こんな縄張り争い見たい…見たくない?   作:サクラン

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今回は箸休め回です。ガッツリキャラに触れる事になるから怖い…

よろしければお楽しみ下さい。


閑話∶人類の抵抗

 この広大な世界において、人類の中心地はどこか?

 住む地方によって答えは様々だろう。巨大な港町であるタンジア、移動する町ことバルバレ、大穴が側にある王国ことエルガド…モンスター達の領域が側にありながらも、繁栄している都市がいくつもある辺り人類の強さと逞しさが伺える。

 そんな数々の都市の中で、代表として挙げられるのは―

 

 

 

 

 

 ―城塞都市こと、ドンドルマだろう。

 

 

 

 

 

 古龍の襲来が多く、それによる災害によって住まう住人は酷く嘆いていた。人類は、モンスターに勝てないのかと。

 しかし、そこで当時竜人族の凄腕ハンター―現在の大長老―がなんと一人で老山龍を討伐し、その頭部と尻尾を斬り落としたという。

 その姿に当時の人々は心打たれ、大長老がトップとして現在の地位に就任すると、古龍の襲来が多くありながらも、それに立ち向かうべく守護兵団やマスターランクのハンター達が集う町として育て上げた。

 その結果として、ドンドルマは古龍の襲来を多く受けながらもそれを退け、守る人類の強さの象徴とも言える町となった。

 

 しかし、そんなドンドルマに今不穏な空気が流れている。ハンター達が集う大老殿から下りた場所―城下町は一般市民も住んでおり、ハンター達を支えるべく商店やキャラバンが出入りし、活気に溢れている。

 だが今はその市民は誰一人おらず、商店もない。代わりにハンター達が使う支給品をしまうアイテムボックスや、即席のキャンプが作られている。

 この状態は、古龍やそれに匹敵するモンスターが襲来した際になる厳戒態勢。そんな状態で普段通りの態勢でいるわけにも行かず、対モンスターに特化した状態というわけだ。

 そしてマスターランクのハンター達が集う集会場―大老殿においても、それ以上の緊張感が漂っていた。

 

 

 

 

 

―NowLoading―

 

 

 

 

 

「…ムオッホン!それではこれより、対龍会議及び近況報告を行う!各自分かっておるとは思うが、この頃あまりにも古龍の襲来、それに匹敵するモンスターの出現及び激突が頻発しておる。思う所も多くある事から、此度の会議を是非有効活用して欲しい」

 

 大老殿内の巨大な会議室。大長老が悠に収まる程の広さの中で、大長老が厳かな声を開始の挨拶とした。

 特に順番などは決められていないが、注目されるのはやはり―

 

 

 

 

 

「…それではまず我々、“新大陸古龍調査団”より報告させていただく」

 

 

 

 

 

 ―“古龍渡り”の調査で話題である調査団からだった。

 代表である総司令は生態研究所の所長と共に新大陸からここまでやって来ていた。

 

「…まず、新大陸及び“渡りの凍て地”から“導きの地”にかけての状況は非常に不安定だ。古龍とそれに匹敵するモンスターが絶えず小競り合いを繰り返し、天候すら安定しない。最近だと、エルガド近辺で確認された“傀異克服古龍”の襲来や“歴戦王”の冰龍が確認された事が主な出来事だ」

 

「おお…!“傀異克服古龍”が新大陸まで!こりゃあ色々と調査のしがいがありそうだ!」

 

 総司令からの報告に各員厳しい表情を浮かべる中、額にゴーグルをかけた竜人族の男性だけは興奮したように声を上げていた。中には「なんだコイツ…」というような表情を向ける者もいたが、大半は気にする事なく総司令の言葉に耳を傾ける。

 

「中々興味深い案件だが…“アレ”はどうなったんだよ。確か…“赤龍”だったか?」

 

「「!」」

 

 そして赤いジャケットにウエスタンハットを被った初老の男性からの質問には、興奮気味だった男性すら大人しくなった。

 調査団からの報告で共有された“赤龍”、ムフェト・ジーヴァと名付けられた古龍。地脈エネルギーを操作し生態系を自由自在に創造するという未曾有の能力と、その力によって精鋭中の精鋭である調査団の全戦力を退けたという報告には現大陸の研究者達の間にも激震が走った。

 

「…調査団から受けた傷を癒やす為か…現状、住処である“幽境の谷”において沈黙中だ」

 

「…ずっと大人しくしてるのか?」

 

「…ああ、導きの地で異常気象が確認できた際には、少し不穏な動きを見せたようだが、それ以来、目立った動きはない」

 

 総司令の言葉に、研究者達は訝しげな表情を浮かべる。確かに調査団は敗走したが、赤龍は相応に追い込んだ。その傷は簡単に癒えるものではないだろうし、地脈エネルギーも追い込む過程で枯渇寸前まで消耗させたが、ここまで大人しくしているものなのだろうか。

 

「総司令よ、もう良い。こんな状況なのだ、わざわざ秘匿する必要もあるまい」

 

「! 大長老…」

 

 そんな中、大長老は何かを知っているのか、総司令に対して必要ないと告げる。総司令は複雑そうな表情を浮かべたが、決心したのか観念したように口を開いた。

 

「…赤龍と調査団の交戦後、幽境の谷に“煌黒龍”の出現が確認された」

 

「! “煌黒龍”…」

 

「確か、巷で噂として流れている古龍の名前だよね。『神の領域に、“煌黒龍”―アルバトリオンと呼ばれる古龍がいる』っていう、いつ、何処の誰が言い始めたのかも分からない噂」

 

 総司令が口にしたのは、誰でも知っている―しかし誰も見た事のない古龍の名。世間一般だと他愛もない噂話として知られている。

 

「そう、その煌黒龍が幽境の谷に出現し、赤龍と激突したのだ」

 

「…それ、大丈夫だったの?」

 

 衝撃的な報告には、並大抵の事には動じない研究者達も冷や汗を流す。そもそも誰もが噂話として笑い飛ばす煌黒龍が実在するという事も驚きだが、赤龍と激突した事に関しては下手をすれば世界の崩壊を招きかねない事態だ。

 

「当然、凄まじい規模だった。今も導きの地は荒れ、天候も安定しないが…成果もあった。まともな伝承すら存在せず、全くの謎だった煌黒龍の能力の詳細を記録できた」

 

「おお!それは本当かい!?」

 

「不幸中の幸いというわけですね」

 

 そして生態研究所の所長が取り出したのはそこまで厚さのない編纂書。赤龍との戦いでまともに観測できたかも怪しいだろうに、これだけ編纂できる所に調査団の優秀さが分かる。

 

「…全ての属性を操るとは…」

 

「だがこれならまともな記録が残ってないのも納得が行く。直に見なきゃ信じられん」

 

 編纂書を見た研究者達は唖然とした表情で話し合っていた。そこに記されていた赤龍との戦いの記録はどれも信じ難いものばかりだったからだ。

 その編纂書には巨大な氷塊をブレスとして放ったかと思えば落雷を轟かせ、その落雷に穿たれた氷塊が龍属性の爆発と共に砕け散り、大量の流水を生み出すとそれらを全て凍て付かせ、また逆に火球を放って谷を揺るがす大爆発を引き起こす。

 まさに禁忌の所業であり、噂話止まりで正確な能力が把握できなかったのも納得が行く。

 

「煌黒龍の詳細を記した書物も、無かったわけではない。しかし、煌黒龍のような存在を認めたくない一派によって、数少ない資料が焚書されてしまったのだ」

 

「なんと…!」

 

「…んま、分からない事もないよ。全属性を操る古龍なんて、真面目に考えるとアホらしいって笑い飛ばすだろうからね」

 

 大長老から煌黒龍の記録が残っていない理由が告げられ、その理由に研究者達は憤るが、それと同時に共感もあった。

 複数の属性を操るだけでもかなり希少であり、全属性などもはや理外だ。編纂書の文字越しでも煌黒龍の強さはひしひしと感じられる。これ程の存在を認めたくない気持ちは分からない事もない。

 

「しかし、何故煌黒龍は幽境の谷を訪れたのでしょう…?」

 

「観測隊からの報告だと、明確に幽境の谷を目指しているように見えたそうだ。そこから考えるに、目的は赤龍か幽境の谷自体にあったと見るべきだろう」

 

 しかし、そこはこの場に呼ばれる程の優秀な研究者達。思いを馳せるのも程々に、何故煌黒龍が幽境の谷を訪れたのか、という点について話し合う。

 

「編纂書には…『煌黒龍は幽境の谷に辿り着くと、まるで怒りに身を任せているかのように暴れ回り、赤龍の作った繭を尽く焼き尽くした』…か、この記述から考えるに、煌黒龍はどうしても赤龍の繭を焼き尽くさなきゃならない都合があった?」

 

「赤龍の幼体…冥灯龍、ゼノ・ジーヴァは繭から生まれるのでしたら、幽境の谷から複数の冥灯龍が誕生する可能性を潰しておきたかったのでは?」

 

「確かに、成体の赤龍は煌黒龍に肉薄できる程の実力がある。その赤龍となる冥灯龍が複数誕生し、繁殖を繰り返し種としての数を増やしていけば、煌黒龍と言えども敗北してしまうでしょう」

 

 編纂書の記述から、研究者達は煌黒龍が幽境の谷を訪れた理由を鋭く考察していく。

 煌黒龍だけでなく赤龍、及びその幼体である冥灯龍の編纂書とも照らし合わせて考えると、赤龍は恐らく幽境の谷にて繁殖を行っていたのであろう。単為生殖である以上番となる相手は必要でなく、自然界において天敵となる相手もいない完全生物たる赤龍が目指すのは『自己の保管と増殖』のみであり、奇しくもそれを行ったタイミングで調査団に発見されたのだろう。

 

「今まで目に留まる相手がいなかっただけで、煌黒龍は本来好戦的、あるいは敵と見做した相手に強く排斥意識があるのかもしれない」

 

「全属性を操り、その場にいるだけで天災を巻き起こす上、身体能力も他の古龍と比べても別格。となると、そりゃあ天敵どころかまともに戦闘が成立する相手もいないだろうねぇ」

 

「しかし、煌黒龍にとってその存在を看過できなかったのが―“古龍の王”たる赤龍だった」

 

「自身でエネルギーの保管を可能とし、どんな環境であっても地脈を操作していじり放題、それだけのエネルギーを宿している以上、破壊力もまた絶大。古龍は皆大なり小なり環境に影響を与えるが、赤龍はその環境を全て創造し得る。確かに、“古龍の王”と謳われるには納得だ」

 

 まさに創造と破壊、正反対と言える事象を司るこの二頭は対を成していると言えるだろう。

 

「何より恐ろしいのは冥灯龍の記述だよ。『存在が確認された“地脈の収束地”は、幽境の谷以上にエネルギーの集まりが強く、その影響を受けて誕生した冥灯龍は、他の個体と比べてもある種の特異性を持って生まれたか、著しく成長を早めた可能性があった』…討伐できたから良かったけど、もし永い年月を経て赤龍まで成長すれば、もう誰の手にも負えない可能性があったね」

 

「だからそうなる前に煌黒龍が撃滅に動いたのだろう。かつて煌黒龍を恐れた人々が、その存在を“禁忌”とし、無かった事にしたのと同じように」

 

 強大な力を持つ“禁忌”とされる古龍が矮小な人々と同じ発想に至るというのはなんとも皮肉だが、いつまでも手放しにはできない。

 

「それで、赤龍は放っておくのか?」

 

「…それは各地の状況次第だな。調査団は現在、赤龍を討伐し得るだけの戦力がない。現大陸からの応援がなければ…」

 

「ムム…ならばまずは、各地の状況を把握しよう。まずはミカルデのギルドから」

 

「はい、分かりました」

 

 大長老から指名され、報告をするのはミカルデの受付嬢、ベッキー。受付嬢の身でありながらギルドナイトとしても活躍する、凄腕のハンターである。

 

「ミカルデ、ココット付近では特に異常なし。しかしフィールドを治める主級のモンスターが何かを警戒する動きを見せている為注意が必要。そしてこれは直接な関係があるかは分かりませんが、旧シュレイド王国の城及び城下町が()()()()()()()()()()()()、ギルドでは原因を調査中です」

 

「…消滅?あのかなりの広さがある王国がか?」

 

「はい、その数日前に妙な様子の老山龍が確認されている為、何か関係があるのかもしれません」

 

 ミカルデ付近は他の地域に比べて異常は少ないようだが、シュレイド王国の消滅という点には多くの者達が首を傾げていた。

 当然、ここにいる者達はシュレイド王国の概要は把握しているが、だからこそおかしいのだ。あの場所は古龍であっても引き返す程の曰く付きの場所。そこが消滅した事ももちろん、妙な様子の老山龍という点も気になる。普段古龍でさえ立ち入らない場所で、その老山龍は何をしていたのか?妙な様子とあるが、一体どこが『妙に』感じたのか?疑問は尽きない。

 

「その点は後で良い。次に、ユクモ及びタンジアギルド」

 

 皆頭を悩ませているようだったが、半ば強引に大長老が話を進める。らしくない姿勢に違和感を覚えるが、また後で話すという事なので、今は話を先に進める。

 

「ミカルデと共通する事はあるな。まずどのフィールドのモンスターも落ち着きがない。皆何かを警戒しているようで、凶暴性の高いモンスターが暴れ回って滅茶苦茶じゃ。ハンター達も駆け回っているが、調査が追い付いておらんのう。海の様子もおかしく、不自然な程に静かで魚達が姿を見せん」

 

 快活な性格であるタンジアのギルドマスターも異変には参っているようで、疲れたような表情で報告した。この中だと唯一海へアクセスできる地方だが、やはり海でも異変が起きているらしい。

 

「では次に…書記官から」

 

「各地を回った所感としては、どこもピリついてるように感じた。それこそ、古龍が現れる前ぶりみたいに…不気味なのは、肝心の古龍本体がいないってとこだな。皆怯えてるってのにそれ程のモンスターが全くいない。古龍もいたがその古龍でさえ怯えてる。お手上げの状況だ」

 

 ウエスタンハットの男性は王立学術院の書記官だが、“我らの団”というキャラバンの団長も務めている。そこには巨戟龍すら討伐した凄腕のハンターも抱えており、世界中を飛び回っている為、顔も広い。

 今回の異変でも鎮圧する為に様々な地方を巡ったが、完全に落ち着いている場所はどこも無かった。更に不可解なのはどのモンスターから落ち着きがないにも関わらず、その“差”がない。

 

 アプトノスを筆頭とした草食種は大型モンスターが近くにいると危険を感じ取って周囲を警戒し、同じエリアにいると一目散に逃げ出す。これは生物としての本能であり、当然大型モンスター達にも備わっている。強くなればなる程危険を感じるハードルが高くなるだけで、その本能に例外はないのだ。

 そして古龍すらも怯えているにも関わらず、その気配の元とされるモンスターが一切見つからず、モンスター達も警戒こそすれど姿を消しているわけではない為、どこに何がいるのか全く見当がつかない。不気味にも程がある。

 

「…龍歴院やエルガド、カムラ付近も同じか?」

 

「そうですね。二つ名持ちのモンスター達が暴れ回り、生存競争が激化しています。原因は調査していますが…有力な手掛かりは掴めていません」

 

「こっちも同じだね。傀異化、傀異克服古龍の問題に加えてだから、荒れ様が半端じゃない。カムラも神龍騒動の時程じゃないけど小規模の百竜夜行が起きてる。エルガド(こっち)と連携してどうにか凌いでるけど、他に手を貸す余裕はないね。むしろ手伝って欲しいぐらいだよ」

 

 龍歴院の書士官とエルガドの研究者―バハリも半ば諦めたような表情で現状を語る。特にエルガドは傀異化の問題が現在進行形で起こっており、それと並行して対処しなければならない為、二つの拠点で連携してもなおギリギリの状況だった。

 

「どこも余裕はないか…」

 

「ですが、赤龍はもちろん煌黒龍も見過ごせません。動向は分かっているのですか?」

 

「赤龍との争いの最中に何かを感じたようで離脱。その後の動向は不明だ。特に異常の報告がない事から自身の住処である“神域”に戻ったのではと言われているが…」

 

「今まで大人しくしていた事から、煌黒龍は後回しでも良いか?」

 

「いや、目を付けた赤龍が生き残っている以上、遅かれ早かれまた動き出す。どちらを先に対処するにしろ、要観察だ」

 

「どっちにしろ、今は手を出せないよねぇ…半端な戦力で手を出して怒りを買ったら本末転倒だ」

 

 結局、最も重要な赤龍と煌黒龍に関しては要観察という対処になってしまった。こればかりはいくら言葉を重ねようともどうしようもない。

 ―そんな事は分かっているとは言え、何一つ解決してないが故に、空気はどうしても重くなる。

 

「…重苦しい中申し訳ないが、皆に伝えておくべき事がある」

 

「「?」」

 

 話が一段落着いた所で、大長老が申し訳なさげに割って入る。言い方からして良い内容では無さそうだが、このタイミングでのカミングアウトに疑問を抱く。

 

「皆、シュレイド王国に関する伝説は知っているかね?」

 

「…太古の昔、繁栄を極めたとされる王国が、一夜にして滅び去った…という伝説ですよね」

 

「詳細はともかく、触りだったら誰だって知ってるよねぇ。御伽話にもなってるわけだし」

 

「…ならば、その伝説にとあるモンスターの存在が仄めかされているのは知っているかね?」

 

 大長老の誘導するような言い方に、研究者達は更に眉を顰める。が、彼らは選りすぐりの研究者、知らない伝説など無いと言っても良い。

 

「…『“黒龍”と呼ばれるモンスターが王国を滅ぼした』…という()()ですよね。伝説から照らし合わせても、その特徴に合致するモンスターがいない、現代と比べても間違いなく最大級と言える王国を一夜で滅ぼす事などどの古龍でも不可能、そんなモンスターがいれば既に人類は滅ぼされている…モンスターの仕業とするにはあまりにも不可解な点が多過ぎる事から、『あり得ない』とされて噂話止まりになっている」

 

「う〜ん、改めて聞いても無理があるよね。やっぱり」

 

 龍歴院の書士官が伝説の詳細を話し、バハリが改めて無理があると難しい顔で伝説を否定し、他の者達も言葉にこそしないがバハリと同じ意見だった。

 

 

 

 

 

 ―だから、あり得ないと思っていた。()()()()が、存在しているわけがないと。半ば現実逃避をしている面もあった。

 

 

 

 

 

()()は、存在する。黒龍は、実在するモンスターだ」

 

「「!!」」

 

 

 

 

 

 大長老は、そんな研究者達の考えを否定するかのように、唐突に言い放った。並大抵の事には動じない研究者達も、これには大目玉を食らったようで、皆大きく目を見開いていた。

 

「それは、つまり…シュレイド王国を滅ぼしたのは、黒龍であると?」

 

「そうだ。正確には―“黒龍、ミラボレアス”という名がある」

 

「“ミラボレアス”…確かかの存在、それを取り巻く事象を総括して指し示す名じゃなかったか?」

 

「その通り。個を指す言葉ではなかったが、長い年月を経て特定のモンスターを指す名に変わったのだ」

 

 黒龍の実在に関しては知らなかったが、名前に関しては、研究者達も聞き覚えがあった。時折伝説に出て来る名前。しかしそれは非常に抽象的なものであり、モンスターというよりは現象、事象を指す名として使われている事が多かった。

 

「しかし、黒龍が今の状況と何の関係が?」

 

「旧王国を更地にしたのが黒龍だからだ」

 

「「!!」」

 

 その発言には驚きよりも恐怖が先に来た。旧王国の広大さは凄まじく、現代の最新鋭を行くような王国と比較しても全く引けを取らない。

 そこが一夜にして、全て消え去ったのだ。

 この場にいる研究者達はこれまで数多くの古龍、それらが引き起こす災害や攻撃も目にして来たが、聞いた規模だけでも間違いなく規格外と言える。付近で確認された老山龍も、恐らく不運にも犠牲になったのだろう。

 

「何故…一体何が目的で…」

 

 龍歴院の書士官の補佐として着いて来ていた女性が僅かに声と身体を震わせながら呟く。一夜にして王国を滅ぼした邪龍が、自分達に牙を剥いて来るかもしれないのだ。昨今の現象と言い、最悪を想像してもおかしくはないだろう。

 

()()()()()

 

「は…?解らぬとは…?」

 

「だから、解らぬのだ。黒龍が何を思って旧王国を焼き尽くしたのかも、全盛期の王国を滅ぼした理由も」

 

 大長老の発言に皆困惑した。モンスター達の行動には何かしら必ず意味がある。事実謎に包まれていた煌黒龍の行動原理すら、推測とは言え理解する事ができたのだ。

 しかし黒龍に関しては王国を滅ぼした理由も、今まで大人しくしていた理由も、今更老山龍と共に滅ぼした王国をもう一度焼き尽くした理由も、全てが不可解で、解らないのだ。

 

「黒龍についての存在を認識していた我々でも、知っているのは黒龍がシュレイド王国を滅ぼした事ぐらいしか把握しておらぬのだ。黒龍の行動原理、生態、住処まで…一切が不明だ」

 

「…文字通り伝説の存在ってわけだね。そして、そんな存在が今動き出していると…」

 

「ああ、この黒龍の事は信頼足り得るハンターにのみ共有しておいて欲しい。…その時が来ないとも、限らぬからな」

 

 大長老からの指示に、全員静かに頷く。黒龍との運命を賭けた戦争が、そう遠くない未来に起こるのかもしれないのだから。

 

「…しかし、研究者としては気になるね。黒龍は何故、今になって動き出したのかな?」

 

 皆が覚悟を決めている中、バハリは研究者としての血が騒いだのか、ふと呟いた。

 

「さっきの煌黒龍が敵と見做した相手に対して好戦的になるのなら、黒龍を見逃していた理由が気になるな。煌黒龍じゃ黒龍に敵わないのか?」

 

「断定はできませんが、恐らくそれはないでしょう。煌黒龍の大技の規模は黒龍に勝るとも劣らないものです」

 

「それなら単純に黒龍の存在を認識できてなかったのでしょうか?海を跨いで赤龍の存在を感知できている事から、相当勘は鋭そうですが…やはり黒龍と煌黒龍の関係が特別なのでしょうか?」

 

 そしてやはり同じ研究者として影響されたのか、他の者達も自然と会話に混じって考察を深める。大長老もそれを咎めはしなかった。知見を深めるのは人類の強みであり、それだけが唯一モンスターに勝っている点だと言っても過言ではない。

 

「可能性としてはあるだろうけど…だとしても解せないよね。なんで赤龍が駄目で黒龍が例外になるのか。僕としてはまだ黒龍の存在を感知できてないって事の方が納得が行くよ」

 

「? 何故です?」

 

 バハリの妙に確信めいた言い方に、龍歴院の書士官は疑問を抱く。

 

「僕が気になったのは、調査団からの報告書。なんでも砂漠で異世界と繋がる歪みができたって言うじゃないか」

 

 バハリが言及したのは、数ヶ月前に調査団から届いた報告書。それは異世界から謎の人物や生物が迷い込み、調査団と共に異変を解決したという内容だ。

 当時かなり話題になった出来事であり、“異世界”というものが存在する事をハッキリと認知させた出来事であった。

 しかしこの後にバハリの言った言葉は、まさにド肝を抜く内容だった。

 

 

 

 

 

「ひょっとすると黒龍は、この歪み―次元の狭間に隠れ潜んでいるんじゃないかい?」

 

「…本気で言ってるのか?」

 

 

 

 

 

 そしてバハリが言った仮説には様々な議論をしている研究者達も思わず聞き間違いを疑ってしまう程のものだった。

 

「だってさ、これ程の存在だよ?事情を知る人間はかなり限られてるんだろうけど、動向を探ってない筈がない。にも関わらず存在が確認できてないって事は、もう常識的な場所にはいないって事じゃない?」

 

「…確かに、黒龍が確認されるまでその軌跡、その後の動きを追えた事はなかった。必ず何処かに雲隠れしている」

 

 バハリの推測を大長老は肯定する。知る人間はかなり限られているが、黒龍の存在を知っている者達は常にその動向を探っている。が、僅かに確認された例とその前兆を除いて黒龍の存在はもちろん、その痕跡すら確認する事はできなかった。

 

「能力も確認されている限りだと劫火を放つのみだが…事実分からない以上、否定もできんか…」

 

「しかしだとするならどう対策を練れば良いのでしょう…?もし黒龍が次元の狭間に潜んでいるとして、自由自在に超越する事ができるのなら物理的な防衛が意味を成しません」

 

 バハリの仮説がもし本当だとするなら、人類が黒龍に勝つ可能性は限りなく低い。何せ次元を越えてあらゆる場所に現れる事ができるのなら、奇襲し放題な上に人類に追う手段がないのだから逃げるのも簡単だ。逃走と奇襲を繰り返すだけで、人類はあっさり滅びてしまう。

 

「可能な限り犠牲の出ないプランを練って…後はもう賭けでしょう。黒龍が人類に牙を剝くのが早いか、我々人類が仕掛けるのが早いか」

 

「分からない事ばかりである以上、どうしても出たとこ勝負になる。贅沢言うなら人類(俺達)とぶつかる前に赤龍や煌黒龍あたりとやり合った所で情報を集めたいが…」

 

「そんな事になれば、少なくともその地一帯が更地になる。下手をすれば、世界規模の争いにまで発展してしまう」

 

 黒龍とぶつかる時に備えて策を練るが、やはり出る案も不安定なものばかり。最終的に、『可能な限りの戦力を集めて後は真っ向勝負』という結論に落ち着いた。

 

「ふー…新大陸での冥灯龍の確認から異常事態ばかり…黒龍や煌黒龍はもちろんですが、赤龍もこう見るとこの二頭に匹敵する脅威ですね」

 

「煌黒龍はほぼ確実として、黒龍との関連性は分からんが…このタイミングで動き出したってのは、何か感じ取ってる可能性はあるな」

 

 黒龍、煌黒龍、赤龍。様々な異変が知らされる中で、台風の目となっているのはこの三頭だと改めて実感する。赤龍の幼体である冥灯龍をキッカケに、まるで玉突き事故のように様々な存在が連鎖的に動き出している。

 

「僕達人類が、様々な地域に根差しているのと同じように、黒龍を筆頭とした最上位の古龍達は、()()()での縄張り争いをしているのかもね」

 

「…だとしたらとんでもない事に巻き込まれていますね。私達は」

 

「なぁに!どれだけ強大なモンスターだろうが、俺達ならできるできる!何も無力ってわけじゃないんだからな!」

 

 不穏が渦巻く中でも、団長は笑う。それは決して根拠のない自信ではない。他の研究者達も、人類が勝つべくその頭脳を活かすつもりだった。

 

「そうだねぇ!なんてたって、僕達には心強い味方がいるからね!」

 

「いざ戦う時には彼ら任せになってしまいますが…彼らが勝つ可能性が少しでも上がるように、私達も全力を尽くしましょう」

 

「ウム!実に心強い!如何に黒龍と言えども、この世界に生きる以上、無敵という事はありえん。それは、伝説にも残っておる!」

 

「伝説…?」

 

 各々が気合いを入れ直す中、大長老が何気なく放った一言に、皆違和感を覚えた。

 

「気休め程度のものじゃが…黒龍伝説には黒龍の強大さを示す分の先に、続きがあるのだ」

 

 黒龍伝説の続き。救いなど微塵も感じさせない。ただ黒龍の圧倒的さを示すだけの伝説には、まだ先があったらしい。

 

「それは―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん?」

 

「! どうした?何かあったのか?」

 

 海に面した拠点。そこでは一人の女騎士と白銀の甲冑を纏った女ハンターが歩いていた。

 

「いや…何でもないかな!」

 

「それは良かった。今貴殿に体調を崩されてしまっては、調査が回らなくなる可能性があるからな。情けない事ではあるが…」

 

「情けないなんてとんでもない!里の皆を守れてるのはフィオレーネさんを始めとした騎士さん達のおかげだもん!私も頑張らなくちゃ!」

 

 女ハンターは見た目は美女だが中身はまるで女児のように元気溌剌であり、まるで太陽のような印象を受ける。女騎士―フィオレーネも暖かく笑い掛ける。

 

「それに、ハンターの基本はよく食べてよく寝て、ちゃんと休む事!それができなきゃ、動く事すらままならないからね!」

 

「ふふっ、違いない」

 

 調査から返ってきたばかりなのか、彼女らは軽く武器の手入れをしながら話していた。

 

「そう言えばバハリさんがいないけど、ドンドルマに呼び出されてるんだっけ?」

 

「らしい。妙な事を口走って迷惑を掛けないと良いのだが…」

 

「アハハッ、研究者としては優秀だから、ちゃんと話は聞いてくれるでしょ」

 

 互いに細かい箇所までチェックし、刀身が欠けたりしていないか確かめる。そして一段落着いて休憩していると、フィオレーネがふと表情を真面目なものにする。

 

「…貴殿が“深淵の悪魔”を討ち払い、原初を刻む爵銀龍を撃退してから、もう一月か…」

 

「もうそんなに経つんだね。早いなー」

 

 神妙な表情で噛み締めるように呟くフィオレーネに対して、ハンターはあくまで振り返るような気軽さで話す。一見巫山戯ているようにも思えるが、この話し方をする時は彼女なりに真剣なのだという事をフィオレーネは知っている。

 

「最初に傀異化したモンスターが確認されてから、随分経つ。傀異克服古龍も出現が絶えず、皆忙しい」

 

「ガイアデルムの時と違って、明確な元凶がいないもんね。一応、キュリアに攻撃を仕掛ける原初を刻むメル・ゼナが確認されてはいるらしいけど」

 

 当初はガイアデルムに並び得る脅威と見做されていた原初を刻む爵銀龍だが、実際は領域を侵さない限りは大人しく、線引きさえしていれば人類に牙を剝く事はない為、半ば共存関係を築けているような状態だ。

 その協力があっても、キュリアの殲滅は叶っていない。

 

「王国の皆も、不安の感情が抜け切っていない。異常気象の方に関しては、手掛かり一つ掴めていない状態だ。今のままで―ンムッ!?」

 

 突然、フィオレーネの頬が横に引き伸ばされる。ハンターが頬の肉を優しく摘み、左右へ引っ張ったのだ。

 突拍子もない行動に出たハンターは、にへらっと笑う。

 

「笑お!まずは笑顔!」

 

「確かに分からない事だらけだし、不安なのは分かるよ。このまま戦い続けたって、問題が解決する可能性は低いだろうしね」

 

「私も、正直怖い。傀異克服古龍やガイアデルム、原初を刻むメル・ゼナよりも強いモンスターが出たら勝てるか分からないし」

 

 ハンターはカムラ、エルガド双方を合わせても間違いなくトップの実力を誇るが、当然自分が無敵でもなんでもない事ぐらい分かっている。今名を挙げたモンスター達も、自分一人の力で勝てたかと言われると怪しい。

 

「でも、私は一人じゃない。フィオレーネさんに提督さん、ジェイ君にルーチカさん、アルロー教官にバハリさん、里の皆。みんなみんな、私を照らしてくれる太陽。そして私自身も、皆にとっての太陽」

 

「私の周りにはたっくさんの太陽がある。その太陽が曇ってちゃ、頼りにしてる人達は目の前が暗くなって不安でしょ?」

 

 フィオレーネの頬から手を離し、目の前の海の方に目を向ける。

 

「だから、笑お!根拠がなくても、分からなくても!アナタの周りにはたっくさんの太陽がある!皆で照らせば、道だって拓ける!『曇天は晴れる!夜は明ける!永遠に続く闇など存在しない!』でしょ?」

 

「!」

 

 ハンターの言った言葉にはフィオレーネ自身も聞き覚えがあった。それは深淵の悪魔に会心の一撃を食らわせた際に、気合いを入れるべく言い放った言葉。

 

「…そうだな。何を不安がる必要があったのか。私の周りには、沢山の熱く燃え盛る焔がいたというのに」

 

 摘まれた頬を擦りながら、自嘲するように笑みを浮かべる。確かに、一人ではどうしようもなかったかもしれない。しかし、一人じゃない。伝説で“悪魔”と称された程の存在でも、この手で討ち払う事ができたのだ。これ以上何を怖れる事があるというのか。

 

「“神”だろうと“悪魔”だろうと、あるいは“伝説”だろうと何でも来るが良いさ。私達ならば、乗り越えられる」

 

「そそ!その意気!「「気焔万丈ー!!」」

 

 ハンターが気合いを入れる為の掛け声を上げると、いつの間にか隣に忍を彷彿とされる防具を纏った男性が同じように吼えていた。

 

「!? ウツシ殿!?いつの間に…」

 

「教官ー!来てくれたんですねー!」

 

 フィオレーネは吼えるまで全く気配を感じなかった事に戦慄し、ハンターは全く気にする事なく人懐っこい犬のように目を輝かせた。

 

「里の方が少し落ち着いて余裕ができたからね!愛弟子やエルガドの皆の様子を見に来たまでさ!」

 

(いや、そんな気軽に来れる距離じゃないのだが…)

 

 ウツシはまるで近所に遊びに来たような感覚で言うが、実際はそんな近くない。というか船で行き来する程度には離れているのだが、一体どうやって来たのだろうか。

 

「するとどうだ、愛弟子はエルガドでも“猛き炎”として皆を勇気付けている!これに感動せずして何に感動すれば良いんだッ…!」

 

「わあああ!?泣かないで下さい教官ー!?」

 

(本当になんなんだ…?彼らは…?まあ、頼りになるから良いか…)

 

 おいおいと涙を流す教官をあやす猛き炎の姿に、フィオレーネは困惑しつつもどこか居心地の良さを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥー…晴れないなぁ、空」

 

 鬱蒼とした森林地帯、一人のハンターが地面に武器を突き立てて、曇った空を見上げる。全身に纏った刺々しい防具も細かい傷がいくつも付いており、激しい戦いであった事が分かる。

 

「おお?“蒼星”サマじゃん。まだやってんの?」

 

「今終わったよ。問題は何も解決してないんだけどね」

 

 そこに気怠そうにボサボサの頭を掻きながら一人のハンターがやって来た。銀火竜の防具とライトボウガンを背負っており、彼も相当な実力者である事が分かる。

 

「終わったよって…歴戦の激昂したゴリラを片手間感覚で討伐すんなよ。バケモンかお前は。バケモンだったわ」

 

「0.5秒で自己解決しないでくれ。一撃でも貰えばその時点でミンチ確定だからね。結果としてノーダメージだっただけで、楽勝とは断じて言えないさ」

 

「実際にできてるからバケモンなんだろが。その0か100の100の方を引ける奴の方が圧倒的に少ないって事を理解してくれ」

 

 互いに軽口を叩き合いながらも、そこに悪意などは感じられない。あくまでも互いのコミュニケーションの一環と言った雰囲気だ。

 

「そう言うそっちはどうなんだ?何か掴めたかい?」

 

「掴めたモンなら山程あるぞ。モンスター共が争った痕跡がそこら中にある。もはや掴み過ぎて溢れるぐらいだ」

 

 銀火竜装備のハンターは疲れ切った表情で枯れ木に座り込む。彼の持つ採集筒の中身はモンスター達の痕跡で溢れ返っている。

 今更ながらここは導きの地。今世界一危険なフィールドと言っても過言ではない。他のフィールドに棲むモンスターと比べても全体的に手強く、赤龍と煌黒龍との激突を発端として、様々な縄張り争いが連鎖的に続いている。

 

「落ち着く様子はない、か…」

 

「強いて言うなら各地帯の主ぐらいだな、安定してるのは。それでも何かを警戒し続けてるから気は抜けないが…やっぱ根本の赤龍をどうにかしないと、落ち着く事はないだろうなぁ」

 

 未だに事態が良くならない事を再認識し、元凶である赤龍に対処しなければ事態は収束しないと理解する。しかし“蒼星”と呼ばれたハンターはどうも腑に落ちない表情だった。

 

「…なんだよその顔。まだ何かあるのか?」

 

「…いいや、私も確証はない。だが、もはや今の状況は赤龍を倒した所で収束するような状態じゃない気がする」

 

「勘弁してくれよ…赤龍を相手にするだけでも二度とゴメンだってのに…」

 

「もう一度言うが、確証はない。ただ、更に脅威となる“何か”を相手する覚悟は決めておいた方が良いかもしれない」

 

「振動で古龍すら惑わせて生態系を根本から破壊し得る龍、地脈を自由自在に操作してあらゆる環境を創造する古龍の王…これ以上のモンスターってなんだよ…」

 

 銀火竜の装備のハンターは恐怖を通り越して呆れていた。赤龍ですら調査団の精鋭で固めてなお返り討ちにされたというのに、その赤龍すら越える脅威など、調査団に―人類の手に負える相手なのだろうか。

 

「まあ、どんな相手だろうとやるしかない。君も死にたくないないだろう?」

 

「半ば脅しじゃねえか。…ま、流石に死ぬ気はないからなぁ…ここまで来りゃヤケだな。そっちも頼むぜ、“蒼星”サマ」

 

「当然、やられた事はやり返さなければ気が済まないタチなのでね」

 

「お前ひょっとして性格悪い?」

 

 調査団の精鋭達は、不穏な状況にも関わらず笑う。その兜の先の瞳で、倒すべき相手を確かに見定めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぐんぐ…ほっ、やっぱりここの料理長の料理は美味い。一人にも関わらず凄いですね」

 

「フッフッフッ、お目が高いですニャア旦那。とは言っても、ニャンコックさんの腕も相当ニャルよ。チーズフォンデュが名物となる理由がよく分かりましたニャア」

 

「次からはチーズフォンデュに挑戦しても良いんじゃないの?」

 

「バリエーションに差を出すのがまだまだですからニャァ。本格的に出すのはもうちょい精度を上げてからだニャア」

 

 長閑な高原にある小さな村。そこの屋台では二人のハンターが食事を取りつつ中華鍋を振るうアイルーと会話を交わしていた。

 

「ところで、何か進展はあったのですかニャ?」

 

「ぜーんぜん、異常って事だけが分かったよ。解読の方は緩やかに進んでるけど」

 

 そう言って一人のハンターが懐から取り出したのは相当古いものだと思われる巻物。テーブルの上に広げて見せると書かれている文は意味不明なものであり、古代文字である事は分かる。

 

「興味本位で聞くケドも何が書いてあるんですかニャ?」

 

「龍歴院で解読を進めている最中だけど…良い事が書いてないことだけは確かだね」

 

「嬢役立たずじゃニャイかニャ」

 

「役立たずじゃないもん!私はちゃんと調査に協力してるからWINWINだもん!」

 

 アイルーがジト目でハンターを見ると、ハンターは顔を真っ赤にして否定した。その様子をもう一人のハンターは微笑ましげに見つめつつ、古文書について補足する。

 

「我々龍歴院で古文書について調べた所、分かった事がいくつかあります。それは―

 

・一個体の存在を示している。

 

・その存在は恐らく火山地帯にいる。

 

・終末、終焉を齎す事ができる。

 

 ―と言った事ですね」

 

「ヤバいじゃニャイか!」

 

 涼しげな顔で恐ろしい情報を口走ったハンターにアイルーは思わずツッコミを入れる。火山地帯に棲み着くモンスターは皆手強い上に単独で終焉や終末を齎す事ができるモンスターなど最低でも古龍と同等以上の影響力を持っている事になる。

 

「まあ、なんとかなるでしょう。脅威を退け、人類を守るのが、ハンター(私達)の役割ですから」

 

「割と脳筋だニャア旦那…」

 

ハンター生活(これ)が生き甲斐なので。それに―一人じゃないので」

 

 隣でモグモグと料理を頬張っている女ハンターをに視線を向けて、微笑を浮かべる。その視線に気付いたハンターはニタリといたずらっぽく笑みを浮かべた。

 

「お?お?これはひょっとして告白ってこと―「あっ、それはないです」

 

 からかってやろうと画策していたが、笑顔で、しかもわざわざ割って入って来た事で勢いよく料理に顔を突っ込んだ。

 

「なんでよ!こんなに良い女なのに!!」

 

「嬢に春が来る事はないニャア」

 

「まあ、その分色眼鏡で見たりはしないんで安心して下さい」

 

「おい!ヤメロォ!まるで私が『モンスターを狩ることしか取り柄がない女』みたいになるだろォ!?」

 

 賑やかな屋台から、独身女の悲痛な叫び声が響き渡った。ささやかな日常の、少し風変わりな一幕として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー、なんかすっげえ久し振りだなー」

 

 海原に面した村の桟橋。一人の青年―ハンターが肩を回しながら歩いていた。その表情からは疲労も見られるが、それ以上に安堵感が上回っている事が見て取れた。

 

「ウ〜ム、やはり村の空気もたまには良いもんだっチャ!」

 

「腹が減ったンバ…まずはメシにするンバ!」

 

 その後ろを、小さい影がトコトコと着いて行く。どんぐりとハサミを模したようなお面を被っており、小さな身体でありながらぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 

「あ!お兄ちゃんだー!」

 

「帰って来たー!」

 

「おーう、戻ったぞー。お前達も変わらねえなー」

 

 そうして帰って来た彼らの様子を見て、村の子ども達が騒ぎ始める。どうやらハンターの事を知っている様子であり、ハンターも子ども達と親しい間柄のようだった。

 

「ハンターさーん…!」

 

「お、来たな」

 

 村の方からハンターを呼ぶ声と共に、一人の若い女性が走って来る。赤を基調とした、受付嬢の服装を纏っていた。

 

「はふぅ…お疲れ様です!もうギギネブラやイビルジョーに頭からぱっくんちょされたんじゃないかって心配だったんですよー!!」

 

「そんなジョークが言えるなら、特に問題は無さそうだな」

 

「酷い!本当に心配してたのに!」

 

 受付嬢とテンポの良い会話を交わしつつ、村全体を見渡すが、特に村のどこかが破損していたり、雰囲気が深刻という事もない。

 

「おお!戻ったか!忙しい中すまんな…」

 

「お疲れさん!忍びないかもしないが、ゆっくり休んでくれ」

 

「あざっす。後で森の様子だけ軽く見に行って来るんで、そこからちょっと休みます」

 

 年配の村長とその息子から労いの言葉を受けると、武器と上半身の防具だけ脱いで軽く休憩する。

 

「おお、相変わらずすんごい身体ですね」

 

「そりゃ防具着込んでクソデカ鈍器振り回すわけだからなぁ。柔な身体じゃいられねえよ」

 

 クエストカウンターの側で食事を取りながら、再び受付嬢と他愛もない会話をする。

 

「大怪我はないみたいですけど、どっかイカれちゃったりしてないですか?」

 

「ちっさい打撲や傷は絶えないけどな。その辺は気にしてたらキリがねえし」

 

 鍛え上げられた肉体に細かい傷跡があるのを見て、受付嬢は目を細める。気丈で元気に振る舞う彼女だが、この村は彼女にとって大切な場所。本来はタンジアギルドでもっと重要な役職に就く筈だったのだが、その権利を投げ捨ててまでわざわざこの村―モガの村の受付嬢として働く事を決めたのだ。

 

「そう言うこっちはどうなんだ?見た感じは何も無さそうだが…」

 

「モンスターが荒れたりって事はないですよ。()()()()()()、大人し過ぎるぐらいです」

 

「確かに森の方は静かだと思ったが…」

 

「森だけじゃないですよ。海原で確認されてたラギアクルス亜種だっていつの間にか姿を見せなくなって、漁師さん達が不漁続きで参ってましたよ」

 

 この村から徒歩で行ける場所に“孤島”―または“モガの森”と呼ばれるフィールドがある。このフィールドは時に本来火山地帯や砂漠地帯に生息しているモンスターが顔を出す程の魔境なのだが、ここ最近は驚く程に静からしい。

 

「こっちはそんな事になってたのか…」

 

「? 他のフィールドは違うんですか?」

 

「違うも何も種類問わず皆警戒してたり暴れ回ったりで滅茶苦茶だせ。ユクモ村なんかもうちょいでアオアシラが突破する所だったんだから…」

 

「間一髪だったわけですね。…私達もハチミツを大量に備えておくべきですかね?」

 

「いくら渡した所で帰っちゃくれねえだろ…そうなった方が異常だぜ」

 

「…本当にお疲れのようで…今回の遠征はちゃんと意味のあるものだったんですね」

 

「おい、そりゃどういう意味だ?」

 

「普段の素行を振り返ってみて下さい。答えが出る筈ですよ」

 

「うぐ…」

 

 少し棘のある言い方にハンターはムッとするが、受付嬢の言葉にあっさりと丸め込まれる。

 なにせ普段は集会場に入り浸っており、村に帰って来る回数もかなり少なく、恐暴竜が接近した際にも他のハンターが対処したという事が一度や二度ではない。どれだけ実力を着けても村付きのハンターである事に変わりはないので、職務放棄で訴えられてもおかしくはない―というか、並のハンターであれば普通に資格没収である。

 それが許されるだけの実力と実績があり、周囲の人間からも理解が得られているからこそ、彼の振る舞いも許されているのだ。

 

「もう何日かすれば戻っちゃうんですか?」

 

「そうだなー。調査を含めてもモガの村(ここ)にいられるのは三日ってとこだな」

 

「そうですかー…お土産、楽しみにしてますね。私タンジアチップスが欲しいです」

 

「そこはせめて『気を付けて下さいね』の一言ぐらいあっても良いだろ!俺の優先順位はタンジアチップスより低いのか!?」

 

「大丈夫ですよ〜!気を付けて行く事ぐらい知ってますし、ハンターさんなら片腕だけになってもタンジアチップスを届けてくれるって信じてます!」

 

「いやまあ買っては来るが…片腕は無理だぜ、流石に…」

 

 いつも通り巫山戯て―しかし誰よりも信頼してくれている事を肌で感じながら、ハンターは束の間の休暇を満喫するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オババ様、お久しぶりです」

 

「お〜お帰り。無事で何よりじゃ…」

 

 雪深い山の側に存在する小さな集落。焚き火をいじっていた竜人族の老婆―この村の村長―に、一人のハンターが頭を軽く下げて挨拶していた。ハンターは忍び装束を彷彿とさせる黒い装備を身に纏い、その振る舞いからは彼の繊細な技術が見て取れる。

 

「眉間に皺が寄ってるのぉ。積もる話もあるじゃろうが、まずは休んでいきなさい」

 

「…オババ様にはお見通しですか。それではお言葉に甘えて、報告を終えたら休ませていただきます」

 

 そうして村長に挨拶を終えたハンターは、村長から少し離れた場所に佇んでいる特徴的なコートを纏ったアイルーに近付いた。

 

「…戻ったか、まずはご苦労。長旅で疲れただろう」

 

「いえ、古龍なんかとドンパチやり合ったわけではないので。疲労困憊ってわけじゃないですよ」

 

「そうか。ならば簡潔に結果から聞こう。―()()()()()()?」

 

 アイルーはその小柄な身体でありながら、愛嬌どころか威圧感すら伴って質問する。気の弱いものであれば思わず後退りしそうなものだが、ハンターは特に動ずる事なく―しかし深刻そうな表情で答えた。

 

「…いいえ、手掛かり一つ見つかりませんでした。やはり村を出てからの消息が実質不明となっているようです」

 

「…そうか…」

 

「申し訳ない。能無しと言われても否定できない体たらくですね」

 

「いいや。君に限って怠惰からなる見落としがあったとは思えない。となると…単純に噂すら届かぬ辺境にいるのか…あまり考えたくはないが、()()で人知れず犠牲になったかのどちらかだな」

 

 アイルーの想定に、ハンターも表情を険しいものに変える。絶望に近い結果だが、二人共心が折れたわけではなかった。

 

「取り敢えず、もうこれ以上不安定な策を取るわけには行かない。厳しいが、今ある戦力で考えるしかない」

 

「君には各地の応援と状況把握に努めて欲しい。君の類稀な諜報、索敵能力は貴重だ。カムラの里かエルガドにいるだろう“ウツシ教官”という人物と連携すると良い。少し癖のある人物だが、実力は本物だ」

 

「百竜夜行を鎮めたという里の教官ですか…それは期待できそうだ」

 

 最近話題となった里の教官の名前に、ハンターは思わず心躍らせる。強さに大きな執着があるわけではないが、他のハンターの持つ技術には興味がある。

 

「とは言え、まずは休みたまえ。君も特級の戦力なのだ、いざという時に動けないようでは困る」

 

「…手厳しいですね。分かりました」

 

 アイルーの不器用な優しさに和みつつ、ハンターは肩を回しながら自らのマイハウスに向かう。久し振りでも優しく出迎えてくれる村人達と会話をしながら脳裏に自身が探すように言われたとある人物の姿を思い浮かべる。

 

(黒い龍を模したような装備…あれは何のモンスターのものなんだ…?)

 

 その人物については何も聞かされなかった。アイルー―ネコートさんからの依頼は詳細が語られない事がほとんどなのでそこは良いのだが、そのハンターについて調べてみると疑問が浮かんでくる。

 そのハンターはまだ今程ハンター業が栄えていなかった頃、あの一角竜を討ち取り、老山龍を撃退した程のハンターだ。それからも功績を重ねて、伝説とまで謳われる程のハンターになったようだ。そしてある時を境に「旅に出る」と言い出し、ジャンボ村でも実績を叩き出していた時に、とある調査から帰還し、謎のモンスターの素材を使った装備を身に纏ってから、忽然と姿を消したのだそう。

 当然村人達が総出でフィールドまで探し尽くしたそうだが、結局そのハンターの痕跡すら見つける事ができなかった。

 

(しかも、その直前に行った場所が―)

 

 しかし、ハンターには心当たりがあった。今まで調査に赴いた者達が、皆例外なく不幸に見舞われた場所。

 

 

 

 

 

(旧シュレイド王国。あの場所には何がある―いや、何がいるんだ?)

 

 

 

 

 

 最近更地と化した王国に、マスターランクまで至った自分でも見たことのない装備。明らかに関連性があるとしか思えないその情報に、彼の不穏なざわめきが収まる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んん?」

 

 深い森の中、一人の狩人が目を覚ます。あまり目覚めはよくない様子で、何度も目をこすっていた。

 

「なんだ、随分騒ぐな」

 

 そんな中、何処に視線を向けるわけでもなくふと呟く。

 

「…また暴れるってか?良いぜ、上等だ」

 

 しかし彼には何か見えているのか、不敵な笑みを浮かべつつ啖呵を切る。

 

「何度来たって追い返してやるよ。あまり人類を―ハンターをナメんじゃねえ」

 

 そう言って笑みを深めた瞬間大きく風が吹き、周囲の木々がざわめいた。まるで何かの怒りを示すかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―“ヨミガエリシデンセツハ、ムゲンノユウキをモツエイユウにヨリ、ウチホロボサレル”。黒龍伝説の最後の文だ」

 

 その時大老殿では、大長老が黒龍伝説の続きを教えていた。それを聞いた研究者達は、思わず笑みを浮かべた。

 

「“ムゲンノユウキヲモツエイユウ”か…心当たりがあり過ぎるね」

 

「ええ、彼らのおかげで今までも乗り越えて来ましたから」

 

 最近であれば“猛き炎”、“蒼い星”と称されるハンターを筆頭に、英雄に相応しい者達は確かにいる。

 

「とは言え、だったら尚更あいつらだけに任せるわけには行かんだろ」

 

「彼らの消耗を抑え、どれだけこちらに有利な状況で迎え撃てるか。それを考えねばならんな」

 

 そしてそうなると、自分達の役割も自然と見えて来る。下手に戦おうとしても自分達では足を引っ張るだけ。ならば自分達が最も力を発揮できる所で勝負すれば良い。そうすれば自ずとハンター達にとっても有り難い力となる。

 

「ウム!その意気や心強し!それで今回はここで終わりとしよう。今後の方針、動きに関しては後々こちらから通達する。以上、解散!」

 

 そして大長老が総括に入り、締めの合図として持っていた大太刀で床を叩くと、鈍く低い音が反響した。集まっていた者達も部屋から退出して帰路に着くが、皆やりたい事があり過ぎるようでウズウズしていた。

 相手は最低でも伝説、下手をすれば世界そのもの。しかし誰もが前を向いていた。今まで乗り越えて来たように、今回も全力を尽くすだけだ。

 人類の底力の見せ所だった。




閑話なのにここまで長くなるってマ?会議だけの筈だったのになあ!

主人公達に関しては私の中での勝手なイメージです。ご了承下さい。

評価、感想もよろしければお願い致します。

それでは次回をお楽しみに。

メインモンスター+αでコイツが好き

  • リオレウス
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  • クシャルダオラ
  • エスピナス
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