原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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円卓十番勝負:三番目ユウカ・パシヴァル

 

「あは~。ホントに命知らずがいる~!」

「……っ!」

 

3階に来たベルは広間に出てすぐナイフを構える。

階段を降りてきたのはニコニコと笑う猫人(キャット・ピープル)の女。

薄い桜色のボブ髪に、愛嬌のある愛らしい容姿。

そして、片手剣と軽装の騎士だ。

そんな女が手すりを滑り降りてくる。

しかし、ベルのことは視界にも入っていない。

どうやら今日の自身の爪のコンディションの方が気になるようだ。

 

「レコードホルダーだか知らないけどぉ~?この城に乗り込んでくるのは無謀すぎ~」

「貴女は……!元【ヘルメス・ファミリア】の【聖槍の騎士(パーシヴァル)】、ユウカ・パシヴァル……!」

 

聞いたことがある。

冒険者の間で話題に上がってるところも聞いたことがあるし、ギルドでも稀に名前を見る。

 

「あは~。なんで知ってるのぉ?キモ~!」

「キモ……っ。うっ……」

 

可愛らしい美人に貶されてガクッと肩を落とし、項垂れるベル。

片手を開いて口元にあてるユウカはそんなベルの反応も「あは~!いちいち女の言うことに落ち込んでるのもキモ~!」と評して追い討ちをかける。

ベルはさらに痩けた頬になり、ヒクヒクと震え、苦笑いする。

そこまで貶されるとショックよりも、"この人、苦手だ"という印象に展開する。

だが、それは男のプライドから防衛が働く、脈ナシ男の逃避思考系統だ。

 

「いるよねー。相手にされないと、相手に責任を押し付ける男って。この女は愛想がないんだって転換するよねー。魅力が低いって、勝手に評価して、その癖抱きたいとは思うんだよねー」

「だ、抱きた……っ!?そ、そんなつもりじゃ……。全然思ってないですから!そんなこと!」

「あは~。焦りすぎ~。キモ~」

「ま、また言った……」

 

度々ショックを受けて項垂れるベル。

彼は女の子にここまで拒否反応を示されることに慣れていない。

とても辛い。

 

「……そろそろ雑談は終わりにしてぇ。侵入者は追い出さないと、だよねー?」

「ま、待ってください!僕は戦いに来たわけじゃ……!」

 

剣を構えて満面の笑みから、口角を上げるヒールな笑みに変えるユウカ。

そんな彼女に、ベルはナイフを収めて手を前に、制止する。

彼がここまで騎士たちに何を訴えてきたのか、その姿勢だけでユウカは理解できた。

 

「あは~。まだわかんないのぉ?話し合いなんて無駄だって。あのお子様の何にそんな夢中なのか知らないけどぉ。誰にお願いしたって、引き渡したりしないよぉ?」

「……っ!な、なんで……!」

 

1歩ずつ近寄るユウカに、警戒するベルは尋ねる。

すると、ユウカはさらに口角を上げる。

 

「だってぇ、アイツ―――"()()"だもーーん!!あはははっ!!」

「……ッ!!」

 

何がおかしいのか。

でも、彼女はおかしくて仕方ないとでも言うように腹を抱えて心底バカにしたように低音で笑っている。

涙すら浮かべるほどに。

笑いすぎて腹がよじれて前屈みに腰を折ってしまうほどに。

けれど、途端にその笑いは止まり、顔を上げた彼女はまた怖い笑みを貼り付けていた。

 

「誰の役にも立たない。寧ろ、迷惑な足でまとい。ファミリアの目的に貢献できない。普通のパーティの足すら引っ張る。そんな冒険者失格な人の居場所なんてぇ。どこにもないよねー?」

 

首を傾げて、ベルに問いかけるユウカ。

それに対し、ベルは……。

 

「―――なんで」

「ん~?」

 

ベルが小声で呟くと、ユウカは笑顔を消して、顔を顰めて耳を傾ける。

すると。

 

「なんで、貴方達はスズを酷く言うんですか!仲間じゃないんですか!?」

「あは~!お子ちゃま~!ユウカ達、みんな仲間なんかじゃないよーん」

「えっ?」

「皆ぁ、利害が一致してるから一緒にいるだけっていうかぁ。仲間とか家族とか求める方がここじゃ契約違反の異端だよね~」

 

ユウカは微笑んだと思ったら背を向けて、歩幅で間合いを測り、戻っていく。

内股の彼女は、語りながら想起する。

あの頃のスズネリアの異物感を。

厳格な騎士達に見下ろされていた彼の存在を。

 

「……だから、お子様は浮いてたしぃ……【試練】も受けることが出来なかった、的な?」

「【試練】……?」

「要するにぃ。気を遣われてたってわけ?だからぁ、あれは騎士じゃない。最初から蚊帳の外のお子様なの」

 

ユウカは振り返り、真剣な顔で言い切る。

酷評され続けるスズネリア。

やはりベルは納得がいかない。

あまりに内情を開示してくれ無さすぎて、理不尽に彼が見下されているように感じる。

いや、知っていてもきっとそうだと思う!

 

「そこまで言われるほどのこと、スズは何もしてないじゃないですか!!」

「ていうかぁ。何もしてない。何も出来ないから寧ろダメ?みたいなぁ?君が初めて冒険した時、見てたんじゃないのー?」

「……っ!何を……!」

「―――スズネリアが、肝心な時に大人を頼る半人前ってところ」

「……!!」

 

ベルは瞠目する。

確かにスズネリアはあの時、アイズの助けを拒み、ミノタウロスに立ち向かうことを選んだベルとは対象的な選択をした。

だが、相手はミノタウロスよりも強いリザードマンだ。

スズネリアはベルよりステイタスが低い。

そんな無謀すぎる戦いに、格が違いすぎる状況(シチュエーション)に、足踏みするのは普通の判断だ。

 

「そう。()()なの」

「……っ!」

 

ベルの心を読んだようにユウカが口にする。

そして、ベルにもそれの何がいけないのかわかってしまった。

何故なら彼は冒険を知らなかった頃の彼じゃない。

冒険を、経験してしまったから。

済ませてしまったから。

乗り越えた者だから、わかる。

 

「冒険を出来ない者に、冒険者をする資格はないよね~。普通の感性じゃこの先の展望なんて目に見えてるしぃ」

「そ、そんなこと……!」

「あるよね~!その辺の零細ファミリアで些細な冒険ごっこするだけならそれでもいいけどぉ。そうじゃないしぃ」

 

ユウカは、剣を手に、完璧な距離を取れたあとやっと振り返る。

彼女は冷めた目付きをしていた。

 

「だから、戦場からは離してぇ。ただの市民として閉じ込めることにしたんだよねー。あはっ。ルシアちゃんがそう判断したってことはぁ。そう思われてるってことだよねぇ」

 

そう言って、彼女は顔を精一杯歪めて凶悪な笑みを浮かべる。

 

「―――役に立たない奴は、要らないってさぁ!!あはははっ!!」

「~~~~~~っ!!」

 

友を馬鹿にして笑いものにするユウカ。

そんな彼女を前にして、ベルの表情は歪む。

そして、震える。

許せない。

この人を、許せない……!!

 

「役に立たないって……僕達の足手まといなんて……勝手に決めるな!!」

「きゃあ~!怖ーい」

 

ベルが吠えると、ユウカは棒読み真顔で内股で身を縮こませた。

だが、すぐに足を下ろし、剣先を彼に向ける。

剣をユラユラと揺らして、上目遣いで口角を上げる。

 

「じゃあ~?あのお子様を抱えて破滅する?」

 

ユウカは首をこてんと傾けて、問いかける。

口元だけの笑みを向ける。

 

「偉業や試練を乗り越えるにはパーティ全体が乗り越える心構えを得てる必要があるのはもう経験則でわかるよね~?」

「……っ。それは……」

「1人でも中途半端な人がいたらぁ。それって仲間を危機に晒す危険分子だよぉ?君はホントにぃ、あの足手まといが必要なのかな~?」

「……っ!」

 

にじり寄ってくるユウカ。

揺らしていた剣先を止めて、戦闘体勢に入る。

ベルも喉を鳴らして、息を吐いて、ナイフを構える。

 

「あはっ。遅いよ」

「なっ……!?」

 

瞬きの間に、ユウカは零距離にいた。

そして、彼女の剣が振るわれる。

咄嗟にナイフで防いだベル。

しかし、ランと違って彼女は全てのステイタスが高く、パワーもある。

彼女の斬撃にベルは吹き飛び、胸のアーマーは剥がれ、胸に一筋の斬撃痕を残された。

そこから血が滲み、大きな切り傷ができる。

 

「あは~。弱すぎ~」

「【ファイアボルト】!」

「うんうん。さっき下で使ってた速攻魔法だよね。詠唱聞こえなかったしぃ、爆発音も早かったから効果丸わかり~」

「……っ!」

 

ユウカには火炎弾が斬り裂かれてしまった。

無効化されてベルは尻もちをついたまま、後ずさる。

彼女はやはり笑う。

 

「あはっ。ユウカのこと知ってるならぁ?手を抜かれてることもわかるよねぇ?」

「……っ!武器が、槍じゃない……!」

 

ベルが気づく。

そう。

彼女は【聖槍の騎士(パーシヴァル)】。

本来、彼女の主武装(メインウエポン)は槍。

なのに今は剣を持っている。

その時点でベルをマトモに相手にする気はない。

 

「お子様に万が一がないようにっていう大人の責任ってやつ~?……だから、安心してね~。優しく圧倒してあげるから」

「~~~~~~っ!!」

 

またしても瞬きの間に彼女は肉薄した。

そして、剣を振るい、またナイフで防ぐも勢いを殺しきれない。

その斬撃で今度は壁を突き破った。

ベルは外へと放り出され、3階から中庭へ落ちる。

 

「ぐああああっ!?」

「ベル!?」

 

落ちてきたベルにヴェルフが驚く。

彼はまだガリウスと対峙していた。

だが、総大将の敗北に狼狽える。

 

「……ふん。賊共め、まとめて首を斬り落としてくれるわ」

「あは~。ユウカこれ以上汗かくの嫌ーい。(トドメ)はオジサンよろしく~」

 

3階の空いた穴から膝を折り抱えて覗き込むユウカ。

彼女が笑顔で愛想良く手を振ると、ガリウスは鼻を鳴らす。

そして、ベルとヴェルフににじり寄る。

 

「クソ……!Lv.2とLv.3だと!ふざけろ!」

「……っ!ヴェルフ……」

「ベル!無事か!?」

 

武器を構えながら、背中越しに呼びかけるヴェルフ。

ベルはなんとか身を起こすも、すぐに片膝をついてしまう。

 

「ヴェルフ、ごめん……!」

「まずいな。お前を守りながらコイツと戦う余裕は正直ないぞ」

 

ヴェルフは焦燥に駆られて汗を流す。

ベルも申し訳なく思いながらなんとか立て直そうと力を込めるも絞り出すこともできない。

それほどまでに彼女の一撃は堪えた。

そんな彼の元に。

 

「ベル君……!」

「神様!?」

 

キャメロットの中庭に。

ヘスティアが現れた。

 

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