原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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おそらく意図的に避けてるであろう原作にはないベルが女性を倒すシーンがありますのでご注意ください。


英雄の小技(アルゴ・スラッシュ)/ヘスティア・ダブルクロス

 

「うああっ!?」

「命……!」

 

2階の窓ガラスを割って、降ってくる和装の女。

その姿を見て、ヴェルフは叫び上を向く。

そして、気づいた。

命の影に隠れてもう一人いる。

彼女はその者を抱え、庇っていた。

 

「うぐっ……!」

「命!」

「命さん……!」

 

地面に背中を強く打って、大の字で力尽きた命。

そこにヴェルフが駆け寄り、ベルもなんとか這いつくばって近くに寄る。

命の上にはリリルカが寝ていた。

 

「……っ!み、命様……!」

「だ、大丈夫ですか……リリ殿……」

「お前、リリスケを庇って……!」

「なんのこれしき……っ」

 

リリが意識を取り戻して命の上から退き、命も身を起こそうとするが……やはりまた四肢と頭が地面についてしまう。

これでヴェルフ以外が戦闘不能だ。

しかも、2階の窓ガラスからは騎士が1人飛び降りてくる。

彼とガリウスでヴェルフを挟み、彼は顔を顰めながら武器を構える。

 

「絶命。絶対。確定事項。勝ち確。必至」

「賊共め。もう逃げられんぞ」

「ふざけろ……!」

 

にじり寄る2者にヴェルフは警戒する。

 

「ベル君……!」

「神様……」

 

ヴェルフの背後にヘスティアも加わった。

彼女はベルの傍にいき、彼に触れる。

 

「ヘスティア様!?なぜここに……!」

「やっぱり心配でついてきたんだよ。それに、戦闘になったら君達に勝ち目はない。勝機があるとすれば―――」

 

ヘスティアはベルの服をまくり、背中に刻まれたステイタスを見下ろす。

彼だからできること。

急速な成長。

それを戦闘しながら同時(リアルタイム)に行う。

幸い、(ここ)にはLv.3以上の強敵がうじゃうじゃいて、その戦闘で経験値を得られる。

試練も腐るほどある。

戦って、回復して、更新して、また戦って、回復して、更新して。

それを繰り返す。

この永久機関、無限の循環でなんとかするしかない。

そんな作戦を取れるのもベルの早熟があってこそ。

その大前提を有するベルだからこそ、彼にしかできない戦い方だ。

だが、それを分かっていない相手ではない。

腰を下ろして足を外に放り出し、ぶらつかせているユウカは、上から言う。

 

「あは~。考えてること丸わかり~。早熟にはスキルのカラクリありきだよねー。でも、そんな更新(すき)与えるわけなくなーい?」

「クソ……!」

 

ヴェルフが上を睨む。

ユウカは「いやーん。怖ーい」と棒読み。

ヴェルフは無視して俯いた。

そして、彼の脳裏には敬愛する女神の言葉が想起する。

 

『仲間とプライドを天秤にかけるのはやめなさい』

 

「……っ。わかってる。わかってるさ……!今がその時だってことくらい!」

 

ヴェルフはゴライアスの時と同じく、下唇を噛みながら背中に載せた包み袋に手を伸ばす。

布を外すと、真っ赤な魔剣がでてきた。

 

「コイツでも喰らいやがれっ!!」

「ぬおっ!?」

「……っ!灼熱!」

 

ヴェルフが振るうと、彼らの周囲を炎が包む。

炎の魔剣だ。

ガリウスは呑まれ、丸焦げとなり、倒れ伏せて火の海から出てきた。

ランは……少しダメージを受けて焦げたが、まだ健在。

後退することで避けたようだ。

その間に。

 

「ベル君……!」

「はい!ありがとうございます、神様!」

 

再び立ち上がるベル。

ヘスティアは彼を見上げながらミアハから貰った回復薬(ポーション)の数を今一度確認する。

数には限度がある。

この作戦は理論上永久機関だが、【ヘスティア・ファミリア】の懐事情など様々な環境面の条件を含めば、有限だ。

更新のタイミングも見誤らないようにしなければ。

 

「笑止。千万。いくら何かしらの早熟の特別なスキルがあったとしても、この一瞬では上昇不可」

「あは~。一方的に嬲られただけだしね~」

 

剣を構えるラン。

上で笑うユウカ。

そんな2人を前に……ベルはナイフを構える。

 

「行きます!」

「速差歴然。俺には勝てな―――速い!!」

「……!?」

 

上で見ていたユウカも瞠目した。

ベルはランに肉薄し、ナイフで攻め立てる。

ランも応戦し、さすがにまだランの方が速いが先程よりも差は縮まっている。

さっきはベルが1回攻撃するごとにランは5回攻撃できていた。

だが、今は3回。

いや、稀に2回。

どんどん速くなって、乗っていって、ランの対応も難しくなっていく。

 

「うおおおおっ!」

「蓄積。貯蓄。何を溜めてる……!?」

 

切り結ぶ刃の合間に鐘の音が鳴り響く。

だが、ヘスティアが見てもベルがどこにチャージしてるのか視認できない。

ベルは―――力を闇雲に溜め込むのではなく、いつもよりも1点にそれも小さく集中させて、内包させていた。

それは、ヘスティア・ナイフの刀身、その先だけに凝縮させている。

 

「……っ!」

「愚者。無駄。俺の速さにはついてこれない!」

 

ランはベルの攻撃を数回に1回しかくらわない。

彼の剣さばきはベルの身体を何度も切り裂く。

そう。

このままならベルの方にばかりダメージが蓄積して負ける。

時間の問題だ。

だから、彼は一撃に賭けることにした。

幸い、攻撃が全く当たってないわけじゃない。

たとえ10回に1回しか当たらなくても―――その"1回"で決めればいいんだっ!!

 

「まさか、狙いは……!トーリスタ!!」

「……っ!」

 

ユウカが叫ぶ。

だが、気付くのが遅い。

ベルは敢えて攻撃を受けて、それでもその奥へ、彼の攻撃を掻い潜ってでも彼の身体にその一撃を与えることを優先して。

斬られることを覚悟で切り結ぶ。

ベルのナイフは彼の首に通った。

そして、ランの背後にベルはナイフを構えて片膝をすり、留まる。

 

「―――【英雄の小技(アルゴ・スラッシュ)】」

「かはっ……!?」

 

首の血管を斬られたランは、傷口を抑えて倒れた。

彼はその程度では死なない。

だが、回復薬を与えるまで苦しくて動けないはずだ。

ベルはLv.3を倒した。

 

「騎士を2人も倒すなんて……!」

「【ファイアボルト】!」

「……っ」

 

ランとの勝負を終えたベルは3階に向かって火炎弾を放つ。

次はお前だ、と言わんばかりの攻撃にユウカは瞠目する。

が、すぐに調子に乗るなと言う如く、火炎弾を斬り裂いて無効化した。

 

すると、晴らした爆炎が割れたその隙間から跳躍したベル・クラネルの斬撃が飛び込んでくる。

 

「はああっ!」

「……っ!調子に乗って……!」

 

ユウカはすぐに剣を構えて対応する。

ナイフと剣が金属音を立てて、ベルの勢いに押し込まれる。

3階の広間に戻った2人は転がり、その勢いを足で止めると、そのまま低姿勢で走り出す。

 

「勝負だ!」

「あはっ。マグレは2回起きないよ?」

 

距離を保ったまま走っていた2人は廊下に入って、突如接近し、刃を交錯させる。

互いに遊撃。

敏捷を活かした戦闘。

壁を蹴り、走り、階段の踊り場に転がる。

全く同じタイミングで足でブレーキをかけ、また対峙する。

 

「ねぇ、まだやるの~?ユウカには勝てないしぃ、あのお子様にそこまでする価値なんてないよぉ?」

「だから、勝手に決めるなよ!スズに価値があるかどうか僕が決める!」

「あはっ。いやいや、ないでしょ。冒険できない奴に未来なんてないよ?」

 

ユウカが口角を上げて、首を傾げると。

ベルはキッ……!と眼光を鋭くする。

そして、ナイフを構える。

 

「冒険できないならできるようになればいいじゃないですか!僕も!貴女も!誰も最初から冒険できた訳じゃない!!」

「……っ!」

「成長できるかなんて、まだわからない!精神はいつだって鍛えられる!」

「あはっ。無理だよ。彼には」

「スズは独りじゃない……!!」

「~~~~~~っ!!」

 

ユウカが目を見開く。

ベルの言葉が、彼女の瞳を揺れ動かす。

 

「孤独が辛いのは知ってる!1人で強くなれないこともある!でも、スズには仲間がいる!」

「それは……!」

「―――貴女達じゃない」

「……っ!!」

 

ユウカの表情が初めて歪む。

下唇を噛み、ようやく睨んでくる。

 

「スズが成長できないなんて、僕達の役に立たないなんて勝手に決めるなよ!!」

「あはっ。アイツを抱えてたら死ぬよ?それでもいいの?」

 

2人はまたぶつかり合う。

ナイフと剣で火花を散らす。

 

「死なない。誰も死なせない!僕が守る!!」

「自惚れるな。調子に乗るな。冒険を舐めるな!!」

「……っ!」

 

ベルの意識にユウカが初めて激昂する。

彼女の方がステイタスは上。

どんどんと押し込まれていく。

やがて、ベルは壁に背中をぶつける。

後ろを一瞥した。

 

「ぐっ……!」

「多少ステイタスが上がっても変わらないよ。またさっきみたいに吹き飛ばしてあげる!」

「まだだ!」

「……っ!」

 

ベルは背中に手を伸ばして、剣の柄を握った。

そして、剣を抜き、勢いのまま前に振り下ろす。

ユウカは飛び退いて避けた。

そして、間合いを確保する。

 

「……っ!それは……!」

「貴女は僕を子供だと言った!スズのことも半人前だって。だったら僕らは2人で強くなる。2人で乗り越える!」

 

ヘスティア・ナイフを右手に、左手に【叛逆の聖剣(クラレンター)】。

しかもナイフは逆手。

二刀流でベルはユウカと対峙する。

 

「そんなお子様の聖剣で……!」

「子供で何が悪い!僕達は、一緒に歩いて、進んで!一緒に大人に……英雄になるんだ!!」

「こいつ……っ!?」

 

ナイフと剣を駆使して交互に振るうベル。

そのステイタスはさっきより微量に高い。

いや、この一瞬にしては向上しすぎ……!

得物が増えたことでベルの弱点である軽装、軽快の隙が消えている。

スズネリアの聖剣によるリーチと攻撃の重さは、避けたりいなりしたり敢えて受けて攻め返したりできるナイフと違って、重くてリーチが長くて受け流すか防ぐかを選択しなければならない。

かといってナイフの利点である素早い攻撃も聖剣の大振りの後に飛び込んでくる。

それがこの短時間で得られた敏捷と力も加えられてユウカとの差を埋めている。

 

「ユウカの部屋!槍を……!」

「行かせるか!【ファイアボルト】!」

「なっ……」

 

ベルが剣を振るい、その大振りの懐に飛び込んで転がり避けたユウカ。

2階と3階の間の踊り場から階段を降りて自身の部屋に向かおうとしたその時。

ベルがナイフをしまって剣を降ろしてその刀身を固定砲台にする。

その行く手、2階へと降りる先を爆炎で塞ぐ。

 

「はああああ……!!」

「そんな……!ユウカが負け―――っ!」

 

逃げ場を失ったユウカに、ベルの剣とナイフが迫る。

【ヘスティア・ファミリア】が有する2人の眷属の武器を使用した5連撃!!

ナイフを逆手から順手に変えての連撃。

ナイフでユウカの防御を叩いて、聖剣(クラレンター)でまた剣で防ごうとするユウカのその剣を砕く。

破片が飛び散り、次はナイフで頬を斬り、聖剣(クラレンター)を振るう。

ユウカが腕で防御するのを確認して、左から聖剣(クラレンター)で殴打した。

そして、最後に両方を同時に交錯させて振るう。

狙いはユウカの胸部装甲(アーマー)だ。

斬り裂いたその双撃が装甲を砕き、壁を突き破って彼女を吹き飛ばす。

 

「きゃああああっ!?」

 

今度は自分が外へ投げ出されるユウカ。

荒く呼吸するベルが構えを解いたあと、彼女を見下ろした。

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