原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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円卓十番勝負:五番目キリエ・スロットル

 

シロウを倒し、一応4階を捜索する一行。

しかし、案の定。

 

「やはりこのフロアにもスズ坊の姿は見当たらないな」

「うん。やっぱりもっと上に……」

 

ベルが見上げる。

またしても階段を昇っていかなくてはいけない。

けれど、階段の前に来ると、今まではなかった威圧感を覚える。

それに―――。

 

「何か、聞こえる。これ……水の音?」

「なに?」

 

ベルの呟きにヴェルフが訝しむ。

彼が耳を澄ませると……確かにせせらぎが聞こえる。

いや、これは。

 

「……噴水か?」

「上の広間にあるのかも」

「おいおい。とんだ豪邸だな。ていうか外観からしてほぼ城だとは思ってたが」

「とにかく行ってみよう。噴水があるってことは……多分次はあの人だ」

「……っ!」

 

ヴェルフがベルを見る。

確かに彼女の二つ名を考えると、最もその風情に相応しい。

まさか、と思いながらも2人は階段を上がる。

ここからはリリをベルが、命をヴェルフが背負い、上がる。

そして、5階広間にはやはり。

 

「……待っていたよ」

「キリエさん。貴女も他の騎士と同じですか?」

「そうだ。だから。刃を交えるしかない」

「話し合いは?」

「無意味だ」

 

待ち受けるはキリエ・スロットル。

彼女は剣を抜き、対峙する。

 

「やるしかないのか……!」

「キリエさん!なんでスズの成長に期待できないんですか?他でもない、貴女が……!」

「……」

 

剣とナイフを構えるベル。

もはや戦闘を避けられないのは諦めている。

問われたキリエは沈黙。

そして、手を間に突き出す。

 

「……?」

「なんだ?」

 

謎のポーズをとるキリエに2人は訝しむ。

警戒して、距離を保ったまま。

すると、彼女は。

 

「【我が汝の主なり(ストレンジ)】」

「えっ?」

 

それは一瞬。

超短文詠唱。

瞬間、ベルの左手から重みが消える。

剣の感覚がない。

見下ろすと、ベルが持っていたはずの聖剣(クラレンター)が手元になかった。

 

「えっ!?」

「おい!見ろ、ベル!」

「……っ!」

 

ヴェルフの指摘にまさか、と前を向くと。

いつの間にかキリエの手元にクラレンターが移っていた。

 

「私の魔法は相手から装備を奪うことが出来るのさ。範囲は問わない」

「嘘だろ!?無法すぎるだろ……!」

 

聖剣を2本持つキリエ。

ヴェルフは瞠目する。

究極の二刀流だ。

しかし、彼女はクラレンターを床に刺してすぐに手放す。

 

「これはスズネリアの剣。君の物でも私の物でもない。例え彼の望みでも、彼が金輪際戦わなくとも、他者の使用を私は許さないよ」

「キリエさん……!そこまでスズを大切に思う貴女がなんで!なんでスズを閉じこめるんですか!?」

 

叫ぶベル。

キリエは一瞬視線を落としたあと、虚ろな目を向ける。

 

「大切だからさ。彼が傷つく姿は見たくない。仲間の足を引っ張り絶望する彼も、真実を知って立ち直れなくなる彼も」

 

キリエは、愛おしそうにスズネリアの剣を撫でる。

 

「私は見たくない。見たくないんだ。彼を愛しているから。彼を守るのは私の義務だった。けど、愛情を抱いてしまったんだ。もう私は教育係ではない。彼のもう1人の……親だ」

 

その言葉は、自分でも驚くほどスラスラとでた。

そして、自身の気持ちに初めて気づいた。

言葉にすることで自覚した。

そうだ。

私はスズネリアの親だ。

彼を守るのは我が使命。

この命を賭けてもいい。

彼より大切なものを私は知らない。

彼を守るためなら、彼の目を塞いでみせる。

その役を被る覚悟は、ある!

 

「私は【湖の騎士(ランスロット)】、キリエ・スロットル。Lv.3。スズネリアの守護者として、君達との繋がりを遮断する」

 

キリエが剣を構える。

ここから先は、1歩も通さない。

 

「貴女が守ってるのはスズじゃない!貴女自身の心だ……!」

「……っ!」

 

ナイフを構えるベルの言葉に瞠目する。

だが、すぐに飲み込む。

 

「……そうかもしれないね。それでも、構わない。私は彼を泣かせない!」

「泣いたって乗り越えて行けます!涙を経て強くなれる!僕達はそうやって、大人(えいゆう)になっていくんだ……!」

 

ベルとヴェルフが駆ける。

彼らが振り下ろす刃と、キリエが迎える刃が交錯する。

火花が散る。

その刃に映る彼女の顔は、鋭い目つき。

 

「断るね。スズネリアはずっと子供でいいんだ。可愛くて、守ってやらねばならない。私の愛するスズネリアのまま、ね」

「それは貴女のエゴだ!歪んだ愛情です!」

「なんと言われようと構わないさ!」

 

切り結ぶ刃の先で、キリエは言い切る。

正気ではない。

いつか、リリルカが言っていた。

【グウィネヴィア・ファミリア】は全員狂っていると。

聖人だった彼女ですら、例外ではなかった!

 

「スズだって英雄を目指していた!お母さんのようになりたいって!お母さんの代わりになりたいって!」

「……っ。スズネリアが、そんなことを……」

「その気持ちがあるならスズだって変われます!一緒に進んで、成長していける!冒険だってできるようになる!」

「それだけでは彼を解放する理由にならないな!確証もない!君の論説は感情論じゃないか!」

「だったら協力してくださいよ!!」

「……っ!?」

 

金属音が何度も鳴り、その中で、ベルに言われてキリエが瞠目する。

命乞い以外で敵に懇願する者など、戦いの中で見たことがない。

 

「僕はスズと一緒に歩いていけます!でも、スズの隣には貴女も必要です!お願いします!スズを信じて、協力してください!」

「……やめてくれ」

「お願いします!」

「やめろ!!」

 

キリエが珍しく激昂し、斬撃の勢いが増す。

だが、ベルは全て捌く。

キリエは瞠目する。

有り得ない。

彼はLv.2のはず。

既にランクアップの権利を得ていてステイタスが育っているLv.3の自身の攻撃を防げるわけが無い。

だが、ハッとして奥にいるヘスティアを見た。

 

「まさか……!」

「ベル、魔剣を使え!」

「ヴェルフ……!」

「しまっ……」

 

よそ見をしている間に魔剣・火影がベルの手に渡った。

そして、チャージが始まる。

今の彼は、Lv.2でもアビリティオールSだ。

 

「くらえっ!」

「……っ」

 

ベルは魔剣を振るう。

キリエの瞳に迫り来る爆炎が映る。

それは彼女を飲み込み、広間が爆発に包まれた。

窓ガラスが全て割れる。

間違いなくキリエには耐えられない一撃。

これで、彼女を倒し―――

 

 

「なるほど。これが美の女神が夢中になる特別性か。凄まじいね」

『……!?』

 

 

全員が2度見する。

瞠目する。

なんと、キリエは無傷。

爆炎の中から綺麗な身体で出てきた。

傷1つついていない。

有り得ない!!

 

「なんで……!」

「悪いね。私は水場の近くにいる時、ダメージを受けないんだ」

「……えっ」

「は?」

 

ベルもヴェルフも目を丸くする。

彼女は言う。

スキル、【湖ノ加護(アロンダイト)】。

彼女が水場の傍にいるとき。

―――全てのダメージを無効化する。

 

「ふ、ふざけろ!ぶっ壊れスキルじゃねえか!」

「そんな……これが……【湖の騎士(ランスロット)】……!」

 

絶望する2人。

ヴェルフは武器を構えるが、ベルは呆然としたあと慌てて構える。

最悪だ。

勝機が完全に消えたといっていい。

攻撃が通らないなんてぶっ壊れスキル、ベル達じゃなくても誰も勝てない。

多少は条件があると彼女は言うが、その弱点を開示するほど親切なわけがない。

 

「ど、どうすれば……」

「……」

 

動揺して思考を巡らせ、目を泳がせるベル。

キリエは視線を落とす。

そして。

 

「……やめだ。私は降参するよ」

「えっ?な、なんで」

 

ベルに問われて、彼女は天井を見上げる。

 

「君に感情論と言ったが、私も感情論だ。彼の気持ちも聞かず、彼を信じず蓋をした。少し、考えたくなってね」

「キリエさん……」

 

キリエは、スズネリアの剣をまた撫でる。

 

「……成長しなければいけないのは私かもしれない。いつの間にか彼に依存していた。私が離れるべきなのかもね」

「それもスズに聞きましょうよ。きっと、傍に居てくれって言うと思いますけど」

「ははっ。簡単に想像できるな、それは」

 

ベルが微笑むと、キリエもお淑やかに笑った。

やはり彼女はスズネリアが尊敬した大人だった。

 

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