがこの個体は最初から臨戦態勢をとっている。偶々気性の荒い個体だったのか、何か別のモンスターと争ったのかは分からないが、とにかく盾蟹と戦り合うつもりなのは間違いないようだ。
「キュイイイイイ…!」
そしてそうなれば盾蟹も黙っちゃいない。両方の鋏を広げ、身体を大きく見せて威嚇する。
大名と将軍の戦いが幕を開けた。
―NowLoading―
「キシイイイイイ…イイ!!」
まずは先手必勝と言わんばかりに鎌蟹が自身の鎌を火花を散らして打ち鳴らし、跳躍して振り下ろした。その跳躍力は鎧竜の頭殻を背負っているとは思えない程に高く、その鎌の切れ味も相まってどんなに硬いものでも斬り裂けそうだった。
「ッ!!」
だが、盾蟹もまともに食らう程弱くはない。その鋏を自身の顔の前で構えて身を縮める。そして鎌蟹の鎌が思い切り振り下ろされるが―
ガギンッ!!
「!?」
―鎌蟹の鎌は盾蟹の鋏を斬り裂くことはできず、弾かれた。
鎌蟹は自身の鎌が弾かれたことで大きく体勢を崩し、盾蟹の目の前で隙を晒してしまう。
「キュウウ…イイイイイ!!」
「キュアアアアア!?」
そして盾蟹は構えた盾を解くと同時に泡のブレスを放ち、鎌蟹を吹き飛ばした。
泡のブレスと聞くと何だか弱そうに聞こえるが、要領としては水圧カッターと同じ理屈である為、鉄だろうと容易く貫く程の威力だ。硬い甲殻に覆われた鎌蟹と言えどもノーダメージとは行かない。
「キシイイイイイ…!」
とは言え、攻撃一発で殺られる程鎌蟹も弱くはない。慎重に盾蟹から距離を取り、感情の読めない瞳で盾蟹を見詰める。
真正面からでは防御を崩すことは難しい。鎌蟹の最も攻撃力の高い攻撃は当然鎌による攻撃である。それが弾かれた以上、馬鹿の一つ覚えで攻撃しては勝てないだろう。ならばどうするか―
「━━━━━ッ!」
「!」
―当然、正面から無理なら側面から崩す。鎌蟹は足を細かく動かして一瞬で盾蟹の側面に回り込み、鋭い鎌をお見舞いする。
「キュイッ!」
ガギィン!!
盾蟹は咄嗟に鋏を盾にしてなんとか防ぎ切るが、鎌蟹も攻撃一発で終わらせる筈もない。
「?」
盾蟹が鋏を持ち上げて視界を確保すると、鎌蟹がどこにもいなかった。攻撃を受けてからすぐに構えを解いた為、移動したとは思えない。地面に潜るような音も聞こえなかったが…と盾蟹が首を傾げていると―
「━━━━━━━━━━ッ!!」
ズドン!!
「キュアッ…!?」
―上から凄まじい衝撃が襲い掛かって来た。あまりの衝撃に盾蟹は体勢を崩してしまう。
そんな盾蟹の上―ヤドには鎌蟹が鎌を突き立てていた。
起こった事としては至って単純。鎌蟹が思い切り跳躍して盾蟹にのしかかっただけである。
一般人が見たら「蟹が飛ぶな!!」とでも言いたくなる絵面だが、鎌蟹は跳躍力にも優れており、洞窟内であれば跳躍して更に天井に張り付くことができる程だ。
何はともあれこれで鎌蟹が盾蟹のマウントポジションを奪った形になり、盾蟹は大幅な不利を強いられる。
「キシイイイイイ!!」
「キュアアアアア!!」
鎌蟹は器用に足で盾蟹のヤドに組み付き、やたらめったら鎌を振り下ろす。盾蟹もなんとか振り落とそうと暴れるが、鎌蟹がガッチリ組み付いている為簡単には振り解けない。
「キュウウウウウ…!」
「!」
そして盾蟹はこのままではまずいと感じ、爪で地面を掘り始める。鎌蟹もこのまま潜られるのは流石にごめんである為、盾蟹から離れた。
そして盾蟹のが完全に姿を消し、その場には鎌蟹だけが残った。が、鎌蟹は盾蟹が逃げたとは思えなかった。おそらく盾蟹は逃げたわけではないならこの後―
ズドン!!
「!」
―と考えていると、即座に答えが分かった。少し地面からの揺れを感じ取ると鎌蟹は跳躍して空中に退避した。するとその直後に地面から一角竜の角が鎌蟹のいた場所を貫いていた。風化しているとは言え、あそこにいれば大ダメージを負うのは避けられなかっただろう。
「キシイイイイイ…!」
鎌蟹が地面に着地した時にはもう盾蟹は潜り直していた。だが、一度避けてしまえばどうということはない。
鎌蟹は盾蟹が何をしてくるか予想できた、それはつまり―
「キシ…キシ…」
―鎌蟹にも同じ事ができるということ。鎌蟹は鎌を使って器用に地面を掘り進んで姿を消した。
地中を掘り進む鎌蟹は同じ様に掘り進んでいる盾蟹らしき震動を感じ取った。鎌蟹がその方向に進んで行くと、盾蟹も気付いたのか、同じ様に鎌蟹の方へ近付いて来た。
互いに逃げるような動きはなく、真っ直ぐに相手を目指して掘り進んで行く。
そして遂に相手が目の前に迫った―
「キュイイイイイ!!」
「キシイイイイイ!!」
―互いに目の前に標的が現れた瞬間に盾蟹は鋏を、鎌蟹は鎌を全力で振り抜いた。どちらが先に相手の身体を捉えるかの勝負―と思われたが、なんと盾蟹が鎌蟹の鎌を白刃取りの要領で鋏を利用して受け止めて見せた。
よく見ると盾蟹の口元からは泡が吹いている。このまま動けない鎌蟹に向かってブレスを放つつもりだろう。事実鎌という最大の武器を封じられてしまった以上もう鎌蟹には抵抗する術が残されていない。
「キシイイイイイ!」
「!」
―わけではない。鎌蟹は鎌を盾蟹に咥えられたまま器用に足を使って立ち上がり、盾蟹を見下ろすような体勢になった。
盾蟹は鎌蟹の突然の行動に驚いたが、よく考えれば大したことはないと考え直す。盾蟹は鎌蟹のように立ち上がることはできないものの、非力というわけではない。鎌蟹は思考の穴を突いて脱するつもりだったのだろうが、盾蟹は鎌蟹の鎌をガッチリと抑え込んだままだ。鎌蟹ができる抵抗はない。盾蟹はそう確信した。
「キシイイイイイ…」
鎌蟹は盾蟹を見下ろしたまま唸る。それはまるで何か力を溜めているかのようだった。
そして盾蟹のブレスの準備が整う。次の瞬間には、ブレスが鎌蟹を貫いて盾蟹の勝利となる―
「━━━━━━━━━━ッ!!」
「!?」
―と思われたが、それは鎌蟹の行動によって覆された。
鎌蟹の背負った鎧竜の頭殻の口が開いたかと思うと、そこから盾蟹と同じ様に水圧カッターを思わせるブレスが放たれたのだ。
そのブレスは頭殻から放たれた為、盾蟹に当たったわけではないが、背後の地盤を容易く貫いた。それによって何が起こるかの予想は簡単だろう。
ゴゴゴゴゴ…!!
「!」
そう、生き埋めである。
鎌蟹のブレスによって貫かれた範囲そのものは狭かったものの、かなりの距離であったことと、どれだけ威力が凄まじくとも水は水、湿気だらけの水没林とは言えある程度は周りの土に吸収され、地盤も脆くなる。
盾蟹もこうなれば鎌蟹を捉えている場合ではない。本当に生き埋めになる確率は低いが、万が一を考えれば呑気にしてはいられない。そうして盾蟹は頭殻で掘る為に鋏から鎌蟹の鎌を解放する。
「キシイイイイイ!!」
ズバッ!!
「ギュアアアアア!?」
ところが鋏を離した瞬間、鎌蟹は鎌を振り上げて盾蟹の身体を斬り付けた。盾蟹も流石にこのタイミングでの攻撃は予想できなかった為、防御できずまともに食らってしまい、青黒い血液が噴き出す。
「…ッ!」
だがこれ以上欲張ってしまえば鎌蟹自身も埋まってしまい本末転倒となってしまう。悶える盾蟹を尻目に、鎌蟹は足を一旦折り曲げて跳躍し、地上を目指して掘り進んだ。
―NowLoading―
「キシ…イイイイイ!」
小雨がしとしとと降っていた地上に青の鎌が飛び出した。鎌で少し地上の様子を確認した鎌蟹は問題なしと判断し、全身を地中から引き摺り出した。
周囲を軽く見渡した後、身体に付着した泥を鎌で器用に落として行く。盾蟹がどうなったのかは分からないが、特に出て来ない所を見るにあのまま終わった可能性が高い。生きていたとしてもこちらに報復するつもりはないのだろう。
身体に付着した臭いも雨のお陰でかなり洗い流された。ハンターの間でも有名な話だが、鎌蟹が頭殻から放つブレスの正体は鎌蟹の体液―すなわち“尿”である。
ハンターからすればある意味絶対に食らいたくない攻撃だが、鎌蟹本人(蟹)からすれば汚いという感覚が人間より薄いので大して気にならないが、今回は地中で放った上にブレスが染み込んだ土を掘り進んだ為にある程度身体全体に臭いが付着してしまったのだ。潔癖というわけではないとは言え、今回は流石に気になってしまった。
完全に、鎌蟹はもう戦意が抜けてリラックスしていた。
「…キュイイイイイ!!」
「キシイイイイイ!?」
すると突然何かが鎌蟹に襲い掛かって来た。横から奇襲されたことで鎌蟹は反応しきれず、体勢を崩してしまう。
そこで初めて襲って来た相手が分かった。それは逃げたと思っていた盾蟹だった。派手な奇襲ではなく音も震動も感じなかったことに鎌蟹は驚いた。
それもその筈、盾蟹は深層から一定地点まで全力で掘り進み、地上に近くなった地点で鎌蟹に気取られないようゆっくりと掘り進み、慎重に顔だけを鎌蟹から少し離れた場所で覗き、鎌蟹の位置を確認して奇襲したというわけだ。
こればかりは忍耐力と粘り強さで鎌蟹が隙を晒すのを待っていた盾蟹の作戦勝ちと言える。そして有利な体勢を取っただけで終わる筈もなく―
「キュアアアアア!!」
「…ッ!」
―盾蟹は左右の鋏で鎌蟹を殴打する。鋏である以上最も力を発揮するのは切断する時だが、これ程の大きさに硬度が加われば鈍器としても十分役に立つ。
鎌蟹の鎌は攻撃にはこれ以上ない程に役に立つが、逆に防御には適さない。よって鎌蟹は自身の甲殻の防御力を信じるしかなく、とにかく耐えていた。
そして猛撃の中、ここぞというタイミングを鎌蟹は見つけた。盾蟹が鋏で殴打した後の、鋏を後ろに引く一瞬―
「━━━━━━━━━━ッ!!」
「ギュアアアアア!?」
―防御が薄くなったその瞬間を狙って、鎌蟹は鎌で盾蟹の胴体を突き刺した。まさかカウンターの文字通り差し込んで来ると思わなかった盾蟹も悶えながら飛び退いた。
「キュイイイイイ…!」
「キシイイイイイ…!」
盾蟹と鎌蟹は互いに睨み合う。どちらもダメージを負っており、これ以上戦うとなると良くても片方瀕死、下手をすれば相討ちという結果もあり得る。
そしてそれは当事者達が一番分かっていること。しばらく互いの武器を構えて威嚇していたが―
「キュイイイイイ…」
「!」
―遂に根負けしたのか、盾蟹が不服そうにしながらも踵を返して去って行った。鎌蟹もそれを追うような真似はせず、鎌を折り畳んで戦意を収めた。
盾蟹の方が逃げたとは言え、ダメージ的には実質引き分けだろう。実際盾蟹が逃げなければ鎌蟹は撤退を選ぶつもりだった。盾蟹が縄張りを捨ててくれるとありがたいが、ここまで良い勝負だと考え辛い。
水没林の陣取り合戦は、これからも続いていくだろう。
新連載始まりましたが、ちゃんと更新していきます。渾沌ゴアの方はモチベがやばいのでしばらく休載させて下さい…
評価、感想もよろしければお願い致します。
それでは次回をお楽しみに。
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