シロウを倒し、一応4階を捜索する一行。
しかし、案の定。
「やはりこのフロアにもスズ坊の姿は見当たらないな」
「うん。やっぱりもっと上に……」
ベルが見上げる。
またしても階段を昇っていかなくてはいけない。
けれど、階段の前に来ると、今まではなかった威圧感を覚える。
それに―――。
「何か、聞こえる。これ……水の音?」
「なに?」
ベルの呟きにヴェルフが訝しむ。
彼が耳を澄ませると……確かにせせらぎが聞こえる。
いや、これは。
「……噴水か?」
「上の広間にあるのかも」
「おいおい。とんだ豪邸だな。ていうか外観からしてほぼ城だとは思ってたが」
「とにかく行ってみよう。噴水があるってことは……多分次はあの人だ」
「……っ!」
ヴェルフがベルを見る。
確かに彼女の二つ名を考えると、最もその風情に相応しい。
まさか、と思いながらも2人は階段を上がる。
ここからはリリをベルが、命をヴェルフが背負い、上がる。
そして、5階広間にはやはり。
「……待っていたよ」
「キリエさん。貴女も他の騎士と同じですか?」
「そうだ。だから。刃を交えるしかない」
「話し合いは?」
「無意味だ」
待ち受けるはキリエ・スロットル。
彼女は剣を抜き、対峙する。
「やるしかないのか……!」
「キリエさん!なんでスズの成長に期待できないんですか?他でもない、貴女が……!」
「……」
剣とナイフを構えるベル。
もはや戦闘を避けられないのは諦めている。
問われたキリエは沈黙。
そして、手を間に突き出す。
「……?」
「なんだ?」
謎のポーズをとるキリエに2人は訝しむ。
警戒して、距離を保ったまま。
すると、彼女は。
「【
「えっ?」
それは一瞬。
超短文詠唱。
瞬間、ベルの左手から重みが消える。
剣の感覚がない。
見下ろすと、ベルが持っていたはずの
「えっ!?」
「おい!見ろ、ベル!」
「……っ!」
ヴェルフの指摘にまさか、と前を向くと。
いつの間にかキリエの手元にクラレンターが移っていた。
「私の魔法は相手から装備を奪うことが出来るのさ。範囲は問わない」
「嘘だろ!?無法すぎるだろ……!」
聖剣を2本持つキリエ。
ヴェルフは瞠目する。
究極の二刀流だ。
しかし、彼女はクラレンターを床に刺してすぐに手放す。
「これはスズネリアの剣。君の物でも私の物でもない。例え彼の望みでも、彼が金輪際戦わなくとも、他者の使用を私は許さないよ」
「キリエさん……!そこまでスズを大切に思う貴女がなんで!なんでスズを閉じこめるんですか!?」
叫ぶベル。
キリエは一瞬視線を落としたあと、虚ろな目を向ける。
「大切だからさ。彼が傷つく姿は見たくない。仲間の足を引っ張り絶望する彼も、真実を知って立ち直れなくなる彼も」
キリエは、愛おしそうにスズネリアの剣を撫でる。
「私は見たくない。見たくないんだ。彼を愛しているから。彼を守るのは私の義務だった。けど、愛情を抱いてしまったんだ。もう私は教育係ではない。彼のもう1人の……親だ」
その言葉は、自分でも驚くほどスラスラとでた。
そして、自身の気持ちに初めて気づいた。
言葉にすることで自覚した。
そうだ。
私はスズネリアの親だ。
彼を守るのは我が使命。
この命を賭けてもいい。
彼より大切なものを私は知らない。
彼を守るためなら、彼の目を塞いでみせる。
その役を被る覚悟は、ある!
「私は【
キリエが剣を構える。
ここから先は、1歩も通さない。
「貴女が守ってるのはスズじゃない!貴女自身の心だ……!」
「……っ!」
ナイフを構えるベルの言葉に瞠目する。
だが、すぐに飲み込む。
「……そうかもしれないね。それでも、構わない。私は彼を泣かせない!」
「泣いたって乗り越えて行けます!涙を経て強くなれる!僕達はそうやって、
ベルとヴェルフが駆ける。
彼らが振り下ろす刃と、キリエが迎える刃が交錯する。
火花が散る。
その刃に映る彼女の顔は、鋭い目つき。
「断るね。スズネリアはずっと子供でいいんだ。可愛くて、守ってやらねばならない。私の愛するスズネリアのまま、ね」
「それは貴女のエゴだ!歪んだ愛情です!」
「なんと言われようと構わないさ!」
切り結ぶ刃の先で、キリエは言い切る。
正気ではない。
いつか、リリルカが言っていた。
【グウィネヴィア・ファミリア】は全員狂っていると。
聖人だった彼女ですら、例外ではなかった!
「スズだって英雄を目指していた!お母さんのようになりたいって!お母さんの代わりになりたいって!」
「……っ。スズネリアが、そんなことを……」
「その気持ちがあるならスズだって変われます!一緒に進んで、成長していける!冒険だってできるようになる!」
「それだけでは彼を解放する理由にならないな!確証もない!君の論説は感情論じゃないか!」
「だったら協力してくださいよ!!」
「……っ!?」
金属音が何度も鳴り、その中で、ベルに言われてキリエが瞠目する。
命乞い以外で敵に懇願する者など、戦いの中で見たことがない。
「僕はスズと一緒に歩いていけます!でも、スズの隣には貴女も必要です!お願いします!スズを信じて、協力してください!」
「……やめてくれ」
「お願いします!」
「やめろ!!」
キリエが珍しく激昂し、斬撃の勢いが増す。
だが、ベルは全て捌く。
キリエは瞠目する。
有り得ない。
彼はLv.2のはず。
既にランクアップの権利を得ていてステイタスが育っているLv.3の自身の攻撃を防げるわけが無い。
だが、ハッとして奥にいるヘスティアを見た。
「まさか……!」
「ベル、魔剣を使え!」
「ヴェルフ……!」
「しまっ……」
よそ見をしている間に魔剣・火影がベルの手に渡った。
そして、チャージが始まる。
今の彼は、Lv.2でもアビリティオールSだ。
「くらえっ!」
「……っ」
ベルは魔剣を振るう。
キリエの瞳に迫り来る爆炎が映る。
それは彼女を飲み込み、広間が爆発に包まれた。
窓ガラスが全て割れる。
間違いなくキリエには耐えられない一撃。
これで、彼女を倒し―――
「なるほど。これが美の女神が夢中になる特別性か。凄まじいね」
『……!?』
全員が2度見する。
瞠目する。
なんと、キリエは無傷。
爆炎の中から綺麗な身体で出てきた。
傷1つついていない。
有り得ない!!
「なんで……!」
「悪いね。私は水場の近くにいる時、ダメージを受けないんだ」
「……えっ」
「は?」
ベルもヴェルフも目を丸くする。
彼女は言う。
スキル、【
彼女が水場の傍にいるとき。
―――全てのダメージを無効化する。
「ふ、ふざけろ!ぶっ壊れスキルじゃねえか!」
「そんな……これが……【
絶望する2人。
ヴェルフは武器を構えるが、ベルは呆然としたあと慌てて構える。
最悪だ。
勝機が完全に消えたといっていい。
攻撃が通らないなんてぶっ壊れスキル、ベル達じゃなくても誰も勝てない。
多少は条件があると彼女は言うが、その弱点を開示するほど親切なわけがない。
「ど、どうすれば……」
「……」
動揺して思考を巡らせ、目を泳がせるベル。
キリエは視線を落とす。
そして。
「……やめだ。私は降参するよ」
「えっ?な、なんで」
ベルに問われて、彼女は天井を見上げる。
「君に感情論と言ったが、私も感情論だ。彼の気持ちも聞かず、彼を信じず蓋をした。少し、考えたくなってね」
「キリエさん……」
キリエは、スズネリアの剣をまた撫でる。
「……成長しなければいけないのは私かもしれない。いつの間にか彼に依存していた。私が離れるべきなのかもね」
「それもスズに聞きましょうよ。きっと、傍に居てくれって言うと思いますけど」
「ははっ。簡単に想像できるな、それは」
ベルが微笑むと、キリエもお淑やかに笑った。
やはり彼女はスズネリアが尊敬した大人だった。