原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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どらごんぼでぃは居場所がない

 

「物損パンチ! 物損パンチ!」

「その掛け声やめろ!」

「えっ。毎日感謝の正拳突きなんですが。あっ、もしかして『器物損壊パンチ!』の方が良かったですか?」

「良い訳ないでしょ!?」

「アイタァッ!?」

 

 今日も今日とて、ルシアはルノアに特訓をつけてもらっている。前使っていた広間には居づらくなったので、それ以降は市壁の上での特訓だ。

 素振りに掛け声をつけるルシアにゲンコツを食らわせるルノア。内容に差異はあれど毎度おなじみとなってきた光景だ。……このふざけたエルフめ、内心でそう悪態をつくのももはや最近の日常。

 

 闇派閥(イヴィルス)に拐われそうになってから1ヶ月。その時以降、シャクティら【ガネーシャ・ファミリア】の監視も厳しくなり、【アストレア・ファミリア】をルシアを守る体制を強固にした。

 彼女達の手の届かない時間にはルノアが一緒にいる。今のルシアは磐石だ。大派閥に中堅派閥、凄腕の賞金首稼ぎに囲まれている現状はもはや都市で一番安全とも言えるだろう。

 

 ―――『あんた、やっぱ恵まれてるよ』

 

 最初の特訓でルノアに言われたことがそのまま今の状況だ。

 ルシアは人に恵まれ、派閥の運が強い。

 だから、傍から見れば『居場所』を見つけたように見えるだろう。

 

「今日もありがとうございました」

 

 訓練も終わり、ルシアが頭をぺこりと下げる。

 

「んっ。だいぶ身についてきたね。そろそろ教えることも無くなってきたよ」

「ほんとですか? それは……嬉しいですけど、ちょっと寂しいですね」

「寂しいって、なんでさ」

「だってルノアさんにこうして会いに来る理由が無くなっちゃうじゃないですか」

「なっ……! はぁ!? 何言ってんの。別に普通のことじゃん!」

「はい。偶然の巡り合わせがなければそれが普通でした。でも、私はルノアさんのこと、結構好きです。一緒にいて楽しいです。なんだか、『友達』がいたらこんな感じなのかなって思います」

「いや、意味わかんないし。何それ」

 

 どこでそんな気に入る要素があったのよ、と思いつつも満更でもないルノア。

 あまり他人に好意を寄せられたことがない彼女にはその方面の耐性があまりないのだ。

 

「ていうか、報酬の件忘れてない? まとめてキチンと払ってもらうよ」

「はい。もちろんです。明細書を作ってきたので先に渡しておきます。金額が納得できるものか確認しておいてください」

「んっ」

 

 丁寧に羊皮紙に記されたものを手渡しするルシア。ルノアが受け取ったのを確認すると、ルシアはまた頭を下げた。

 

「では、今日はこれで失礼します」

「……っ! あ、あぁ……うん」

 

 ルシアが去る。

 残ったルノアは羊皮紙を手に瞠目した。

 

「……1年は稼がなくても生きていける額じゃん」

 

 記された金額の衝撃に驚かされる。

 しかもこれで確認して気に食わなければ申し出ろと言う。

 言えばもっと出そうだが、逆にそれに恐怖心を抱く。……これ以上はいいや。

 

「ったく。金銭感覚狂ってんの? 優良派閥のお抱え(ボンボン)だから?」

 

 それともハイエルフだからだろうか。ルシアに以前さり気なく聞かされた。自分はハイエルフだと。全然見えないので少し驚いた。

 詳しくないし、ハイエルフに会ったこともなかったので普通とエルフとの見分けはつかないがそれを差し引いてもルシアは高貴(ハイエルフ)には見えなかった。本人もそんなのは自分だけだと加えた。

 

 だが、真実はどれも違う。ルシアは貯金をする気がないだけだ。先のことを考えれば、恩を感じた人間と生活に割くのがベストだと考えた結果、出費に迷いがない。当然、ルノアは知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルノアと別れた後、【アストレア・ファミリア】の本拠(ホーム)『星屑の庭』へと帰還したルシア。

 特訓で流した汗を流そうと浴場へ直行する。本拠に誰もいないのは確認済みだ。

 

 そして、服を脱ぎ、ルシアの特殊な身体……翼や尻尾の生えたそれを顕にした時。

 浴場にもう一人、現れた。

 

「……っ! あっ!」

「んっ? あぁ、ルシア…………かっ―――」

 

 入ってきたのは輝夜。

 ルシアは想起する。自分が派閥の仲間に放った忠告を。

 

『部屋に入る時はノックして返事から3秒待ってください。面倒をお掛けしますが、エルフですので考慮して頂けると有難いです。えぇ、エルフなので。私はエルフなので』

『何故三回言う……?』

 

 ドラゴンの身体を見られる訳にはいかない。

 そのための対策だったが、浴場では注意を払っていなかった。本拠内に誰もいないのを目視で確認すれば充分だと思っていたからだ。

 だが、それは過失(マヌケ)だった。

 

「なん、だ……その…………身体は………………」

 

 特徴的な黒く長い髪が揺れる。綺麗な藍色の瞳は見開かれ、瞠目する。

 唖然とする輝夜。彼女の脳裏にしっかりと刻まれる。ルシアのあられのない姿、その真実を。

 二人の間に酷い空気が漂った。

 

「ルシア……貴様、なんだその翼は……なんだその尾は…………っ。まるでモンスターのそれだぞ、それは」

「か、輝夜さん。その、これは―――」

 

 ルシアも動揺する。

 目が泳ぎ、この場をどう乗り越えようか思考が巡る。だが、冷静に打開策など考えられない。

 当然、ルシアの思考がまとまるより先に輝夜が口を開いた。

 

「お前は何者だ、ルシア。アストレア様は何故お前を眷属に迎えた……っ!?」

「……っ」

 

 そうだ。忘れていた。

 多少良いことがあって、それを自覚して勘違いしていた。

 運なんてない。あったとしてもアストレアに拾われた時に使い果たしたんだ。

 

『居場所』なんて、どこにもない。

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