転生先はFSSだと思ってた   作:Delphinus

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呪術高専 6 京都

「あはは、ふふ、見慣れたクソつまんない景色が今日は輝いて見えるわ。これも全部キエリのお陰ね」

 

「そ、そこまでの事は流石にしてませんよ?」

 

「したわよ! 貴方は私をクズの巣窟から救ってくれたもの! 私、もう思い通りに生きて良いのよ? 最高に幸せ。ふふふ、本当に嬉しいんだから」

 

 たかが簡単な脳手術くらいで、流石にそれは過剰評価じゃ無いでしょうか……。真依さんと京都の道を歩いている。真依さんにとっては見慣れてつまらないらしいけど、僕には新鮮で普通に面白い。こんなに日本らしい道、歩くのは久しぶりだ。

 

「この道、綺麗ですねぇ……」

 

「そう? 所詮はドブの掃き溜めでしょう。でもぉ、貴方がそう言うと本当に素敵に見えて来ちゃうわ」

 

「は、はぁ……成る程?」

 

 この道、見るからに美しいのに、真依さんにとってはドブの掃き溜めらしい。こんなに綺麗なのに、驚くべき事ですけど。

 

(でも、仰る通りの真実は有るのかもしれません……)

 

「そう言えば、永野護は京都の出身でした。それに服飾デザインにも定評が有ったんです」

 

「ん、永野護? 誰それ? 普段なら鬱陶しい薀蓄とか適当に聞き流すけど、今は最高に気分が良いわ。聞いてあげる」

 

「あっ聞いてくれます? 永野護はファイブスターストーリーズの原作者で……」

 

 永野について一通り喋る。真依さんは興味なさげだったけど、一応ちゃんと聞いてくれた。

 

「済みませんね、興味無い事言って」

 

「いいえ、貴方が言うなら興味出たわ。それで永野の作品ってどこで見られるの?」

 

「見られませんよ」

 

「えっ?」

 

「この世界にはもう居ないんです」

 

「何よそれ。呆れた」

 

「正確には……」

 

 永野護はこの世界に居ない。残念ながら。非常に残念ながら。途轍もなく残念ながら! 

 

「ええ、嘘、あ、貴方転生者だったの……異世界チートで良い気に浸ってるだけだったの……」

 

「ええ、そうなりますね……ま、良い気に浸れるの最高に楽しいですよ?」

 

「分かるわー、それ最高よねぇ。努力せずに得た力は偽物だの、価値が無いって直哉の妄言でしょ。力が使えるなら何だって楽しいでしょうに」

 

「えっ直哉さんってそんな事言ってたんですか?て、ていうか、そもそも最高だから転生チート系が次々と出てくるんですよねぇ……」

 

「……でもそれで、転生前のお気に入りだったデザイナーが居ない、か。皮肉な話ね。……話を聞くに、大成しない内に呪霊に食われた可能性があるわね」

 

「あっそ、そう言えば……、それは盲点でした」

 

 ああ、この世界だと、呪霊に食われる可能性があるんだ……、永野護が呪霊に食われた? その可能性は正直考えていなかった。少し寒気がする。

 

「はぁ、話題が辛気臭くなったわ。さっさとデートスポットに行きましょう? こっちよ、バスに乗るの。案内してあげるから」

 

「ええ、バスですね、京都のバスは複雑で、お願いします。……はぁぁ、永野護が、呪霊に……、ま、真実は分からないんです。今は、兎に角楽しみましょう!」

 

「そう、その意気!」

 

 

 

 

「よし、そのままだ、まだだ、動きを止めるな」

 

「うあえぁ、無理っっぅぅ、ぁぁぁあっ」

 

 京都高専の訓練場に例の入れ替え術式で強制連行されて、東堂に鍛錬させられてる。東堂の術式は不義遊戯と言うらしい。こう書いてブギウギと読む。無駄にハイセンスで余計にウザい。手を叩く事で対象の位置を入れ替える術式。戦闘から日常生活まで、凡ゆる状況で役立つ万能術式のようだ。あー余計にウザい。

 でも今は東堂をウザがってる余裕すらも無い。キツい。只管キツい。訓練キツ、あああ、もう無理いぃ……。

 

「よし、もう直ぐだ、ほら、もう少し続くぞ、止めるな、もう少しだ」

 

「あ、あぁぁっぃぃ、うぇぇぇ、ぐぅぁぃぃ……」

 

 キツい。キツい。非常にキツい。辛いもう無理、止めたい! 止める! 

 

「もう無理いぃ……止めますね、止める」

 

「全く、根性が足りん。だから止めるな、続行だ」

 

 運動止めようとして、無理矢理再開させられる。ぐええぇ、これキツいあぃぃ……。

 

「ぐ、ぐえぇぁ……無理ぃぃ無理。やだぁぁ……」

 

「よし、止めて良いぞ、一旦休憩だ。……全く、呪術師どころか人として最低限の体力すらも無いのかコイツは」

 

「うえぇ、ぐぃぃ……」

 

 やっとトレーニングから解放されてゼーハー言う。苦しい、苦しいぃ。うえぇぇ。体育とか嫌いなんですぅ。

 

「うぅぅ、僕は体育から逃げる為に態々アメリカくんだりまで留学したのにぃ」

 

「……そんな最低な理由で留学していたのか。まぁ良い。お前の人格にはとっくに失望しているが、お前の能力は余りある。良いから少しくらいは鍛えておけ。そうすれば必ず役に立つ」

 

「嫌です! 鍛えるとか嫌だ!」

 

「ふん、これだから失望を止められん」

 

 木衿冬嗣、特級呪術師に認定された非術師と言う恐るべき存在。彼には術式が無いが、最低限の呪力はある事を不義遊戯で確認済みだ。不義遊戯は呪力を持った物同士を入れ替える術式、つまり最低限の呪力が無ければ入れ替えすらも不可能。もっとも、最低限しかないから非術師とも言えるのだが。

 

(全く、こんな奴でも死なれると困る。少しは生存率を上げておきたいんだがな)

 

 こいつの人格にはとっくに失望しているが、それでも能力は余りある。これは正直な感想だ。そして、

 

「大変だねぇ、東堂君」

 

「高田ちゃん!?」

 

 

 

 

「!? ぶぅぇっっ、な、何今の、あ、え、あれ、高田ちゃんって、何……」

 

 今、途轍も無く気持ち悪い物が現れた様な気がした。あれ、な、何、高田ちゃんって誰? 、ぐぇっぁ、気持ち悪いぃぃ……。こんなの見たくないぃぃッッッ

 

「ふんっ、高田ちゃんの気配に気付くとはな。その才能、矢張り腐らせるには惜しいぞ」

 

「と、東堂、今何やって、何考えたっのっ、ぐぉぇぇっ、気持ち悪っ、高田ちゃん、って、何、うぇぇぁ……」

 

 東堂、き、キモ過ぎる、本当に果てしなく無理。今日ほど色んな物が見え過ぎる事を後悔した日は無かった。ファティマ・マイトの才能なんて今日だけ返上出来ないかな! 割と真剣にぃっ、おええぇっ、ぐぇっぃぅぅ。

 

 そして僕は死んだ。あー、今日はもう無理みたいですね。

 

 

 

 

「はぁ、はぁぁっぁ、昨日は最低だった」

 

 昨日は東堂の精神攻撃が直撃して無事死んだ。ファティマ・マイトの能力は、見たものの解答が分かるという物。生まれた時点でこの世の全てを知り、学習せずとも解答を出してしまう。ただ、この能力は呪術とはどうにも噛み合いが悪い。呪術は非術師には見えないし、触れられない。だから九十九先生に教えて貰うまで、呪術なんて存在すら分かんなかった。見たものが分かるという事は、見えない物はどうしても分からないという事だ。でも、今回はこの能力が悪い方に、悪過ぎる方に作用したんですよぉ! 

 

(ファティマ・マイト、現行のfssではガーランドと言うんですよねぇ。でも僕的には何となくマイトの方が馴染みがあるから、マイトって名乗ってますけど……、ああ、でも、でもぉ! 今は東堂!)

 

 東堂は単にキモいんじゃ無い、本当に果てしなくキモいのだ! その事を嫌になる程思い知らされたんです!!! あ、あの精神攻撃、割と呪霊にも効くんじゃないですか!? 東堂の脳内世界を開示してぶつければ呪霊だって祓えそうです……祓えません? 割と真剣に。

 

「脳内高田ちゃんって、何……そんなの反則でしょ。絶対に対応出来ない。あんなの確実に死ぬ。あれ絶対に精神攻撃で呪霊か何か殺す気満々でしょ……」

 

 真依さんとデートして、東堂と訓練させられて、それ以外の時間は只管手術の準備。家入先生とも何度も連絡しながら、必要な物を調達して、手術室をセッティングする真面目な作業。昼間は作業して、夜は禪院家から借りて来た文献を読む。だから遊んでる余裕はそんなに無い。

 

「あの、キエリ博士?」

 

「あ、あれ、三輪さんですか? それに、西宮さん?」

 

 逗留している京都高専の校舎内、話しかけて来たのは、三輪さんと、西宮桃さんだった。

 

「えっと幸吉の手術、明日ですよね」

 

「ええ、そうなります」

 

 三輪さんはそう言った。真面目な顔だったからこっちも真面目に答える。

 

「あっ貴方がドクターキエリなのよね。聞いたわ、三輪ちゃんがサイン貰って、写真まで撮ったって! 私も同じ物が欲しいのよ! お願い」

 

「あはは、そのくらい構いませんよ」

 

 何時ものサインと、写真も撮る。僕と西宮さんのツーショット、エーオースも混ぜて3人分の写真、後三輪さんも含めて4人分の写真をそれぞれ撮影する。

 

「はぁぁ、最高よこれ。最高に可愛いじゃない。ああでもごめんなさい。もうすぐ幸吉の手術なのに、遊びに巻き込んで」

 

「あはは、お気になさらないで下さい、そんな事くらい」

 

 サインを書いて写真を撮った後、西宮さんはそう言ってちょっとだけ詫びた。それから、三輪さんが

 

「それと、明日の手術何ですけど、大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫ですよ。手術室の手配は出来ましたし、必要な機材と薬品も揃っています。今日中には家入先生も来ますから、明日いきなり特級呪霊が襲撃してでも来なければ大丈夫ですよ」

 

「そ、そっか、どれだけ準備しても、特級呪霊が来たら全部無駄になる……わ、私、明日は予定返上して警備に出ます!」

 

「あっ、それ私も行く! 、幸吉の為だし、ちょっとくらいは頑張るわ!」

 

「あはは、まあ程々にして下さいね」

 

 何だかやる気満々の三輪さんと西宮さん。まぁ、頼もしいのは良い事です。その辺りで、ふと聞きたいと思っていた事を思い出した。

 

「あっそうだ、京都高専に置いたプラモシュミレーターはもうやりましたか?」

 

 東京高専に置いているのと同じタイプのプラモシュミレーター、それを京都高専にも設置したのだ。名目上は訓練用でゴリ押しして、使い方も解説して、実際にプレイもして見せたんだけど。

 

「やりました! 凄いですよねアレ! リアリティ抜群で!」

 

「あはは、それは良かったです」

 

 三輪さんからは好印象らしい。西宮さんは、どうだろ。

 

「悪くはないと思う。でも、訓練用ならもっとリアルに、生身の身体と同じ感覚でゲームが出来る方が良いと思うわ」

 

「そ、そうですか。まぁ、訓練用の名目は方便ですから」

 

「ええ、方便?」

 

 西宮さんはそう言って訝しんだ。僕は慌てて、思考を明日の手術についての方に傾ける。

 

(さぁーて、どうなりますかねぇ)

 

 手術の自信は、ある。それに、切り札のバイオリレーションシステムも。バイオリレーションシステムと反転術式を組み合わせれば、どんな手術の失敗も巻き返せる。間違い無く、確実に。

 

(まぁ、明日次第です)

 

「すみません。僕はこの辺りで。さ、早い内に休みますよ、エーオース」

 

「分かりました。三輪さん、西宮さん、また今度に」

 

「はい、幸吉の事、どうかお願いします!」

 

 

 

 

 京都から、帰りは新幹線だ。僕とエーオース、そして家入先生の3人、そして見送りの方。京都駅のホームに立っている。

 

「はぁ、そう言えば、折角日本に戻ったのに、広島帰って無いなぁ」

 

「広島? 確か出身は広島だったか?」

 

「ええ、そうですよ。出身は広島市です」

 

「核兵器と戦争が嫌いって、もしかしてそう言う意味なのか……」

 

 与幸吉さんはそう言った。駅のホームまで、態々見送りに来てくれたのだ。

 

「ええ、まあ間違ってませんよ……それにしても、良くそんな事覚えてますね」

 

「覚えるさ。俺は、仲間の事は少しでも多く覚えておくのが主義なんだ」

 

「仲間? あー仲間になった覚えは有りませんが……」

 

「そんな事無いでしょう? 私達はとっくに仲間ですよ! 例え居場所が離れていても!」

 

 三輪さんはそう言って首肯する。ふーん、あー仲間ですか。何年も全く考えて無い言葉、中々に意外感を覚えた。

 

「……そう言えば、今までさっぱり考えた事有りませんでしたねぇ、仲間だの何だの」

 

「あら、そうなの?」

 

 真依さんがそう言って首を傾げる。ホントに考えて無いのだ。それに、家入先生が、

 

「良いじゃ無い、青春よ、仲間」

 

「僕は大学院行ってたので。青春とは程遠い物ですから、先生」

 

 家入先生の言葉に、僕はそう返す。それと、はぁ、東堂が……。

 

「それにしても、もう帰るのか。まあ仕方あるまい。東京に戻っても訓練を怠るんじゃ無いぞ?」

 

「嫌です、全力で怠らせて頂きます」

 

「そこは真面目にはいと言っときなさいよ……」

 

 西宮さんがそう言ってしょうがなさげに首を振る。

 

「貴方に死なれると困るの、冗談抜きで。倒れると呪術界も倒壊するわ」

 

「えっと、呪術界ってそんなに悲惨な状況なんですか?」

 

「ま、比喩表現よ。元気になさい。トレーニングは忘れずに」

 

「そこは忘れます!」

 

「それにしても良かったよ。幸吉の手術、上手く行ったようで」

 

「ええ、加茂さんもありがとうございます。すみませんね、血液補助型ガットブロウ、約束したのに用意できなくて」

 

「心配しないで良いさ。そんな事はまた今度でも良い」

 

加茂さんはそう言ってくれた。約束破ったのに、ちょっと申し訳無い。

 

「ふふ、もうすぐ列車が来ますよ。マスター、家入さん」

 

 ホームに響く高音。新幹線が来る。ドアが開いた。そろそろ別れの時間。

 

「はぁ、折角だし、私も今から東京観光と洒落込もうかしら」

 

「あ、それ良いですね! 私も行きたいです! 真依先輩!」

 

「流石に程々にしとけよ、チケット持って無いんだから」

 

 はしゃぐ真依さんと三輪さんを幸吉さんが宥めた。僕達は歩き出す。

 

「では、今回はこれにて、皆様さようなら」

 

「皆様、本当に有難う御座いました。マスターも喜んでいます」

 

「そこまでは、流石に喜んでいませんよ……」

 

 エーオースの勝手な言葉を修正する。そして、家入先生と一緒に新幹線に乗り込んだ。

 

(……はぁ、それにしても、バイオリレーションシステムか)

 

 ドクターキエリとエーオースの影が完全に見えなくなったのを確認してから、車内の奥、自動販売機の前で一息つく。ドクターキエリについてまた一つ懸念点が増えた。ただでさえ懸念点が無限に有るというのに。あのバイオリレーションシステムは、本当にとびっきりにやばい。

 

(仕様を聞いた時点で既にヤバさは分かってたけど、実際に稼働する所を見ると、想像以上だわ)

 

 バイオリレーションシステム自体は、ゴチックメードに比べて脅威性が有ると言う訳じゃ無い。危険度は間違い無くゴチックメードの方が上。ただ、あれは呪術との親和性が高過ぎる。応用が利き過ぎるのだ、余りにも悪用しやすい。上層部は間違い無くアレを狙うだろう、下手に情報が漏出すると、命を狙われる危険性が途轍も無く高い。

 一定の範囲内の人々から、収集されている事すら気付かない程僅かな生命力を収集し、莫大なエネルギーを任意の者に集約する馬鹿の極みのようなシステム。単純に呪力の集積だろうが、それこそ不老不死だろうが自由自在。悪用の幅が広過ぎる。本当に何でも出来てしまう。

 

(はぁぁ面倒臭い。御免けど、悟と、後学長にはアレの情報を明かすわよ。文句があるならあんな馬鹿みたいなシステムを作った事を悔やみなさい)

 

「馬鹿のお守りは本当に疲れるわ……あー、またタバコ吸いたい」




出身は広島:広島コロニーって情報無いねぇ、と思って設定。青森か岩手、愛知でも良かったかも。
主人公:精神攻撃には弱い。カブトボーグ出来ないねぇ
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