「よし、これで今日の仕事は終了!」
「お疲れさまでしたー」
僕、ことセイル・エイレンスは入社したガレリーナ社で終業時間を迎えた。
「エイレンスお疲れー。
予定通り、この後の飲み会は大丈夫だよな?」
先輩の男性社員に声をかけられるが、僕も楽しみにしていたので問題ない。
「ええ、明日は休みですし少々遅くなっても大丈夫です」
「おっしゃ、今日は有志の同性だけの面子だから、少々はハメ外すだろうけどな」
先輩は笑いながら帰り支度をする。
ちなみに少しお高めの飲食店で予約してるそうだ。
防音魔法で対策されてる部屋になるので、未販売ゲームを話題にしても大丈夫なようだ。
「ちなみに社長から福利厚生と社員の親睦の一環として一部負担もしてもらっている」
「ありがたや~」
「姉御~」
その言葉に他の先輩達が社長に向かって拝んでいる。
社長はそんな姿に少し呆れてるようだけど、楽しんでこいと軽く手を振ってくれる。
僕としても社会人として先輩たちと飲むのは楽しみにしていた。
そんなこんなで予定していた面子で移動しながら、何を飲むかとか食べ物が足りないようなら追加注文するかとか、とりとめのない会話をしていく。
そうして予約していたお店に到着して、部屋に案内されて飲み物が届けば、
「そんじゃ今日も仕事お疲れさん! 乾杯!」
『乾杯!』
各々が好きに頼んだ飲み物を喉に流し込む。
「美味い」
同時にツマミも食べれば、普段食べているツマミよりあきらかに美味しい。
「この店は酒より食い物のほうがお勧めなんだよ。
酒も飲むけど、やっぱ腹もきっちり満足させたいからな」
なるほど、ちょっとお高めの値段とるだけはあるということなんだな。
「ま、先に予算は伝えてあるから、皆追加注文は勝手にやってくれ。
足出そうなら店員が教えてくれる予定だ」
「おかわり!」
「早速かよ!?」
それで場が少し盛り上がるけど、僕もあとで追加注文するだろうしね。
そこからは皆で喉と腹を満たしながら、会話を繰り広げていく。
お互いの仕事内容だったり、困ってることが無いかだったり、ちょっとした私生活のことだったりとか。
学園時代は正直あんまりこういうので盛り上がれない僕だったけど、ガレリーナ社の先輩方は凄く話しやすいし、楽しそうに聞いてくれるので話しやすい。
「そういや、エイレンスは特に好きなゲームは見つけたかい?」
アクション系統のゲーム好きな先輩が、僕に問いかけてくる。
「そうですね。
初めて遊んだのがマルオでしたけど、じっくり遊べるゲームとかもいいかなって」
「サムシティみたいなのか?」
「ええ、皆で一緒に遊ぶゲームも勿論楽しいですけど、自分で目標を決めるのも面白くて」
「そうだなあ。マルオは遊び方がシンプルだけど、基本的にクリアまでの道筋は変わらない」
「でも道中は自分の好き勝手にやれるから好きなんですけどね」
「無敵状態でダッシュする時は爽快感あるぜ」
「調子に乗って無敵状態がキレた瞬間にぶつかって死亡もセットですよね」
さすがに時間切れで死んだことは滅多に無い。
そんな感じで会話を楽しんでいるけど、時間が経つとアルコールが入ってくる。
そして男ばかりで体に酒が入ってきだせば、
「んでよー。ドラクアのヒロインいいよな~」
「俺は11の姉さん武闘家姫さんが好き~」
「5の快活美人なビアニカちゃんだろうが」
「フローレのお嬢様なところも可愛いじゃないかあ」
「8の活発ジェシカが好きなんだよ~」
「貴様、巨乳好きだな」
確かにドラクアヒロイン達って魅力的だよね。
ただ、正直なところドラクアの絵だと、僕としてはあんまりそういうエロい目線にならないけど。
……どちらかというと、テイルズオブのヒロイン達のほうが絵的には好きかな。
他にもそういう恋愛ゲームとかあるから、実は密かにイラストに惹かれて、手を出したゲームがあったりする。
可愛かった。凄い可愛かった。
現実でこんな子いないのは分かってるけど、その時だけは主人公が羨ましくて仕方がなかったのである。
「ちなみにエイレンスは?」
「え? 僕はドラクアだと8のモンスターおじさんがキャラクター的に好きですけど」
でも言うのはちょっと恥ずかしいから、ドラクア8で面白くて気に入ったキャラを正直に言う。
「あ~確かに濃かったけど面白かったよな。
だが、エイレンス君。今俺たちはそんな言葉が欲しかったわけではないのだよ」
先輩が少しにやけた顔で僕の肩を引き寄せる。
あれ? とても嫌な予感がするんだけど。
「お前がsyahhuraのネリアちゃんがお気に入りなのは分かってるんだからさ」
「何で知ってるんですか!?」
待って!?
ちゃんと皆がいない時に遊んでたし、各自で保管してるセーブデータが入ったメモリーカードはきちんと管理してたはずなのに!?
自分だけにゲーム音も聞こえるだけのようにしてたのに、先輩方の顔を見ると皆頷いている。
「甘いなエイレンスよ。
俺達は色んなゲームを各自で楽しんでいるのだ。
つまりソフトの棚を常日頃触っているということは、どんなに丁寧に扱っていても形跡は残るということさ。
ちゃんと同じ場所に直しても、微妙に位置がずれてたりしたら誰かが遊んでるということが分かるということでもあるんだ。
……で、誰かが遊んだと分かったら興味が沸いて、遊んでみようと思うのさ」
やばい。つまり僕の好みがばれてしまっているということなのだ。
「でも実際あのネリアちゃん可愛いよな。
まずキャラデザインがいい。
可愛さと奇麗さが上手く纏まってるし、そのキャラデザにあった性格もいい。
スタイルも非常にいいからそそられるよなあ」
う、見事に僕のつぼをついてくる。
「だからこそ惜しいんだよなあ。
地球言語で理解してるけど、あれをマルデア語でやってくれたらマジで悶えるよな」
そう、そこは僕も欲しくてたまらない。
でも、さすがにそんな欲望満載な要望なんて、女性陣でもある社長達に出来ないよ。
「ちなみにトゥーハーツ2の幼馴染姉さんもいいよな?」
「……はい」
うん、完全に僕の好みが見抜かれてます。
仕方ないもん。僕だって男なんだよ。
「趣味がいいなエイレンス。
ちなみに私の一押しは、ぱすてりあチャイムス2の舞香ちゃんだったりする」
「姉属性め。
自分はシスタープリンセラの春奈ちゃんが一押しだ」
「ならば俺は有永幻想曲のミリアちゃんだな。
あの年齢くらいの意地っ張り具合は、庇護欲をそそられて可愛いじゃないか」
「ふ、貴様らはある程度年齢を重ねてからじゃないと出せない魅力が分かっていないな。
久永の絆の沙也加さんという大人の女の魅力を分かり給え」
「あれのヒロイン達は儚さもあってよかったよなあ」
「錬金術シリーズもいいぞお。
主人公もそうだけどパーティーメンバーもいい味だしてる」
おおう、ここぞとばかりに皆が自分の好きなキャラクター達を語りだしてくる。
「だけどなー、だからこそやっぱり地球言語なのが悲しいんだよなあ」
「そうなんだよー。確かに地球の声優の演じ方には文句ないんだけど、発音がそもそも違うから馴染めねえよなあ」
「ああ。あのキャラに自分の名前を呼んでほしい」
「それが叶うなら、俺は自腹切ってもいい」
あれ? なんかいつの間にか空のジョッキが増えてるような?
でも、僕としてもヒロイン達に名前呼ばれたら、恥ずかしいけどやってみたい。
「そこでだ」
先輩があきらかにできあがってきてるような。
顔が完全に赤くなってるし、吐く息が酒臭くなってきている。
「今、ドラマCDが製作中なのは分かってるよな?」
「あ、はい。この前一緒に試聴しましたから」
「うむ、つまりはこの調子で会社が成長していけば、今後発売されるゲームの中に俺達が好きなゲームがマルデア語で吹き込まれて販売される可能性があるということだ」
その瞬間、僕はハッとする。
確かにその通りだ。
事実、マルデアではゲーム販売実績は右肩上がりだし、社長の手腕は凄いから地球産というレッテルがあったのに、それを完全に覆している。
そして現在、マルデアで協力してくれている会社も少しずつ増えていってる。
「であれば、俺たちの一押しキャラに合う声優さんをお願いできる可能性があると考えないか?」
「え? それって公私混同になっちゃいませんか?」
「それは否定できないが、根本的に考えてみよう。
一押しとはいえゲームキャラに合ってる声かが大事なんだよ。
そこを考えると、俺たちは地球言語とはいえ声質を確認済みでもある。
また別に自分一人だけで完結しなければいいのだ。
あくまでもこの声優さんに演じてもらえれば、更にゲームの完成度が上がり尚且つファンを増やせる可能性が上がると思えばいいのだ」
「そ、それはそうですけど」
欲望はあるけど、それ以上にゲームをよりよくする為の方法にもなると告げる先輩。
こ、これが俗にいうwin-winというやつなのだろうか。
「ま、とはいえど実現させるには、まだ時間も実績も必要なんだがな」
「あ、そうなんですか?」
「そりゃそうだ。
成長中とはいえ、うちは中小企業だからな。
それに結局は俺達は平社員だから、提案は出来ても決定権は無い」
確かに。
販売するゲームの決定権は副社長であるリナ・マルデリタさん。
マルデアでの販売関連は社長が総指揮をとってるからこそ成長中だしね。
「幸いなことに社長は下からの意見によく耳を傾けてくれる人だ。
そのお陰で俺達も日々の仕事に張り合いが出るし、この会社も好きだから大きくなってほしい」
うん、僕もまだ入社したばかりだけど、会社の雰囲気は凄く好きだ。
「しかし、要望を具体的に上げなければ、その要望には説得力が伴わないことは明白だ」
「確かにその通りですね」
「その為にも日々の仕事は頑張っていれば説得力に中身が出てくる。
しかし、その頑張りを補充するためにも、心に潤いは必要だと思うのだよエイレンス君」
「潤いですか? 終業後のゲームで楽しんではいますが」
「うむ、ゲームは勿論だが、三次元の男にとってはそれだけじゃないと思わないかね?」
んんん? なんか嫌な予感がするんだけど。
「さて、二次会に来る気はあるかね?」
え!? つ、つまりそういう類のお店ってことですか!? 先輩。
いやまて僕。
興味は凄くあるけど、碌に女性と話したこともない僕なんかが、そういう類の女性とまともに話せるわけがないんだから、失敗するに決まってるじゃないか!?
でも、先輩たちも一緒だから大丈夫なはず。
ああ! 確かそういうお店だとお金が結構いるはず。
だけど飲み会だけと思ってたから、今持ち合わせはそんなにない。
ぐううう、これはチャンスのはずなんだ。
こんな機会でもなければ、僕なんかが仕事以外で女性と話せることなんて無いはずなんだ。
「い、行きます」
そして僕は誘惑に負けてしまう。
今、僕はアルコールと関係なしに、顔が真っ赤になっているのを自分でも感じれてしまう。
「歓迎しよう盛大にな」
「安心しろ、足らなかったらカンパしてやるから」
「はまるなよー。遊び方は教えてやる」
こうして僕はゲーム以外でも一つ娯楽を覚えてしまう。
ただ、先輩曰く、お店で恋愛感情は持つのはやめておけと教えてもらう。
あくまでも、お小遣いの範囲内で楽しむのが大事とのこと。
こうして、僕は仕事以外でちょっとした大人の経験をして、同時に先輩達と更に仲良くなるのであった。
学校を卒業したばかりの新入社員だった時に、先輩社員にこれも社会勉強だと連れていってもらった思い出。
声優に関しても、こういう風に考えてるだろうなあと思います。
女性側はどうだろ?
さすがに女子会は経験できないから想像できませんでした。
今回はここまで。