「なぁ、アンタがドクターキエリか? あの銃剣くれ」
「えっとどちら様?……」
「オレの分も頼むぜ、キエリさんよぉ」
「何これパンダが喋ってるゥゥ!?」
虎杖悠仁とか言う凄い人造人間が高専に来て、それに例のけんじゃく? さんとお話ししてから1週間くらい経った。
その間にも、僕は必死になって呪術の勉強を進めている。けんじゃく? さんから色々と宿題を貰ってきたから、今はそれを解くのに必死だ。けんじゃく? さんの宿題は的確で間違いが無い。解けば解く程呪術が理解出来るの。ホントに凄いのよ、これマジ。
それに高専の資料や文献も潤沢だし、僕の呪術ライフはまあ良い感じに推移している。なんやかんや、呪術高専に来て良かったかなぁ、何て思っているのさ。
「その、何なんですか、そのパンダ……」
「パンダはパンダだぜ、宜しくな……」
「は、はぁ……」
このパンダは名前もパンダと言うらしい。ちょっと理解出来ない。取り敢えず理解できる方に話しかける。
「それで、そちらは禅院、真希さんでしたっけ? ガットブロウなら今在庫が尽きてて」
「在庫が尽きてる? それ何とかならねぇのか? 後禅院じゃ無くて禪院な」
「えっ禪院? ……あーはい。えーっとそれと、ガットブロウの引き渡しは当分無理です。今量産化計画が進んでるので、それ待って下さいね」
「お、量産化計画? 凄い事考えてんじゃねぇか。流石は天才だなぁ」
「別に天才って程じゃ無いです、よ?」
ガットブロウを伏黒さんに、そして釘崎さんに渡してから、高専中に物凄い勢いでその性能が知られ、噂が伝播した。今ではどいつもこいつもガットブロウを欲しがってて品切れ状態。いよいよ量産化が待たれる感じになっている。
ここまで話が進むとかあんまり思っなかったけど。でも、
「ツナ」
「……あっぇ、その、えっと、え……っぃ、な、何言ってるんです? 僕米とか嫌いなんですけど?」
「おかか」
……全然理解できない。この人何? これ、どう言う意味? 何なんですか?
「コイツは狗巻棘。術式が呪言っていうちょいと特殊な奴でな。喋った事が術式の媒介になっちまうのさ。だからこうして無意味なおにぎりの具で喋ってるって訳よ」
「しゃけ」
「……さ、さいれすか。はぁ、呪術高専って変な奴ばっかりで着いていけません」
「いや、お前も大概変な奴だろ」
「それ何でですかァァ!!」
ガバッと机を立って叫ぶ。僕は変な奴!? 、そんなの有り得ないでしょ! 僕は普通ですよォ!!? 、普通の天才大学院生ですよぉ!?! 、今はちょっと休学してるだけでぇ!!
「ははは、そうだなぁ。コイツが一番変だ。何せ術師でも無いのに高専に入って、呪霊も見えないのに特級まで行ったんだからな。正真正銘、本物の天才だよ」
「……しゃけ」
「……はぁ、そーですか。んー、でも違うんですぅ、僕は普通なんですぅ、僕は異常者じゃ無いもん、異常者なんかじゃ無いしぃ……」
「そりゃ嘘だろ、お前そんな事考えてたのか?」
うー、酷でー奴ぅ、僕の考えを嘘扱いした真希さんの方を見る。あの眼鏡、呪霊を知覚する為の呪具だ。僕が五条先生に貰って、今掛けてるのと同じタイプの眼鏡。どうやら素の状態では呪霊が見えないらしい。と言う事は、真希さんは非術師? ……いや、これ、非術師ですらも、無い? 何なん? 真希さんどう言う身体してるの? こんな身体見た事無いよ? ホントに何これ……。
「な、何これ……真希さん、もしかして誰かと魂が癒着してる? 癒着の相手は、多分肉親……姉か、妹? 分かんない。でもこれを断たないと、互いが足を引っ張り合うけど……」
「ん、んなっ、真依の事分かるのか?! 、それに魂が癒着してるって」
「えっと真依って誰ですか? ……それと、魂が癒着……て言うのは比喩表現で、実際にはその真依? て言う方と呪力が一体になっているんです。その癒着を切除すれば、副次効果ですけど、どっちもが大幅にパワーアップしますね」
「ど、どうすれば良い、それ! 、頼む、お願いだ! どうか教えてくれ」
「う、うぇぁぁぁっぃ、んんっぐぁぇぇ♡♡♡、無理ぃっ、止めてくださ、ぐぉぉっううぅ、ぃぎぅえぇ♡」
「まあ一旦待ちなよ。話を聞いてやれ、真希」
「ツナツナ、しゃけ」
パンダが真希さんを制止して、やっと話せる様になる。ゴホッ、ゴホッ、あ、あーぁぅ、ん……、うぅ、パンダの癖に常識人……。改めて真希さんについての所見を話し出した。
「と、取り敢えず、その、真依さんとやらを呼んで来ない事には話にならないですね。それで癒着を切除する方法は、んー、魂を弄るか、或いは真依さんか真希さんのどちらかが死ねば良いと思いますけど、死ぬのは無しです。でも魂を弄る方法なんて物は無いので、代わりに手術で脳の一部を切り離して、間接的に魂まで干渉します。それで脳機能を維持しながら、癒着も切り離せる筈ですよ」
「つまり、脳手術か……、でもそれ脳を弄るんだよな。どうすれば出来る?」
「アハハ、そのくらい僕に任せてくれれば。チャチャチャって仕上げちゃいますよ。後遺症なんて残しません。ファティマ・マイトって言うのは最高の医師でもあるんです」
「ただ、まずは真依さんとやらをここに連れて来て下さい。真依さんと真希さんの所見を確認してカルテを作ります。手術の話はその後です」
「ああ、分かった。じゃあ直ぐに連れて来る」
そう言った後、バタバタと物凄い勢いで廊下を走って行った真希さん。正直速すぎて見えないです。
「それにしてもスゲーんだな、ファティマ・マイトって」
「別にそんな事有りませんよ。それに、観察しましたけど可笑しいのはパンダさんも大概ですよねぇ。貴方、魂が3つあるでしょう。しかも内向きに互いを向き合ってる。それどう言う意味なんですか? 魂が3つもあるなら外向かせて外部を警戒した方が効率的でしょうに。そんなマギシステムみたいな……」
「んなっ、そ、それに気付くのか。恐るべしだな。矢張りキエリ博士は素晴らしい異常者だ」
「しゃけしゃけ、こんぶ」
「だから異常者じゃ無いもん!!!」
「あーもぅ今日も疲れた、エーオース、お願いね」
「はい、お任せを」
キエリ博士は可愛い。いえ、余りにも可愛い過ぎる。最近は五条先生から渡された呪霊知覚用の眼鏡を掛ける様になって、尚更可愛さに磨きをかけた。
美しい水色の髪、子供の様な愛らしい瞳。身長が低い所も可愛いし、そして何より、
「それにしても、マスターは女性に対して無警戒過ぎです。そんな事では勘違いさせちゃいますよ」
「えー、勘違いしてくれるならそれでいーじゃん。僕モテないんだもん、誰でも良いからモテたいんだよこっちは、さっさと彼女ほしいし結婚したい訳。分かる?」
「はぁぁ、そう言う所何ですけど……」
ドクターキエリはちょっと気持ち悪い。可愛いくて天才なのにモテたい願望剥き出し。でも、そこが可愛いと思うのが、私だけだとは思えない。
「はー、んっぅぅ、ん、呪術の論文、もっと沢山書きたいなぁ。最近勉強が楽しくてしょうがないよ」
「そう言えば、休学中の大学院から連絡が来ていましたよ。呪術論文についての問い合わせ、物凄い数の催促です。どうやら博士の研究が気になってしょうがないみたいですね」
「んー適当に答えとく。催促メール見せて」
「はい」
「あー色々来てるなー。合計何万通? だろ。これなら優先度高いのだけ答えとこ。後はほっとく感じで」
ノートパソコンを提示すると、キエリ博士は凄まじい勢いでタイピング。大量のメールに片っ端から返信を返して行く。
「それと、こちらを」
「ん? アメリカ軍? ……あージャクソンか。LEDミラージュの事かな……。そろそろGTMに改装したいし」
ジャクソン・ウェルベック・タイン。アメリカ軍に所属する軍人にして、騎士の力を再現する為に生まれた地球史上初のサイボーグ。彼にはドクターキエリ特製のファティマまで与えられていて、アメリカ軍が導入した最強のロボット。モーターヘッド「LEDミラージュ」のヘッドライナーという事になる。
「改装はYESって事で……真希さんと真依さんの手術もあるし、さっさとやっちゃおう」
「分かりました。では、予定に組み込みます」
女性関連はだらしないけど、こうして研究の話になると的確で迷いの無い判断を下せる。その凛々しさも素敵なんですよ。
(ホント、貴方を慕っている方は、直ぐ目の前にでも居るんですよ?)
「はぁ、もぅ、僕を慕う様な奴なんて誰も居ないんだからさ」
後、自己評価が低い所も問題ですね。
「さて、どうですか?」
「ん、ぁぁ、大丈夫、さ……」
「んんっ、くっぅぅ、む……」
手術が一通り終わってから、僕は真希さんと真依さんに一通り声を掛けた。
2人には手術用の麻酔を掛けて睡眠させたから、まだ意識が寝ぼけているようだ。まぁ、これは時間経過で治る。毛布を被せて寝かせておいたからそれで十分。問題は、そっちじゃ無い。
(ちょっと脳の一部を切り離しただけなのに。何なんですか、これ……)
ベッドに入れた後、改めて今回記録したカルテを見直す。
真依さんもそうだけど、真希さんの肉体は特に可笑しい。強過ぎる。気持ち悪い。何なんだろうこれは。人間の域を見るからに超えてる。正直、いつ捻り潰されるのか分からなくて、触りたく無いんですけど。
「真希、さん、これ、何? どうなってる? 何で呪力が完全に0になったんですか? 、たかが脳の一部をちょっとだけ切り離したくらいで。これ、ホントに何?」
「んーフィジカル・ギフテッドだねぇ。これは」
「えっあ、五条先生?」
この手術については高専側にも連絡を入れて許可を得たし、五条先生が来るのは想像出来た。でも、フィジカル・ギフテッドって何です?
「呪力が完全に0になった人間は、失った呪術の代わりに規格外の身体能力を獲得する。真希の血縁に同じ力を持った奴が居てね、いやー、良く覚えてるさ」
「そ、そんなの、有りですか? ……呪術ってホントに規格外ですね……」
五条先生はそう解説した。フィジカル・ギフテッド? そんなに面倒な物があるのか……それけんじゃく先生にも教わってないのに。
「そんなのけんじゃく先生にも教わってないですよ……、底が知れませんね、呪術って」
「んっ? けんじゃく先生? 、それどう言う意味だい?」
「けんじゃく先生は、えっと、その凄い奴何です。最近良く夢に出て来る和服の変な奴なんですけど、僕に呪術の事一杯教えてくれるんですよ。それが凄い分かりやすくて、参考になって、おまけに宿題まで用意してくれるんです」
「あー、成る程。分かった、有難う。ねぇ、その和服の変な奴って」
その瞬間、怖いと思った。恐怖が全身を走る。五条先生の雰囲気が変わったのだ。殺すか殺されるかの死地に入ったかのような雰囲気。そして、言う。
「どんな外見だった」
「……っ!? 、ぅ、その、えっと、袈裟を着けてました、五条袈裟です。身長が物凄い高くて190cmくらい、黒髪の男性です。それで、額にテープが有って、構造からして多分、テープ内の脳の中身が入れ替わってます。多分、自分の脳を収める肉体を作り出す術式か何か、だと思うんですけど」
「……そうか。有難う、すまないね」
五条先生の雰囲気が元に戻った。思わず安堵する。はぁ、着いていけない。
僕は、けんじゃく? 先生は術式か何かで肉体を創造出来るのでは? と思っている。その創造した肉体に自分の脳を収めるのでは無いだろうか。それが予測なのだけど。
「呪術師としてはやっぱり甘いね、お前は」
「……えっ?」
「いや、何でも無いさ。術師じゃないんだ、別に甘くて良い。厳しい部分はこっちで背負うさ」
「……えっ? 、いや、どう言う意味」
「何でも無いよ、じゃあね……それと、真希と真依の事、良くやってくれたね、感謝するよ」
「はえっ感謝? ……あ」
そう言った途端、五条先生はいきなり消えて居なくなってしまった。
「はぁ、どうしよ……でも取り敢えず、真希さんと真依さんの様子見なきゃ」
がシャゴォォォォンン!! 、校庭に凄まじい轟音が響いた。真希さんの暴れる音だ。真希さん、訓練なのに完全に弾けちゃってる。
「何なんだよあれ、真希先輩ホントにヤバい事になってんじゃん、どうしたんだよ一体」
「うわぁ、真希さん強すぎない? どうなってんのよ……」
手術の後、真希さんが酷い事になった。なんか怪獣みたいにとんでも無く強くなってしまったのだ。凄い! 凄過ぎて怖い!
「ねぇ、真希さんあんな事にしたのお前何でしょう!? 説明しなさいよキエリ!」
「あ、あわわっぃぃ、ぐぇぇっぇ、んぃっぐぅぅっぁぁ……」
「ちょっと待ってやれ釘崎、それで、俺からも頼むよ。説明してくれないか? どうして真希さんはあんなに強くなったんだ?」
「そ、そのぉ、双子の姉妹とぉ、呪術的に存在が一体と看做されててぇ、脳手術で魂の繋がりを切り離したらこんな事に、ぐぇっ、ぐぇぇぃ、っぅぅ」
「えっ嘘、そんな事あるかよ? マジ?」
伏黒の問い掛けに何とか答えて、驚いた虎杖がそう言った。僕は解放された後もぐえぇっしてる。そこに
「聞こえてるぞ、その話」
「えっ真希さん、嘘?」
「この身体になってから聴覚が良くなったんだよ。今の私は地獄耳さ」
さっきまで訓練してた筈の真希さんがいきなり目の前に。ひ、ひぇっ怖っ!
「す、すげーなそれ! 今の真希先輩無敵じゃん!」
「そうでも無いさ。強くなった所で結局五条先生には勝てないしな。それと」
「有難う、木衿。お前のお陰で私達は禪院家をぶっ潰せる。もう私の禪院家当主入りを阻む奴なんて居ない。例え居ても力づくで黙らせてしまえば良い。直哉の事も」
「禪院家? い、いや、禪院家って呪術界の御三家ですよね。何でいきなり当主がどうのこうのの話に……それに直哉って誰です?」
「要するに感謝してるって事だ。細かい事は別に分からなくても良い。柄じゃ無いが、お前の為なら、いずれ借りを返すくらいはやる。私も、真依もな。それは覚えておいてくれ」
「は、はぁ、えっと、覚えときます。はぃ……」
何言ってんのか大半分かんないけど、一応曖昧に返事しといた。これでも感謝してるって言うのは分かったし。
「ふふ、良かったですね、マスター」
「まぁ、そうなんでしょうけど、はい……」
「うおおお、凄え! これ感動的なシーンじゃね!?」
「五月蝿いです虎杖」
そう言って、僕は虎杖を掣肘した。それで出来たのかは知らん。